俺は兵藤一誠、呪術師だ! 作:朝日
グレモリー家の私有地たる山奥の別荘地にて、ライザーとのレーティングゲームに向けて強化合宿を行うことになった。
リアス部長曰く、個々人の現時点の実力の把握やチーム戦術のインプット、他にも俺やアーシアという新入部員も迎えたのだから、折角だからこれを機に交流を深めようというのが目的とのこと。
「(実際、一対一の真剣勝負じゃない以上、どうしても浮いた駒は狙われるのが常だし、そっから陣形やらペースやらを崩されてそのまま負けるなんてよくある話だもんな)」
『……そうは言うが、相棒からすれば、隣に立たれても邪魔なだけじゃないか?』
まぁ、それは否定しないよ。
俺の術式って、基本的に範囲とか出力が大雑把だし、何より不可視なのもあって逆に連携が取り辛いんだよなぁ……それこそ、よっぽど
「(けど、そのための今回の合宿だろ? 俺だってリアス部長たちが実際どれくらい強いのかとか、そういうのまだハッキリとは理解してないし。何なら神器の『譲渡』の力とかは、それこそ連携にはもってこいだと思うぜ)」
『やってみないと分からんと、そう言いたい相棒の気持ちは理解できるが……あの小娘たちがたった十日で相棒の隣に並び立てるとは、今の俺には到底思えんがな』
ドライグがそんだけ俺の実力を買ってくれてるのは素直に嬉しいよ。
それでも、どんだけ騒いだってゲームまで十日も猶予がある現状、俺自身、今の自分に限界を感じてるのも事実だ。今回の部長の提案は、新しい切っ掛けを掴むためのいい息抜きにもなると思うんだよな。
『……まったく。相棒はほとほと、俺が目にしてきたどの宿主よりもポジティブな男だよ』
はは、そりゃどうも。
伊達に鬼教官の爺ちゃんにガキの頃から鍛えられてないっての。……まぁ、稽古がキツ過ぎてポジティブにならなきゃ精神がやってられなかった、って言うのもあるけどさ。
「───イッセーさん、お荷物重くありませんか?」
「おう、これくらい何てことないって。アーシアの方こそ、まだ別荘にも着いてないんだし、無理だけはすんなよ?」
「はい!」
そんなこんなで。
俺たちオカルト研究部は今、部長の管理する別荘地へ向かって、険しい山道を歩いて登っているところだ。
別荘地への道すがらも合宿の一環ということで、各々が自分に課した、あるいは課せられた鍛錬をこなしながら進んでいる。
俺は全員分の資材が入ったデカいバックパックを背負って無難に体力づくりに励んでおり、アーシアは部長から「治癒の力を離れた場所からでも使えるようになりなさい」と言われたからか、指先に緑色のオーラを灯しながら、歩行と魔力操作の並列処理のコツを自分なりに掴もうと苦戦している。
前方では、部長や姫島先輩がレーティングゲームの専門用語を交わしながら対フェニックスへの会議を重ねており、木場と小猫ちゃんは、俺と同じようにデカい荷物を背負いながら、部長たちのところと最後尾の俺たちのところを行ったり来たりして全体の様子を見てくれている。
「前から思ってたけど、イッセーくんは何か武道を嗜んでるのかい?」
今は俺たちの横を歩いている木場から不意にそんなことを聞かれ、俺は思わず首を傾げる。
曰く、それだけの規格外の荷物を背負って足場の悪い山道を歩いているのに、一切体の軸がブレていないのだという。それは何気ない日常の歩法に溶け込んでしまうほどに、幼少期から徹底的に技術を叩き込まれた者の証だと、剣士である木場は語る。
「特にそういう自覚はなかったけど、多分爺ちゃんの影響だろうな」
「お爺さんの?」
「ああ。俺の爺ちゃん、呪術師としては結構な武闘派でさ。そんな爺ちゃんに死ぬほど扱かれてきたから、自然と似たような動きしちまってるのは否めないんだよ」
あれで「随分耄碌した」と稽古の度に愚痴を溢してたくらいだから、全盛期はどんだけバケモノだったんだよと、今更ながら爺ちゃんには呆れてしまう。
……ただ、今考えてみれば、爺ちゃんも年の割には常に背筋が真っ直ぐだったし、組手の時も独特な構えを取っていたから、何らかの武道を修めていても不思議じゃない。
「そうだったんだ。……自慢のお爺さんだったんだね」
俺が無意識のうちに笑みを浮かべていたのか、そんな顔を見て木場が微笑ましそうに言葉を溢す。
「……そうだな。今でも俺の目標だよ、あの人は」
それが気恥ずかしくはあったが、今更内心を偽っても仕方ないと、俺は心からの言葉を木場に返すしかなかった。
そんな俺の真っ直ぐな返答を受けた木場は、どこか俺をからかうように「修行の時はお手柔らかに頼むよ?」と言ってきたので、修行の時は覚悟しとけよと軽口を返しておいた。
▽
道無き山道を登り切った先に現れたのは、鬱蒼とした森を切り開いて作られた、西洋の城かと見紛うほどの巨大で豪華な別荘だった。
「……いや、別荘の規模おかしくないですか?」
「ふふっ、グレモリー家の所有物としてはこれでも小規模な方なのよ。さぁ、中に入りましょう」
俺の至極真っ当なツッコミを事も無げに躱し、リアス部長がエントランスの重厚な扉を開く。
そんな部長の姿に、特に疑問を浮かべることなく続いて行った木場たちを見送って、俺たちがおかしいのかなとアーシアと顔を見合わせ苦笑しながら先に進んでみれば……そこには、外見に違わぬ豪華絢爛な調度品が立ち並ぶ広大なロビーが広がっており、俺は背負っていた巨大なバックパックを下ろしつつ、ようやく人心地ついたと思った矢先にこの居たたまれない環境と来たものだから、慣れるまでは別の意味で心労が積み重なりそうだと思わずにはいられなかった。
しかし、時刻はそろそろ夕刻に差し掛かる頃合いだ。
流石にここからすぐにゲームに向けての特訓スタート、というわけではなく、まずは山登りの疲れを癒やしつつ、居間の広大なソファースペースで休息を取りながら今後の作戦会議を行おう、という運びになった。
「───イッセーやアーシアもいるし、改めて確認しておきましょう」
姫島先輩が淹れてくれた紅茶で一息ついた後。
部長が手元のリモコンを操作すると、リビングの壁面に設置された巨大なモニターにとある映像が映し出された。
それは、これから俺たちが相対することになる不死鳥───ライザー・フェニックスの、公式戦のレーティングゲームにおける過去の試合映像だった。
「これは以前、ライザーが他の上級悪魔のチームと対戦した時の録画よ。基本的に公式戦はこうして記録として残っているから、情報収集という面では困らないのが幸いね」
全員の視線が、自然とスクリーンに釘付けになる。
そこに映し出されていたのは、岩山が連なる荒野のフィールド。そして、圧倒的な暴力と絶望の蹂躙劇だった。
『
しかし、その映像の中で最も目を引いたのは───やはり『
『───ハハハハハ! どうした、その程度か!』
映像の中のライザーは、背中に燃え盛る炎の翼を展開し、空から戦場を見下ろしていた。
対戦相手の決死の反撃。上位魔法と思われる巨大な魔力の波動をその身に受けても、彼は回避する素振りすら見せない。
そして、雷撃がライザーの半身を吹き飛ばした───ように見えた次の瞬間。
ぼうっ、と。
真紅の炎が彼の傷口を覆ったかと思うと、失われたはずの腕も、焼け焦げた胴体も、文字通り一瞬にして元通りに再生してしまったのだ。
『無駄だ無駄だ! 俺は
そのまま放たれる、暴風を伴った広範囲の炎の渦。
対戦相手たちは、どんなにダメージを与えても一瞬で全回復するライザーの理不尽さに心を折られ、最後は灼熱の炎に呑み込まれて全滅していった。
「……改めて見ても、凄まじいの一言だね」
木場が、その整った顔を険しく歪める。
小猫ちゃんも木場の言葉に無言で頷き、アーシアに至っては、画面越しの圧倒的な暴力に顔を青ざめさせていた。
「ええ。どんな傷でも瞬時に再生する強力な再生能力。彼があれだけ自信に満ち溢れていたのは、何も家柄だけじゃない。この絶対的なアドバンテージがあるからこそよ」
部長もまた、自身の婚約者の理不尽なまでの強さに、重苦しい溜め息を溢している。
相手はフルメンバーの十五人。加えて大将は、どれだけ削っても即座に肉体が再形成されるギミック持ち。正面から殴り合えば、こちらの体力と魔力だけが一方的にすり減るジリ貧になることは明白だ。
「(再生能力に目を奪われるけど、炎と風っていうフェニックス独自の魔力特性も厄介だよな)」
『この映像にはなかったが、幾らでも悪用出来そうな組み合わせではあるからな。それこそ奴には再生能力が備わっている以上、自爆上等の手段など取られようものなら、小娘とその眷属たちでは成す術もあるまい』
確か木場が『
「(姫島先輩や小猫ちゃんは種族由来の力って使うのかな……なんか事情があるっぽくて、その辺のこと聞き辛いんだけど)」
『さてな。……結局のところ、今回の件は小娘たち悪魔側の問題だろう。ほぼ部外者に近い相棒がそこまで気にかけるのは、所謂余計なお世話というものになりかねんぞ』
部外者って、一応俺もオカルト研究部の部員なんだけどね……。まぁ、まだ二人と関係の浅い俺が変に突っ込んで地雷を踏んだりすれば惨事になりかねないし、その辺りは主である部長に任せるのが適任というものだろう。
「───ライザーの再生能力への対抗策は二つ。一つは神や魔王クラスの一撃でその存在ごと消滅させること。これは今までの私たちでは厳しかったけれど、今回はイッセーが参加してくれているから、イッセーが『倍加』で高めた力をぶつけるか、あるいは『譲渡』の力を使えば私たちでも可能ではあるわ」
そんなことを考えていると、部長が俺を見ながらそんなことを言っていたので、それが可能であると頷いた上で話を引き継がせて貰う。
「ただ、向こうもそれは警戒してると思います。それに、『譲渡』の力は多分部長に使うことになると思いますけど、一気にキャパシティを引き上げる分、消耗が激しいんで一発でも撃ったらガス欠になるかと。相手のフェニックスの涙の持ち込みとかも考えると、外したら逆にカウンターを受ける諸刃の剣でもありますね」
『王』が落ちたら負けというゲームの仕様上、この方法がかなりリスキーな手段であることは言うまでもない。
別に姫島先輩でも同じことが出来ると思うけど、部長のように『滅びの力』ではなく単純な魔力を倍加させるだけの一撃では、今の姫島先輩では果たして体が耐えきれるかどうか微妙なところだ。
光の力を使ってくれるなら、フェニックスとは言え悪魔なのだから特効になると思うのだが……まぁ、こればっかりは俺から言っても仕方ないしな。
「ええ。だから、これは本当に最後の手段にするつもりよ。……私たちが取る方法は、これから言う二つ目」
幾ら不死と言っても、その体力と精神までは再生することは出来ない。
そう語る部長は、強力な攻撃を継続して当て続けることでライザーの再生上限、所謂スタミナ切れを狙うと、ゲームでの自分たちの行動指針を俺たちに告げる。
「(うーん。……まぁ、現状部長たちが取れる手段はそれしかないか)」
『元々不利な戦いではある以上、対抗策があるだけ恵まれていると考えるべきだな。後は持ち込みが可能だと言うのなら、そこのシスターに頼んで聖水でも持ち込んでみたらどうだ? と言っても、相棒以外は使えないだろうが』
悪魔の弱点を突く以上、逆もまた然りだもんな。そりゃレーティングゲームで、弱点が存在しないに等しいフェニックスが猛威を振るう訳だよ。
てか、俺は別に聖水とか使わなくても多分どうにかなるだろうし、別にいいだろ。
「───さて。方針も定まったことだし、各々準備を済ませたら特訓開始よ!」
「「「はい!」」」
そう言う訳で、オカルト研究部の強化合宿が幕を開けるのだった。