俺は未来から過去へタイムリープした。タイムスリップではなくタイムリープだ。二つの明確な違いは俺もよく理解していないが、とあるSF小説によると、体ごと過去、もしくは未来に移動してしまうケースがタイムスリップ。意識だけ過去、もしくは未来に移動してしまうケースをタイムリープと呼ぶらしい。
念のため自分以外に牧野航平が生きている痕跡を探してみたが見つからず、全て今のこの体が辿ってきたらしかった。中高の同級生に確認しても、麻奈に確認してもそれは同じだった。麻奈には小難しい哲学書でも読んだ? って心配されてしまったが。
ともかく俺は未来からタイムリープしてこの地にいる。体だけでなく、衣服や持ち物だって過去のものだ。そのはずだった。
「それなのになんでこれだけあるんだろう……」
手に持ったスマートフォンは見た目こそこの時代の自分が持っていたスマホと同じだが、中身のデータに関しては未来のものが詰まっていた。
客先のメールアドレスや電話番号はもちろん、メッセージアプリには月スト、サニピ、リズノワ、トリエル、スリクスの連絡先もある。テキストや写真、動画など、データとしてスマートフォンに保存してあった内容も変わらず存在していた。
ただ、インターネットには完全につながらない状態で、メールや電話に関しても繋がることはなかった。故障したという線もあるが、未来から持ってきたスマートフォンを修理に出すのも気が引ける。なので、現状このスマートフォンでは未来のデータ確認用と、とある用途にしか使っていなかった。
「取り込んでおいて正解だったな」
インターネットに接続しないアプリなら問題なく使える。イヤフォンを耳に当て、ミュージックプレイヤーを起動する。聴くのは今は存在しない曲だ。
『Everyday いつもいつまでも Sunnyday 一緒に歌おう』
"EVERYDAY! SUNNYDAY!" サニーピースが作り上げた曲。俺にとっても大切な曲で、勇気を貰える曲だ。
『心には太陽 忘れないから』
「頑張ろう」
失敗続きだけど、まだ終わったわけではない。今日は怜のスカウトに行く予定だった。
「アイドル、ですか」
スーパーTAKEMIYA。彼女がそこでバイトしていることはすでに知っていた。そのバイト終わりに俺は彼女を訪ねていた。
「はい、れ……一ノ瀬さんがここのバックヤードで踊っている姿をたまたま拝見して、それで声をかけた次第です」
「名前を知っているのは?」
「ダンスの高校生大会の試合を見させていただきました。そこからです」
「なるほど……アイドル、か」
怜は考え込むように視線をやや下に向ける。その仕草にちょっとだけ、いやかなり不安になる。芽衣の件もあって自分の台詞に違和感がなかったか考え込んでしまう。
「牧野さん、でしたっけ?」
「はい、牧野です」
やがて顔を上げた彼女は決意の籠もった真っ直ぐな瞳で告げた。
「その話、受けさせてください」
「で、では!」
「はい、私はアイドルになります」
「ありがとう!」
咄嗟に怜の手を握り頭を下げる。……よかった。本当によかった。
それから連絡先を交換し、怜とは別れた。後日改めて事務所に来てもらってそこで正式な契約を結ぶ約束だった。
失敗はしたけど、まだ終わったわけではない。諦めずに説得を続けていけばきっと芽衣や遙子さんも来てくれる。絶対に。
気持ちを新たにして、俺は一度寮に戻っていた。今日もまた入寮予定がある。