千紗から伝えられた作戦の一つとして、みんなを集めるタイミングと順番があった。
まずタイミングに関してだが、さくらは元気を取り戻す必要があるため一旦後回し。遙子さんは雫をオーディションに連れてきてもらう必要があるためオーディション後。芽衣も原因が不明のため、物事を大きく変化させないようにオーディション後。
琴乃と渚に関しては特にタイミングの指定はないみたいだが、麻奈が一度帰ってくるタイミングで何かきっかけが作れたらって話だった。
これらを踏まえたうえで、俺がみんなを集める順番は、オーディション組、怜、芽衣、遙子さん、渚、琴乃、さくらの順となった。
オーディション組を最初にする理由としては彼女らを優先しないと、それ以降にスカウトするメンバーへの説明において辻褄が合わなくなるからだ。なぜオーディションよりも先に自分にスカウトに来たの、と聞かれると答えられなくなってしまうとのこと。確かにそれは避けたい。
怜、芽衣、遙子さんに関してはこのタイミングであれば前後しても構わないため、単純に元の世界の順番と合わせたらしい。芽衣に関してはスカウトに失敗した原因が定かではないため、できるだけスカウトを元の世界と同じようにするためという狙いもあるそうだ。
渚、琴乃に関しては、麻奈が帰ってくる日を考えてこのタイミングだ。二人の順番は前後する可能性もあるが。
さくらに関しては、スカウトの前にまず元気になってもらう必要があるため最後だ。とはいえ、さくらは退院後もしばらく安静にしてもらう期間もあり、うかうかともしていられない。もしかするともっと早くスカウトを行う可能性もある。このあたりは臨機応変に行動していきたい。
まぁ先の事はともあれ、今は目の前のことを一つずつ成し遂げていきたい。集まっている人数もまだゼロ人なんだし。ということで、だ。
Reゼロから始まるオーディションの開始だ。
「牧野、今日の面接はお前に委ねる。俺も口を出すことはあるが、主導はお前だ」
「はい! 任せてください!」
「気合が入っているな。空回りはするなよ」
三枝さんに肩をぽんと叩かれる。三枝さんから見れば俺は初めての面接官で気が高まっているように見えるのだろう。それは否定できないけども。
「応募用紙を何度も確認していたようだが、気になる子はいたのか?」
「えぇ何人か」
「ほう、それは楽しみだ」
念のため確認してみたが、応募用紙には琴乃、渚、さくらの名前は入っていなかった。ただそれは想定通りだ。
時計を見ると、オーディションまでもう直ぐだ。身なりをもう一度整えて、一度深く深呼吸をする。
前の世界と同じように、なんて思わない。初めて面接を行うものとして、全力で面接に挑もうと思う。
「――では面接は以上になります。ありがとうございました」
「ありがとうございました!」
今の子で最後だ。謝辞を告げ、部屋から出ていくのを見届けた後、手元のシートに所感を記載する。
オーディションの最終日程が終わった。月ストとサニピのメンバーで面接に来たのは沙季、千紗、雫、すずの四人だ。沙季は完璧な受け答えだったし、すずは個性がよく光る、印象の残る受け答えだった。千紗に関しては緊張が目立っていたが、時間を多くかけることで沙季の話からうまく千紗自身の話へとシフトできたと思う。雫に関してはマネージャー希望という話をされたが、その知識を使ってアイドルとして頑張ってほしいという話もした。三枝さんは終始無言だったが、見ようによってはあれも個性だ。うまく説得しようと思う。
「なかなか面白い子がいたな。成宮すず、あの子が牧野の気になっていた子か?」
「すずだけじゃないですけどね。沙季、千紗、後は雫も事前に気に留めてました」
「ほう。もしかして事前にスカウトしていたのか?」
「みたいなものです」
やるな、と言わんばかりの三枝さんの視線を見て見ぬふりする。今回ばかりはちょっと卑怯なことをしている自覚はあるから。
「だけど、足りないな。アイドルとしての個性は合格範囲だが、グループを組むなら彼女たちだけでは役不足だ」
「俺もそう思います」
「ふっ、何か考えがあるって顔だな。余計なお節介だったか。これなら任せられそうだ」
そう言って三枝さんは小さく笑みを浮かべる。マネージャーとして大先輩でもある三枝さんにそう言ってもらえるのはやっぱり嬉しい。
「あぁ、そうだ。忘れていたが麻奈から伝言を預かっていた」
「麻奈から?」
「あぁ、お電話待ってます、とのことだ。怒っていたぞ」
「……まだ何も報告することないんだけど」
近況報告の約束のことだろう。オーディション後に連絡するつもりだったけど、その前に連絡してほしかったのか。
「後は琴乃……麻奈の妹さんとの電話ができなくて心配だから様子見てきてほしい、だそうだ」
なんで俺が、とは思ったが麻奈からの頼みという形であれば、琴乃とも話しやすいかもしれない。ずるいやり方かもしれないが、チャンスは逃したくない。
「わかりました。……あれ? 三枝さんって麻奈の妹さんのこと知っていたんですか?」
「あれだけライブに来てほしいって口に出していれば嫌でも理解はできる。それに彼女、俺の元に直談判しに来たこともあるからな」
「そうなんですか!?」
初耳だ。琴乃はすでに三枝さんと会ったことがあったのか。
「麻奈の仕事のことで、な。NEXTVENUSグランプリ後、麻奈は休む暇もなく働いていただろ? それが琴乃には事務所が無理矢理働かせているように見えたらしい。その後麻奈と話してもらって誤解は解けたがな」
「そうだったんですか……」
あの時は俺も麻奈の傍にずっとついていたから知らなかった。俺の知らないところでそんなことがあったとは。
「とりあえず伝えたいことは伝えたぞ。牧野からは何かあるか?」
仕事上で伝えることはすでに伝えている。後、聞きたいこととしては。
「……相談なんですけど、大丈夫ですか?」
「お、珍しいな。なんだ?」
「三枝さんはスカウトするとき、どうしてますか? 何か秘訣とかあれば聞いておきたいです」
「なるほど、スカウトか。それなら一つだな」
そう言って、三枝さんはにやりと悪そうな笑みを浮かべた。
「その気にさせることだ」
「……ナンパ師みたいなこと言いますね」
「ははは、言うじゃないか。でも間違えてはいない。ナンパもスカウトも同じで相手の感情を少しでも揺らせば勝ちだ。心に隙が生まれるからな。後はその隙を押し切ればいい」
「なるほど……」
「ただ、相手が嫌がっていたり勢いで決めるような相手だったら止めた方がいい。スカウトとはいえ、相手の人生を左右させることだからな。それは自覚を持っておけ」
「はい、わかりました」
「お前ならできるさ。立派なナンパ師になれよ」
「はい! がんば……って違いますよ!? スカウトの話ですからね?」
「わかってるわかってる。麻奈には黙っておくから」
「そういう話じゃないですからね!?」
冗談なのか本気なのかよく分からない発言を残して、三枝さんは部屋を出ていった。色違いポケモンって言ったこと申し訳なく思っていたが、これなら謝罪する必要もなさそうだ。
まぁそれはともかくだ。明日のオーディションもこの調子なら問題なさそうだし、四人は大丈夫だろう。とりあえず今は。
「……麻奈に電話しておくか」
怒られそうだなぁなんてことを思いつつ、スマートフォンを耳に当てた。