「集まってもらってすまない」
すずを連れレッスン室に戻ると、怜を除く他のメンバーはすでに集まっていた。できれば怜も呼びたかったけど、あの様子だとおそらくアルバイトがあるのだろう。シフトに穴を開ける訳にはいかないし、また時間を取って話す予定だった。
「すずちゃん、何事もなくてよかった」
そう言って、沙季は笑みを浮かべた。心の底から安堵するようなその言葉を受けて、すずは後ろめたさを募ったような表情を浮かべる。
「……逃げてしまって、申し訳ないですわ」
「……逃げ出したのはすずちゃんが悪いです。でも、怜ちゃんのレッスンがみんなを置き去りにしているのは、ちゃんと話し合わないといけないことだと思います」
「そうだな。それに関してはちゃんと話し合おう。俺が時間を取って、怜含めみんなで集まられる場を用意しておく」
「お願いします」
怜には怜の事情がある。それ含め、ちゃんと話し合うべきだ。
「……すず、まだあるんだろ?」
俺の言葉にすずはむっとした表情を俺に向け、やがてぽつりと口にした。
「……沙季。私が世間知らずなのは私自身も把握しましたわ。だけど、その、厳しすぎですわ」
「そんなに厳しくしてたかしら……」
「してますわよ! 朝は何時に起きなさないとか、この時間は勉強でとか、お昼ご飯はこの時間にとか、眠る時間まで決められていますわ! 息苦しいですわよ!」
「……沙季、さすがにやりすぎだ」
視界の片隅でうんうんと雫が大きく頷いている。千紗も苦笑いを浮かべているからなんとなくみんな思っていた事のようだ。
「ですが、牧野さん。私たちは今頑張らないといけない立場で……」
「それは分かっている。だけど沙季、厳格にしすぎた結果がすずの不満を生んだ。違うか?」
「……確かにそうですが」
「スケジュールを組むことは悪いことじゃない。だけど誰もがそれ通りに動けるわけじゃないし、時にはゆとりも必要だ」
「……」
「沙季、これからみんなでグループを組むんだ。一人で決めず、みんなでちゃんと話し合おう」
「……その通りですね。私も少し焦っていたのかもしれません」
その後、寮の取り決めについてみんなで話し合った。怜やこれから来るメンバーにも確認して調整していくことになるだろうが、全員が納得するものになったと思う。
「ところでですが、牧野さん。結局メンバーは何人集める予定なのでしょう?」
「雫と千紗には話しておいたが、十人だ。……そうだな、俺も腹を割って話すよ」
それからみんなに俺が立てている計画のことについて話した。一グループ五人の二つのグループを作る予定のこと、メンバーは決まっているがスカウトがうまくいっていないこと、今後の動きのこと、そしてデビュー日のこと。
「デビューライブの日は六月六日を予定している。前後はするかもしれないが、その予定でいてくれ」
以前の月ストとサニピがデビューした日だ。今回もその日程に合わせる予定だった。
「六月……あんまり時間がない」
「曲はもうあるんですか?」
「依頼はすでに出している。振り付け含めもう少しで届くとは思うが……」
「メンバーが集まっていないから練習できない。そういうことですね?」
「……そうだ。申し訳ない」
以前までなら、この段階ですでに全員が揃っていた。だからその楽曲を練習するのに何の支障もなかったんだが、今は足りないメンバーが多すぎる。
「ちなみになのですが、今のメンバーだけじゃダメなのでしょうか?」
「ダメだ。絶対に」
「……」
こればかりは絶対に妥協できない。月のテンペストもサニーピースも誰が欠けても作り上げられないものだから。
「……わかりました。ですが、牧野さん。私たちも練習無しにデビューしたくありません。いつまでにメンバーを集められるか教えてください」
「……デビューライブは曲数も少ない。練習期間は一ヶ月を想定している」
「一ヶ月……」
「あぁ。だから、五月六日までに決着を付ける」
それが俺のリミットだ。猶予もそれほど残されていない。
「わかりました」
了承をもらい、俺は改めて前を向く。もう迷ってなんかいられない。俺も前に進んでいかなければならない。
「牧野さん、私たちも頑張りますから」
「あぁ」
みんなの姿を見て、俺は深く頷いた。