流る星に一つの願いを   作:ねむれすねむれす

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"いつもの"日常

 

「……ん」

 

 窓から差し込んできた陽光と頬を撫でる陽気な風に、目が覚める。どうやらお昼休憩の合間に眠ってしまっていたみたいだ。

 

 寝起きの体の怠さを感じつつ、立ち上がりぐっと伸びをする。

 

「ふわぁ」

 

 寝起きで気が抜けていたからか、気がつくとあくびが漏れていた。慌てて周囲を見渡すと、入り口の近くでにやにやしている麻奈と目が合った。

 

「見ちゃった」

「……忘れてくれ」

「ふふふ、どうしよっかなぁ」

 

 麻奈は丁度事務所に帰ってきたみたいで、バッグを休憩室のソファーに置き、俺の前にやって来る。

 

 身長はあの時より少し伸びたが、髪型も顔つきも、スタイルさえもほとんど変わっていない。スタイルに関しては麻奈の影の努力のおかげもあるみたいだけど。

 

 白のニットに紺色のスカート姿の麻奈は、俺の顔を見て、いつもより浮かれたような表情で口を開いた。

 

「牧野くん、問題です。私は何を言おうとしているのでしょうか?」

「ご飯一緒に行ってくれたら内緒にしてあげる、だろ?」

「ぶぶー、ご飯とお買い物に行ってくれたらでしたー」

「理不尽な……」

 

 麻奈は俺の反応を見て笑みを浮かべる。麻奈にはこうして揶揄われてばっかりだ。

 

「悪いけどお昼ご飯はもう食べたよ」

「三枝さんに牧野くんが仕事サボって寝ていたってバラします」

「夜でもいいかって話だよ。買い物は……後日になるだろうけど」

「ふむ……。まぁそれでよかろう」

「その口調はなんなんだ……」

 

 そういえば最近麻奈にドラマの撮影があったばかりだ。変な影響を受けているのかもしれない。

 

 そんなことを考えつつ、俺は開きっぱなしだったパソコンの画面に目を移す。

 

「もうすぐなんだよね、それ」

 

 麻奈が指さしたのは、パソコン上で開かれた一枚のポスターだ。

 

 "星見プロダクション主催アイドルオーディション"

 

 ……過去に戻った俺はあれからずっとこの世界で暮らしていた。戻ろうとは何度も考えた。だけど、方法もわからなかったし、NEXTVENUSグランプリで優勝した麻奈にはたくさんの仕事が舞い込んでいて、自分もマネージャーとしてサポートする必要があった。そうやって生きていくうちにいつの間にかここまで来てしまっていた。

 

 自分でも拙いとは思う。でもその度に、自分が何度も夢見た光景が脳裏にちらついた。

 

 麻奈が生きて星見プロダクションのみんながいる光景だ。どうしてもそれを見たくて、結局俺は戻る決意ができなかった。その時まで居続けようと何度も思い続けてきた。

 

 だけどようやく、その時が来たんだ。

 

「あぁ、やっとだ。やっとここまで来たんだ」

「牧野くんずっと大変そうだったもんね。でも、ここからじゃない?」

「……その通りだな。ここからだ」

 

 彼女たちもここから始まり、そして俺の見たかったものもここから始まる。

 

「楽しみだなぁ。やっと後輩ができるんだ」

「そっか。麻奈にとっては初の後輩か」

「うん。ずっと一番下だったからね。どんな子が来るんだろう。明るい子かなクールな子かな」

 

 その様子を想像しているのか麻奈も楽しそうだ。麻奈も知っている人物が加わるはずだよって言えば驚くだろうか。でもそれはそのときまで取っておきたい気もする。

 

「頑張ってね牧野くん。ちゃんといい子見つけてくるんだぞ」

「あぁ任せてくれ」

「……なんか自信満々だね? もう何人か女の子の目途はついているとか?」

「そ、そんなことはないぞ?」

「浮気性だね。ダメだぞーアイドルの卵に手を出すのは。……それに」

 

 そう言って麻奈は俺の額にぴしっと指を指し、言葉を続けた。

 

「牧野くんは私のマネージャーでもあるんだから。それは忘れないように」

「忘れたことはないよ。ひと時もな」

「……そ、ならよろしい」

 

 麻奈はちょっとだけ顔を赤くし、顔をそむけた。その様子を不思議に思ったものの、それよりも先に気になることがあった。

 

「そういえば今日麻奈はどうして事務所に? オフじゃなかったか?」

「うん、そうだったんだけど、三枝さんにいきなり来てほしいって言われて事務所に来たの。……肝心の三枝さんがいないみたいだけど」

「そうだったのか」

 

 俺も三枝さんから話を聞いているわけではない。何か大きな案件が入ったのだろうか。

 

「というわけなので、しばらく牧野くんのお仕事を監視しておこうと思います。寝ちゃダメだぞー」

「しないよ」

 

 麻奈といつものように軽口を交わしつつ、仕事を進める。三枝さんが帰ってきて、その話をされたのはそのすぐ後のことだった。

 

 

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