いつも思う。
ルルは唐突だ。
いきなりだ。
前置きが無い。
さっきまで人のことをスケベだなんだと言っておきながら今度は大胆に密着してくる。
その振れ幅の広さたるやエスピナスの普段時と怒り時のソレに似ているかもしれない。
だがまぁ、今、自分の肘あたりが感じている至高の柔らかさに比べれば、そんなことどうでもいいと思えるほど小さいコトだ。
オレってやっぱり、スケベなのかな?それともルルのおっぱいに対してだけなんかな?
益体も無い自問自答をしながらシンバはルルの積極的な接触を努めてなんでもないことのように装いつつ喜んだ。
端から見れば十分バカップルな様子の二人である。
ガルデニアの職人たちでなくとも『いいかげんにしろ』とツッコミたくなるのも仕方ないであろう。
かく言う書き手自身も甚だしく憤慨する。お前らもぅちっと自重汁。←
工房の土間に据えられた錬金釜に鎮められた大昔のランスと、大量に投げ込まれたクシャルダオラの鱗がなにやら良くわからない反応を起こして水溶液の中でスパークする。
還元作用が物凄い速さで行われているのか、原型すら解らなかった錆びた塊の表面がどんどん銀色を帯びてゆくのがここからでも見える。
ルルリアもシンバも、ランスを復活させる作業を行なうパパガイを筆頭にした職人たちの技を感心しながら眺めていた。
彼らもまた確かに武器職人、実際に希少な武装に出会えることが三度のメシよりも好きな連中である。
このランスを復刻する儀式がクライマックスを迎えようとする今、ルルのおっぱいのコトは一応、横に置かれているようで皆自分の作業を成し遂げようとしていた。
その時ドンドン、と工房の扉が叩かれる。
まずドアをくぐってきたのは、白髪を七三に分け、口ひげもしっかり整えられたがっしりした体つきの槍使い、泣く子も黙る『ペイン』のご意見番の神槍のボルドー。
そしてギルドナイトの真っ赤なスーツに身を包み、背に風翔龍の弓を携えたのほほん団長ローナ。
一歩遅れて、ルビーノホークという薄桃色に光るメッキされた派手な機械銃槍を背負い、だるそうな動きで頭を掻きながらアシュレーが入ってきた。
団の三幹部である。
シンバは嫌な予感しかしない。
が、ルルリアは彼らに「やっほー」と手を上げた。
その明るい挨拶に対してローナ団長はにこやかに手を上げてくれたが、ボルドーの大きな咳払いで彼女はすごすごと手を下ろす。
いつも思うのだが、なぜボルドーが団長ではないのだろう。
そしてアシュレーがおもむろに口をひらいた。
「ルルよぉ、おまえさん、ギルドネコいじめただろ?」
「厄介ごとを持ち込むなよなぁ」と続けながらルルに向かってため息をついた。
ああ、やっぱそうなったか、とシンバは思う。
恐らく、というか絶対こうなると思っていたんだ。
「さっきギルドから正式な抗議文と請求書が届いたのよ。ルル、今回はちょっとやり過ぎよ?」
困った顔で団長がルルに近づく。
猟団とはいえそれはハンターズギルドに所属しているからこそ維持してゆける組織であり、ギルドの恩恵を受けるに際して、ギルドに対して然るべき利益をもたらしてナンボでもあるのだ。
「まぁ、俺たちに対して悪戯する分にはまだいいさ、身内だからな。だけどギルドには通じないんだぜ?やっこさん達、お前らを逮捕するって言ってきたんだぞ?」
珍しく真面目な顔をして注意するアシュレーに、事態がコトの他大きくなっていたことにシンバは驚く。
思わず隣で黙っているルルリアを見るが、彼女もまた言わずもがな驚いていた。
「今回は私たちが団内で厳重注意するということと、あなたたちに一週間のクエスト受注禁止命令が出た事程度で済んだけど…」
「団に請求が来たから、気球の修理代もウチ持ちなんだよ」
やれやれ、とアシュレーがローナの言葉を引き継いだ。
二人とも言葉は荒げていないが、それなりに怒ってはいるのが見て取れる。
団の内外問わず、のほほん団長と称されるローナですら今はそんな甘い顔はしていない。
しかし。
しかしだ。
こういう状況になればなるほど…素直になれないのがルルリアってヤツなんだよ。
とシンバは静かに緊張する。
今この場にあの兄貴分はいないし、だとしてもオレがルルの相棒として毅然としてないといかんだろう。
ここはきちんと謝らなきゃいけないぞ、ルルもオレも。
「…ごめん、なさい」
「そう、ごめんって、ええぇ!?」
自分より先に謝ったルルリアさんにどこまでも驚かされるシンバ。
それは彼だけでなく、ローナもアシュレーも同じだったようで、ふたりともぽかんと口を開けて放心していた。
アシュレーの口の端から煙草がぽとりと床に落ちる。
「あ、あぁ。もったいねぇ。え、アレ?オレの耳はオカシクなったみたいなんですが。団長」
「…え?…あ、う、うん。いえ。そんなコトは、ないと思う…わよ?」
落ちた煙草を拾い上げて携帯灰皿にツッコミながらごちるアシュレーに対して返すローナもまた落ち着かない。
そりゃそうだろう、横で聞いてたシンバですら耳を疑っていた。
あの、ルルリアが、素直に…自分から、謝った?
「…なんだよぅ。人がたまに反省してみりゃその反応かよぅ。ひっどいの」
ぶぅ、と頬を膨らますルルに我に帰る三人。
そりゃそうだ、折角『あの』ルルリアが素直になったのだから今の反応は失礼だろう、と取り繕おうとしたとき。
「うむ。わしは解っていたぞ、ルルリア」
力強く朗らかな声がルルを褒めた。
「キミもまた、熱い狩人魂を胸に宿したモノノフであると!」
そして、ボルドーはがっし、とルルの両肩にその両手を置き、次いで満面の笑顔でルルを抱きしめた。
「…は?」
「「「!!??」」」
そのイキナリな抱擁に、ルルはポカンとした表情でされるがまま。
他の三人はボルドーらしからぬ行動にド肝を抜かれて硬直していた。
見たことの無い、まさしく記憶にないボルドー氏の笑顔。
煙草なんてものは吸わず、紅茶を飲んだ後も必ず歯を磨く生真面目な彼の真っ白な歯。
性格と同じようにぴっちりぴっかりした綺麗な歯並びを見せながら上機嫌を通り越した笑顔でルルの背中をバンバンと叩き、本気で嬉しそうだ。
一体何が彼をここまで壊したのか。
ボルドーにガクガクと抱きしめられながら、ルルはなんとなく解った気がする。
アレだ。
錬金釜に突っ込まれたランス。
このランス大好き親父はガルデニアに入るなり自分を素通りしてパパガイとなにやら話していやがった。
「キミがランサーになるというのはなんという僥倖だ。本当にすばらしい!」
同じような言葉を繰り返し、ルルリアの細い肩をばんばん、太い腕で抱きしめちゃあ背中をばんばん。
その度にルルの小柄な体はがくがくとあっちゃこっちゃに振られる。
「しかもなんだ!あのランスは古(いにしえ)の!幻の!…パパガイ殿、なんでしたかな?…ああ、そうそうマテンロウ!過去の銘槍を復活させるとは、なんと素晴らしいことだ!」
「いや、わたしはいつも思っていたのだよ、ルルリア。キミは見所があると。発想が新しく行動力もある。ハンティングセンスも申し分ない」
「ご両親の素晴らしい血筋は見事に受け継がれたようだな。キミは良いランサーになる!私が保証しよう!なんならキミの槍技に私の技を組み入れてもらっても良いぞ?はっはっは!」
「そうだ、それがいい。我が槍捌きを少しご披露しよう。参考になれば良いが」
これまで聞いたこと無い台詞のオンパレードである。
しかもあのルルリアに対してあのボルドーが……である。