さくらとこうして再会できたのは嬉しい。だけど、元気がないな、というのが一番の感想だった。
頬はやせ細っているし、動きもどこか緩慢で、何より表情に明るさが見えない。笑顔のさくらばかり印象に残っているから今の彼女には違和感を覚える。何かあったんだろうか。
「えっと……。大丈夫ですか?」
無言でさくらを見ていたからだろう。さくらは不安気に言葉を紡ぐ。色々と気にはなることはあるが、今はさくらとの話が優先だな。
「ごめん。大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
「いえいえ、大丈夫ならよかったです。それでどうして木に登っていたんですか?」
「あぁ、それは……」
そこまで口にして、正直に答えるべきか少しだけ悩んだ。けれど、正直に答えなければさくらは納得しないんじゃないかと同時に思って、すぐに言葉を続ける。
「川咲さくらさん、あなたに会いに来たからです」
「私に?」
「はい、実は」
「あ! もしかして入り口で私の名前を呼んでた人ですか? 病室まで聞こえていて誰かなって思っていたんです」
「聞こえていたのか……」
「はい!」
少し気恥ずかしくなってくる。そんなに響いていたのか。……それはともかくだ。
「実は俺はこういうものでして」
懐から名刺を取り出し、さくらへと手渡す。彼女はそれをまじまじと見た後に、小さく星見プロダクションと呟いた。そういえば前も同じ光景を見たな。
「単刀直入に言います。川咲さくらさん、俺はあなたを星見プロダクションにスカウトしたいと思っています」
「私を?」
「はい。さくらさんにはアイドルとして皆を笑顔にしてほしいとそう思っています」
さくらは目をぱちぱちとさせると、もう一度名刺を見つめる。考え込むようにじっとそれを見つめ、やがてぽつりと呟いた。
「……私にできるのかな」
「え?」
思いもよらぬ返答に驚いた。さくらは以前のときは喜んで受けてくれた気がしていたが……。いや以前の世界で考えるのはよくないな。今を見よう。
「私は心臓の手術を受けてリハビリ中なんです。退院もまだの状態で……」
「それは知っているよ。でも、退院後で構わないんだ」
「退院がいつになるのかわからないのに、ですか?」
「……」
そこでやっとさくらと目が合った。太陽のように眩しかったその橙色の瞳には、薄く影が落ちていた。
今まで色んな人の姿を見てきただろうか、それともさくらと長い間一緒にいたからだろうか、その瞳で、さくらが疲弊していることにすぐに気が付いた。
「今の私にはそんなこと……」
さくらに何があったのかは知らない。でも精神的に参っているのは理解できた。だからだろうか、気が付けば俺の口から言葉が漏れ出していた。
「さくら、君ならできるよ。さくらの笑顔が、皆を笑顔にして幸せを広めていくんだ。俺だってそうだったから」
「牧野さんが?」
さくらは不思議そうに俺を見つめる。心当たりがないって感じだろうか。でも、俺は知っているから。
「あぁ、間違いないよ。だからさくら」
真っすぐさくらと目を合わせる。病院で何度も辛い夜を越えて、その度に何度も頑張り続けてきたのだろう。だけど、月日というのは残酷だ。きっと彼女は俺の知っているさくら以上に頑張ってしまって、やがて少しだけ疲れてしまったのだろう。
そんな彼女にこの言葉を掛けるのは残酷だろうか。でも、俺はこんなありきたりな言葉しか持ち合わせがなかった。
「大丈夫。……無責任な言葉で申し訳ないけど、きっと楽しい未来が待っているから」
「あ……」
さくらは呆然と俺を見つめる。どう思っただろうか、少しでも気が紛れてくれたなら嬉しい。
「じゃあ、俺はこれで。また来るよ」
今日の目標はさくらと顔を合わせることだ。目標はすでに達成できた。それに状況が状況だ。長々と話すのもよくないだろう。
「あの!」
そう思ってその場を後にしていると、背後から声が掛かる。振り向くと、さくらが背筋を伸ばし前に踏み出すように身を乗り出していた。
「私! 川咲さくらって言います!」
「えっと、知っているけど……」
「でも私からの自己紹介がまだだったなぁって気づいて……。えへへ」
照れたように笑みを浮かべたさくらの瞳には、少しだけ明るい色が戻っているような気がした。