俺は兵藤一誠、呪術師だ!   作:朝日

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05:落とし前

 

 

 次の日の放課後。

 俺はオカルト研究部の部室で昨日のようにリアス部長と向き合っていた。

 その背後には昨日の俺の言葉をしっかり伝えてくれたのだろう、普段よりもピリっとした気配の姫島先輩や木場、小猫ちゃんと他の部員たちが控えている。

 当の部長はと言うと、どこか苛立ちと呆れを交えたような表情で額に手を添えて言葉を告げた。

 

「───堕天使たちがこの町で良からぬことを企てているのは知ってたけど、まさかここまで怖いもの知らずだとは思ってもいなかったわ」

 

 暗に自分のことを舐めているのか、と言わんばかりに、リアス部長の体から真紅の魔力が溢れ出る。

 昨夜の話から察するに、部長は堕天使たちに警告文を送ったこともあるとのことなので、それも加味すれば怒髪天を衝く今の状態も当然というもの。

 

「状況は分かったわ。一先ず、あなたが無事で良かったのと、悪魔をも癒すことが出来る神器を持つシスターをこちら側に引き込んでくれたのはお手柄よ、イッセー」

 

「いえ、俺の方こそいきなり無茶なお願いしちゃってすみません。……でも、本当に良いんですか? アーシアのことを頼めるなら、後は俺一人でもどうとでもなりますけど」

 

 思い出すのは昨夜のリアス部長とのやり取り。

 堕天使の件で話があると連絡用の魔法陣を介して、堕天使たちがこの町の外れにある廃教会を拠点にたむろしていること、はぐれの神父や悪魔祓いも大勢いるようで、かつて『聖女』と呼ばれているアーシアを使って何かを始めようとしていること、そして当のアーシアを今俺が自宅で匿っていることなど諸々の事情を伝えさせて貰ったが……正直、冷戦状態の今、変に戦争の火種になるようなことはすべきではないのでは? と部長には『人間』の俺一人で堕天使たちを片付けてくると告げたのだ。

 

 しかし、返って来た言葉は、堪忍袋の緒が切れたような音と通信機越しでも感じられる吹き荒ぶほどの魔力の波動だった。

 

「心配する必要なんてないわ、イッセー。元よりここは悪魔()の領土で、侵入して来たのは堕天使。そして私は既に警告文すら送っているのだから、それでもなお留まって悪事を働こうというのなら……その傲慢、万死に値するわ」

 

 うん、一夜明けても怒りが収まるどころか完全に爆発してるよね。

 

『当然だな。明らかに堕天使たちはこの娘のことを侮っている。ここまで舐められて後は人任せとあっては、元とは言え72柱の悪魔の名折れというものだ』

 

 気持ちは分かるし、何とも言えないよなぁ……。見れば部長だけじゃなく、他の部員たちもどこか殺気立っているように感じられる。あの温厚な木場が静かに殺気を研ぎ澄ませているなんて相当なことだよ。

 

「分かりました。それじゃ、決行は今日の夜でいいですか?」

 

「ええ。堕天使たちには直に声明文が届くはずだから、集まっているところを一網打尽にしてあげましょう」

 

 流石はリアス部長、用意周到だ。

 最悪アーシアに体を張って貰うことも考えてたけど、この分ならその心配もなさそうで一安心。

 

「それはそうとイッセー、私ちょうど『僧侶』の駒がもう一つ余ってるのだけれど……言いたいことは分かるわよね?」

 

「…………ええと、一応、かけあってみますね?」

 

 決めるのは本人なので。

 ん? ていうか『僧侶』の駒が余ってるってことは、既に一人目の『僧侶』はいるってことなのか? 今度落ち着いた時にでも聞いてみよう。

 

 

 

 

 

 

 駒王町の外れにある廃教会へ向かう道すがら、最後に堕天使と戦ったのはいつだったかなと過去の記憶を想起する。

 

『相棒が俺の力に慣れてからはめっきり襲撃も減ったからな。……五年振りくらいじゃないのか?』

 

 あー、確かに。

 堕天使と戦う時って基本的には神器が理由の時が多かったし、何なら今回も大方アーシアの神器を狙ってのことだろうし、堕天使のトップ連中は神器にご執心なのかもしれない。

 

「んー……ざっと四人くらいか?」

 

 堕天使特有の少し濁った光力の気配。それが教会内に一つ、周囲の森に三つ。後ははぐれ神父や悪魔祓いたちの気配が大量にあるって感じだ。

 ちなみにリアス部長たちは魔法陣で一足先に飛んでいる。俺は悪魔じゃないから、グレモリー家の転移魔法陣には同行出来なかったので、こうして自分の足で現地へ向かっているという物寂しい背景があったりする。

 

「お、リアス部長たちの気配だ」

 

 教会内に突如として現れた馴染みのある悪魔たちの気配。

 事前に声明文を出していたとのことでそれを受けた堕天使側の準備は万端らしく、早速グレモリー眷属と堕天使の親玉が率いるはぐれ神父たちが戦闘に突入していた。

 

 出遅れちゃったかーと考えていると、そんな俺を囲むように堕天使が三人空から舞い降りて来る。

 

「てっきり正面から来ると思ってたのに、まさか魔法陣で飛んでくるなんてズルくない?」

 

「そう言うなミッテルト。相手は悪魔、小賢しさこそが取り柄なのだ」

 

「それに見ろ、フリードの報告にあった人間だ」

 

 フリードってのはあの時アーシアを追いかけまわしてた変態神父のことだろうな。しっかり情報共有されてるところを見るに、下手な嘘は通じなさそうだし正面突破しかなさそうだ。

 ま、何にしても堕天使は全員ぶっ飛ばす予定だったし、やることは変わらないか。

 

「おい人間、あの『魔女』をどこにやった?」

 

 男の堕天使からアーシアの所在を尋ねられる。

 その射貫く様な眼差しから察するに、アーシアのことを隈なく探し回っていたのだろう。帳と結界に阻まれて絶対に見つからないようになっているのにご苦労なことだ。

 

「俺が匿ってるよ。どこにいるかは教えてやんね」

 

「……ならば、力尽くで吐かせるだけだ!」

 

 男が気炎を上げるのと同時に、女の堕天使二人も光の槍を手に襲い掛かって来る。

 その出力から鑑みるに、精々が中級悪魔クラスと言ったところか……相手は三人いるけど、この分なら全然問題ないな。

 

 呪力を全身に巡らせ、身体能力を大幅に活性させる。

 

「なんそれ!? 魔力、には見えないけど……」

 

「恐れるなミッテルト! 囲えば終わりだ!!」

 

「殺すなよドーナシーク、まずは『魔女』の居場所を吐かせる!」

 

 堕天使相手に神器使うと目付けられそうだし、悪いけど今回はお休みだドライグ。

 

『別に構わんが……呪力強化だけでやるつもりか?』

 

 呪力強化だけでも倒せないことはないと思うけど……リアス部長たちに万が一があっても困るし、さくっと終わらせて加勢にいこうぜ。

 

「(術式(・・)を使う)」

 

 神経を研ぎ澄ませ、肉体に刻まれた術式を起動すべく呪力を張り巡らせる。

 『神器』が所有者の生命力と魂に密接に結びついているものだとしたら、俺たち呪術師の『生得術式』は生まれながらの肉体に宿るもの。

 それは魔法使いの扱う魔法や魔術とはまた別の、呪術師だけが扱うことが出来る唯一性(アイデンティティ)の発露。

 

 爺ちゃんが受け継いだ相伝の術式。父さんにはその術式が発現することはなかったけど、父さんの息子の俺にはその術式が確と刻まれていた。

 爺ちゃんが稽古で俺に教えてくれたのは呪力の扱い方だけじゃない。術式の使い方も、爺ちゃんは俺に身を以って教えてくれたんだ。

 

「え、はや……っ!?」

 

 まずは背後から迫るゴスロリ服の堕天使が振るう光の槍を回避する。

 

「そこだ!」

 

 この中で唯一、油断なく俺を見据えていた女堕天使。その背後に回り込んだ俺へ、咄嗟に体を反転させた彼女がその手に握る光の槍を突き付ける───が、遅い。

 

「なっ!?」

 

 その切っ先を呪力で強化した拳で打ち砕き、驚愕も束の間、その隙だらけの脇腹に回し蹴りを叩き込んで地面が陥没するほど強く叩き付ける。

 

「一人目」

 

 白目を剥いて意識を失った女堕天使を一瞥して、次の標的を見据える。

 

「カラワーナ!?」

 

 仲間がやられたことで焦燥を露わにするゴスロリ服の堕天使。その一瞬の空白があればもう一度距離を詰めるには充分すぎる。

 

「ひっ……」

 

 恐怖に染まった双眸が俺を捉える。……そんな目が出来るなら、こんなバカなことしなきゃ良かったのにな。

 

「二人目」

 

 踏み込みと共にその腹部に掌底を打ち込み、その体に呪力を流し内側から破壊する。

 吐血と共に大地に沈む彼女を見送って、最後にあり得ないと言わんばかりに顔を引き攣らせる男の堕天使を見据える。

 

「バカな……悪魔でもない、ただの人間如きに……ッ」

 

 何でこう、人外の種族って基本的に人間を下に見てるんだろう。ぶっちゃけ寿命以外はそこまで大差ないと思うんだけど。

 

「あってたまるか……我が名はドーナシーク! これより至高の堕天使に名を連ねる者だぞ!!」

 

「知るかよ、そんなこと」

 

 上空から迫る堕天使───ドーナシークに剣訣の構えで狙いを定める。

 

 

「解」

 

 

 不可視の斬撃が放たれ、宙でその体を一閃した。

 

 

 

 

 

 

 倒した堕天使たちを捕縛して廃教会へ駆け付けてみれば、流石と言うべきかリアス部長率いるグレモリー眷属が堕天使たち相手に大立ち回りを演じており、俺が最深部に辿り着いた頃にはもう粗方片付いた後のことだった。

 

「すみませんリアス部長、遅くなりました」

 

「大丈夫よイッセー、私たちだけでも特に問題なかったから……怪我はしてない?」

 

 足元に転がる今回の首謀者らしき黒髪の堕天使を一瞥しながら、部長は俺がここに来るまでに他の堕天使と交戦していたことにも気づいていたようで、ペタペタと体を触って俺に怪我がないことを確かめると安堵の息を溢していた。

 

「あれくらい無問題(モウマンタイ)ってやつですよ。入り口に寝かしてあるんで、後で回収お願いしてもいいですか?」

 

「もちろん……朱乃、お願いね」

 

「うふふ、お任せください」

 

 何やら姫島先輩がサディスティックな表情を浮かべているのだが、あれはいったい……いや、きっと触れない方がいいのだろう。

 

「───さて……起きなさい、堕天使レイナーレ」

 

 リアス部長が水の魔術で巨大な水球をレイナーレと呼ばれた堕天使に被せ、その意識を無理やり目覚めさせる。

 

 目覚めたレイナーレは、目の前の部長と自分を取り囲むように立つグレモリー眷属に明らかな恐怖の感情をその双眸に浮かべていたが、すぐに部長の隣に立つ俺に気づくと一転して赫怒の炎を燃やし始めた。

 

「お前……ッ。私からアーシアを奪った人間ね! よくものこのこ私の前に……殺す、殺してやる! お前が邪魔をしなければ今頃私は至高の堕天使に───!?」

 

「誰が、誰を殺すと言ってるの?」

 

 しかし、そんな怒りもリアス部長の更にそれを上回る冷たい殺意の前では形無しであり、一瞬で鎮静化させられたレイナーレの瞳には再び恐怖がありありと浮かび上がっていた。

 

「彼は私の協力者で、大切な部員の一人よ。私の管理する町を荒らし回るだけに飽き足らず、彼にまでその歯牙を向けようだなんて……万死すらも生温いわ」

 

「ま、待って! 今すぐ出て行くから、い、命だけはっ!!」

 

「問答無用。───消し飛びなさい」

 

 その言葉と共にリアス部長の真紅の魔力が唸りを上げ、レイナーレという存在を文字通り跡形もなくこの世から消し飛ばした。

 

「(あれが『滅びの力』か……呪力特性みたいなもんなのかな)」

 

『それに近いだろうな。上位の悪魔たちは大概が特殊な魔力特性を有している。あの小娘の『滅びの力』は、本来バアルという悪魔たちが持つ『消滅』の力だ』

 

 へぇー……確かに肉片一つ残ってないし、あの魔力に呑み込まれたら文字通り消滅しちまうってことか。……リアス部長は怒らせないようにしないとな。

 

『そう言う問題なのか……?』

 

 え、逆に何があるってんだよ。

 

「───それじゃ、帰りましょうか」

 

 先ほどの殺気を微塵も感じさせないようなリアス部長の柔らかな笑みと共に、こうして駒王町で起きた堕天使騒動は幕を閉じるのだった。

 

 

 

 

 

 

「イッセーさん!」

 

「おっと」

 

 事後処理は私たちに任せなさい、と言う頼もしいリアス部長たちの言葉を受け、一足早く帰宅した俺を待っていたのはアーシアからの熱い抱擁だった。

 

「お怪我は、お怪我はありませんか!?」

 

「はは、大丈夫だって。怪我一つしてないよ」

 

 家を出る前もあれだけ大丈夫って言ったのに、アーシアってば全然信じてくれないんだからなぁ……この様子を見るに、ずっと俺のことを心配してくれていたのだろう。その気持ちは素直に嬉しいけど、そんなに心配性だと将来困るぞ?

 

「良かった……私、イッセーさんにもしものことがあったらって、ずっと……ずっと心配で……っ」

 

 あらら、また泣いちゃった。

 よしよしと背中を撫でて宥めてあげるが、流石に玄関でこうしてると母さんたちが起きてしまうので、抱き着くアーシアを抱えながら自室へ続く階段を上がっていく。

 

「───落ち着いた?」

 

「……もう少し、このままがいいです」

 

 泣き止んだアーシアをベッドへ下ろすと、ぎゅっと腕にしがみつかれながらそんな可愛い我が儘を言われ思わず苦笑してしまう。

 アーシアは友達が出来たのが初めてって言ってたし、それを考えればまぁ仕方ないこと……なのかな?

 

「じゃあ、このままでいいから聞いてくれ」

 

 俺の言葉にアーシアが涙に塗れて真っ赤になってしまった瞳を上げる。

 この状態で言うのはちょっと気まずいけど、一応リアス部長との約束だしなぁ……腹を括れ、兵藤一誠。

 

「アーシアはその……悪魔になってもいいかなって、思ってたりする?」

 

 果たして、アーシアの返答は如何に───。

 

 

 

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