流る星に一つの願いを   作:ねむれすねむれす

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琴乃、渚、さくらのきっかけ

 

 全ての面接が終わった。結局集まったメンバーは、沙季、千紗、雫、すずの四人。遙子さんはすでに星見プロに所属済みで、芽衣、怜に関しては俺がスカウトしたのがきっかけでアイドルになったのだから面接に来なくてもおかしくはない。だけど、琴乃、渚、さくらに関しては面接に来ていないのはおかしい。明らかに前回とは違う相違点だった。

 

「……もしかして俺のせいか?」

 

 この世界が俺の生きた過去そのままの世界ならば、彼女たちの行動も変わることはなかったはずだ。変わることがある理由があるとすれば、それは未来から来た俺が理由を作ってしまったことになる。

 

「……」

 

 未来から過去に戻ったということの意味を考えなかったわけではない。でも、どうにかなるだろうとという楽観的な考えが混じっていなかったか聞かれるとすぐに首を縦に振ることはできなかった。夢ではないとは思っていたが、真に現実として捉えることははたして出来ていただろうか。

 

「……後悔は後だ。今はそれよりもなぜ面接に来なかったか考える必要がある」

 

 琴乃、渚、さくら。彼女たちのことを全て知っているなんて自惚れる訳ではないが、それでも彼女たちがどんな想いでアイドルとなって、努力を重ねてBIG4という立場まで駆け上がってきたかは少しは理解できているつもりだ。その道程を消すなんてことは俺にはできない。なにより、俺自身がアイドルとしての彼女たちが消えてしまうことは認めることができなかった。

 

「まずは琴乃から……」

 

 口にした後、すぐに理由について思い当たった。そもそも琴乃がアイドルを目指したのはお姉ちゃん、長瀬麻奈の想いを継いでNEXTVENUSグランプリ決勝の舞台で"song for you"を歌うためじゃなかったか? ならば、麻奈が生きているこの世界において、琴乃がアイドルを目指す理由がない?

 

「……」

 

 思うところは色々とあるが、考えをまとめるため今は後回しだ。なぜ面接に来なかったかを一つ一つノートに書きだしていく。

 

「琴乃がアイドルを目指さないなら渚もか……」

 

 渚がアイドルを目指したきっかけは琴乃を支えるためだ。アイドル活動を通して、琴乃の隣に立ちたいという思いを持ってくれたが、最初のきっかけは琴乃のため。ならば、琴乃がアイドルを目指さないなら渚もアイドルを目指さないのは理解できた。

 

「さくらは……っ!!!」

 

 さくらがアイドルになったきっかけを考えてみて、思い当たることがあった。最悪の考えに咄嗟に立ち上がり、事務所を後にする。

 

 向かった先は星見市内にある病院だ。さくらが定期健診に、と通っていた病院でもある。

 

 受付でさくらの名前を出すと、係員は訝しげな目を俺に向け関係性を尋ねられた。咄嗟にマネージャーと名乗ろうとしたが、今のさくらはアイドルでもなんでもない。言葉に詰まりどう答えようか悩んでいると、親族やご友人以外の面会はできませんと断られてしまった。

 

 だけどその発言から、川咲さくらが生きていることは違いないみたいだ。そのことに大きく安堵し、これだけは聞いておかねばと去り際に口を開く。

 

「さくらは元気にしていますか?」

 

「……えぇ元気ですよ」

 

 係員は迷ったような表情をしながらも、一言だけ呟いてくれた。頭を下げ、俺はその場を後にした。

 

 ……さくらがアイドルを目指したのは心臓が導いてくれたから。そして、その心臓は長瀬麻奈の心臓だ。

 

 だけどこの世界の長瀬麻奈の心臓は長瀬麻奈の元にあって、さくらの元にはない。だからさくらが無事でいるのかが不安だったが、どうやらそこは問題ないらしい。思わず安堵の息が漏れる。

 

 しかしアイドルになるうえでの問題はあるみたいだった。まず、退院のタイミングが遅いことだ。さくらは少なくとも去年の高校入学のタイミング時点で無事に退院し、外を自由に出歩けるようになっているはずだった。でもさくらは未だ病院に入院したままで外を出歩くことができていない。この時点ですでに差異は生まれている。

 

 加えて、例え無事退院できたとして、星見プロに来てくれるのかという問題もある。さくらが星見プロに足を運んでくれたのは麻奈の心臓による導きがあったからだ。その導きがない以上、自発的に星見プロに来ることはあるのだろうか。

 

「……わからない」

 

 麻奈の心臓を移植した後にさくらは麻奈みたいに歌を歌えるようになった。それと同じように心臓が変わると、さくら自身の性格も変わる可能性は十分にある。可能性は無限大だ。俺の考えの及ばない範囲も当然多い。

 

 考えをまとめながら、俺はとりあえず事務所に戻り、ノートに再度情報を整理していく。

 

「どうしてこうなったんだ……」

 

 重くため息が漏れた。

 

 

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