0085
「ぼ、ボルドー、あの…その辺で、ね?」
上滑りなボルドーのテンションに周囲はドン引きである。
そんな中、どうにか口をはさんだローナに対してボルドーははた、と気付く。
「おお、失礼致しました。姫、ゴホン。団長」
最期にもう一度ルルリアをぐいと抱きしめた後、今度は嬉しそうにローナとアシュレーに向かってあのランスの見立てをべらべらと語りだす。
止まらねぇ。
このランスバカ止まる気配が無いよ。
「…あぁ、びっくりした」
「ボルドさんがあんなハイになるなんてな。あのランスすげぇンだな」
ボルドーのアツい抱擁の摩擦でズレたガルーダのカップを上に戻しながら(ポロリはしてない様だったが)向こうで笑い声を上げるボルドーを見るルルリア。
さりげなくそのルルの隣に戻ったシンバはちょっと悔しそうだ。
オレだってルルのことあんな風に抱きしめたいよぅ。
といったとこだろうか。
「まぁ、いいランスには間違いないだろうな。余計な属性付加の無い、シンプルで威力の高い槍らしいぞ」
カウンターの向こうから例の本をめくりつつパパガイが言う。
相変わらず無属性の武器ばかり使うところがルルらしいがな、と笑う。
ボルドーはアシュレーをつかまえ、ガンランスではなくランスを使うように布教しているところだ。
ものすごく面倒くさそうなアシュレーの表情は目にも入らない様子で語り続けるご意見番。
ルルの掘ってきた槍、マテンロウはボルドーのヘンな、というかイケナイスゥイッチをこれでもか、と押してしまったらしく、彼得意の無駄に長くクドいご高説を皆が聞かされる羽目になってしまう。
ルルに注意しにきて、どうして自分たちがボルドーに説教されなければならないのか、ローナとアシュレーはいい迷惑である。当然、ルルリアとシンバも巻き込まれてランス講話を聴かされていた。
「ただいまぁ…なに、この状況…ってヤバい?…うぷっ!」
さすがデイジー嬢である。
ドアを開けて一瞬で状況を看破したようではあるが、回れ右して逃げ出そうとするも自分に続いて入ってきたヴァリオンの胸板にぶつかってそのエスケープは失敗する。
しかしその瞬間である。
ルルリアとシンバは同時に立ち上がり、それぞれがそれぞれ『おー待ってたんだ二人とも!』とかなんとか言いながらルルはディズを、シンバはヴァンを捕まえてガルデニア工房を飛び出した。
ランスの完全復活には一日二日かかるというコトを事前に聞かされていた二人は躊躇無く逃げ出せたのだった。
◆
メゼポルタ広場の端っこに掘られた洞窟を改良した小洒落たバーに工房から出たその足で逃げ込んだ四人である。
件のランスとボルドーの長話のせいで午前中に目にしたヴァリオンとデイジーの情事のショックが薄れたのか、とりあえずルルリアとシンバはこの二人を前にすることが出来ていた。
まぁ、時々お互いに目配せして気持ちを制御する必要はあるようだったが。
ヴァンが麦酒を、ディズがブレンデッドウィスキーを一口傾けたとき、ルルがぶっちゃけた。
「あたし、シンバと付き合うから」
しれっと言い放ったルルが飲んでいるのはクリームソーダである。ヴァニラのアイスクリームがダブルで乗っかった緑色の甘ったるい炭酸水。
「なんだと!?」
「ほんとに!?」
「いきなりかよッ!!」
上からヴァリオン、デイジー、シンバである。
ストローで一気にその緑色の液体を吸い上げて即ゲップとあい気を吐き出した後に、なんにも悪びれず頷くルルリア。
それを受けて、あんぐりと口を開けたままヴァンとディズがくるりとシンバに顔を向けた。
「い、いや。まぁ、うん。そう…なんだが」
と真っ赤な顔をしたシンバが言葉を濁す。
一生懸命レモネードをかき混ぜつつ、もごもごと何か照れた言葉を真下に吐いている。
「んでねんでね、シンバってね、あたしのこと『愛してます』って言ってくれたのさ!」
柄の長いスプーンでアイスクリームをほじくり、口に運んで即の台詞。
「なんだとっ!?」
「愛ぃ!?」
「ぐはっ!」
上からヴァリオン、デイジー、シンバである。
シンバはもう床に突伏してしとど泣く。
コレはなんの羞恥プレイなんだ!ヴァンやディズだけならまだしも、このバーにいる全員が聞こえる声量でいうから!皆がオレを見てニヤニヤしているぅッ!!
「だから、ヴァン兄。ラスタ交換しちゃったからね」
呆気に取られていたヴァリオンがその言葉に我に帰る。
「な、お前!何勝手なこと言ってるんだ!そんなのダメに決まってるだろうが!」
思わず立ち上がったヴァンの勢いでがたりと椅子が倒れた。
一瞬だけ、シンとする店内。
ジュークボックスから流れるしっとりしたバラードだけが空間を横切る。
空気を読んだデイジーがヴァンの倒した椅子を戻し、彼の袖を引っ張った。
「ヴァン、ちょっと。落ち着いて」
「落ち着いてるさ。だけどコイツが」
「ヴァン」
デイジーの言葉と視線は彼をたしなめる。
ルルリアも真剣な眼差しだ。
普段の調子じゃない、真剣な表情。
女の子二人に気押されたヴァリオンは、とりあえず黙る。
ディズが直してくれた椅子に乱暴に座り、手に持っていたジョッキを一気に傾けた。
隣でヴァンがビールをぐいぐいと飲む音を聞きながらデイジーはルルに口を開いた。
「でも、私たちに一言有っても良かったんじゃないの?お付き合い云々は別にしてソレはちょっと急な話よ?」
今度はルルリアがカチンと来る番だった。
デイジーの口から自然に出た『わたしたち』という単語。
ソレがいたく無遠慮にルルの心を掻き乱した。
「ここ最近、あたしヴァン兄と一緒に狩り行ってないンですけど?ヴァン兄は誰かさんに付きっ切りだったからさ」
「しょうがないじゃん」と吐き捨てる様に言うルル。
「今日だってさぁ。真昼間からさぁ。よくまぁあんなコトモゴモゴ」
シンバがルルの口を塞ぐ。
が、時既に遅し、だった。
しかも愛想笑いをするシンバもまた完全には笑い切れていない。
ルルはしっかりした目つきで自分達の『行為』を責めていた。
やっぱり、あのチョコとベリーのアイスクリームを持ってきたのはルルリアだったのだ。
ヴァンも今のルルの言葉が何を指すのか流石にわかった様でそっぽを向きながら頭を掻いている。
だが、デイジーはなんとなく解っていたことだったので案外ショックは無い。
それどころか説明する手間が省けるではないか。
「そうよ?でもそれがなによ。私はヴァンに愛してもらいたいの。この人を愛したいのよ?それがいけないことなの?」
ルルがカチンときたならデイジーだって負けてはいない。
「あんた、まだだから羨ましいんでしょ?『お義姉さん』はお見通しよ?」
「お義姉ッ!?」
「素直になれば『お義姉ちゃん』がテクニック伝授してあげてもよくってよ?」
「テクぅ!?」
小さな丸い木製テーブルを挟んで、ルルとディズの目から火花が散る。
そんな二人のやり取りをヴァンとシンバは小さくなって見守ることしか出来なかったりする。
「いや、すまん。オレが無防備だった」
「あんたばっかり責めらんないっスよ…オレもアレ、止められなかったし」
狭いテーブルの端っこで並んでドリンクを傾けながら男同士は慰めあう。
「そんなお子チャマなものばっか飲んでたら到底無理ね。アレは飲めないわぁ。」
「そ、そんなのヤッてみなきゃわがんねじゃん!案外美味いかもしんない!ああ、そうかもしんない!」
飲物がマズくって仕方ない。
本来であれば色っぽいガールズトークもああまで赤裸々にやられたら情緒もエロさもへったくれもありゃしない。
「なぁ、ヴァン」
「なんだ」
頭上で飛び交うあられもない単語を聞かないフリして、シンバがヴァリオンに真剣な口調で話しかける。
「オレ、本気だから。ルルリアのこと、本気なんだよ」
「…そうか」
「確かにずっと煮え切らなかったのは事実だ。イキナリなのもわかってる。でも、やっぱり本気なんだよ」
「…そうか」
シンバが言う言葉に対し、ヴァンの返事は端的だ。
「だからオレ」
「わかったよ」
続こうとするシンバの言い分を遮り、ヴァリオンは彼の頭をぐしゃぐしゃと撫でる、というか髪をつかんで揺さぶる。
「うおぉお!?」
「認めてやるよ。このやろぅ」
ひとしきりシンバのセットを乱した後、ヴァンはちょっと悔しそうにそうこぼした。