0083
「こりゃ、お前。凄いモノ拾って来たな…」
鑑定用のモノクルを外しながらパパガイは唸った。
そんな彼の背中の垂れ幕には『ジェラシィー』と太く雑い筆文字が躍る。
その文字の横にやっぱり雑なペイントで黄色いバラらしきイラストがべっとり。
「どこで拾ってきたんだ、こんな古ッるいモン」
「ふふん♪秘密のポイント掘ってきたんだ♪」
カウンターに両手をついてぴょんこぴょんこと跳ねながらルルは得意げに言う。
彼女が跳ねる度にメルホアのスカート裾がチラチラとめくれるわ、豊満なバストがばいんばいんと跳ねるわでシンバはこみ上げる突っ込みを飲み込んだ。
『代償にオレの秘密ポイント潰されたけどな』
まぁ、言わぬが華であろうが。
「だがこりゃ普通の強化じゃ追いつかない錆び付き様だな…しかたねぇ、久しぶりにヤルか」
パパガイはそう言い、弟子の一人に『錬金釜』を用意しろと言った。
準備は弟子たちに任せ、自分はさらにその錆びた棒を削ったり擦ったりする。
「ねぇ、親方。コレ、武器だよね?」
「ああ、間違いないぞ。俺の見立てじゃコイツは遥か昔のからくり仕掛けのランスだな。ちょっとまってろよ…」
そう言ってパパガイは工房の壁に並んでいる本の背表紙を確認し、一冊の古めかしいハードカバーを引っ張り出した。
ぺらりぺらりと彼のゴツイ指先が丁寧にページをめくる。
パパガイのいつにも増して真剣な表情はそれだけでルルリアとシンバの心を高揚させる。
手に入れた経緯はどうあれ、自分たちが発掘した物体はパパガイを唸らせる逸品であるのに間違いは無いのだ。
二人は思わず顔を見合わせて笑いあう。
なんだかとてもワクワクする待ち時間だ!
「うむ、多分コレだな。ほら、見てみろ。だが惜しい事にシールドが無い。そればかりは仕方ない、俺のデザインの盾で勘弁しろよな」
差し出されたページを覗き込む二人。
そこには『マテンロウ』という名前と共に鋭く円錐状に伸びたランスのスケッチが描かれている。
ソレはただ尖っているだけではなく、その円錐を横に輪切りにするように四等分された分割線が入り、それぞれをユニットとして螺旋と逆螺旋のラインが引かれている。
柄の部分にはなんらかのトリッガー状の突起や歯車状の機構が描かれ、いかにも機械仕掛けの様相だ。
「おお、カッコいいランスだな。確かに見たことないスタイルだ」
ガード武器大好きなシンバが目を輝かす。
今まさに錬金釜に投げ込まれた錆びた塊と文献を見比べて羨ましそうだ。
「おお、盾もカッコいい。もう一回『掘って』こようかな?」
ルルリアがまたぞろキナ臭い発言をする。
コイツは絶対に味を占めているに違いない。
ガンランスを使った採掘法に。
奥の部屋からパパガイ親方が木箱に詰まった大量の鱗を持ち出してくる。
それは鈍く光る薄い金属の様にも見えるが、まさしく何者かの鱗だろう。
「これは風翔龍(クシャルダオラ)の鱗だ。ルル、お前このランス欲しいか?」
間髪入れず頷く彼女に苦笑しつつ「ルルリアにやるならいいだろう」と彼は意味深につぶやくのだった。
そのつまみ上げた鱗をみやるパパガイの瞳がすこし寂しげに見えるのは、なんだろう。
親方の表情を窺ったルルリアの胸の奥が、ちくんと、騒いだ。
◆
「ちげーよ、ここ6文字でしょ?」
「だから合ってるだろ『バニースーツ』で」
「それじゃこっちの5文字は?」
「『ナース服』だろ」
「…それ、あんたのフェチじゃんか」
ガルデニアの職人たちが太古のランスを復活させる作業を続ける間、シンバとルルリアは待合テーブルに無造作に積まれたパズルに興じていた。
一冊の雑誌に集中する二人の距離は必然近づき、肩同士がくっつきあってしまう。
が、当の二人はそんなこと意に介さずパズルに必死。
ルルリアは鍛冶工房でメルホアは暑いからと着替え部屋でいつものガルーダ=ヒプノ=メラン・コンボ(ガルヒメラ・コンボ)にフォームチェンジして例の如くちんまいながらも肉感的なボディを晒していた。
しかしさっきからどうにも鋭い視線を感じ、シンバは度々周囲を見回していた。
敵意にも殺気にも取れるそれはどこから来るのか、彼は出所がわからない。
「んじゃ、ここは?」
きょろきょろと周囲を窺うシンバの襟首を引きおろし、ルルがクロスワードの譜面をつきつける。
テーブルに押し付けられた二つのプリンがガルーダのビキニの中で柔らかく形を変えていた。
いや、近いってルルリアさん。
近いって。
嬉しいけど。
「…?…あ、このスケベ。見んなし!」
遅まきながらシンバの視線を感じ取ったのか、ルルは頬を染めながらそのバストを両手で隠す。
隠し切れていないが。
とはいいつつも、彼女もまんざらでもなさそうな表情をしているように見えなくも無いのは気のせいだろうか。
うぬぼれだろうか。
いやいや、誤解だよ!と弁解する彼の耳に『チッ』と舌打ちが聞こえる。
それに気付いたシンバがさりげなく耳を澄ますとタタラ場の方からぶつぶつと呪詛の様に恨み節が聞こえる。
ソレは主に、というか完全にシンバの立ち位置に対しての文句だった。
『俺たちのルルちゃんが』
『あんな優男に』
『ちくしょう、おれのおっぱいが』
『お前のじゃないだろうが』
『お前のでもないだろうが』
『んだとコラ』
『やんのかコラ』
やっぱりルルリアは解ってない。
自分が如何に隠れファンを作っているか、一度自覚した方が身のためだ。
というか、俺って実は物凄く恨まれる可能性大?
自身の持つ不幸スキルを思い出し、シンバはこっそりと落ち込んだ。
だがそれもルルリアのためと思えば安い苦労だろう、と雑誌にかじりついてパズルと格闘する彼女を見る。
こんな無邪気(というかアホ)な姿をしているが、彼女はどす黒い闇を抱えているのだし。
その闇、龍化については自分に荷が重過ぎるという事は承知している。
だがそれでも、シンバは自覚していた。
自分だけが、自分こそがルルリアのその暗い部分を受け止めてやれる唯一の存在だと。
「ダメだ、ここわがんね。7文字」
そう言ってルルは鉛筆を指先で弾く。
コロコロと転がったソレを拾い上げるとシンバは心の中でルルリアに対する決意を新たにしながらマス目に文字を走らせた。
『はだかエプロン』
彼が迷い無く書き込んだ答えを覗き込み、ルルはじんめりと湿った言葉を紡ぐ。
「…やっぱシンバって、基本スケベだよね…?」
「なん…だと…!?」
いかにも心外だ、と言わんばかりの彼に生ぬるい視線を送る。
でも、彼のそんなところも段々と受け入れつつある自分に気付くもポーカーフェイスでショックを隠す。
ルルリアの女の子としての未発達な本能が『ココで甘い顔を見せると相手がつけあがる』という事を薄々感じている。
だが、いかんせん経験不足だ。
このままではいつかボロが出る。
誰かこういうコトに詳しい人はいないものかと思う。
真っ先に浮かぶのはデイジーだが、今はちょっと顔をあわせづらいのも事実。
とすると団員の女の子ということになるが…。
マリアとミオはイケナイ関係だし、エリーは男より自分の事が好きっぽいし、ナツミは自分が見てもウトそうだし、ナツメは色気より食い気だろう。
ユゥナやパットに相談すると絶対に酒の肴にされる。
ローナ団長もきっとこういうコトには役に立たないニオイがする。
ちくしょう。
役に立たない団員ドモだ。
…荊ねぇが、いればなぁ…。
慕っていた存在を思い出し、小さくため息をこぼす。
近いうちにお見舞いとお詫びに行かなきゃならないだろう。
それが例えどんなに気が重い事だとしても。
悪い癖で、考えがネガになりかけた自分を頭を振って立ち直らせる。
ルルの房髪が揺れると同時にアクラコサージュの輝晶石がかちゃかちゃと音を立てた。
とりあえず、それでも、なんだかんだこぼしても、一応は彼を憎みきれない。
そうなのだ。
未だに残る、いや、はっきり言って彼の告白はこれからもずっとわたしの頭に…心にずっと留まり続けるのだろう。
もう、認めよう。
そう、それくらい、わたしは嬉しかったのだ。
彼がわたしに告げてくれた言葉は、本当に、嬉しかった。
シンバのまっすぐな視線と、言葉をこっそりと反芻する。
それだけでもう、なんだか、ヤツのことを好きになってしまう気がするくらい。
今日だけで何回こうやって密かに楽しんだことか。
我ながらみごとに落とされたものだと思う。
うーん。
わたしって…案外チョロいのかもしれない。
そりゃまぁ、自分でもガードは薄いと自覚してるけど、ここまで簡単にコイツのこと受け入れちゃっていいのかなぁ。
「…ま、いいか。あふぅ♪」
考え込んだりにやけたり、忙しい百面相を繰り返した挙句、ルルリアはにっと微笑んだ。
「なるようなるんだろうし、こういうのって」と続けシンバの腕に自分のそれを絡めた。