モンスターハンターオルタナティブ   作:雨垂夜詩乃

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078 あいす

 

がさり

 

「ん?」

「どしたの、ヴァン」

 

蹴飛ばした袋を拾い上げ、中をのぞく。

どろどろに溶けたアイスクリームと思しき物体が、茶色と赤色の渦を巻いて紙カップを塗らしていた。

鼻に届く、ややクドめの香料の香りが自らをアイスクリームの成れの果てだとやけに主張していた。

 

「なにこれ、アイス?」

「みたいだな」

 

ドアにカギをかけて寄ってきたデイジーが袋の口を大げさに広げ、ヴァンと同じように中を確認して眉をひそめた。

どうしてこんなものが部屋の、それもドアのすぐ前に落っこちているのだろう。

ヴァリオンがやれやれといった感じで再度カギを開けて自室のゴミ箱に溶けたアイスごとその袋を入れる。

だれのイタズラだか知らないが、なんとも地味というか、もったいないことをするものだ。

 

「ねぇ、ヴァン」

「なんだ」

 

形のよい顎に指を当てて思案していたディズの言葉は続く。

 

「アイス、どんな味が好き?」

「……あんまり甘いのはいただけないが、強いて言えばチョコレートかな」

「そういや今の、チョコアイスが溶けてたみたいだったが、もったいないよな」と続けたカレはなにも感じていないようだ。

 

「ルルの好きなアイスは?」

「さぁな。アレはアイスの好き嫌いは無いんじゃないか?」

 

いや、ルルは必ず、ベリー系を選ぶ。

無意識なら必ず。

 

さっきのアイス、中にはカップが二つでフレーバーはチョコレートとストロベリーだったように思う。

 

ルルリアが、来ていた?

 

まさか。

あのコも入院処置のはず。

いくらなんでも、病院を抜け出してこんなところにアイスクリームを持って来るなんて。

いや、まさに病院を抜け出してココに来た私が言えることではないけど。

 

「ほれ、急いで病院に行くぞ。きちんと手続きしておかんと団長たちにも迷惑がかかるからな」

「ね、ルルはどうするの?」

「アイツはきっともう抜け出しているころだろうよ。それも含めて手続き、しに行くんだ」

「ぬ、抜け出してるって、なんでわかるの?」

 

その問いかけに彼は深く、深ぁくため息を吐いた。

 

「今までヤツが病室という狭っ苦しい所に二日と収まっていたことは無いよ。寝てるとき以外はな」

 

とぼとぼというカンジがしっくりくる足取りで寮の玄関を出るヴァリオンの背中は苦労人そのもの。

今回の『苦労』には手のかかる妹だけでなくデイジー自身も含まれているのがちょっと心苦しい。

 

だが、先のヴァンの推理が当たっているとすると、あのアイスを持ってきたのはおそらく、きっと、たぶん、ルルリアだろう。

 

ということは。

 

「ね、ねぇ……ヴァン」

「なんだ」

「も、もしかしたら、さ」

「うん?」

 

なんの警戒もしていない、ヴァリオンのやや疲れた顔が自分を捉える。

ああ、なんかやつれてるけど……それってもしかして、やっぱりアレのせいかな?

 

頭の中で『回数』を指折り数え、左手をグーにした時点で考えるのを止めた。

 

「つ、疲れてる?」

 

とっさに質問の内容を切り替えるデイジー。

ルルに自分たちのセックスを見られたところで、確かに恥ずかしいが別になにか悪い事をしているわけではないし。

 

いつかはバレる行為なわけで。

 

「バレる?なんで!?……いやいやいや!まだ早いよねッ!?」

 

話題を振ってきたディズがヴァンの答えを待たずにおかしい言動をする。

わしわしと金髪をかきまわし、なんだかほっぺたも真っ赤だ。

せっかくシャワーを浴びて整えた髪がいたずらにもつれてゆく。

 

とりあえずヴァリオンは相方の考えが纏まるまで待つ。

ある意味大人である彼は他人との接し方をわきまえており、自己主張は後回しにすることにしていた。

それが人付き合いの上で最も重要な事だと経験上よく理解していたのだ。

 

「やっぱり赤ちゃ……そ、そういうのは、ちゃんと段階を踏んでから……だ、段階って」

 

しかしなんだろう。

端から聞いてるだけで物凄く不穏な単語がボツボツと飛びだしてくるのが無性に怖い。

立ち止まって自己世界にダイブしてしまったデイジーを見ながら、ヴァリオンは今日何度目かのため息をこぼす。

ディズにこんな妄想癖があると知ったのはつい最近だ。

頭の回転が良いというのも考え物で、いらない事まで妙に考え込んでしまう彼女の悪い癖になっていた。

 

待とうとは思ったが、彼女は思考のデフレーションを起こしているのに間違いない。

このままほっとくとどんどんスパイラル下降するのは確実。

ここらで止めておきますかね。

 

「ディズ。先にメシにしようか」

「だからプロポ……え?」

「ちょっと遅いけど昼飯にしよう。それから落ち着いていろいろ済まそうや」

「う、うん、わかった」

 

王都に向かう道を回れ右してトゥトゥに向かう二人。

だがヴァンは気付いていない。

彼が『先にメシ』と言ったことでデイジーの思考はさらに間違った方向に突っ走り始まる。

 

自分が『求め過ぎた』ゆえに体力の回復をしたいと言われたと思った彼女はこれからカレがどんな料理を注文するか、パワー系なのかスタミナ系なのかについてまたぐるぐると考え出してしまった。

 

まったく持って難儀なデズ子である。

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