流る星に一つの願いを   作:ねむれすねむれす

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太陽の居場所

 

 怜とも無事契約を交わし、現状の星見プロダクション所属は七人となった。うち麻奈と遙子さんは以前から所属していた人物だから新人として加入したのは五人ということになる。

 

 つまり星見プロのメンバーとして揃っていないのは後四人。俺がスカウトに失敗した芽衣、そして琴乃、渚、さくらだ。

 

 琴乃と渚に関しては以前の世界ではオーディションに来てくれたから会うことができた。だけどこの世界においてはそもそもオーディションに来てくれていない状態で彼女たちとの接点がなく、会おうにも会えない状態になっている。

 

 未来の知識で住所は知っているものの、直接家を訪ねるのはさすがに不審すぎる。通学路で偶然会ったふりをしてスカウトする手も考えたが、芽衣の件もある。不自然なスカウトは止したい。

 

 というのも芽衣がなぜ自分の事を怖いと言ったのかが未だよくわかっていなかった。俺としても誰かを怖がらせたくないし、不快な気分にさせたくはない。だからこそ考え方が怖いと言った彼女を再度スカウトに行くのは気が引けたし、他の子のスカウトだって二の足を踏んでしまう。

 

 どうすればいいか迷いに迷って、結局今の今まで行動に移せていない状態だった。

 

 だけど、そんな俺にとある頼りが入った。

 

 それはさくらが退院したとのことだった。

 

 一度さくらが入院している病院に訪れた後も、俺は度々その病院を訪ねていた。その度に門前払いされていたわけだが、それを見兼ねた病院関係者が一度話をしてくれたことがあった。

 

 その時に俺は自分の職業と、なぜさくらを尋ねているかを説明した。そのかいあってか、その人は連絡先を教えてくれて、さくらの退院のことまで教えてくれたのだ。

 

 俺に連絡してくれたその人に感謝を伝え、俺は事務所を出た。

 

 今は一刻も早く、さくらと話をしたい気分だった。

 

 

 

「さくら!」

「え?」

 

 俺が病院に駆けつけたときは、丁度彼女が病院を出た時だった。迎えに来た親御さんと白衣を着た病院関係者たちが一斉に揃っていた。

 

 思わず声を掛けてしまった俺に一斉に視線が向く。……どうしよう、どう話すか何も考えてなかった。

 

「さくら、知り合い?」

「ううん、違うよ。でも……」

 

 なんとか説明しようとしていると、さくらが俺の前まで歩いてきた。

 

「何かお話があるんですよね?」

「あ、あぁ」

「わかりました。……お母さん、ちょっとだけ待ってて、少しだけこの人とお話してくる」

「え? でも知らない人なんじゃ……」

「うん、でも」

 

 そう言ってさくらは俺と目を合わせる。

 

「この胸があなたと話して、って言っている気がするから」

 

 

 

「突然訪ねて申し訳ない」

 

 それから俺たちは病院の一室を借りて場所を移動した。近くにあったパイプ椅子を取り、さくらに椅子に座るように委ね、俺もその前に座る。

 

「いえ、大丈夫です。それでお話というのは?」

「あぁ……」

 

 どこから話すべきか悩んだ。さくらをスカウトしに来た。口にすればそれだけだが、それを口にすると入院していたさくらをなぜスカウトするのか、なぜ知ったのかといった問題が発生する。

 

 だけどそれを正直に話すには未来のことを話すしかない。ただ、未来を知っている、未来から来たなんて言葉は信じてくれるだろうか。俺だったら間違いなく疑うだろう。

 

 ……いや、でももう迷っている暇もないな。もうこれ以上、スカウトを失敗するわけにはいかないんだから。

 

「さくらさん、俺はこういうものです」

「芸能事務所……星見プロダクション……牧野航平さん……」

 

 懐から名刺を取り出し、さくらへと渡す。さくらはそれをまじまじと見た後に、小さく呟いた。

 

「単刀直入に言います。川咲さくらさん、俺はあなたをスカウトしに来ました。アイドルになりませんか?」

「アイドル……」

 

 さくらはその言葉を聞いた後、自らの胸に前に手を置く。心臓の音を確かめるようにそっと。

 

 ……荒唐無稽な話だ。自分がさくらの立場だったら、一番に不審に思うに違いない。だけど、俺にできることはこれしかなかった。

 

 祈るようにさくらを見つめていると、やがて彼女は真っすぐなキラキラとした瞳で俺を見つめた。

 

「はい! やりたいです!」

「……え」

 

 思わず素っ頓狂な声が漏れ出す。やりたい、やりたいって言ったのか? さくらは。

 

「い、いいのか? 俺がさくらの名前を知っていることとか、なんでスカウトしたのかとか聞かないのか?」

「色々と聞きたいことがあるのは確かですけど、今は大丈夫です!」

「……それは胸の高鳴りがあったからか?」

「それもあるんですけど、私自身がアイドルをやりたいってそう思ったからです!」

「さくら……」

 

 思わず涙が零れそうになった。失敗続きでさくらのスカウトも不安な気持ちが大きかった。だけどそれ以上に、この世界でもさくらは俺の知っているさくらのままで、アイドルとしての気持ちを持っていると理解できたのが嬉しかったから。

 

「ありがとう」

 

 気づけば口から言葉が漏れ出していた。さくらはその言葉を受けて笑みを浮かべていた。

 

「いえいえ、こちらこそスカウトいただきありがとうございます! ……あ、でも」

 

 笑顔から一転、さくらは困ったような表情を浮かべた。

 

「私、まだ安静にって言われているんでした」

「それはいつまでだ?」

「半年ほど? みたいです」

「半年……」

 

 予定していたデビューの日には遠く及ばない日程だ。それまでデビューを遅らせるか? いやそれをすると、NEXTVENUSグランプリにまで影響が……。

 

「……まずかったですか?」

「いや……わかった。退院したばかりだもんな。しばらく安静にする必要があるだろう」

 

 半年後にデビューしてそこからの日程を考えてみるが、とてもじゃないがNEXTVENUSグランプリには間に合いそうにない。NEXTVENUSグランプリに参加しない? それは論外だ。あの舞台に立たないのは確実に未来が変わる。さくらだけ加入を遅らせるのはどうだ? ……いやそれはマネージャーとして承認できない。そもそもサニピはさくらが中心となるグループだ。彼女がいないのは違うだろう。

 

「えっと……」

「あ、すまない。これからの予定を考えていたんだ。スカウトを受けてくれてありがとう。詳しい話はまた後日、親御さんを含めて話し合いたいと思っている。それでいいか?」

「はい! 大丈夫です!」

「わかった。じゃあまた連絡するよ」

 

 そう言って、さくらと別れを告げた。

 

 スカウトはできた。でも、さくらはさくらで退院したばかりでデビューどころか、すぐにレッスンできる状態じゃない。

 

「……どうしたらいいんだ」

 

 悩みながら病院を後にする。朝だから、太陽はまだ上がりきっていないようだった。

 

 

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