流る星に一つの願いを   作:ねむれすねむれす

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変化

 

 牧野がすずを探して事務所を後にして少し。一足先に事務所に戻った雫と千紗は、事務所内の部屋を一つ一つ覗いていた。

 

「雫ちゃん、ほんとにここにいるのかな?」

「すずちゃんが、事務所を出たとは限らない。灯台下暗しとも言う。この辺に、隠れているのかもしれない」

「そうかもしれないけど……」

 

 雫たちは入れる部屋をしらみつぶしに探索していく。だけど、どこにもすずの姿は見当たらなかった。

 

「最後はここ、執務室」

「牧野さんがいつも作業している場所だよね?」

「うん」

「……入って大丈夫かな?」

「……たぶん」

 

 雫は迷った様子を見せた後、意を決してゆっくりと扉を開く。中に誰もいないことを確認して、小さく安堵の息を吐いた。

 

「誰もいないみたい」

「……それじゃダメじゃない?」

「そうだった」

 

 自分たちはすずを探しに来たのだ。雫は自分のやるべきことを思い返し、今度は執務室の中に入って見渡してみる。

 

 積み立てられた段ボールや、作業用の机など、細々したものは色々とあるが、すずの姿は見えない。

 

「……いないみたい」

「そうだね……あれ、これって」

 

 雫は自分の推理が外れたことに落ち込んでいると、千紗から声を掛けられる。彼女に連れられて行った先は牧野がいつも使っている机だった。その机の上に、黒のスマートフォンがあった。

 

「……牧野さんの? でも牧野さん、さっきまでスマートフォン、持ってた」

「うん、私も見たよ。じゃあこれは?」

「誰かの落とし物? でも機種も牧野さんのものにそっくり」

 

 連絡を交換するときにちらりと見たくらいだけど、先ほど見たスマートフォンと色も形も瓜二つだった。

 

「わっ!」

「雫ちゃん!」

 

 試しに触ってみると、スリープモードになっていただけのようですぐに液晶に画面が映った。画面を見るに音楽再生ソフトのようだ。履歴を開いていたらしく、再生したと思わしきタイトルとアーティスト名がずらりと並んでいた。

 

「……あれ、なにこれ。ほとんど文字化けしてる」

「ほんとだ。でもいくつか読めるのもあるよ。リズノワール、トリニティエイル、スリーエックス、麻奈さんのもあるみたい」

「全部現役アイドルの曲。みんな有名」

「そうなんだ……えっと、こっちの曲は」

「"Gemstones"麻奈さんが作詞も務めた楽曲、だけど……アーティスト名が星見プロダクション?」

 

 通常、こういったアルバムに表示されるアーティスト名は、歌い手やバンド名が表示されることがほとんどだ。アイドルであるならば、そのグループ名といった形になる。

 

 だからこそ、長瀬麻奈が一人で歌っているこの曲は長瀬麻奈と表記されるのが通例だ。星見プロダクションと表示されているのは不可解だった。

 

「……雫ちゃん、ダメだよ」

「うん……」

 

 気になって再生しようとする雫を千紗が窘める。もしかすると、これから発売される曲なのかもしれない。麻奈の"Gemstones"を誰かとコラボしたものかもしれない。雫は気になったが、千紗の視線に泣く泣く諦めそのスマートフォンから視線を逸らす。

 

「あっ」

 

 偶然だった。偶然、机に置いた手がスマートフォンに触れる。その指先が、楽曲に触れる。

 

「……え?」

 

 流れ出したメロディは"Gemstones"だった。だけど歌っている人は長瀬麻奈ではない。むしろこれは。

 

「千紗ちゃん?」

「雫ちゃん?」

 

 お互いに声が出た。それだけではない。沙季の声も、すずの声も、怜の声だって聞こえる。後、知らない誰かの声も。

 

 ピコンッ

 

 唖然としてしまっていた二人の目を覚ましたのは、そんな機械音だった。二人のスマートフォンから一斉に鳴ったその音を確認すると、牧野からすずを見つけたという通知が入っていた。

 

 二人はそれを目にして、慌てて曲を止め、執務室を後にした。

 

 集合場所でもあるレッスン室に戻ってきた二人はしばらく無言だったが、やがて堪えきれないように千紗が口を開いた。

 

「雫ちゃん、収録したの?」

「してない。千紗ちゃんは?」

「してないよ。それに、あんなに上手に歌えない……」

「……」

 

 二人は無言で見つめ合った。嘘ではないというのはすぐにわかった。だって、お互いの声だけじゃなく、自分の声まで入っていたのだ。明らかに何かがおかしかった。

 

「千紗ちゃん、これは、内緒にしておこう」

「そう……だね」

 

 目線を合わせ二人は頷く。しばらくすると、沙季が帰ってきて、すずを連れた牧野も帰ってきた。

 

 

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