「「ふ、あああ」」
隣を歩く幼なじみ『ヤサカ・カノ』と同時に欠伸が出た。
「何?あんた昨日もガンプラ作ってたの?」
「カノこそ、遅くまでベース鳴らしてたんだろ」
「いやあ、つい手が止まらなくてねえ。そういうノアは?」
「いやあ、やめ時が見つからなくてねえ」
「真似すんな」
カノはベース、俺はガンプラ。それぞれ違うものに熱中しているが、俺達は同じ場所を目指している。それは頂点。カノは【学生バンド選手権】、俺は【ガンプラバトル選手権】で優勝する事を目指している。
「で、進捗はどう?選手権に間に合いそ?」
「無理でも間に合わせるさ。それより今は人員が欲しい」
「まだ見つかってないの?締め切り近いんでしょ?どうすんの」
「どーしよー...部員たち弱いしなー」
「はっきり言わないの」
俺の所属しているプラモ部は人数こそ十数人いるが、ガンプラバトルにはそこまで乗り気ではない。曰く、「せっかく作った作品を傷つけたくない」との事。気持ちはわからんでもない。時間をかけて作ったガンプラをバトルで破壊されるのはビルダーとしてはたまったもんじゃないだろう。見るのが好きって部員はいるが、自分からバトルしようとは思っていない。つまり、選手権に出ようとしてるのは現状俺だけということになる。
「まあきっといい出会いがあるわよ、多分おそらく」
「そう思う事にするかぁ」
飛んで放課後。練習に行ったカノを見送った俺は行きつけのプラモ屋に顔を出す。
「てんちょー今日も来たよー」
「いらっしゃーい、ノア君」
行きつけのプラモ屋【ヤサカ】。店長の『ヤサカ・マオ』さんが奥から出てくる。名前からわかる通り、カノのパパだ。
「ごめんなあノア君、作例作るの手伝ってもろて」
「気にしないでください。店長と俺の仲じゃないですか」
店長は【ガンプラ心形流】という流派の後継者で、制作技術もバトル技術も世界トップクラスの実力者で、子供の時点で関西代表として世界大会にも出場するというとんでもない人だったりする。俺のガンプラの師匠でもある。
...ってことは俺も心形流ってコトぉ!?
「今月は新作のキットが多くて、手が回らんから助かったわあ。でもノア君も選手権用のガンプラ作っとったやろ?大丈夫なん?」
「大丈夫ですよ、選手権までまだ余裕もありますし、今の進捗なら問題なく間に合います」
「そか、そらよかった」
「うあー疲れたー」
「お疲れさん、今日はありがとうなあ」
数時間後、外はすっかり暗くなり、作例品も結構な数が出来上がっていた。
「やっぱ人がいると進みが早くて助かるなあ、ありがとうな」
「俺もいい気分転換になりました」
「ガンプラ作りの気分転換がガンプラ作りって、おかしな感じやけどな」
「ただいまー、ってノアいんじゃん」
ちょうどカノも帰ってきたみたいだ。
「おかえりカノ、店長に頼まれて作例品作ってた」
「随分よゆーだね。選手権用のガンプラはいいの?」
「1日くらい気分転換したって問題ないよ」
「ガンプラ作りの気分転換でガンプラ作るの...?」
「引くなよ...今日はもう終わったから帰るよ」
「ああうん、気をつけてね。また明日」
「おう、また明日」
歩くこと数分、と言っても5分足らずに我が家がある。近くにプラモ屋があるのはモデラーとしてありがたいことこの上ない。
「ただいまーっと」
「おかえりなさーい」
「はっ?えっ!?」
今日は父母どちらも職場に籠るから帰って来れないと聞いていた。返事など返ってくるはずがない。
「ご飯にする?お風呂にする?それとも...ガンプラ?」
「どんな選択肢だよ...てかなんで居るんだよシア姉」
キジマ・シア、プロファイター兼現レディ・カワグチを襲名し、世界を股に掛けるガンプラのパイオニア。学生の時点で卓越した制作技術とバトル中にガンプラ修理というトンデモ戦術で選手権を戦った店長に引けを取らない腕前を誇っている。
姉と言うが、彼女の叔父アラン・アダムスさんとウチの従姉妹の結婚式で知り合った、家系図で言えば結構遠い間柄だったりする。しかし、妹であった彼女は弟妹に憧れがあったのか、俺のことを知ると姉呼びをさせていたそう。俺の物心付く前のことだったので、今でも普通に『シア姉』と呼んでいる。
「おば様から連絡が来たの。『暇だったら来て』って」
「いや、暇じゃないだろ」
「無理言って抜け出して来ちゃった」
「メイジン泣くぞ」
「あの人がこんな事で泣くわけないでしょ?それに明日の朝イチで戻るって言ってあるから大丈夫よ」
「で結局何しに来たの?」
「ご飯にする?って言ったじゃない。あとは監視」
「監視?」
「今日はガンプラ制作は休みなさい。ヤサカさん所で作例品やってたんでしょ?」
「全部筒抜け...」
「だから今日はもうご飯食べて、お風呂入って寝ちゃいなさい」
「はいはい、でも元々作るつもりじゃなかったけど」
シア姉が作っておいてくれた夕飯を食べ風呂に入り疲れはふっとんだ。
「で、なんで俺の部屋にいんの?」
「ガンプラ作らせない為の監視」
「しねーよ寝るよ。シア姉も母さんの部屋で...」
「もう布団引いちゃった」
「俺、リビングで、寝る」
「ダメ。ちゃんとベッドで寝る」
部屋を出ていこうとする俺の腕を掴んで、ベッドに投げ飛ばす。抵抗しないからって乱暴すぎません?
「明日の朝とお弁当作ってあるから食べてね」
「至れり尽くせりだな」
「感謝してね」
「うん、すげーありがとう」
「よろしい」
わざわざ忙しい中無理言って抜け出して、俺の為にここまでしてくれて。感謝しかない。以前なんで来てくれるのか聞いたら、『弟が困ってたら助けるのが姉』と言っていた。きっとお兄さんのキジマ・ウィルフリッドさんも似たような事をしたのだろう。だから兄姉が弟妹を助けるものという考えができたのだろう。
「お風呂も湧いてるから入っちゃってね。私はおば様の部屋で寝るから、おやすみ」
「うん、おやすみー」
湯船に浸かりながら考える。後2人のメンバーをどうやって見つけるか。カノはバンドの練習でダメだし、部員たちもバトルに乗り気じゃない。他の同級生らもガンプラに興味がなかったり、それぞれ予定もあるはず。俺の都合だけを押し付ける訳にもいかない。
「考えたって仕方ないかぁ」
まだエントリー締め切りには余裕がある。締め切りまでに何とかなる、といいんだけど。
流石に1日じゃ状況は変わらない。今日も今日とて一人で【ヤサカ】に出向く。やっぱ家で作るより、お店の作業スペースの方が捗ること捗ること。家と違って周りに必要な物しか無いってのがいい。めっちゃ集中出来る。
「んんー、はぁ」
一息入れようと店内をうろつく。今の時間じゃまだ仕事帰りの大人も来ないし、かと言って子供も出歩くには少し遅い時間。店長を除けば俺一人だ。
「ん?」
レジ横のデカイモニターに目が止まる。このモニターに流れるのは、新作ガンプラのCMだったり、様々なガンダムゲームのCMだったり、全国のバトルシステムに記録されたガンプラバトルもアーカイブ視聴が可能になっている。普通はそんな事出来ないが、バトルシステムに使われる【プラフスキー粒子】を生成、流通させている【ヤジマ商事】の女社長、ヤジマ・キャロラインさんと、その旦那でもあり、【プラフスキー粒子】を人工的に生成させる事に成功させた天才、ニルス・ニールセンさん(現ヤジマ・ニルス)と長い付き合いがあるらしく、特別にアーカイブ視聴が出来るようにしてもらったと言っていた。
今流れているのも、どこかで行われたバトルの様子だった。PGのめっちゃデカイストライクを相手に、SG(スピードグレード)、およそ1/200サイズのガンダムが単騎で挑むバトルだった。フィールドには既に破壊されたガンプラのパーツや武器が散らばっていた。PGはデカくて硬い分、動きはかなりゆっくりしている。その隙を突いて、そこらじゅうに散らばっている武器で果敢に攻撃を繰り出していくガンダム。間接部を狙ったり、ツインアイを潰したり、右へ左へ、上へ下へとにかくずっと動き続けている。決まり手はユニコーンガンダムが携行しているビームマグナムだった。反動で右腕は吹っ飛んだが、圧倒的な熱量がストライクを貫き、まさにジャイアントキリングと言うに相応しい戦いだった。
その後に流れたのは、SGガンダムを操っていた人が作った、オリジナルのガンプラのバトルだった。サイズ自体は先のガンダムと同じ程、つまりSGガンダムをベースに改造したということになるコアガンダムだ。青いパーツで纏まった変わった形のサブフライトユニットに乗って戦っている。
「は?」
終盤になって、急に変わった。動きというか、武器というか、そうじゃなくて、機体が変わった。サブフライトユニットとなっていた青いパーツたち。あれがガンダムの全身に装着され、普通のHGサイズになった。ビームサーベルも伸び、ライフルの威力も上がり、一撃で相手を撃ち貫いていた。
「こんなガンプラを作る奴がいるのか...」
ただ衝撃だった。戦闘中に武器を変える位は誰でもやる基本的な戦術だ。だがこのファイターは武器だけでなく、機体の特性そのものを変えて戦っていた。他のアーマーパーツがあれば、例えばバトル中に実弾仕様に変えたり、逆に対ビームコーティングを施したアーマーに変えることも出来るだろう。
「俺にも、作れるか...?」
作ってみたい。やってみたい。戦ってみたい。あんな武器を付けたい。こんなアーマーパーツを付けてみたい。俺はこのコアガンダムという存在に心を奪われてしまった。ならば、やることはひとつしかない。
「作るんだ、俺だけのコアガンダムを...!」
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意味
(運命的な)出会い