どかぁあ…ん!
絶望的な破壊音を響かせてシンバの秘密の採掘ポイントが弾けとんだ。
竜撃砲の反動で、ずざざぁ、と後ろに下がると同時にルルリアがガンランスとシールドを放り出し、いまだに硝煙の香る採掘ポイント『だった』ところにしゃがみこんで破片を確認する。
「あったあった、紅蓮石!にひひ♪」
「うぁ…マジかよ…」
今まで秘密にしていたオイシイポイントが、見るも無残にほら穴と化してしまった。
嬉しそうに袋に鉱石を掻き入れるカノジョの背中と、まだパラパラと時たま崩れる穴ぼこを交互に見て深く嘆息するシンバ。
いや、わかっていたハズなんだ。
ヴァンが言ってた『しんどいぜ?』の言葉には多分に実感が篭っていた。
それに気付いていたハズなのに、真には理解できていなかった自分の負けだ。
でも、ヒドイわ。
オイシイ採掘ポイントだったのに。
ああ、でも、ルルだもんなぁ…。
仕方ないかなぁ。
「ね、ねね。シンバシンバ。コレ、なんだろ?」
自らが開けた穴に潜り込んで更なる獲物を掘り出そうとしていたルルリアが何かを見つけたようだ。
穴から突き出したメルホアのお尻をふりふりしながらピッケルの先っぽでゴリゴリと壁を削っている。
いやもうこのままルル尻を見続けてやる。
ちくしょう、メルホアのスカートじゃなくていつものメランのパンツだったらなお良かったのに。
透視とか出来ないもんかな。
つーかめくったろか。
ふん、俺の大切なポイントを台無しにしてくれちゃって、それくらいの妄想はイイだろうよ、なぁ?
「ねぇってばよ。シンバ。コレ」
ち。尻が向こう向きやがった。
「あたしのオシリばっか見てないでサ、コレ。なんかの武器っぽくない?」
ち。しっかりバレてやがった。
確かに、思い切り錆付いてるが、人工物にしか見えないモノが岩盤の中に埋もれている。
風化した金属のようにも、何かの化石のようにも見えるそれは、積み重なった地層に沈んでいることから太古の昔の物であろうか。
原型が棒状だということしか把握出来ないが、それは確かに目を奪う存在感を主張しながら静かに佇んでいた。
「ねぇ、このシチュエーション、なんか良くない?伝説の武器っぽくない?」
ルルリアがシンバの腕を掴んでぐいぐいと揺らす。
まだこの棒が武器と決まったわけじゃないのにこのテンションだ。
だが、その早とちりの思い込みもルルリアっぽくない?
「ぽくないッちゃっ!ホラ、ほらコレ、絶対ランスだよ!…ぐぬぅ~っ!」
興奮冷めやらぬ、という体でそのランスだと思しきモノを引っ張るルルリア嬢。
メルホアラーマの手袋にぺっぺと唾をつけてぐいぐいと引っ張るもびくともしないいわく伝説の武器。
鼻の穴をこれでもかと広げ、歯をギリギリと鳴らしながら必死に格闘するルルの姿に彼は呆れながらも笑いがこみ上げてくる。
仕方ないヤツだ。
さっきまで紅蓮石がどうのと言っていたのに、舌の根乾かないウチにコレだもんなぁ。
どら、伝説のランスとやらの掘り起こし、手伝ってやりますかね。
自分も手のひらに唾をつけ、気合一閃ルルリアの為に力を惜しまないシンバであった。
◆
「こんなもんかニャ」
「こんなもんだニャ」
いかにも付け焼刃のこしらえっぽい舵輪を取り付ける。
あっちこっちで姿勢制御に使われたロープを纏める作業も終わりつつある。
いくら緊急事態だったとはいえ、めったやたらに張り巡らされたそれらのロープを外すだけでも大仕事だった。
「素直にアイツらの手を借りとけば良かったンニャ」
「リーダーはアホだニャ」
部下たちが飾らない言葉でリーダーを責める。
まぁ、とはいえこれでどうにか帰還の目処が付いた。
早く戻ってこの一連の事件の報告と始末書作りをしないとお給金がまた減るニャ、と焦るリーダーネコ。
「よし野郎共、火ぃ入れるニャ!ギルドに帰るぞニャ!」
「ここでウマくしめようったってダメだニャ」
「グダグダ感が増すだけだニャ」
「どうしろっつーニャ!!」
意地悪な突っ込みについに地団駄を踏むリーダー。
ともあれ、係留柵から解かれた気球が緩やかに上昇を始め、過ぎてしまえば地味以外の何者でもなかった事件の影響を残すことなく火山地帯を後にしようとしていた。
その弛緩した空気を震わせて発着場に声が響いた。
『ちょっとまってー』
「なんニャ。なんか下からゲーッ!?」
見張りネコが双眼鏡で覗き込むとそこには例のペアハンター。
おーい、と手を振るルルリアに大きな麻袋を担いだシンバである。
あいつら採掘クエストじゃニャかったのか?もっと時間かけて探索するんじゃニャいのかよ!?
しかも乗せろと?戻って来いと仰ってますが?
「…リーダー。疫病神が戻ってきたニャ。どうするニャ」
「俺たち、死にたくないニャ」
「…うーん、うーん」
リーダーは頭を抱える。
本来であればハンターさんたちが第一。
しかし今自分の立場は仲間達の中で微妙に弱くなりつつある。
しかも気球は離陸している。
よし決定ニャ!
「無視で」
わっと上がる歓声。
それぞれの持ち場でネコ達がリーダーの英断を褒めちぎる。
俺たちのリーダーはやっぱり出来る男ニャ!最高ニャ!と拍手喝采だ。
「…あのネコどもめ…」
自分たちを無視する気満々で上昇を止めない気球をにらみ、袖にされた空気を敏感に感じ取った疫病神が犬歯をむき出す。
「お、おいルル、なに…すんの?」
「う?…ちょっと、アレ呼び戻すから待っててねシンバ♪」
あくまでも朗らかに、そして可愛くニッコリと微笑んだルルリアは左手のラウンドシールドを放り投げる。
そんなルルを見てシンバ君は思う。
いや確かに、いい笑顔だったけど、なんだろうこの背筋を伝う冷たい汗、悪寒は。
どしゃ、と砂地にめり込んだ盾には一瞥もくれず、ルルリアはその背にあったガンランス、トライファイアに弾薬を込め、振りかぶって助走し始める。
ま、まさか。
おい、まさか!?
ざっ、ざっ、ざしゃっ!
「どぉりゃあっ!!」
ぶんっ!
大地を踏みしめたふわふわワンピースの女の子が、上手投げで銃撃槍を投擲する。
どこにそんな力を隠し持っていたのか、雄叫びとともに打ち出された槍は蒼天を切り裂いた。
黒く太いガンランスが風斬音とともに一直線に気球に向かう。
標的を違える事無く、まさしく一直線にソレは飛ぶ。
「ええぇぇぇえぇぇ!」
「ぃよっしゃッ!」
シンバが目いっぱい驚き、ルルがガッツポーズした直後にトライファイアは気球の船体に突き刺さり、これまた彼女の思惑通りなのか弾丸を一発吐き出した。
ぼかぁん。
それはまるで湿気た花火の様に煙を上げ、なんの情緒も無く欄干を吹っ飛ばした。
ぱらぱらと落ちてくる木片のなか、砲撃の反動で抜けたトライファイアが地響きを上げて落下する。
それを拾い上げてさらにリロードしたルルリアは気球に向けて威嚇射撃を一発。
それは実際に弾丸は届かなくても、ネコ達の心をへし折るには十分すぎる一発だった。
シンバがげんなりと見つめる先で。
気球から白旗が突き出されるのだった。