モンスターハンターオルタナティブ   作:雨垂夜詩乃

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091 でぇと

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それは雑踏のざわめきの中、場所をはばからず響き渡った悲しみの声。

石積造のがっしりした建物の壁を叩きながら、一人の女の子が声を上げて泣いている。

肩を震わせて、嗚咽を堪えずに感情の溢れるまま、彼女は泣いた。

自分を苛んで、後悔のままルルリアは泣いた。

ボロボロととめどなく溢れるその涙は熱を含んだ真珠のようにきらめきながら乾いた石畳に吸い込まれる。

生のままの感情を殺すことなく声を上げて泣く彼女に距離を保ったまま寄り添う事しか出来ないシンバ。

彼もまたルルの気持ちを推し量り、その傾くルルの背に無言で優しく手のひらを置く事しか出来ずにいた。

 

通り過ぎる人々が二人を見る視線は少なくない。

若い女が往来に面した目立つ場所で泣き濡れていればそれは否応無く注目される。

自分たちに向けられる奇異のまなざし。

しかしルルリアはそんなことどうでもよかった。

凝灰岩で仕上げられた外壁を叩くルルの手は擦り剥け、うっすらと血が滲み始めていた。

荒割りで拵えられた装飾がルルの柔らかい手のひらを傷つける。

だけど彼女の後悔はそんな手の痛みを上回る強さで自身をかき乱す。

自分の弱さに。

自分の浅はかさに。

ルルリアは心から後悔していた。

 

あんなに慕った人に。

別れの言葉も。

感謝の言葉も。

謝罪の言葉も。

何一つ。

いえなかった。

 

「けぃ…ねぇ…。ごめん…なさい…」

 

呪詛のように繰り返し、ルルリアは泣き濡れた。

今ここで、この場で何度繰り返しても決して届く事の無い言葉。

 

初めて目にするルルリアの本気の泣き姿にシンバは面食らいつつも同情する。

どういう訳か、ルルはあの荊琴に懐いていた。

それはヴァンやディズ、団の皆に対するソレとは全く違う異質の懐き方。

正直、異常とも思える思慕の情であった。

 

「おねぇ、ちゃん…おね、ぇちゃん…」

 

赤子のように稚拙な言葉遣いのルルは自らの言葉に打たれ、更にその感情を募らせていた。

 

昨日、ギルドに件の『気球内ガンランス暴走事件』の犯人として自ら出頭し経緯説明の上、本気で頭を下げたルルリア。

地味な嫌味をチクリチクリと言われながらも自首したこと自体は評価されたようで、求刑(笑)に酌量されることは無かったもののとりあえず彼女の謝罪は受け入れられた。

ギルドのお偉方からのありがたいお小言を小一時間程グチグチと聞かされただけで放免された事からもそれはわかる。

一週間のプーハンター状態に変化は無かったものの、その結果ルルの気持ちはとりあえず晴れたのだった。

 

その後、その勢いの足で『ペイン』の詰め所に赴き幹部連中に勢いで土下座までした彼女の勢いは無敵だった。

まぁ、その土下座の舌の根乾かないウチにトゥトゥでのん気にシンバに付き合ってくれたお礼と称してお茶とケーキなんぞをご馳走したルルのテンションは既に普段どおりで、泣いたカラスがもう笑いやがった割り切り方で内心みな呆れたのはご愛嬌、といったところだったのだが。

 

そして午後の彼らの動向を書きたくない。

作者は語り部としての職務を放棄する。

バカップルの目も当てられないベタベタしたデートシーンなんて。

書いてやるもんかよ!!

ちくしょう(俺の)ルルリアが!

シンバのヤローと腕組んで楽しそうに!

王都の繁華街をウロウロするトコなんて!

アレでもしヤツらが指を絡めた恋人繋ぎなる手ェのつなぎ方なんぞしおったら!

もう金輪際絶対お前らの事なんか書いてやるもんかと!!

 

主人公はヒューマとパパガイ親方に変更してやる!

…案外需要あったりしてな。←

 

まぁ、最近お付き合いしだした男女が。

お互いの事を探りつつ気にしながら。

微妙な空気を周囲に見せつけながら。

んでもって照れながらもひっついて歩く。

そんなカンジだったんです。

 

ちくしょう、作者を無視して勝手に動くなお前ら。

 

それはさておき。

無駄話はここらへんで。

閑話休題。

 

「ルル…大丈夫か?」

 

自分の持つ最大限優しい気持ちを総動員したシンバの言葉。

泣き疲れたのか、しゃくりあげながらどうにか泣き声をひっこめつつあったルルにやっとの思いでそれは届いた。

 

「…う、ん。ごめん、ね…シンバ…」

 

ぐしゅぐしゅと鼻水をすすりながら彼女はポツポツと語りだす。

 

自分が何故、荊琴を慕っていたのか。

自分が何故、荊琴に別れを告げられなかったのか。

あの二人に、言い残した想いが溢れるほどあることを。

たどたどしく、弱弱しく紡がれるルルリアの告白、いや懺悔とも言える吐露はそれ自身が彼女の脆さの表れであった。

 

病院のすぐ隣、整備された遊歩道の中にある鋳物製のベンチに腰掛けた二人の周囲を穏やかなそよ風が取り乱したルルリアを慰めるように歩きぬける。

ルルが語る間、聞き役に徹したシンバの手のひらがあやすように彼女の背に優しく添えられていたわっている。

そのおかげか、徐々にルルリアは落ち着きを取り戻し、後悔と悲しみに彩られた今の自分自身をゆっくりと振り払っていけたのだった。

 

先送りにしていた風影と荊琴に対する謝罪と感謝。

その勇気を振り絞って病院に出向いたルルリアを待っていたのは冷たい現実だった。

自分が病院を抜け出すより前に、彼らは消えていたこと。

なんの未練も挨拶も言葉も無く消えたゲストハンター達。

彼らのその消え方はルルリアの心をひどくかき乱す事実だったのだ。

団の他の連中より頭一つ以上、自分は彼らと近い気がしていた。

それはちょっとした優越感、そして嬉しい感情。

だけど、それは、ルルの思い込みでしか無かったのだ。

 

突きつけられた現実を受け入れることが出来なかったルルは人目もはばからず泣いた。

病院の受付窓口で、看護士が身を乗り出して心配するほどの取り乱し方。

きっとシンバがいなければ自分を保てなかったくらいの衝撃だった。

 

「あーあ。さっきから見てりゃ恥ずかしいったらないわぁ」

 

そんな二人を案外近くの植え込みの後ろから覗きながらマリアが吐き捨てる。

ルルリアとシンバが正式にくっついたという噂を耳にして昨日からこちら二人の動向をストーキングしての結論がコレである。

 

「正直、甘ったるくて見てられないじゃん」とぶつぶつこぼすマリアにぴったりくっついたミオが小さく頷く。

 

「でも、ルルさんなんだか可愛くなりましたね」

「そうかぁ?…ただデレただけなんじゃないの?」

 

確かに自分が知る以前のルルリアならああしてシンバに甘えるような、依存するような態度はとらない。

ここ数日の間になにか大きな心境の変化があったと思う。

 

「大きな変化?…ヤッたんかな?アイツら」

「お姉さま、それ直接的過ぎます…」

 

だが、その推理自体はミオも否定しない。

なんだかんだ言っても彼女もルルとシンバが肉体的な一次接触行為を行った事を推察していたのだ。

そのミオの染まった頬を見て「あたしはニオイで処女かどうかがわかる」と言い切ったマリアが植え込みを揺らしながら更に二人に近づこうと動き出した。

 

シンバはがさがさぱきぱきと大きな音が近づいてくるのに気付いていた。

だけどまさかソレがマリミオであることまでは解らない。

どこぞの清掃ネコがまたいらない甲斐性を出して植え込みを漁っているのだろうと思っていた。

そんなことよりルルである。

 

もう、いつにもまして小さく見える彼女はやけに女の子だった。

べそべそと泣きぬれる年頃の少女の破壊力にくらくらしてしまう。

大体、コイツはソノ気は皆無なクセにエッチなカッコばっかだし。

今だってオレンジのギンガムチェックのフレアキャミワンピースなんて珍しいくらいカワイイカッコなのにその背中なんだよ。

肩甲骨やらなんていうの?背骨のラインとかが丸見えでよ。

スリムなクロップドジーンズから伸びるふくらはぎとか目の毒だってば。

スベスベなんだろうな、アレ。

いや、今はね。うん。

ルル、本気で泣いてるからな、優しくするよ?俺ぁ。

 

シンちゃんに幾らかのやましい気持ちがあったことは否めない。

おそらく本人もそれは否定しないだろう。

落ち込んだルルリアの背中に手をおいて、慰めてるようなフリしながら彼女のざっくり背中の開いたキャミからのぞく素肌の感触を感じたりしちゃったコイツの株が下がっていけばいいんだ!

 

しゅんとしたルルの背中をさすりながらシンバは彼女のうつむいた顔を下からのぞき見る。

鼻頭を赤くしたルルと目が合う。

 

「…なに?」

 

一度ぐしゅっと鼻をすすったルルリアが訝しげにシンバを見返すと、彼はその涙濡れた瞳の潤み具合に胸が高鳴る。

それが悲しんでいる彼女に対して不謹慎なことと知りつつも、どうしても意識してしまう。

 

「なによぅ?」

「あ、いや。いや、なんでもない。うん」

「…みっともない顔してるから、あんま見ないで欲しいかも」

「え?いや、そんな、ことは。無いよ。うん」

 

その両の手のひらでごしごしと顔をこすり、ルルは無意識のうちに染まった顔をごまかした。

 

ルルリアの瞳は涙で潤んでいる。

それは間違いなく哀しみの感情であろう、しかし、その深遠な紅の淵に見え隠れする彼女の別のゆらぎに引き寄せられるシンバ。

気付けば、二人の距離は今までになかった程近く。

ささやかな吐息のニオイすら互いに感じ取れる距離。

ルルリアの、思いのほか長い睫毛の本数がシンバの鼓動を早める。

シンバの優しげな瞳を初めて意識するルルリア。

二人の唇は、自然な流れでその隙間を縮めていた。

 

 

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