退役少将ラフレルと中年探検隊の冒険   作:nocomimi

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中年探検隊の死闘

顔に爆弾を食らった黒い巨大鬼は、もうもうたる爆煙に包まれたまま棒立ちしていた。

 

響き渡った爆発音が収まる。ラフレルは火筒を投げ捨てると、剣を抜いて待った。化け物が大木のような音をたてて倒れる音を。それが聞こえたら殺到してとどめを刺す心づもりだった。

 

.....そのはずだった。

 

だが次の瞬間ラフレルは目を疑った。黒い鬼はまだ立っている。そして、背けていた顔を再びこちらに向けた。

 

その仮面は粉々に吹き飛んでおり、素顔が見えた。その顔はそれ自体がまるで木に彫った面のように無表情で、眼窩には瞳のない眼球がガラスのように嵌っている。

 

そいつは怒りの籠もった吠え声を上げると、再びラフレルたちに向かって突進してきた。

 

ガブール族長が矢を放った。矢が喉笛に突き刺さり、化け物は短い悲鳴をあげて身を捩った。だが、巨大な手をかけて矢を引き抜くと、すぐにこちらに向き直った。

 

「退却!プランBに移行する!」

 

ラフレルは叫びながら後じさりした。ガブールが二の矢を放つ。それは化け物の額の真ん中に突き刺さった。だが、骨を貫いてさえいないのか、相手は全く堪えた様子もない。こちらにのしかかるように構えると手を大きく振り上げた。

 

三人は転がるように飛び退(すさ)った。巨大な節ばった手が地面に振り下ろされ、激しい振動音が響いた。ガブールが三の矢を放つ。矢は化け物の左胸に命中した。だが、軽い痛みを感じただけの様子だった。黒い鬼は無造作に胸を掻きむしると刺さった矢を振り払った。

 

「旦那がた、先に行け!」

 

そのとき、アレハンドロが叫んだ。御者は鉄甲を嵌めた両手を構えて他の二人の前に出た。

 

「おいデカいの!ウドの大木って言葉、知ってっか?」

 

アレハンドロはまた叫んだ。すると黒い鬼は顔を上げ、恐ろしい叫び声を上げながら再び手を振り上げた。

 

巨大な手が振り下ろされる。アレハンドロは身軽にステップバックし、際どいところで攻撃を回避した。振り下ろされた手が地面を打ち鳴らす振動音が収まらないうちに、敵の腕に飛び乗って駆け上がる。

 

御者は跳躍し、渾身の拳を敵の顔面に叩きつけた。だが、それこそ蚊が刺した程度の痛みのようだった。化け物はわずかに顔を傾けたが、すぐに立ち直り、着地したアレハンドロに手を伸ばした。

 

だがアレハンドロはすばしこかった。前転して化け物の両脚の間を潜り抜ける。すると黒い鬼は獲物を見失ったかのように左右を見回した。

 

その瞬間、御者が強烈なアッパーカットを敵の股間に向けて放った。嫌な音が響く。黒い鬼は悲鳴を上げ、身体をのけ反らせた。

 

「へッ...ダーティプレーなら任せろってんだ」

 

アレハンドロが構えたまま得意そうに言う。黒い鬼は立ち直ると、怒りを燃え立たせたような咆哮を上げ、デタラメに両手を振り回した。御者は一撃一撃を見極めて器用に躱していく。

 

「御者どの!ご無理なさらず!後方におびき寄せるのだ!」

 

ラフレルは後ろから叫んだ。アレハンドロは肩越しに振り返ると軽く頷いた。

 

「デカいの!こっちだよ!捕まえてみな!」

 

御者は叫びながら両手を振る。黒い鬼は両手を地面に突くと、四足の獣のように突進した。すんでのところで横飛びすると、化け物は御者のいた場所を通り過ぎ、後方にあった岩壁に激突した。

 

先立って後方に下がっていたラフレルとガブール族長は固唾を飲んで見守った。化け物は再び御者に向き直り、突進する。だが、その動きは単調だった。アレハンドロはそれを見透かしたように、引き寄せては逃げ、引き寄せては逃げを繰り返す。

 

ラフレルは頭上の崖の上を見た。ミハイルとドヴィックが緊張で青白くなった顔でこちらを見下ろしている。定めておいた地点まであと少しだ。

 

「どうしたどうした?まるでダメじゃねぇか。違う世界から来たってぇからどんだけかと思ったら、酒場の飲んだくれよりものろまだな!」

 

アレハンドロは走り回りながら挑発する。化け物は言葉が理解出来るのか出来ないのか、一層怒りを発した様子で追いかけた。御者は定めた地点まで後退すると、そこでダランと両手を下げた。

 

「ほら、来いよ。ノーガードだぜ?打ってみろよ、当たるもんならな」

 

ラフレルは片手を上げ、ミハイルに合図した。学者は頷くと、木こりと力を合わせて岩を押し始めた。

 

だが、岩が動かない。ラフレルは焦って御者のほうを見た。黒い鬼が目の前にのしのしと迫ってきていたが、御者もまた動かない。

 

「やれよ、ほら。てめぇのパンチなんか屁でもねぇぜ」

 

アレハンドロは手招きする。ガブール族長も御者と崖の上を交互に見始めた。学者は唸りながら岩を押し、木こりは岩の下にこじ入れた梃子がわりの斧を押し下げようとしている。

 

ラフレルは咄嗟に飛び出した。化け物の背中に殺到し、腎臓のあたりに思い切り剣で突きを喰らわす。黒い鬼が呻き声を上げ手を止めた。そして振り向きざま片手を後ろに払った。ラフレルは吹き飛ばされた。

 

その瞬間だった。

 

「ぬおおおおおおおッ!」

 

ドヴィックの叫び声がした。かと思うと、崖の上から小石がパラパラと落ち始めた。

 

「お前!逃げる!」

 

ガブール族長が駆け寄ってきてラフレルの襟首を掴むと引きずった。見ると、崖の上から岩が転がり落ち始めた。岩は一気に転がると一直線に黒い鬼とアレハンドロに向かっていった。

 

凄まじい衝撃音がした。まるで落雷のような音だった。振動がまだ続くなか、ラフレルが顔を上げると、黒い鬼が転がってきた岩と壁に挟まれながらもうごめいているのが見えた。その横にはアレハンドロが倒れている。

 

ラフレルは頭を振ると、剣を握り直して駆け寄った。黒い鬼はまだ生きていた。岩をどけようと呻き声を上げながらもがき、手をかけている。ラフレルは岩の上によじ登ると、剣を逆手に持ち、その首筋と鎖骨の間に思い切り刃先を突き刺した。鍔まで埋まらんばかりに刺すと、黒い鬼は断末魔の声を上げ、岩に押しつぶされたままの体勢でバタバタと手足を動かしたが、しばらくすると動かなくなった。

 

「アレハンドロ!アレハンドロ!」

 

ミハイルが崖から降りながら叫ぶのが聞こえた。ラフレルは岩から降りると、剣を投げ捨てて御者に近寄った。ガブール族長も心配そうに覗き込んでいる。

 

「イテテテ...危ねぇとこだったぜ....」

 

御者は頭をさすりながら体を起こした。ラフレルは安堵の息をつき、苦笑して首を振った。ドヴィックも駆けつけると、御者に手を貸して立ち上がらせた。

 

「よかった...きみが死んでしまったかと思ったよ」

 

ミハイルは崩れ落ちんばかりの様子で溜め息をつくと、眼鏡を外して目を拭った。ガブール族長は弓を下ろすと感嘆した様子で言った。

 

「お前たち、勇士。あのもの、死なない。お前たち、戦う。あのもの、倒れる」

 

「へッ...だからよせって。そんなガラじゃねぇよ。ただの飲んだくれの元拳闘士さ」

 

アレハンドロは外套についた土を払いながら言う。ラフレルは剣を拾い上げて血払いすると、装備を点検した。

 

「ラフレル、きみも平気かい?」

 

ミハイルが心配そうに尋ねてきた。ラフレルは微笑むと答えた。

 

「問題ありませぬ。それより、今回は貴重な知見が得られましたな。火筒の威力は高いが、まだ改良の余地は多い」

 

「まったくきみにはかなわないな。命拾いした直後にそれかい?」

 

学者は呆れて笑った。その時だった。ドヴィックが驚きの声を上げた。皆が振り向くと、木こりは黒い鬼の遺骸を指さしている。

 

見ると、化け物の身体は崩れ始めていた。そしてその周囲には、大量の紙を火にくべて燃やしたときに発生するような黒い破片が空中に漂っている。

 

「こ...これって....」

 

ミハイルも驚き、眼鏡を直しながら呟いた。ラフレルも眉をひそめて言った。

 

「これは.....他の鬼どもといささか異なりますな」

 

「...そうだよ。まるで違う。ボコブリンやブルブリンの身体も死んだあと崩れるけど、むしろ爆発するように霧消四散するはずだ。こんな黒い破片...見たこともないよ」

 

ミハイルはもはや形を留めなくなった化け物の遺骸に近づくと、しゃがみ込んだ。そして黒い破片を手にとってしげしげと眺めていたが、しばらくすると顔を上げた。

 

「...も..もしかして...一つ可能性があるのは..」

 

皆が注目するなか、学者は眼鏡を直しながら続けた。

 

「ま...魔法の産物かも知れない。つまりこの化け物の身体そのものが人工物の可能性があるよ」

 

「魔法の...産物?」

 

ラフレルは驚いて尋ねた。

 

「こいつを最初見たとき思ったんだ。全身をのたくった奇妙な紋様もそうだし、ボコブリンやブルブリンに比べるとあまりにも『文明の痕跡』が目につくんだ」

 

学者は腰を上げると、言葉を継いだ。

 

「....つまり、魔法で合成された『人工戦士』...なんじゃないかって。何者が造ったかはわからないけど.....」

 

「『人口戦士』?...誰が...いったい何のために?」

 

ラフレルは独り言のように問うた。学者も戸惑った表情で首を振りながら答えた。

 

「わからないよ。僕も科学者だから突拍子もないことを言うのは性分に合わない。だけど、ここまで不可解なものを見せられた以上、そういう仮説でも立てなければ説明ができないんだ」

 

ミハイルはそう言うと、腰の物入れからガラス瓶を取り出し、黒い破片をそっとその中に入れた。するとガブール族長は皆を見回しながらやおら口を開いた。

 

「あのもの、倒れる。我、拝む。お前たち、待つ」

 

するとミハイルは意図を理解した様子で言った。

 

「どうやら彼は礼拝所に行きたいらしいね。これでやっと安心して礼拝ができるからね」

 

「そいつは良かったじゃねぇか。ゆっくり行ってきな。俺らはここで待ってるからよ」

 

アレハンドロは答える。ところがミハイルは落ち着かない様子で何事かをガブールに話した。すると族長は頷き、ついて来るように合図した。

 

「...もしよかったら見学させてくれないか、って頼んだんだ。この機会を逃す手はないからね。快くオーケーしてくれて良かったよ」

 

ミハイルは振り向いて皆にウィンクした。アレハンドロは肩をすくめると溜め息をついた。

 

「やれやれ、礼拝の見学なんてそれこそガラじゃねぇんだけどな。城下町の礼拝所にだって自分の結婚式以来一度も顔出してねぇのによ」

 

一同は盆地の中に進んだ。向こう側には天に届かんばかりの大木が聳え立っている。

 

だが、ラフレルは違和感に気づいた。頭上にはどんよりと雲が垂れこめている。気候だけではない。巨大な魔物は倒れた。それなのに、敵対的な空気がまだ周囲に漂っている気がした。

 

「各々がた。まだ危険が去ったかはわからぬ。用心して....」

 

ラフレルがそう口を開いた瞬間だった。

 

* * * * * * * * * * * * * * * * 

 

突如として、盆地の上空に異様な音が響き渡った。

 

巨大な管楽器を吹くような、低く不気味な音。

 

一行は思わず立ち止まり、空を見上げた。

 

空に黒い点が浮かんだ。かと思うとみるみるうちにそれが広がって円形となり、やがて黒い渦巻のようなものが形成されていく。

 

その渦巻は水面にできる渦巻をちょうど逆さにしたような形だった。さらに見ていると、渦が深くなっていき、その奥から突然何か巨大な塊が押し出されるようにして現れた。

 

まるで家畜の出産を思い起こさせる様子で、その大きな塊は渦から出ると真っすぐ下に落下してきた。

 

ひとつ。ふたつ。そして三つ。

 

黒い塊が地面に落ち、地響きがする。そして、その塊がむくりと起き上がった。

 

黒い鬼。皆一様に細長い腕から伸びる手を地面につけ、獣のように身体を起こしてこちらに向き直った。

 

ラフレルの手は反射的に動いた。背嚢から火筒を一本下ろすと、腰のポーチから素早く発射薬と爆弾を取り出し装填する。

 

「撤退!皆、山道に!」

 

装填が終わるとラフレルは叫んだ。だが、背後を振り向いた瞬間、驚愕した。

 

山道の入り口は、奇妙な柵で塞がれている。真っ黒く細長い石の柱のようなものが地面に立ち並んだ柵。その柱には奇妙な文様が描かれておりそれが赤い光を妖しく放っていた。

 

黒い鬼の一匹がこちらに突進してきた。ガブールが矢をつがえて射る。首筋に矢を受けた化け物が一瞬怯んだ様子で足を止めた。

 

ラフレルは火筒の発火装置の留め金を上げると狙いをつけた。引き金を引くと軽い爆発音とともに球体が砲口から飛び出す。

 

顔面に命中した。激しい爆発音とともに、黒い鬼がよろめいて顔を逸らす。

 

だが、別の一匹がのしのしと足音を立てながら迫ってくる。ラフレルは火筒を投げ捨て、背嚢から最後の一本を取ろうと手を伸ばした。

 

だが間に合わない。

 

「旦那!危ねぇ!」

 

アレハンドロが後ろから手を伸ばし、ラフレルを引き寄せた。化け物が振り下ろした手が、ラフレルをかすめて地面に激突する。

 

ガブールの矢がその個体の脇腹に突き刺さる。だが効果は数瞬だった。化け物は痛みに怒りの声を上げると、今度は手を横に振り払った。

 

ラフレルは反射的に後ろに転がった。顔の上を、鉤爪のついた巨大な手が唸りを上げて通り過ぎる。御者はラフレルを助け起こすと、自分が前に出た。

 

「へッ...俺には不相応な華々しい死に場所じゃねぇか。せいぜい盛り上げてやるぜ!」

 

「よせ!御者どの!」

 

ラフレルが叫ぶ。

 

その時だった。誰かが走り寄ってくる重い足音。

 

「ぬおおおおおおおおおおおおおおッ!」

 

ドヴィックだった。今しも御者を捕えようと手を振り上げた黒い鬼に駆け寄ると、木こりは斧を思い切り横に振り抜いた。

 

まるで大木がへし折られるような凄まじい音がした。化け物の脛にパックリと傷口が開いた。黒い鬼は痛みに耐えかねたかのように後退りする。

 

だが無傷のもう一匹がズイと前に出てきた。木こりに向かって一撃を加えようと手を高く振り上げながら身を乗り出す。

 

「ドヴィック!」

 

背後にいたミハイルが叫んだ。巨大な手が振り下ろされる。激しい衝突音。振動が足元を伝わる。

 

だが、目を上げたラフレルは驚愕した。

 

ドヴィックは斧の柄を両手で差し上げ、防御していた。巨大な鬼の手が食い止められている。

 

「旦那がた!今のうちに!」

 

木こりが鬼気迫る表情で振り向くと叫んだ。その瞬間、ガブール族長が動いた。

 

その動きはまるでネコ科の動物のようだった。跳躍して木こりの肩に乗ると、そこからさらに飛んで化け物の頭に飛び乗った。

 

矢を弓につがえ、思い切り引き絞ると、ゼロ距離でその頭頂部に放った。矢が突き刺さり、黒い鬼は痛みに身をよじらせながら族長を振り落とそうとする。

 

だが族長は二の矢をつがえると、今度は敵の後ろ首に狙いをつけ再び接射した。深く矢が刺さり、化け物は足をもつらせながら後退する。

 

ラフレルは迷わず最後の火筒に手を伸ばした。筒に発射薬と爆弾を装填する。先ほど一撃を喰らわせた鬼が立ち直り、向かってくる。

 

発火装置の留め金を起こし、砲口を上げると引き金を引いた。距離は数メートル。飛び出した爆弾が直撃した。化け物は再び苦痛の呻きを上げてのけ反った。

 

「おい!族長が!」

 

アレハンドロが叫ぶ。顔を上げると、族長は黒い鬼の手に捕らわれて宙吊りになっていた。

 

だが、森の戦士は冷静だった。巨大な手に捕まえられたままで弓を引き絞り、放つ。近距離で飛び出した矢が鬼の喉に刺さる。鬼がたじろいだところで、族長は腰に下げた黒曜石のナイフを抜き、敵の手首に突き刺した。巨大な手が緩み、族長はすり抜けるようにして着地した。

 

だが、片脚に深手を負った個体が片足を引き摺りながら戦列に復帰した。それを見たアレハンドロは両手を振りながら注意を引いた。

 

「ホラホラ、あんよがイタイイタイってか?ざまねぇぜ!悔しかったら捕まえてみな!」

 

怒りの咆哮を上げた手負いの鬼が、御者の前で立ち止まると手を振り上げた。アレハンドロはタイミングを合わせて素早く前転した。その背の後ろを鉤爪が通り過ぎる。

 

「このノロマが!どこ見てるんだ?」

 

御者は鬼の眼前で中指を突き立て、その脚の間を素早くすり抜けようとした。だが一瞬遅かった。鬼が手を伸ばして御者を捕えた。巨大な手がアレハンドロを締め上げる。

 

「木こり!俺に構わずやれ!」

 

御者は首だけで振り向くと叫んだ。ドヴィックは我に返ったように顔を上げると、斧を振り上げて突進した。

 

「ぬおおおおおおおおおおおッ!」

 

雄たけびとともに、斧を振り抜く。激しい打撃音とともに、傷を負っていないほうの脚に一撃を喰らった化け物が悲鳴を上げて御者を放り出し、倒れた。

 

ラフレルは火筒を投げ捨てて剣を抜くと鬼に殺到した。その心臓目掛けて深々と突きを喰らわした。黒い鬼は断末魔の悲鳴を発してのけ反った。

 

顔を上げると、ガブール族長は広場を逃げ回りながら化け物に向かって次々と矢を射かけていた。これまで受けた矢の痛みが蓄積しているのか、追いかける鬼の動きは鈍くなってきている。

 

目を転ずると、顔面に二発の爆弾を喰らった鬼が尻もちをつきながらもまだ動いている。ラフレルは叫んだ。

 

「木こりどの!止めを!」

 

ラフレルは走った。立ち上がりかけた鬼に向かって殺到すると、腹に突きを入れた。そして素早く剣を引くと、横に飛び退いた。続いて駆け寄ったドヴィックが斧を思い切り振り上げ、敵の肩口に振り下ろす。黒い血が飛び散った。再び座り込んだ鬼の頭に斧が振り下ろされた。骨が砕ける音がした。

 

その時、族長の叫び声がした。

 

「プルエバラス・コンシクエンシアス!」

 

族長は鬼の後ろ首にとりつき、ナイフでその首筋を掻き斬ったところだった。もがく相手に乗ったまま、族長は矢を弓につがえて引き絞り、後頭部と首の継ぎ目に撃ちこむと、後ろ宙返りを打ちながら地面に着地した。

 

最後の一匹が動きを止めた。黒い鬼はゆっくりと膝から崩れ落ち、うつ伏せに地面に倒れ伏した。大木が倒れたような振動音がした。

 

ラフレルはしばらくの間肩で息をしていた。見回すと、三匹の怪物の死骸は崩れ始めている。

 

「.....勝利...したようですな」

 

辛うじて呟くと、族長が戻ってきて言った。

 

「鉄の矢、強い。我、好む」

 

そう言うと、族長はラフレルの袖を引かんばかりにして迫った。

 

「我、探す。お前、教える」

 

「分かり申した。では後日城下町を案内いたそう」

 

ラフレルはやっとのことで答えると、剣を地面に置いて座り込んだ。凄まじい疲労感だった。

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