流る星に一つの願いを   作:ねむれすねむれす

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デビューに向けて

 

「ワン、ツゥ、スリー、フォ」

「やってるな」

 

 仕事が一段落つき、レッスンスタジオをちらりと覗くと、そこには五人ずつに分かれた二グループが各々ダンスに励んでいた。

 

 琴乃、渚、沙季、すず、芽衣に分かれたグループと、さくら、雫、千紗、怜、遙子さんのグループ。言うまでもなく、月のテンペストとサニーピースだ。

 

 事前に二グループにすることは伝えていたが、メンバー発表するときはやっぱり色々意見は出た。だけど最終的にはみんな納得してくれた……と思う。たぶん。

 

 というのも、この世界において集まる順序や起きた出来事が違ったせいで、少しずつみんなの関係性が変わっているのだ。すずは怜に懐いている様子だし、雫と遙子さんはよく話をしている。芽衣と渚はさくらと一緒に星見市の散策したって言ってたな。まぁこんな感じに少しずつ違うところがある。これも"変わったこと"なんだと思う。

 

 とはいえ、アイドルに向ける情熱は誰も変わっていない。みんなが自分の目的のためにトップアイドルになろうと切磋琢磨してくれている。それで十分だと、そう思えた。

 

「牧野さん……?」

 

 なんだか懐かしい気持ちでみんなを見ていると、いつの間にかさくらがこっちに気づいて傍まで寄ってきてくれていた。

 

「ごめん、邪魔しちゃったか?」

「いえいえ、そんなことないですよ。むしろ来てくれて嬉しいです! ……牧野さん、なんだかぼーとしてましたけど、考え事ですか?」

「あ、えっと、デビューライブが近いからな。ここから更に盛り上げるにはどうすればいいか考えていたんだ」

「そうだったんですね! ……私たちも頑張らないとですね! 来てくれるって言ってくれる人もいましたし」

 

 さくらたちのデビューはすでに星見プロダクションから発表していた。今はビラ配りやラジオ含め、宣伝活動の真っ最中だ。

 

「あぁ頑張ってくれ。俺にサポートできることがあれば何でも言ってくれて構わないよ」

「ありがとうございます! じゃあ一つだけいいですか?」

「うん、なんだろう?」

「私たちのデビュー曲なんですけど、もっともっとうまく歌えると思うんです! でもどうすればいいかわからなくて……」

「"SUNNY PEACE HARMONY"か……」

 

 俺ももう何度も聴いてきた歌だ。この曲に何度励まされたかわからない。……未来のさくらたちはこの曲をどんな想いで歌ってきていたっけ。

 

「ちょっと待っててな」

「? はい」

 

 未来のスマートフォンを取り出し、イヤフォンを付ける。再生ボタンを押すと、すぐにその曲は流れ出した。

 

「……あぁ」

 

 録音されたものだからやっぱり迫力は落ちてしまう。でも、さくらたちがこの歌に懸ける思いははっきりと伝わってきた。だけどこれは……違うな。

 

 俺は曲を止め、スマートフォンをもう一度仕舞い込む。

 

「ごめん、俺にはあまりアドバイスできないかも」

「そうですか……」

「俺には、な。だけどもっと近くに相談できる相手がいるんじゃないか?」

「もっと近くに?」

「あぁ」

 

 俺の視線を追って、さくらも同じ方向を向く。雫、千紗、怜、遙子さんの姿が目に入って、さくらはあっと声を上げた。

 

「そっか、そうですね。牧野さんの言う通りです。私たちは同じグループの仲間ですもんね!」

「そうだ。サニーピースはさくら含めたその五人だ。まず五人で考えてみればいい」

「わかりました! ……あ、でも、牧野さんもサニピの一員ですよ! 今度は一緒に考えてくださいね!」

 

 俺もサニピの一員か。なんだかこれも聞いたことがある話だ。

 

「あぁわかった」

 

 笑顔を浮かべ、さくらはみんなの元に戻っていく。きっと直ぐに答えは出るだろうな。それがサニーピースだから。

 

「牧野さんはサニピに入ったんですね。月ストはどうでもいいってことですか」

「そういうことじゃない。……というか、からかっているだろ琴乃」

 

 俺がそう返すと、琴乃は小さく笑みを浮かべ頭を下げた。

 

「ごめんなさい。でも、月ストもちゃんと見てほしいというのは本当ですよ」

「ちゃんと見てるよ」

「そうですか。なら、安心ですね」

「安心?」

「はい。牧野さんは四年前からずっとお姉ちゃんのマネージャーでした。もしかするとお姉ちゃんのことばかり見て、私たちのことを見てくれないのかと思っていましたので」

「そんなことないよ。俺はずっと月ストのことを見てきたから」

「ずっと……? もしかして私たちがこんな感じに集まるのはわかっていたんですか?」

「さぁ? どうだろう」

 

 琴乃は目を丸くして俺を見つめた後、納得したように頷いた。

 

「さすが長瀬麻奈を育てたマネージャーですね」

「そんなことないよ」

「ふふ、頼りにさせてくださいね」

 

 再度頭を下げ、琴乃もレッスンへと戻っていった。

 

 月ストもサニピも動きがどんどん良くなってきている。歌も同様だ。俺の知っているものにはまだまだ遠く及ばないけど、それでも彼女たちならそこへたどり着ける。……いや。

 

「もっと違うところにたどり着くのかもな」

 

 今の月ストとサニピを見ていると、そんなことを思った。

 

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