退役少将ラフレルと中年探検隊の冒険   作:nocomimi

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中年探検隊、囚われの姫を助け出す

濃い白い霧の中、馬車は遅々とした速度で道を進んだ。

 

周囲からは物音一つしない。ただ、馬車の車輪が小石を踏みしだく音だけが聞こえる。

 

道の左右には、大木が霧の中に屹立している。見上げても、その頂上は見えない。

 

ラフレルは弓を左手に持ち、いつでも矢をつがえられるよう身構えた。傍らに立つドヴィックは額に脂汗を浮かべている。後部を見やると、ミハイルは軽いパニックに陥ったように左右を見回していた。その膝は軽く震えている。

 

「ミハイル博士、後方に異常は?」

 

ラフレルが尋ねるとミハイルは我に返った。

 

「い...異常もなにも...何んにも見えやしないよ。これじゃすぐ後ろに象が歩いていたって気づかないさ」

 

ヤケクソになったような口調でミハイルは答えた。ラフレルは前方に注意を戻すと耳を澄ました。だが、やはり物音は聞こえない。

 

「木こり殿、この道から渓谷への距離はいかほどになろうか?」

 

ラフレルが尋ねると、木こりはしばらく口ごもった後言った。

 

「わ...ワシはよく知りませなんだ。ただ...渓谷は森の深いところにあるとだけ伝えられてますだ」

 

「御者どの、停車を」

 

ラフレルは唐突に言った。御者は戸惑いながらも手綱を引いて馬を止めた。

 

「どうしたんだ旦那?小便か?」

 

「いや.....」

 

ラフレルは首を振ると、御者席の側方を通って馬車から降りた。濃い霧の中前方に目を凝らす。

 

「....ここからは徒歩で参ろう」

 

ラフレルは振り向くと告げた。アレハンドロは驚いて声を上げた。

 

「なんだって?」

 

「危険過ぎる。もし道に異常があった場合に察知が遅れたら...」

 

その時、風が吹き始めた。白い霧が吹き散らされていく。ラフレルは何気なく前方に向き直った。

 

そして驚きのあまり息を呑んだ。

 

前方に出てきたミハイルが声にならない叫び声を上げる。アレハンドロとドヴィックも大きく口を開け驚愕の表情をしていた。

 

ラフレルの立っていた場所の数歩先は、断崖絶壁だった。鋭く切れ込んだその先に目を凝らすと、まだ周囲に漂う霧の中、百メートルほどの間隙を挟んで対岸が見える。

 

ラフレルは用心深く絶壁の縁に近づくと下を覗き込んだ。はるか下方に、水の流れが見える。耳を澄ますと、水流の音がわずかに聞こえてくる。だが、遠い。

 

「...い...命拾いしたぜ。...さすが旦那だな」

 

アレハンドロが馬車を降りると、いまだ信じられぬといった表情で呟いた。

 

* * * * * * * * * * * 

 

一行はそこで休憩をとった。時間が経つにつれ、風が白い霧を少しづつ吹き払っていき、周囲のありさまが明らかになってきた。

 

「なんていう雄大な地形なんだろう。まるで巨人の住処だね」

 

パンを齧りながらミハイルが言った。先ほどまで彼を支配していた恐怖心は、好奇心にとって代われられた様子だった。アレハンドロも咀嚼しながら言う。

 

「だけどよぉ、こっからチンタラ歩いてったら上流まで何日かかるかわからねぇぜ。食料やらなんやらが足りなくなる前に出直したほうがいいんじゃねえか?」

 

「御者どの、貴殿の馬に荷物を乗せれば徒歩でも多少速度が増そう。渓谷沿いに最短距離を進むにはそれが良策かと」

 

ラフレルが提案する。すると遠慮がちにドヴィックが口を開いた。

 

「旦那、ワシの斧があれば...多少の邪魔は取り除けられるです。流石に岩は無理ですが」

 

「それが良さそうだね。どうやらここから先は馬車を走らせられるような道はなさそうだ」

 

ミハイルが答える。一行は荷物をアレハンドロの馬に乗せ、馬車からハーネスを外した。

 

四人は渓谷沿いに木立の間を縫うようにして上流に向かった。ラフレルが先頭でドヴィックがその次に続く。そして次がミハイルで、その後ろにアレハンドロが馬の手綱を曳きながら続いた。

 

足元には苔むした滑りやすい岩がゴロゴロ転がっている。だが二・三時間時間もすると、一行は獣道のような細い道に出た。ラフレルが歩調を早めると、ドヴィックは意外にも重い斧を担いだまま軽やかな足取りでついてくる。

 

「お...おい、ラフレル、ドヴィック。もうちょっとスピードを落としてくれないか。僕はそんなに早く歩けないよ」

 

するとさっそくミハイルが泣き言を言い始めた。息が切れたのか、屈んで膝に手を当てて肩を上下させている。ラフレルは立ち止まった。

 

「承知いたした。休憩を取られよ」

 

「ありがたいね。じゃあ遠慮なく」

 

ミハイルが手近の岩に腰を下ろす。追いついたアレハンドロが文句を言った。

 

「おいおい先生、さっき休んだばっかじゃねぇか。こんなんじゃぁ日が暮れちまうぜ」

 

「そんなこと言ったって僕は拳闘士でも兵士でもないんだ。僕の本業はあくまで..」

 

ミハイルが反論しながら何気なく尻の下の岩を見下ろした。そして彼は数秒の間固まっていたが、やがて眼鏡の奥の目を大きく見開いて顔を上げた。

 

「...う...嘘だろ?こ...こんなことってあるのか?」

 

「なんだってんだい、先生。そんなに興奮しちまって」

 

アレハンドロが尋ねる。すると学者は跳ね起き、自分が腰掛けていた岩に顔を近づけながら、それを手で探り始めた。

 

「いや...ま...間違いないよ。これは大発見だ!学会で報告しなきゃ!」

 

丁重な手付きで苔を取り去りながらミハイルは言った。

 

「す...凄い。凄いよ。古フィローネ文明の装飾紋様だ。ほら、見てくれ!」

 

三人が見つめるなか、ミハイルは振り向いて叫んだ。

 

「この紋様はラトアーヌ地方近くの『森の神殿』で見られるものと同系統だよ。つまり、古代先住民文明がフィローネ地方全体で広く繁栄していたことを示す証拠さ。なんてこった!僕が立てた仮説の通りだ!」

 

「あ?言ってる意味がゼンゼンわかんねぇが...要するにこのあたりに昔誰かが住んでたってことか?」

 

アレハンドロが困惑しながら尋ねた。学者は両手の拳を握って震わせながら言った。

 

「そうだよ!いや、もしかすると今だって住んでるかも知れない。いやぁ...これはエライことになったぞ。本格的な調査が必要だ。城下町に戻ったら学会発表するだけじゃない。出資者を募って調査隊を....」

 

その時だった。ラフレルが片手を上げた。ミハイルはキョトンとした顔をして、口を開けたまま喋るのをやめた。

 

「お静かに」

 

唐突なラフレルの言葉に、学者はやや鼻白んだ表情になったが、また口を開いた。

 

「....そ...そりゃ僕はこういうことになると夢中になりすぎる癖があるけど、そんなキツイ言い方しなくたっていいじゃないか。それにいいかい、この岩の学術的価値は...」

 

「お静かに。何か物音がしまする」

 

ラフレルは厳しい口調で言うと、矢を一本矢筒から抜き出した。それを見たミハイルは驚いた表情でまた口を閉ざした。

 

ラフレルは少しの間聞き耳を立てていたが、やがて押し殺した声で言った。

 

「間違いない。誰か近づいて来まする。敵意ある者たちである場合に備え、発見される前に有利な位置を占めたい」

 

遠くから、金属と金属が触れ合うかすかな音が聞こえてきた。こちらに接近してくる。ようやく事態を悟ったのか、ミハイルの顔色がみるみるうちに青白くなっていった。

 

「御者どの。馬を木立の後ろで伏せさせ、隠すことはできるか?」

 

ラフレルが尋ねると御者は戸惑いながらも頷いた。

 

「木こりどの、博士。御者どのとともに伏せておられよ。発見されずやり過ごせればよし。万が一の場合があれば拙者が対処いたす」

 

そう指示すると、三人は急いで獣道から脇の木立の中に逃げ込んだ。ラフレルは道の脇の大木の後ろに隠れ、弓に矢を軽くつがえたまま待機した。

 

近づいてくる音は、誰かが身につけた装具が擦れ合う音のようだった。下流のほうから接近してくる。息を殺していると、笑い声のようなものも聞こえてきた。

 

だがラフレルにはすぐに分かった。これは人の声ではない。耳障りな喚き声、下卑た笑い。

 

大木の幹からそっと顔を出すと、道の向こうから3つほどの影が近づいてくるのがわかった。目を凝らすと、そのうちひとつは細長い袋状のものを抱えている。

 

距離が縮むにつれ、それらの姿が見えてきた。伸び放題の蓬髪。赤黒い肌の色。手には粗い造りの鉈のようなものを持っている。

 

ボコブリン。食人鬼だ。

 

さらに観察していると、鬼のうちの一匹が抱えている袋が激しく揺れ動いているのが見えた。ラフレルは怪訝に思った。だが、抱えている鬼は意に介さない様子で仲間たちと何ごとか話し合っている。

 

鬼どもがすぐ目の前を通り過ぎていった。その時、ラフレルの耳には押し殺した声が聞こえたような気がした。

 

思わず木の陰から身を乗り出す。鬼が抱えた袋が揺れ動くたびに声がした。まるで口を塞がれた者が抵抗しながら漏らす悲鳴だ。

 

ラフレルは一旦木の幹に引っ込むと、大きく深呼吸した。そして矢をつがえた弓を持ち上げながら、身を低くして木の陰から這い出た。

 

袋を抱えた鬼は、三人のうちの真ん中だった。ラフレルは足音を殺して獣道に出ると、慎重にその背に狙いをつけて矢を放った。

 

飛んでいった矢が、鬼の尻に当たった。鬼は悲鳴を上げると袋を放り出し、罵声を上げた。他の二匹も振り向き、驚いた顔をした。

 

ラフレルは素早く二の矢をつがえて弦を引き絞った。その時には鬼どもは激高した様子で怒号を上げ、手に持った鉈を振り上げながらこちらに走り寄ってきた。

 

狙いをつけた矢が放たれ、一匹の顔面の真ん中を刺し貫く。だがその時には二匹目との距離が縮まっていた。

 

ラフレルは弓を投げ捨てると腰の剣を抜いた。鬼が振り下ろす鉈を剣で受ける。刃を回転させ相手の力を受け流すと、逆袈裟斬りでバッサリと胴を払った。

 

深手を負った鬼がヨロヨロとたじろぐ。だがまだ倒れない。ラフレルは前蹴りを放ってそいつを突き倒すと、残り二匹に目をやった。顔面を射抜かれた鬼は茫然自失の様子で棒立ちになっていた。だが、そいつもまだ死んでいなかった。

 

尻を射られた個体は、ようやく立ち上がったところだった。だが、自分が取り落とした袋がまるでイモムシのように身をよじりながら逃げていくのを見ると、鬼は鉈を手に掴んで追いかけ始めた。

 

ラフレルは咄嗟にダッシュした。袋に向かっていましも鉈を振り下ろそうとする鬼に殺到し、その肩口を切り払い、返す刀で首をはねた。黒い血が飛び散る。頭部を失った鬼が立ち尽くし、ゆっくりと膝を突く。

 

だが喚き声と突進の足音でラフレルは振り返った。顔面に矢を受けた鬼が突っ込んでくる。間に合わない。

 

辛うじて剣を振り上げて斬撃を受け止めたラフレルだったが、相手の勢いで押し倒された。馬乗りになった鬼がよだれを垂らしながらもう一撃を振るおうと鉈を振り上げる。咄嗟に手を伸ばし、敵の顔面の矢を思い切り押し込む。一瞬怯んだところを蹴り上げて跳ね除け、立ち上がった。だが、胴を払われたはずの個体もこちらに殺到してくる。

 

ラフレルは身を低くすると回転斬りを放った。刃が二匹に命中する。相手がのけぞり距離が開いた。近い一匹に突進し思い切り突きを押し込む。だがもう一匹が鉈を振り下ろしてきた。咄嗟に身体を反らして回避すると、その鉈が突きを受けた奴の頭に命中した。

 

棒立ちになった鬼を蹴りで突き放すと、ラフレルは残り一匹に向き直った。再び飛んできた斬撃を剣を払って弾くと、袈裟斬りを放ち、胴を払い、上から頭部を拝み打ちにした。もはや力を失った相手を押し倒すと、剣を逆手にしてとどめを刺した。

 

* * * * * * * * * * * * 

 

森は再び静まりかえった。荒い息を鎮めながら剣を血払いし、布で拭って鞘に収めると、ラフレルはうねうねと動く袋に近づいていった。

 

「ラフレル!ラフレル!」

 

ミハイルが道の脇から飛び出してきた。ドヴィックと、馬を引いたアレハンドロも続いた。

 

「だ...大丈夫かい?怪我は?」

 

「なんともござらん」

 

ラフレルは振り向くと答えた。そして地面にひざまずくと、袋の口に手をかけてその結び目を解いた。

 

袋を開いて中を覗くと、思った通りだった。人間だ。

 

入れられていたのは少女だった。歳の頃は十二、三と見える。浅黒い肌に、白に近いほどの明るい髪色をし、粗いチュニックを着ていた。両手を縛られ、口に縄をかけられている。

 

「すごかったね。まさに一流剣士って感じだったよ。これできみ、僕より年上なんて信じられないね」

 

ミハイルは未だに興奮している。ラフレルは少女を袋から引き出しながら、素っ気なく答えた。

 

「拙者の腕は二流でござる。一流ならこうも手こずりませぬゆえ」

 

ラフレルは少女の轡を解くと、剣を抜いてその手を縛った縄も断ち切ってやった。

 

その途端だった。少女は金切り声を上げながらラフレルの顔を引っ掻いた。驚いて身体を離すと、彼女はパニック状態で走り始めたが、すぐに地面の泥で足を滑らせ倒れた。

 

「怖がることはありませぬ。我ら、貴女を助ける所存ゆえ」

 

ラフレルは剣を収めると慌てて声をかけた。だが少女は顔を上げると、怯えきった表情で彼を見た。

 

「さ、こちらへ。些少ながら、食料や水もござ....」

 

ラフレルが手を伸ばした途端に、少女は地面の石を掴んで投げつけてきた。石が額に直撃し、ラフレルはやや顔をしかめたが、穏やかな口調で続けた。

 

「...鬼どもに囚われ、その苦痛と恐怖はさぞ深かったものと存じます。しかし、貴女はもはや自由の身にて...」

 

「おい旦那。血ぃ出てるぜ。大丈夫かぁ?」

 

アレハンドロが馬の手綱から手を離すと、ラフレルの額に手をやった。ラフレルは首を振ると苦笑した。

 

「これくらい軍では怪我のうちに数えられませぬ。しかし困り申した」

 

目の前の少女は座り込んだままガタガタと震えている。その視線は左右を忙しく見回していた。すると、今度はミハイルが少女に近づいてしゃがみこんだ。少女はビクッと身を震わせ、身体を縮めながら後じさりし始めた。

 

「コモテヤマス、デドンデエレス?」

 

ミハイルはそう言った。すると少女は驚いたようにポカンと口を開けた。だが数秒すると、彼女は答えた。

 

「メイヤモファプタ。フィ・セクエストラド・ミエントラス・レコヒア・フルタス・エンエルボスクィ」

 

途端に少女は堰を切ったように話し始めた。ミハイルは時折頷いては何事か尋ねている。しばらく会話していると、少女はようやく落ち着いた。ミハイルが差し出す水筒から水を飲み、パンを受け取って食べ始めた。それを見ながら、学者は興奮を抑えきれない様子で呟いた。

 

「...凄い。凄いよ。古フロル語の既存話者がまだいたなんて。よぉし、これから忙しくなるぞ。酒は当分お預けだ」

 

「お..おい先生。俺たちにもわかるように説明してくれよ。何がどうなってやがるんだ?」

 

アレハンドロが尋ねると、ミハイルは我に返ったように顔を上げた。

 

「あ...ああ。ごめんごめん。彼女はファプタという名で、この付近の村の族長の娘なんだ。果物を集めていたときに鬼に襲われて...」

 

すると少女は、口に詰め込んだパンをようやく飲み込み、押し出すような様子で言った。

 

「ファプタ、叫ぶ。ファプタ、怖い。鬼、捕まえる。ファプタ、祈る。お前たち、来る」

 

「きみ、ハイラル語もしゃべれるのかい?」

 

ミハイルが驚いて叫んだ。すると少女は頷いた。

 

「父、族長。父、話す。父、教える」

 

少女はようやくひとごこちつくと、皆の顔を見上げながら訴えるように言った。

 

「ファプタ、帰る。ファプタ、怖い。鬼、いる。村の男、戦う。ファプタ、戦わない。お前たち、守る」

 

「なるほど、委細承知した」

 

ラフレルは答えると、一同の顔を見回した。

 

「いかがかな?調査は一旦中断し、ファプタ嬢を村まで送り届けることといたしたい」

 

「いいぜ」

 

「賛成だよ」

 

「ワシもです」

 

三人は異口同音に答える。すると少女はラフレルの前に来ると、モジモジした様子で続けた。

 

「ファプタ、投げる。お前、痛い。ファプタ、悪い」

 

「あのようなことがあれば我を失うのは止むを得なきこと。お気になさることはない」

 

ラフレルがそう微笑みかけると、少女はようやく安堵した表情になった。ミハイルの通訳によれば彼女の村は渓谷からやや離れた下流側とのことだった。一同はファプタの案内で道を戻ると、渓谷から離れる針路を取った。数時間歩くと、やがて踏み慣らされた道に出た。

 

だがその頃には日が傾きかけていた。ラフレルはカンテラを取り出すと点火して掲げた。少女は地理を知悉しているのか、足取りに迷いはなかったが、いかんせん大人とは歩幅が違う。

 

「日没までに到着できればよいが。叶わぬなら野営地を探さねばならぬな」

 

ラフレルが独り言を言うと、ミハイルが少女に何事かを尋ねた。すると彼女は答えた。

 

「道、まっすぐ。ファプタ、帰る。父、待つ」

 

「....だってさ。ま、地元民なんだから信頼しようじゃないか」

 

ミハイルは気軽な口調で言った。すると少女が無邪気に微笑みながら続けた。

 

「お前たち、食べる。鶏。ごちそう。食べる」

 

「そいつはありがてぇな。そういや今日はまだパン以外なんにも食って...」

 

アレハンドロが言った瞬間に、何かが風を切る音が聞こえてきた。御者の顔の横を何かが高速で通り過ぎ、道端の木の幹に突き刺さった。

 

矢だ。

 

「伏せろ!」

 

ラフレルは叫んだ。再び風を切る音が聞こえる。ラフレルはファプタを庇うように抱き寄せた。身を伏せた一同の頭上を矢が通り過ぎる。

 

途端に汚らしい笑い声が聞こえ、周囲の木立から一斉に何者かが姿を現した。

 

鬼どもだ。その数は二十を越えていた。

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