流る星に一つの願いを   作:ねむれすねむれす

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何もかも変わりだす

 

「牧野、今日の面接はお前に委ねる。俺も口を出すことはあるが、主導はお前だ」

「はい」

 

 三枝さんの言葉に肩に力が入る。今日は待ちに待った星見プロダクションの新人オーディションの日だ。緊張しているのはもちろんだが、今回のオーディションで誰が来るか知っているからこそ失敗してはいけないという思いがあった。

 

 オーディションにはもう少しだけ時間がある。息を吐き窓の外を見つめると、樹木に桜の蕾がぽつりと立ち並んでいるのが目に入った。

 

「……ここからだ」

 

 決意を新たに、俺は扉の先を見る。この場所からすべてが始まるんだ。

 

 

 

「――では面接は以上になります。ありがとうございました」

「ありがとうございました!」

 

 目の前のパイプ椅子に座っていた少女が勢いよく立ち上がり、頭を下げる。その子が退出するのを見計らって、手元の項目に合格、不合格の是非を付ける。

 

 今さらこの世界を夢だとは思っていない。星見プロのみんなが揃ってほしい願いはあるけど、一マネージャーとしてのプライドもある。だからこそ正当な評価で面接を行うことにしていた。

 

 端的に言えば、月スト、サニピのメンバー以外にも相応しい子がいれば別枠として加入させるつもりではあった。

 

 だけど、現実はそううまくいかないみたいで、月ストやサニピのような輝きを持つ子は中々現れず、現状として合格の印を付けた人物は一人もいなかった。

 

「ま、面接ってのはこんなもんだ。そう気を落とすな」

 

 今までの応募者のシートをじっと見ていると、背中をパンッと叩かれる。どうやら落ち込んでいると勘違いされたようだ。

 

「すみません……次の人呼んできますね」

 

 席を立ち、部屋の扉へと向かう。以前ならば、面接をする牧野くんを私が面接してあげる、なんて調子の利いたこと言っている幽霊がいたものだけど、この世界ではその幽霊は海外に行っていて不在だ。

 

 懐かしい過去を思い返していると、すぐに扉の前までたどり着く。次の番号は四番。このオーディションも俺にとっては二回目だ。この先に居るのが誰なのかはすでにわかっていた。

 

 長瀬琴乃。

 

 少し時間は経ってしまったが、彼女と過ごした時間は今でも鮮明に思い出せる。初めは張り詰めたような空気を纏い周りを拒絶していたものの、次第に心を開いてくれ、立派に月のテンペストのリーダーとして歩んでくれた少女。

 

 アイドルとして羽ばたくまでもそれ以降も色々とあったが、琴乃と歩んだ日々もとても大切なものだ。それは今にとっては未来だけど、きっと彼女とならもう一度歩めると思っている。あの時のように笑い合えると信じている。

 

「……よし」

 

 覚悟を決めると、俺は扉をそっと開く。不自然にならないようにそれっぽく四番の方と口にしながら、期待して、廊下を見渡す。

 

「あっ、はい!」

 

「…………え?」

 

 そこにいたのは張り詰めたような空気を纏うクールな黒髪の少女……ではなかった。声も落ち着きのある音色ではなく、彼女とは真逆の明るい声だ。

 

 咄嗟に手元の資料を見直す。資料は直前まで見ていなかったから誰が来るのかどうかは正確に把握してたわけではない。完全に記憶頼りで彼女がここに来るとばかり思いこんでいた。

 

 資料にある四番の少女と目の前の少女が一致する。……どうやら本当に思い違いがあったみたいだ。

 

「すみません、少し思い違いがありまして……。中へどうぞ」

 

 すぐに頭を下げ、その少女を中に案内する。ちゃんと資料を確認しておくべきだった。

 

 

 

「……どうしてだ?」

 

 午前の部、午後の部の面接を終え、俺は手元の資料を片手に頭を抱える。面接に来てくれた子の中には何人か記憶にある子もいた。でも肝心の彼女らが来ていなかった。

 

「琴乃……さくら……。どうして二人とも来なかったんだ?」

 

 琴乃は星見プロのオーディションに応募してくれてこの事務所を訪れる。さくらは応募はしていなかったが、琴乃の面接のタイミングで顔を出して急遽面接を行うことになったはずだ。

 

 そのはずだったんだが、さくらが星見プロを現れることはなく、琴乃に至っては応募用紙さえ届いていない始末だ。これはどういったことだろう。

 

「……今日じゃなかったか?」

 

 オーディションの日付は複数日ある。今日だと思い込んでいたけど、別の日だったパターンは十分に考えられる。

 

 もしくは……。

 

「……いや、大丈夫だ。俺が間違えただけだ」

 

 嫌な予感に咄嗟に首を振る。気持ちを切り替えて次の面接に臨もう。

 

 そんな風に思っていたのだが、嫌な予感というものは簡単に的中するもので、全ての面接が終わってもなお、琴乃もさくらも姿を現すことは一度もなかった。

 

 

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