0094
「な、なぁルル。これ、このソースってなに?」
「う?…なんだっけ。あ、そうそう。ケチャップ。あんた好きでしょ?ケチャップ」
なに、思い出すようなレベルなの?ケチャップって。
「な、なるほど。確かにオムライスにケチャップで色々描くのは好きだが…」
どうみても色が赤くない。
どう見てもトマトケチャップではない。
コショウケチャップだ。
このコショウ好きめ。
さっきほぼ一ビン振りかけてたの、見てたぞ俺は。
余談だがルルリアはかなりのバカ舌だったりする。
どうも濃い味が好きらしいのだが、それが如実に現れるのが肉料理に対してである。
ゴム質の皮を剥ぐと以外に柔らかい肉質の毒怪鳥ゲリョスの悪魔風ステーキ。
とりあえずルルの晩御飯の定番メニューである。
あっさりしたソースに香辛料を効かせたピリッとスパイシーな味付けでその淡白だけどみっしりしたトリに似た肉を堪能できる意外にヘルシー&ボリューミーなメニューである。
カロリーを気にする女性にもオススメの一皿だ。
フルフルのモツ煮と比べてもゲリョスのステーキを食った方が摂取カロリーは半分強少ない。
が。
こヤツはプレートが運ばれるやいなやテーブルコショーをむんずと掴み、わさわさと肉に振り掛ける。
そりゃもう、親の敵と言わんばかりに肉をコショウまみれにするのだ。
カロリー云々の前に味が台無しである。
もう、コショーの味しかしねーっての。
つーかコショー舐めてろお前。
初めからコショー食ってろお前。
『にんにくラーメン、チャーシュー抜きで。あと麺とスープも抜きで』
ってニンニクだけじゃん!それどうかしてるよ!間違ってるよ!萌えないよソレ!
「…どしたのシンバ。食べて、くれないの?」
危機的状況で思考が現実逃避していたシンバの意識を引き戻すルルリアの甘ったれた声。
「…い、いやちょっと精神統一、じゃなくってせっかくのルルの手料理だからもったいなくて。うん」
言った後に物凄く後悔するシンバ。
彼女が作ってくれたことと食える食えないは別次元の問題だと知りつつ、ルルリアを傷つけない台詞をしゃべってしまった。
しかし、彼の言葉を聞いたルルリアのふにゃっとした笑顔を見たシンバは思う。
やっぱり、自分はコイツが好きなんだな、と。
内容はどうであれ、二人の時間を過ごし、お互いを意識し、楽しい思い出を綴っているのだ。
コレを幸せと言わずなんと言うのか。
「うん!…んじゃ最後にとっときの味付けしてあげるね♪」
彼の言葉に気を良くしたルルが椅子を倒す勢いで立ち上がり、ややスキップ気味にキッチンに向かう。
形のいい尻と柔らかそうな太ももを見送りながらシンバは思う。
『コレよりあの太ももが食べたい』と。
だがそんな邪な考えはすぐに打ち砕かれる。
振り向いたルルリアが手にしていたモノは、そう。
『テーブルコショー』であった。
「なんでやねんッ!!!」
「コショウ美味しいよねぇ♪」
シンバのツッコミもなんのその、ルルリアはポンと蓋を開けるとバサバサと『ミートローフ』らしきものに振りかけ始めた。
もうもうと舞い上がった(言いすぎ)コショウパウダーにシンバは目と鼻をやられる。
「ちょ、ルル、まッ…くしゃんッ!でぇっくしょッ!はっくしょッ!!」
刺激にあてられ彼の顔面はぐしゃぐしゃ。
涙が次から流れ鼻水もだばだばであった。
自らが招いたシンバの災難をさすがにマズイと思ったのか、ルルリアがティッシュを探しに立ち上がった。
その気配を感じ、呼吸もままならない状態でシンバはベッド脇のサイドテーブルを指差す。
そこにはボックスティッシュがちゃんと常駐しているのだ。
なぜだか…わかるな?
だが、一向に彼の元に待ち焦がれるティッシュのあの軽やかな存在感は近づいてこない。
そうこうするうち、シンバのくしゃみと涙と鼻水は落ち着きを取り戻す。
まだ少し鼻の奥がムズムズするが、どうにか落ち着いてきた。
さすがにコショウぶっかけからティッシュ未到達の仕打ちは酷かろうとシンバは涙目を擦りながらルルリアを探した。
ルルはシンバに背を向けて、彼のベッド脇に突っ立っている。
彼女の手に、何かがあるようだがとりあえずシンバはちょっと荒げた声をルルに投げようとして、しかしすぐに全身を硬直させた。
ルルリアが手にしていたのはシンバの腰ポーチ。
右手にシンバの腰ポーチ。
そして彼女の利き手である左手に。
ポケットティッシュと。
ルルリアの着替えショットの写真が納まっていた。
ほらアレ。
前にマリアがミホと更衣室で百合行為をしていたことの口止め料としてシンバにくれた。
ルルの陥没気味の乳首がばっちり写っちゃってる例のアレですが、なにか?
時が凍る室内。
自らの手元に視線を落としたルルリアの表情は読めず、ただ繰り返される彼女の息遣いだけが規則的に繰り返される。
シンバはかなり高濃度な負のオーラが満ちてゆくこの急な展開の先を予想したくなかった。
思い出したように生唾を飲み込みむと、彼の肺が申し訳程度に酸素を求めた。
ルルリアがどんなリアクションを取るのか、それだけが今シンバの思考を占拠する。
先ほどまで彼の懸念材料だった『物体X』の事などものの見事にどこかに飛んで行ってしまった。
どれくらい二人は固まっていたのだろうか。
そんなイロッぽい話じゃないことくらい二人は感じている。
だからであろうか、ルルリアが俯いたままではあるがふいと向き直り、ポケットティッシュだけシンバに向けて差し出す。
しかし、嵐の前の静けさとでも言うのだろうか…。
この、彼女の穏やかな行動自体がもう既にルルの怒りを意味しているようでシンバは恐くて仕方がない。
「え、と、その、ですね」
もそもそとポケットティッシュを受け取りつつ言い訳を切り出そうとするヘタレ。
銀糸の前髪の隙間からの視線を感じる。
若干、じめついたカンジのヌルッとした視線。
それが発せられている紅い瞳を直視してはいないが、ルルは自分の言葉を待ってくれている。
そう感じたシンバは暗雲が雷雲にそして乱雲に、台風に変わっていく前にどうにか対処しようと考えた。
「これは、ですね…その、先日ですね」
「買ったの?」
当たり障りの無い方向性を模索しながらしどろもどろに弁解を始めた彼の台詞をぶった切り、ルルは悲しそうな声を発した。
「え?…いや、買ったわけじゃ無いよ!」
「…ほんとに?」
ちらと見えたルルの眼は、どうしてだろうかあまり怒っていないように見えた。
でも、不機嫌そうな雰囲気は未だにバリバリ伝わってくる。
「う、ん。実は、こないだの送別会の時さ、ちょっとした事があってそれマリアちゃんが無理やりくれたんだよ」
その時の事を正直に話すシンバの言葉を聞いているルルのツリ目が段々、すぅと細くなってゆく。
言い訳ではなく真実を話してくれたであろうシンバ。
自分のエロ写真を秘匿されていたことよりも、彼が入手経緯をきちんと話してくれたことの方が大切に思う。
元々、彼が自分のおっぱいに対して少なからず邪な思いを持っていた事は先日も直に悪戯されたコトで知っている。
まぁ、それについての仕返しは例の送別会の時に済んでいるから今更蒸し返す心算は無い。
大体、ソレを言うなら自分の普段着の方に問題があるのではないか。
これ見よがしに乳を強調するガルーダシリーズや尻や太ももをアピールするメランシリーズを着てうろつく事自体がハレンチ行為なのだろう。
それに、あの時とは違うのだ。
今、シンバと自分の関係は、あの時とは違う。
今のわたしは、コイツの…。
彼の説明を聞いてゆくウチにまた俯いてしまったルルリア。
別に怒ったわけじゃないのだ。
ちょっとびっくりしたけど、シンバが自分を魅力的に感じてくれているのは間違いないらしい。
自覚した。
今、自分はとんでもないことを言い出そうとしているという事実を。
「だからさ、ルル。オレは別にキミを悲しませたいわけじゃ」
「まったく。そんなにおっぱいが好きなのかよ。赤ちゃんだな」
結局言い訳じみた事を述べ始めたシンバの言葉を自分の言葉で遮る。
いつもそうだ。
シンバが何かしゃべっているのを途中で横取りするのが結構楽しい。
彼の言葉を崩した時に見せるシンバのなんともいえない悔しそうな揺らぎがたまらなく気持ちいい。
シンバは絶対に、あたしの事を誤解している。
あたしは別に、可愛くなんて無い。
見た目じゃなくて性格の話だ。
ちやほやされて有頂天になれるほど、あたしは可愛くない。
「あんたさ、女って見たらおっぱいばっかし見てるんでしょ?」
挑発的な言葉を投げつける。
彼はちょっと怒るけど、その怒気をあたしに打ち返してはこない。
だから、あたしはもっと。
大胆に彼を挑発する。
「エロシンバ。あんたのその乳ばっか見る視線、みーんな知ってるんだからね?」
「デイジーもあんたの目つきが怖いって言ってたし」
「ユゥナさんもパットさんもくすくす笑ってたし」
「ナツメのもナツミさんのもエリーのもマイカのも凝視してやがったろ」
「ローナ団長もシンバの視線が熱いって困ってたぜ?」
「もちろん荊姉のこともジロジロ見てたっしょ。このスケベ」
つらつらとまくし立てるルルリアに、シンバは段々我慢できなる。
彼女が言う内容が事実無根で適当な事を思いついたまましゃべっているとしても気分のいいものではない。
確かに自分が乳好きなのを認めるのにやぶさかではない。
確かに自分の周囲に可愛いコ達が多いのは認めるさ。
だけど自分がエッチな目で見たいのは誰でも良いというわけではないのだ。
その事だけはルルリアにちゃんと解ってもらわなければ困る。
本当に困るッ!
「待てよ、ルル。確かにこんな写真持ってたのは悪かったけどなにもソコまで酷い事言わなくても」
「だから!…さ…だから、さ」
真っ赤な顔で声を荒げるルルリア。
顔だけじゃない、耳も首も…襟ぐりから覗く鎖骨のラインも真っ赤に染まっている。
彼女のその鬼気迫る迫力に気圧され、シンバは自分の言葉を引っ込めた。
いや、それだけじゃない。
ルルリアの温度がなんだかヘンな方向に上昇しているのを頭のすみっこで感じ取ったからだろうか、シンバは自分の主張をいつになくすんなりと引っ込めた。
無意識の理解が心臓の鼓動が跳ね上げたからなのだ。
一体、自分の小宇宙【コスモ】は何を感じ取ったんだ!?
「だ、だから…さ」
「う、うん」
「だから…」
先ほどから『だから』を繰りかえすルルリアがもじもじと何かを決意しようとしている。
ついさっき、ルルにエロ写真を見つかった時に飲み込んだ生唾とは対極の熱さを持った唾液が咽を下る。
ソレはシンバの胃の腑を突き破り、身体のもっと下の方にあるモノを強く刺激する。
ルルリアの体から、それこそ形の無いナニかが立ち上り、シンバの本能がソレを必死にキャッチしようと感覚を研ぎ澄ます。
そう、シンバの思考はまるで停滞していたが本能の方はその匂い、ルルのフェロモンを受け敏感に目覚めていた。
「だ、だから…他のひと達に迷惑だから、さ…」
もう何度目かの『だから』を繰り返しながらルルリアは胸元のボタンに指をかける。
ぷつ、ぷつ、と衣擦れにほんの僅かに硬質な音を混ぜつつ、彼女のブラウスはその拘束を解いてゆく。
「だから、他のひとの…見るくらいなら、さ」
『なら、さ』の部分で白いブラウスの前合わせが解け、ゆるやかに左右にふわりと舞う。
「あたしのだけ…見てれば、いいじゃん」
長めに整えた前髪をさらに深く落とし、しかしルルリアは顔を背けることなく彼にその胸をさらす。
ぶっきらぼうに言い終わると同時にさらにブラウスを肌蹴て中に手を入れ、ルルはフィアラルスーツのフロントホックを…一瞬だけわずかに止まったが…ぷちんと外した
明日から六話ばかりR18が続きます。
嫌な方はすんません。