しかしその後、しれっと落ち着いたルルリアの口から信じられない言葉が飛び出す。
シンバは密かに、だが大いに自分の耳を疑った。
「…謝罪行脚?」
「んだ。つきあって」
「そりゃあ、かまわないけど…」と語尾が消えるシンバ。
だって、いつものルルならこんな事言い出さない。
ギルドに殴りこみをかける、くらいのことを言い出しかねないヤツなのに…。
裏で何を考えておいですか、ルルリアさん。
「けどって、なによ」
「いや、うん。なんでも。」
「だいじょぶだよぅ。武器置いてくから」
「そんならシンバも安心っしょ♪」と続ける彼女は嬉しそうである。
この変革ぶりはどういうコトなのだろうか。
知り合ってからこれまでのルルリアを思い返すに、今回のような状況で、いわゆるマトモなコトを言い出した記憶は殆ど…いや、無い。
それでも、自分はルルについてゆこうと思う。
心の底のさらに深いところに、ほんの僅かに芽生えた疑心暗鬼の意識。
ルルリアの側に居る理由が、この一晩でひっくり返りそうな衝撃の予言。
ヴァリオンの役目だったルルリアの管理。
それは、先日まで自分がルルに抱いていた恋だの愛だのと言った浮ついた暖かい色のモノとは真逆に位置するモノだった。
ルルリアは自分を好いてくれた。
それはうぬぼれじゃなく、今では確信出来る。
自分の行動が、彼女を大きく揺さぶったのもわかる。
そして、それこそ自分が望んだ二人の関係だったはずだ。
「…恨むぞ、リーナのヤツ…」
「う?なんて?」
「いや、いや。んじゃ行こうか。朝ごはんは?」
強引に笑顔を貼り付け、話題を取り替えるシンバ。
しかしルルリアは鼻を鳴らして彼に流し目を送る。
「…ま、いいや。んじゃトゥトゥいこ、朝定食300ゼニー。」
ホットパンツの尻のポッケに手を突っ込んで小銭を確認しながらシンバからの返事を待たずに歩き出したルルリア。
心なしかご機嫌斜めな感じがする。
そういや、ごまかされんの好きじゃないって言ってたっけな。
なるほど、敏感っていうか過敏っていうか。
「…カワイイっていうか…」
「あん!?…なんだって?でっけえ声で言ってみろよッ!」
真っ赤でやんの。
こういうやり取りを嬉しく思う反面、微細な棘がささったようにもどかしく残る不安。
こうしてのん気な時間を過ごす今まさに彼女が裏返るかもしれない。
自分の眼前で金色に光り輝き、ヒトのカタチを失ってゆくルルリア。
ギラギラと無粋に変体してゆく彼女を止める事が出来ず、それを焦りながらもただ見ることしか出来ない自分。
彼女が制御する気の全く無い狂気が、暴力が街を、人々を、そしてシンバ自身をも喰らってゆく。
そんなヴィジョンが視える気がしてしまう。
今日は随分とマイナス思考だと自分でも思うシンバ。
だがそれもいたしかたない事なのであろう。
あの時の、ルルリアの変貌は自分の心に恐怖という感情を強く焼き付けた。
ヴァリオンから聞かされた死体が蘇ったクックの話。
ルルの刀を壊したという、狼のような見知らぬ牙獣種の話。
それらの断片的なキーワードを嫌なほうに繋いでしまうリーナの視た未来…。
そういった根暗な思考をせざるを得ない情報を自分だけが持っている事実。
「マイナーにもなるって…」
「だいじょぶ。あたしがちゃんと自分で謝るから。シンバはついて来てくれるだけでいいからサ」
彼の独り言を若干斜めに勘違いしたルルが言う。
やはり慣れない事をしようというのだ。
少しばかり緊張しているようだが、彼女の言葉はしっかりした決意を込めていた。
「でも、とりあえず朝メシ。うん、今日からはミルクも飲む」
「…なんでさ。お前あんまり好きじゃないだろ、ミルク」
いつまでも鬱々した事ばかり考えても仕方ない、とルルリアの勘違いを契機にして普段モードに移行したシンバの疑問は最もだ。
アイスクリームやチーズは好きなクセにミルクそのものやヨーグルトは苦手なルルリア。
そういや生クリームは一瓶丸々舐め尽していたことがあったな。
なんつーか、極端だよな、コイツ。
いやわかってるけど、うん。
「だってサ、あんた結構背ぇ高いじゃない。だからなんか、ホラ、さ」
台詞の前半を明け透けにのたまった後、後半をもごもごと濁す彼女。
その表情は「やべ、またイラナイ事しゃべったぞ、自分」といったカンジで朱に染まっていた。
「いや、俺はお前のそのちっこいトコも好き…なんだ、が、な。うん」
ルルリアの隠せなかった本音を受けて、シンバもポロッと本音を漏らしてしまう。
「う、あ…そう、なんだ…」
「え、あぁ、いやまぁ…その…えっと」
お互いに照れてしまい気まずくも甘酸っぱい雰囲気を感じながら各々隣を意識する。
ルルリアは無地で真っ白なブラウスを着ている。
がしかし、その薄手のシルクシフォンブラウスの中に際どいフィアラルスーツを着ているのがうっすらと透けて見える。
白眠鳥の羽毛を取り外してインナー代わりにしたそのビキニがブラウスの肩や背中周りに施されたフリルのキュートさとは対照的にセクシーでイケナイ気がする。
袖をゴムで絞ってゆったりとしたバルーン状にしてせっかくコケティッシュなのにぃ!
いや俺はイイんだけど。
しかしそのブラウスにそのボトムスはナイだろう。
おそらく、おそらくだよ?…今、ルルが穿いてるヤツ、サイド丈は15センチ無いぜ?マイクロミニな超極浅なホットパンツってどうなんだよ!
いや俺はイイんだけど。
しかもさっきルルが水溜りをジャンプして超えたときブラウスの裾がめくれて後ろが見えたけど、バックに編み上げ部分が在ったよ?しかもなんか尻の割れ目がそこから見えた気がしたよ?
いや、別にマジマジ見たわけじゃ無いから確信はないけど、うん。
膝上…33センチ…かな?
「35センチ。あたしホットパンツにはこだわるの」
「あ、ああ…そうなんだ、ふーん。うん、に、似合ってるよ。うん」
素っ気無く返事したつもりのシンバを見上げ、ルルリアはニヤリと意地悪い顔を向けた。
「ホレ、バックは編み上げだぞ?」
その場でくるりと後ろを向きブラウスの裾を捲り上げる。
強固な意志を持ってしても抗えぬ誘惑にシンバの視線は速攻でルルの尻に固定される。
先程チラッとだけ見えた彼女のズボン(あえてそう言わせてもらう)の装飾。
濃い茶のなめし皮で出来たズボン(限りなくパンツに近いが)の腰裏にざっくりとV字スリットが入り、その危ない裂け目を紅く染めた皮ひもが交互に金色のハトメを繋いで裂け目が広がるのを引き止めていた。
だが、それでもそのパンツ(ズボンじゃないのかよ)の中に納まっているルルリアのお尻の割れ目はばっちり見えてしまっている。
見えてしまった。
見ちゃった。
シンバが自分の尻を凝視しているのを確認し、ルルリアは勝ち誇ったようにフンと鼻を鳴らすと「はい、サービスおーしまい♪」と裾を下ろしてしまった。
シンバが網膜に焼きついたルルのお尻の割れ目を反芻しているとわき腹に突き刺さるルルの右足のレバー入れ中キック。
それなりに強烈な一撃を喰らいながらも、彼はハイキックならルルの股間も観察出来たのに、と考える。
どうしたシンバ、最近お前スケベだぞ。
仕方ないじゃん、ルルがエロいのがいけないんだ!
「あたしのせいかよ。んじゃ明日からガーディアンシリーズでがっちり固めてやろうか?」
「や、ごめんなさい。ガルーダ着てください。お願いします」
ルルリアの強烈な脅し文句に速攻で土下座するシンバであった。