Fate/atlantis:衛宮切嗣生存stay night   作:星P/すたーりん

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イリヤさんオッスオッス


VSバーサーカー①

 

 *

 

「初めまして。私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。――アインツベルンって言えば、分かるでしょ?」

 

目前には雪のように長い髪を夜風に靡かせ、立つ姿は人形じみた可憐さすら感じさせる白い少女。

 

その隣には常人とは比べるべくもない巨体。岩のように黒々とした肌。そこに立っているだけで周囲の空気を圧迫するその威容は、もはや人間という枠から外れている。

 

それに相対するのは、白銀の甲冑と蒼の装束を纏った金髪の騎士。

翡翠の瞳はまっすぐに敵を見据え、その細身の身体には微塵の揺らぎもない。可憐ですらある容姿に反して、その立ち姿はただひたすらに鋭く、張り詰めていて――戦場に在るべき者の姿だった。

 

そして———今ここに、衛宮士郎の運命を決定づける一戦が、その幕を上げようとしていた。

 

 *

 

セイバーと並んで、夜の街を歩く。

その前では、遠坂が空に何かを話しながら先を行っていた。

おそらく、彼女のサーヴァントなのだろう。

アーチャー、だったか。

 

「なあ、セイバー。サーヴァントにクラスがあるのは分かったけどさ、一番強いのって、結局どのクラスなんだ?」

 

ふと浮かんだ疑問を、そのまま口にする。

 

「一概には言えません。サーヴァントの優劣は、マスターとの相性や召喚された英霊そのものの力量に大きく左右されます。ですが、単純な戦闘能力だけを見れば――そうですね。その英霊にもよりますが、もっとも厄介なのはバーサーカーでしょう」

 

「でも、バーサーカーって狂化した英霊なんだろ。理性を失ってるなら、むしろ弱くなるんじゃないのか?」

 

「その逆です。理性を捨てたからこそ、強い。小細工も駆け引きもなく、ただ敵を殺すためだけに怪物じみた膂力で突進してくる相手を想像してみてください」

「……そりゃ、たしかに嫌だな」

 

想像しただけで背筋が冷える。

バーサーカー――いったいどんな化け物なのか。

そんなものと、セイバーは本当に渡り合えるのか。

いや、セイバーが弱いとは思わない。けれど、今の話を聞いた後では、“バーサーカー”という名前そのものが、一つの災害みたいに思えてしまう。

 

そうして考え込んでいたところで、前を歩いていた遠坂が不意に足を止めた。

その背にぶつかりかけて、慌てて踏みとどまる。

 

「おい、遠坂。急に止まるなよ」

 

「衛宮くん、あれ―――」

 

「え―――」

 

遠坂の視線を追って、前を見る。

そこにいたのは、一人の少女だった。

白い髪を夜風に揺らす、場違いなほど可憐な少女。

 

そして、その隣に立つものを見た瞬間、思考が止まる。

岩――いや、違う。

そんな生易しいものじゃない。

 

人の形をした、黒い塊。

常人とは比べるべくもない巨体と、岩肌じみた黒い肉体を持つ大男が、少女を守るようにそこに立っていた。

 

「こうして会うのは初めまして、だね。お兄ちゃん」

 

少女は、まっすぐ俺を見てそう言った。

 

――お兄ちゃん。

 

その一言が、ひどく耳に残った。

意味が分からない。けれど、ただの聞き間違いでは済まされないような、妙な不吉さだけが胸の奥に沈んでいく。

 

「隣にいるのは……セイバーね。よかった。ちゃんと召喚できたんだ」

 

少女が、ふわりと微笑む。

その笑みはあまりにも無邪気で、だからこそぞっとした。

理由なんて分からない。ただ、本能だけが警鐘を鳴らしている。今すぐここから逃げ出せ、と。

 

「あ、あなた、一体何者なの……?」

 

遠坂が問いかける。

けれど、その声音にはいつもの余裕がなかった。

 

「あなたは……遠坂の人間ね。たしか、今の当主はリンって言ったかしら」

 

「なっ……!」

 

遠坂が目を見開く。

なぜ、そんなことが分かるのか。

一目見ただけで遠坂の人間だと断じるなんて、そんなのは――

 

「それじゃ、自己紹介でもしようかしら」

 

少女は一歩前に出ると、スカートの裾を軽く摘み、優雅に膝を折った。

まるで舞踏会の場で披露されるような、完璧なカーテシー。

 

「初めまして。私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。――アインツベルンって言えば、分かるでしょ?」

 

「アインツベルンって……まさか……」

 

遠坂の顔色が変わる。

その名に覚えはない。けれど、遠坂の反応を見る限り、魔術師にとってはそれだけで意味を持つ名前なのだろう。

 

「ふふ。もういいかしら?まあ、あなたたちは今から死ぬんだから、そんなことどうでもいいわ」

 

無邪気に。

本当に、何でもないことを口にするみたいに。

少女は笑って、隣の巨人を見上げた。

 

「やっちゃえ、バーサーカー」

 

その一言で、世界が動いた。

 

「マスター、下がって!」

 

セイバーが前に出る。

直後、振り下ろされた大剣を受け止めた。

轟音。

剣と剣がぶつかった、なんて生易しいものじゃない。

地面が悲鳴を上げ、足元が跳ねる。衝撃は石畳を砕き、その場にクレーターじみた陥没を作り上げた。

 

これが、バーサーカー――

 

さっきまでセイバーから聞いていた“怪物”という言葉が、ようやく実感として理解できる。

目の前にいるのは大男なんかじゃない。あれは災害だ。人の形をした破壊そのものだ。

 

「アーチャー! 援護して!」

 

遠坂の声と同時に、幾筋もの矢が夜気を裂いた。

矢は正確にバーサーカーへと突き刺さる。

だというのに、黒い巨人は意に介した様子すらない。いや、効いていないのだ。

ただ眼前のセイバーだけを獲物と定め、容赦なく剣を振るう。

火花が散る。

鋼が悲鳴を上げる。

打ち合っている、なんて言葉で済ませていいものじゃなかった。

一撃ごとに空気が震え、地面が抉れ、視界が揺れる。ランサーとの戦いも人間離れしていたが、今目の前で繰り広げられているのは、そんな次元じゃない。

 

怪物と怪物が殺し合っている。

 

そうとしか思えなかった。

それでも、押されているのはセイバーの方だった。

気づけば、その白銀の鎧にはいくつもの傷が刻まれている。浅い。だが、確実に。受け切れていない。

 

「くっ――」

 

セイバーが後方へ跳ぶ。

距離を取ろうとした、その瞬間。

バーサーカーが踏み込んだ。

速い、なんてものじゃない。

あの巨体で、どうしてそんな動きができるのか理解できない。視界が追いつくより先に、黒い塊がセイバーの眼前に迫っていた。

 

振り下ろされる大剣。

セイバーは咄嗟に剣を差し込み、直撃だけは逸らす。

けれど、防げたのはそこまでだった。

 

「か――っ!」

 

鈍い衝撃音。

セイバーの身体が宙を舞い、そのまま地面に叩きつけられる。

まずい、と思った時には、もうバーサーカーは追撃に入っていた。

 

「っ……! セイバー―――!」

 

喉が裂けるくらいの声が出た。

死ぬ。

このままじゃ、セイバーが殺される。

そんなのは駄目だ。

ついさっき誓ったばかりじゃないか。一緒に戦い抜くって。今さら、こんなところで終わらせてたまるか。

 

「セイバー!!」

 

気がつけば、走り出していた。

 

「衛宮くん!?」

 

遠坂の制止なんて聞こえない。

ただ、セイバーを助けたい。その一心だけで、足が前へ出る。

無謀だとか、死ぬとか、そんなことを考える余裕はなかった。

 

その時だった。

夜の闇を裂いて、一筋の光がバーサーカーへと奔る。

それは流星みたいに鋭く、一直線に今にも黒い巨人へと突き刺さろうとしていた。

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