がつん、がつ、がーん。
周囲に硬質な音が響くと同時に砕かれた岩の破片がそこらにばらばらと散らばる。
眼前の岩壁に走る裂け目にピッケルグレートを叩きつけ、奥に潜んでいるであろう鉱石を掘り出してゆく。
なんとも地味な作業である。
しかもやたらに疲れる。
そして火山地帯は暑い。
とはいえ、火山特有の希少鉱石はまさしく火山でしか採れないのだから始末に悪い。
多くのハンター達がぶつぶつ言いながらも採掘に来るのは仕方なくも最もなことでもあるのだ。
そうは言ってもハンターは誰しも自分だけの秘密の採取ポイントを持っているもの。
シンバは自らの知るちょっとその秘密の採掘スポットに初めて『カノジョ』を連れて来た。
ソイツは少しばかり入り組んだ所にあるシンバの秘密の縄張りを今、我が物顔で掘り起こしているところである。
「紅蓮石出ねぇ」
「…ルルだかんな」
額に汗の玉が浮かび、前髪がぺたりとデコに貼り付いてしまう程ピッケルグレートを叩き付けたルルリア。
ここに来て彼女の保有するパッシブスキル『激不運』が発動している。
先程からルルが散らかす鉱石を拾って鑑定しては見るが、それはみなありふれた『マカライト鉱石』だったり『鉄鉱石』だったり。
シンバはルルリアに気付かれないように小さくため息をつく。
ルルのこういう『運の無さ』を知っているからこそ自分の秘密スポットに連れて来たのに、全く効果が無い。
自分だったら既に紅蓮石『ごとき』10個以上は見つかっているくらいの時間をかけても破片すら見つからない。
段々とイライラしてきたのか、メルホアの少女らしい服装の可愛らしさをガン無視し、ガニ股で肩を怒らせたルルリアが滅多やたらとピッケルを振り回し始めた。
「キレても仕方ないだろう。少し休めよ」
やれやれ、という風にシンバはベースキャンプから持ってきた携帯食料の包みをルルに放る。
うー、と唸った彼女がビリビリと包装を破り捨て中の干し肉に噛り付いた。
ただでさえ暑い火山の中腹。
下手な狩りよりも疲れる鉱石採掘、それにはまぁ、欲しい物が出ないという精神的な疲れも含まれるのだが。
それが人一倍飽きっぽいコイツにはどれほど堪えるのだろうか。
そこらの岩場に座れば尻が焦げるのはわかっているので自分のディバッグに座ってもぐもぐしているルルを見る。
汗だくで上気した顔がなんかエロい。
いやいや、俺はナニを考えているんだ。
「ここシンバの穴場なんでしょ?いいの?」
「ん?ああ、いいさ。ルルだもん」
「そ、そうなんだ」ともそもそ呟いた彼女は赤い顔でふいと目をそらした。
アレは暑いばっかりじゃないはずだ。
やるじゃん、俺。
さりげなくアピってみましたが、どーよ?ここにきてちょっとわかってきたけど、ルルリアって耐性無いよな。
こういう押し方、攻め方?すれば案外いいカンジなカレカノってヤツ?なれっかもしれない。
うん。
やるじゃん、俺。
今までのじゃじゃ馬ぶりはドコに行ってしまったのか。
ルルリアは確かに自分を意識しているということがわかる。
いや、わかってしまう。
なんたって視線がたまにバチッと合ってしまうのだ。
そして慌てたようにその目線を逸らしながら頬をピンクに染めるって、どう考えてもルルも気になってるだろ?
まぁ、端から見ていれば。
そういうシンバも彼女以上に挙動不審な行動が多く、必要以上にルルリアを意識しているのが丸わかりで。
ギルドネコ達にすら「甘酸っぱいというより青臭いニャ」と揶揄される程の童貞っぷりである。
あ、シンバはチェリーじゃありませんよ一応。
その辺はまぁ、追々。
だが、スタートラインはお互いにズレているこの関係、シンバは既にルルリアに満点以上を付け、これからどうしても減点していかざるを得ないし、ルルリアは逆にシンバを知ってこれから加点していくという、それぞれが落ち着ける立ち位置はまだまだ見えてこない、そんな始まったばかりの二人の恋愛。
ルルリアがシンバを意識し、自分の持つ本来の自由さを束縛しているように。
シンバもルルリアを意識し、自分のキャラクターに本来無いモノを見せようとしていた。
そういう意味では、ルルリアは至極真っ当な女の子であったのだ。
だが。
ルルリアは、あくまでも、ルルリアであるのだと。
この後シンバはいやでも気付かされる事になる。
「よし」
決意じみた一言を発し、ルルリアはすっと立ち上がる。
座ってフラスクから直に水を飲んでいたシンバに近づくと、目の前でくしゃっ、と携帯食料の包み紙を丸めてそれを投げた。
「?」
その包み紙が吹き上がる熱気で炙られ、小さく発火したのを目の端で見ていたシンバが視線を戻すとルルの顔が間近にある。
ちっこくて、でも筋が通った形の良い鼻が近い。
タオルで無造作に汗を拭っただけの、でもいいニオイのする頬が近い。
くりくりと動く深い色の、強い意思を秘めた瞳が近い。
ぱちぱちと瞬きを繰り返す長い睫毛が、本数を数えられるくらい近い。
柔らかそうな、それでいて瑞々しい薄桃色の唇が近い。
なになになになんなんだ!?
彼はその急接近にどぎまぎする。
それはそうだろう。
どう勘繰っても、コレは、その…俺、キス…される?俺たち、キスするの!?
ルルリアの頬はそれこそ照れた色に染まり、ちろりと舌先で唇を湿らせたその無意識の行為はシンバに瞬間いろいろな妄想をさせた。
え?いや、おれ、アレ?そんな雰囲気作った?いや、いや?嫌な訳無いじゃん!でも、え?今スか?今このタイミングで…キ、キスくれるの!?
こうなるとシンバは、つーか男は弱い。
うろたえてなるか、という気持ちと裏腹にどんどん焦る。
「…シンバ、目、つむって。お願い…」
そこに来て、やや甘えた風に聞こえる彼女の台詞。
ややアルトなルルリアのヴォイスはそういった囁きにこそ威力を発揮する。
その地声を飾ったウィスパーヴォイスを喰らったシンバの鼓膜は最早呪われたかのようにルルの声のみに反応しようとする。
普段は明け透けな、フレンチ・ロリータと言っても良いポップスなルルリアが、こんな、艶めいたセクシーな声を、行為をするなんて、とシンバは意識を根こそぎ持っていかれたようなショック。
「あ、あぁ。う、うん」
ぎこちなく頷き、やや不恰好に目蓋を閉じる彼。
え、なんだ、おでこ?いや、ほっぺた?…やっぱ、このシチュエーションはく、唇だよ…な?だよな?よ、よし。
もちろん、初めてキッスだからな。
うん。舌とか入れたらルルだってイヤだろうし、ここはバードキスで。
ですよねー。
そんないきなりディープキスしてくる程ルルリアは慣れてる訳ないしー。
でも、このタイミングでキスをするって良くわかんないけど、ルルだかんな。
…ってことはもしかしたら、ベロチューとかしてくるつもりか!?いやいや、それはない。
うん無い。
いや俺は一向に構わないけどね
ベロチュー。
いや、こんなこと思うからエロいとか思われるちゅーんだよな。
ここはもっと紳士に。
そうジェントルメンに。
いつも通り、ジェントルメェンに、キッス。
うんうん。
ジェントルメンは複数系だぞ、シンバ。
ところが、シンバの若干突き出し気味になっている唇には、いつまで待っても彼の焦がれる感触は届かない。
自分がしている格好、目を閉じて唇を突き出している姿を脳裏に浮かべ、若干不安になった彼の耳に、不意にかきん、と金属的な音が届く。
それは。
まるで。
ガンランスの撃鉄が下りる時の様な音。
「…?…っげぇっ!!」
堪えきれず薄目を開けたシンバの瞳に飛び込むルルリアの悪魔のような微笑。
彼女は今まさに、シンバが大切に育ててきた採掘ポイントに向けてトライファイアの砲門を向け、必殺の竜撃砲をぶっ放そうとしていた。
なんという、なんという…暴挙。
いや、暴力だろうか。
どこまでいっても…どんなに照れて見せようとも。
ルルリアはルルリアなのだった。
トライファイアの銃口が真っ赤に染まる。
鉱石掘ろうと轟き叫ぶ。
三つの砲門から伸びる火炎の色が巴を捻り、オレンジ色からブルーに変わる。
瞬間、膨大な熱量が岩壁にたたきつけられた。