「ゲリョスステーキのメガ盛り。あとディアブロスの唐揚げバケットも」
「く、食いすぎじゃねぇのか?ルル」
嬉々としてウェイトレスに告げる彼女をたじたじとたしなめるシンバ。
それも最もだ。
なにせルルリアはトゥトゥに入るなりテーブルに据え付けられた注文用のベルを連打して矢継ぎ早に料理を注文したのだ。
親の敵とでも言わんばかりのその量にシンバのみならず周囲の団員も開いた口が塞がらなかった。
そしてさらにこの追加注文である。
「ね、シンバさ。あたしの事、好きって本当?」
ジュウジュウと音を立てる厚いステーキ肉を一口大に切り分けながらルルは向かいに座ってスープ皿をかき混ぜているヤツに聞く。
そいつは一瞬で顔を真っ赤にしてそっぽを向きながらぶつぶつと小声で肯定する。
人がいるこんなとこで確認するなと憮然としているようだが。
「よっし。んじゃ決めた!」
テーブルナプキンで口元についた悪魔風のソースを拭うとルルリアは席を立つ。
シンバも慌ててその後を追った。
団で飼っているミニブタ【プーギー】のコタローを腕に抱いたローナはその耳を疑った。
彼女が率いる団の抱える問題児の内、その上位にランクインするお転婆がまたぞろややこしい事を言い出したからだ。
「ラスタ(パートナー)チェンジ?またなんで?」
コタローがぶひぶひと暴れ、彼女の腕から飛び下りてダイニングの方に向かった。
だがローナはそれよりもルルリアの返事が気になった。
「ヴァンはもうデイジーのもんだし。そーすっとあたしはお払い箱だから」
両手のひらを上にむけ首をすくめたルルは大げさに頭を振ってみせる。
言っている事と似つかわしくない、ガーリィなツーテールがその動きをうけてふるふると揺れた。
「でも、ヴァリオンはそれに同意したの?」
団長の言葉にまたもやぷるぷるとツーテールが揺れる。
「だって決めたのついさっきだもん」とルルの返事。
彼女の背中でシンバはなんだかそわそわしている。
チェンジというくらいだから次のパートナーは彼なのだろう。
「ま、いいんじゃねぇの?ルルとシンバが一歩進んだってことだろ」
くわえ煙草でキーボードを叩きながらアシュレーが口をはさむ。
「ヴァンとデイジーが先に言い出さなかったのがおかしいくらいだったもんな、アイツら」
「ほれ、ネームパネル持て」とルルとシンバにそれぞれホワイトボードを投げる副団長。
受け取ったその白いパネルにデカデカと自分の名前を書き込み、ルルはそれを嬉しそうにシンバに見せた。
「……本来はそんなに簡単に変更するものじゃないんだよ?」
「たとえば結婚とか、もっと大きな転機があった時に」とぶつぶつ言い続ける真面目な団長を尻目に身長ラインが描かれた壁にルルとシンバを立たせて写真を撮るアシュレー。
きゅーん、とストロボが鳴きしばらくして二人が並んで画面に映し出される。
「うわ、オレ半目だ」
「シンバだっせぇ」
モニターを見ながらじゃれあう二人を見ながらアシュレーはローナに耳打ちした。
「ルルリアをシンバに任せておいた方がいいですよ。今はヴァンがディズにべったりだから」
「うん?……なるほど、そっか。そして二人の恋を応援するんだね?うん、わかった。承認しましょう!」
目をキラめかせた団長がパートナーチェンジの書類に団印を押し付ける。
「いや、俺が言いたかったのはそんな意味じゃなく、ルルをソロにするとナニを始めるかわからないという意味で…ま、いいか」
どっちにしろルルがシンバと組むって言い出したってことはシンバのヤツがなんかしらオトコを見せたってことなんだろうからな。
「なにがいいの?」
「若いっていいなってことさ」
コーヒーを持ってきたユゥナが書類を覗き込む前におしりを撫でる。
「ひゃん」と声をあげたパートナーに、にやりと笑いかけるとアシュレーは真新しい登録証をルルリアとシンバに手渡す。
「んで、ペアネームは決まってるのか?」
「うん」
躊躇なく頷くルルにシンバがおもいきり驚く。
そういうのは相談して決めるんじゃないの?……まあ、ルルリアだから仕方ない気もするけど。
「ティターンズ」
「「「却下」」」
ルル以外の全員の声が重なった。
◆
トゥトゥを出て広場に向かう二人の背中を見ながらローナとアシュレーがため息を吐く。
二人が事務室に乗り込んできた時はちょっと焦った。
ローナが山積みの書類で隠したモニターには二人の男女が映し出されていた。
名前以外全てアンノウン。
名前の後ろにも「?」が付され二人の正体がかなりの部分で不明だということを表していた。
「風牙と、荊琴か……」
アシュレーがくずかごから拾い上げた書類のしわを手で伸ばす。
そこにはまったく見知らぬ三人のハンターの姿。
「なんにせよ、先日死体で見つかったこの彼らが交流会でウチにくる予定だったハンターだったわけですが」
「そうね。風牙さんと荊琴さんがどういった目的でウチに来たか、それは分からないけど」
「歓迎できる内容でないことは明らかだけどね」と続けたローナ団長の顔は普段の優しげな表情ではなかった。
交流先の狩猟団に風牙の事故を伝えて初めて派遣されたハンターが違う、という事がわかった。
そして搬送先の病院にも彼らが寝泊りしていた宿にも二人の姿は既に無かった。
こちらに来る予定だったハンターは3人。
それが2人になったという連絡は無かったし、全員男性ハンターの予定が男女ペア。
色々と食い違った内容から相応の警戒はしていたが、とりあえずゲストハンターの動きに怪しい部分は見当たらず彼らは団員とも仲良く活動していた。
「特にルルは懐いていたものね」
「今となってはもう調べようが無いですがね」
新しい煙草に火を点け、アシュレーは真新しいファイルに目を通す。
やたら嬉しそうなルルリアと緊張した面持ちのシンバが並んでいる。
ルルリアは『あの』グラムの娘……言うなればレジェンドの血を持っている。
「あるところでは影響力があるのかもしれない」とボルドーはそれとなくルルのことをガードしていたようだが、結局なんてことはなかった。
「……アシュくんも胸騒ぎするの?」
「ちょっとだけ、ですけどね」
真剣な顔で問う団長に彼はやや頷き、紫煙と一緒に言葉を吐き出した。
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