流る星に一つの願いを   作:ねむれすねむれす

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麻奈との電話

 

「よっと」

 

 玄関先に積まれた段ボールを抱え、リビングへと運び込む。腰にくる作業だが、これで最後の一つだ。

 

「ふぅ……」

 

 軽く汗を拭い、今度はそれを一つ一つ開封していく。中にあるのは洗剤や石鹸やトイレットペーパー等々、生活用品だ。それらを使用場所に分け、所定の場所に運び込んでおく。

 

「こんなものかな」

 

 一通り生活用品の補充はでき、ようやく息をつく。星見寮の掃除と補充も、もう三回目だ。さすがに慣れた。

 

「……」

 

 やるべきことが終わってほっとしたからか、星見寮の内装が目につく。和風の畳の部屋と、洋室のリビング。俺が直接住んでいたわけじゃないが、どちらも記憶にある場所だ。ここでみんなと話していたことが昨日のように思い返せる。

 

「……頑張らないとな」

 

 小さく呟き、俺は星見寮を後にした。

 

 

「ん?」

 

 事務所にたどり着くと同時、スマートフォンに着信が入った。未来からのじゃなく、今の時代のものだ。

 

「げっ」

 

 着信先は麻奈からだ。実は先日麻奈に電話しようとしていたが、タイミングが悪く不在。今日の朝に電話するとメッセージで素っ気なく伝えられていた。

 

 電話に出るのが嫌というわけじゃないが、怒っているのが明確な麻奈の相手はしたいものじゃない。とはいえ出ないと益々怒るのは明白だ。大人しく怒られよう。

 

「……もしもし?」

『あ、薄情マネージャーだ』

「やっぱり怒ってたかぁ……」

 

 電話越しでも拗ねているのが伝わってきた。まぁ悪いのは俺の方なんだけど。

 

『私をほっといて自分だけ女の子たちとお喋りするのは楽しかった?』

「人聞きが悪いぞ。オーディションだ」

『三枝さんからも聞いたよ。ナンパしてたって』

「してないよ。スカウトだ」

 

 黙っておくって言ったのにバラしたなあの人。

 

「でも、もっと定期的に電話するべきだったな。ごめん」

 

 前の世界でも麻奈は初めての海外での仕事で愚痴を言っていた記憶がある。それを吐き出せる場所にならないといけなかったな。

 

『ううん、冗談だよ。牧野くんが忙しいのも知っているからね。でも久しぶりだからちょっとからかいたくなっちゃった。ごめんね』

「麻奈……」

 

 驚いた。もっとグチグチと攻められると思ったのに。

 

『今ものすっごく失礼なこと考えたでしょ』

「そ、そんなことないぞ? 麻奈の心の広さに感動してただけだ。さすがトップアイドル!」

『ふふん、でしょでしょ? 私があの長瀬麻奈だからね!』

 

 麻奈は最近VENUSプログラムでも最上位まで上がって調子に乗っているところがある。囃し立てれば機嫌は良くなる。

 

『なんて言うと思ったかー! 私の目は誤魔化せないからね!』

「バレてたか……」

『失礼なマネージャー君だよ全く』

「ごめん、悪かったよ」

 

 麻奈とこうやってやり取りするのも何回目だろう。いつもこうやってご飯を奢らせられるんだ。

 

『ま、それはいいんだけどさ。牧野くん、オーディションどうだった?』

「そうだな……」

 

 オーディションは無事に終えることができ、沙季、千紗、すず、雫が星見プロ入りすることができた。今回は早めに怜もスカウトしているので、以前の世界と同じ状態にはできた。

 

「今は五人集まっているよ。一先ず最低限は突破したって状態だな」

『ふーん? まだまだ策があるって感じだね』

「そうだな。十人集める予定だからな」

『色々考えているんだね。偉いぞ牧野くん』

「俺のやりたいことだからな」

『さすがだね。じゃああの件もよろしくしちゃおっかなー』

「……琴乃の件か?」

『うん、時差もあるし、お互いに仕事や学校で中々電話できる機会もなくてね……。お母さんからはいつも通りだって聞いているんだけど、やっぱり心配で……』

「わかった。俺からも様子見ておく」

『お願いね』

 

 海外にいる麻奈からするとやっぱり日本に残してきた琴乃のことは気になるのだろう。それにこの世界では琴乃はアイドル長瀬麻奈の影響をより強く受けている。姉として心配になる気持ちは理解できた。

 

『あ、でもあの話をするなら気をつけてよ。琴乃、アイドルの話するとすぐに拗ねちゃうから』

「わかっているよ。スカウトは慎重に行う予定だよ。だって」

 

 脳裏に前回の世界で見た琴乃の冷たい目が浮かび上がる。あれは怒りだけじゃない。心のなかにある悲しみや寂しさも混ざり合った目だ。

 

「俺は琴乃の事をよくわかっていないからな」

『うん、心構えは良し。琴乃は冷たく見えるけど寂しがりやだから仲良くしてあげてね。あ、でも仲良くしすぎてもダメだからね!』

「どっちだよ」

『だって牧野くんも琴乃も……。ともかく! ダメなものはダメです!』

 

 大事な妹を取られたくないって感じだろうか。一回の出会いでそんなに仲良くなれるとは思ってないが、肝に銘じておこう。

 

「わかった」

『よし! それでね、牧野くん聞いてよー』

 

 それからしばらく麻奈の海外暮らしの愚痴を聞かされた。言葉だけじゃなく文化も違うのはやっぱり大変らしい。ライブの振り付けの一部も海外では意味合いが変わるとのことで、別の振り付けに変更させられたみたいだ。そのことに麻奈は大層怒っていた。

 

 ……まぁこの話を聞くのも二回目だったりはするんだけど。

 

『あ、そういえばこの後三枝さんに呼ばれているんだった』

「……三枝さん、遅刻には厳しいぞ?」

『やば。ってことでまた後でね。牧野くんも無茶しすぎないよーに』

「あぁ気をつける。ありがとな」

 

 駆け出すような音と共に電話が途切れる。相変わらず麻奈はいつも急だな。

 

 俺も電話を仕舞うと、来たばかりの事務所を後にする。

 

 善は急げ、ではないが、仕事を行う上でも何事も早いほうがいい。

 

 

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