「……ん」
窓から差し込んできた陽光と頬を撫でる陽気な風に、目が覚める。どうやらお昼休憩の合間に眠ってしまっていたみたいだ。
寝起きの体の怠さを感じつつ、立ち上がりぐっと伸びをしようとして。
「……あれ?」
ふと、疑問に思った。俺は今までどこにいたんだっけ?
「……あ」
記憶を探ってみると、すぐそばに答えはあった。そうだった。俺は沙季たちに連れられ、星見市の高台で皆のライブを見て、そして。
「過去に戻ったんだ」
スマートフォンを覗くと、日付は二月の下旬。これから春先になろうとする、そんな季節だった。
「何ぶつぶつ言ってるの牧野くん」
「うわっ!」
唐突に耳元で声が聞こえた。思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
慌ててスマートフォンを隠す。背後を振り向くと、そこには一人の少女の姿があった。
白のニットに紺色のスカート姿。長い黒髪は左側だけちょこんと結び、青空のような青い瞳を持っている。彼女は口を尖らせ、ちょっと拗ねたような表情で言葉を続けた。
「そんな幽霊を見たかのように驚かないでよ。ちゃんと挨拶したでしょ? 牧野くんには無視されたけど」
そう言って、麻奈は明らかに不機嫌ですと言いたげにそっぽを向いた。
「ごめん、ちょっとぼーとしてたんだ。悪かった」
「ふーん? じゃあ問題です。私はこれから何を言おうとしているのでしょうか?」
聞き覚えのある問いだ。あのときは確か。
「……ご飯と買い物に付き合ってくれたら許してあげる、だろ?」
「え、なんでわかったの?」
「そりゃわかるよ」
前にも聞いた言葉だから。
「……これは喜んでいいのやら、怒った方がいいのか難しいところだね」
「何に悩んでいるんだよ」
むむむ、と頭をひねらせている麻奈を一目見た後、俺はデスク上に置かれたいるパソコンに目を移す。そこには"星見プロダクション主催アイドルオーディション"と書かれたポスターが開きっぱなしになっていた。
……やはり間違いない。ここは麻奈が生きている過去の世界だ。再び俺はタイムリープしている。
原理は相変わらず不明。どうしてこのタイミングなのかも、なぜ俺だけなのかもわからない。
前回と同様にわからないことだらけだけど、でもこれはチャンスでもある。"麻奈が生きている星見プロダクション"を見るためのラストチャンス。
ならば、俺がやるべきことは決まっている。自分の夢を掴むためにも、もう迷ってなんかいられないから。
「牧野くん?」
「どうかしたか?」
「ううん、なんか頼もしいときの牧野くんの目しているなって。頑張ってね」
頼もしい、か。そう言ってもらえるとマネージャー冥利に尽きる。
「ありがとう。頑張るよ。もう負けないから」
俺の言葉に、麻奈はそっと笑みを浮かべてくれた。