流る星に一つの願いを   作:ねむれすねむれす

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消えゆく歌

 

 夕暮れの空に鴉が鳴いていた。人一人いない小さな公園で、廃れたベンチに俺は座り込んでいた。

 

 思い返すのは今日の出来事ばかり。琴乃のアイドルに対する想いは知っていた。お姉ちゃんを奪ったもので、自身がアイドルとなってその魅力に気づいて、アイドルとして、そしてファンとしても楽しめる存在。趣味にアイドルと書くほど熱中できる存在。そのはずだった。

 

 だけどそれは、果たして今の琴乃にも適応されるものだったのだろうか。俺の知っている琴乃はこうだったから、今の琴乃もそのはず。わかってもらえると勝手に思い込んでいなかっただろうか。

 

「……その通りだな」

 

 我ながら自身の愚かさに反吐が出る。結局、俺は盲目だったのだ。俺の知っている彼女たちのことばかり考えて、今の彼女たちのことを考えていなかった。馬鹿馬鹿しいにも程がある。

 

「……なんで、こうなったんだろうな」

 

 俺の考えが足りなかったからか、選択を間違えたからか、それともみんなが揃った星見プロダクションを見たいと願ったことが間違いだったのか。

 

「……そうだ、曲は」

 

 何も考える気が起きず地面をじっと見つめていると、ふとそう思った。ポケットから未来のスマートフォンを慌てて取り出し、ミュージックプレイヤーを起動する。

 

 未来の曲はずっと形を変えず残り続ける。そう思っていたけれど、いつの日からか一部に文字化けが発生し始めていた。……いや、どの日からかは明確だった。俺が芽衣と遙子さんのスカウトに失敗した日だ。それ以降、月のテンペストとサニーピースという言葉に文字化けが発生し始めていた。

 

 だけどまだ聴くことはできた。少しずつノイズが走り出していたが、全員の歌を聴くことはできた。

 

 もしかしてという最悪な予感を考えないようにしながら、画面を操作する。すでにアルバムからその曲を探すことはできない。履歴からその楽曲を探してみて、気づいた。

 

「ない…………」

 

 "月下儚美"直前に聴いていたはずのその楽曲は、消えていた。

 

「他の楽曲は……!」

 

 冷や汗が止まらない。震える指で、慌てて他の楽曲を探す。  

 

 "The One and Only"、"裏と表"、"最愛よ君に届け"、"月ノヒカリ"、それだけじゃない。"SUNNY PIECE HARMONY"、"EVERYDAY! SUNNYDAY!"、"SUNNY PIECE for You and Me!"。

 

 月のテンペストとサニーピースの文字を片っ端から探す。だけど、どの楽曲も影すら掴めない。彼女たちの楽曲全てが、無くなっていた。

 

「どうして……どうしてなんだ!!!」

 

 気がつくと俺は叫んでいた。感情が言う事を聞かずただ口から溢れ出す。

 

「いつも、いつも俺はなんで肝心なところで間違うんだ! 麻奈のことだって俺が選択を間違えなければ何ともなかった! 芽衣のスカウトも遙子さんの勧誘も! さくらと琴乃のことだって俺がもっとしっかりしていればなんともなかったはずなんだ!」

 

 視界が薄れ始め、涙が出ていると気づいた。自分が月ストもサニピも壊して、泣く権利すらないのに、それでも涙を流している自分が、酷く醜いものに思えた。

 

「……どうして。……どうして俺はこんなにも」

「あの……、大丈夫ですか?」

 

 言葉で表せないほどの絶望感に項垂れていると、そんな声が響く。誰の声も聞きたい気分ではなかったものの、その声は聞き覚えがあった。思わず首が上がる。

 

「……な、ぎさ?」

 

 赤みがかったボブヘアに、茜色の瞳。渚は眉間に皺を寄せ、心配そうな面持ちで俺を見つめていた。

 

「はい、渚ですけど……。どこかでお会いしたことありましたっけ?」

 

 見間違えようがなかった。自分の知っている渚とは少しだけ違うものの、彼女は伊吹渚だ。

 

 どうして渚がここにいるんだという気持ちはあったが、それ以上に今の姿を見られたくなくて、思わず立ち上がる。

 

「ごめん、うるさかったよな。すぐどこか行く」

「あ、いや、そういうことじゃないんです」

 

 歩き出そうとしていると、裾をぐいっと引っ張られた。

 

「……少しだけお話しませんか?」

「……どうして見ず知らずの俺と?」

「なんだかほっとけなくて……」

 

 渚の表情を見る。彼女は真っ直ぐに俺を見つめていた。嘘をついているようには見えなかった。心の底からそう思っているのだろう。

 

 だけどその気づかいは今の俺には心苦しい。袖に手をやり、渚の手をそっと外す。

 

「……ごめん、今は」

「私もあなたに話したいことがあったんです」

「……俺に?」

「はい、星見プロのマネージャーであるあなた……いえ、牧野さんに」

 

 歩き出そうとして、思わず足が止まった。なんで今の渚が俺の名前を?

 

「だから、ちょっとだけお話しませんか?」

「……わかった」

 

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