Fate/atlantis:衛宮切嗣生存stay night 作:星P/すたーりん
あ、そういえばサーヴァントにも魔術師っていたよね。
*
――やはり、聖杯戦争はすでに始まっていたか……。
庭に立つ男が、ゆっくりと煙を吐き出す。
衛宮切嗣。かつて“魔術師殺し”と恐れられた男だった。
彼が煙草を口にするのは、実に十年ぶりのことだった。
第四次聖杯戦争の後、それは遠ざけられていた。士郎のため、そして士郎の前で、かつてのような冷酷な自分を思い出させるものを使いたくなかったからだ。
だが今、その指先には火のついた煙草がある。
肺に満ちる苦い煙は、衛宮切嗣という男の奥底に沈められていた冷徹さを、静かに呼び覚ましていた。
近頃、新都で相次いでいるガス爆発。
表向きは事故として処理されているそれが、聖堂教会による隠蔽工作であることは明白だった。聖杯戦争が始まった以上、表沙汰にできない死も痕跡も、教会が覆い隠す。
ーーもしや、とは思っていたが......
切嗣が考えを巡らせたそのとき、彼のもとに反応が届く。
柳洞寺に放っていた使い魔が潰された。
しかも反応は、単なる魔術的な気配ではなかった。もっと直接的で、生々しいもの――斬撃。
魔術師が刃物を扱うとは到底思えない。
とすると、サーヴァントの仕業と断定するほかない。
そう判断するには十分すぎる反応だったが、肝心のクラスまではまだ割り出せない。
ーー偵察に行く必要があるな。
切嗣は煙草を踏み消すと、家の中へ戻った。
別館へ続く廊下まで進み、床板の一部を外す。隠された床下には、第四次聖杯戦争の頃に使用していた装備が、今なおいつでも持ち出せるよう整然と保管されていた。
それは、衛宮切嗣が再び戦場に立つための備えだった。
柳洞寺は円蔵山の山頂にある。
その地下には、聖杯戦争の要である大聖杯が眠っていた。
そして第四次聖杯戦争の後、衛宮切嗣は大聖杯に細工を施している。
次の聖杯戦争が起こる前に、それ自体を破壊するための工作だった。蓄積される魔力が一定量に達した時点で、大聖杯は内側から崩壊する。五十年という歳月をかけて発動する、遅効性の爆弾に等しい。
無論、その細工を施すにあたって円蔵山の構造や侵入経路は調べ尽くしていた。
山へ入る道も、柳洞寺へ至るルートも、切嗣の中ではすでに地図として整理されている。
人気のない山道、身を隠すに足る木立、寺をよく見ることのできる監視位置。
必要な情報はすべて、十年前の時点で頭に叩き込んであった。時間が経とうと、それが失われることはない。
装備を手にした切嗣は、その記憶を辿るように円蔵山へ向かった。
*
――あれは、サーヴァントか。まるで門番だな。
寺門の前に、一騎の侍が立っていた。紫の着物に長刀を佩き、石段の上から境内へ続く道を塞ぐように佇むその姿は、まさしく門を守る番人そのものだ。
あれが参道を押さえている以上、柳洞寺の内部にマスターがいるのはまず間違いない。
ならば、正面から踏み込む理由はない。
切嗣は足を止めることなく進路を変え、参道を外れて脇の山道へと身を滑り込ませた。木々が頭上を覆い、月明かりさえ届きにくい細道は、夜の湿気を含んだままひっそりと息を潜めている。土を踏む音すら殺しながら、切嗣は斜面を登った。
門前にサーヴァントを置く以上、寺の内側に控えるマスターもまた、侵入者への備えを怠ってはいないはずだ。
だからこそ、気を配るべきは正面だけではない。境内へ近づくにつれ、闇の中に潜む気配を一つ残らず拾い上げるよう意識を研ぎ澄ませる。
――来る。
直感がそう告げた次の瞬間、真横の空間が爆ぜた。
奔流となった魔力が、槍のような鋭さで脇腹を貫こうと迫る。切嗣は反射だけで身を捻った。頬先を掠めた一撃が背後へ抜け、轟音とともに木の幹を抉り飛ばす。砕けた樹皮が夜気に散り、遅れて熱を帯びた風が頬を撫でた。
「あら。いい反射神経をしているのね」
鈴を転がすような声が、暗がりの向こうから落ちてくる。
木立の陰から、ひとりの女が姿を現した。
濃紫の衣装の上に黒いマントを羽織り、身体に沿う装束が細い肢体を際立たせている。深く被ったフードの奥では、白く整った顔が半ば影に沈み、その輪郭だけが月明かりにぼんやりと浮かんでいた。金の装飾を散らした姿は華やかでありながら、同時にひどく禍々しい。人を魅了する女というより、甘い声で破滅へ誘う魔女――そう呼ぶ方がよほど相応しい。
切嗣は目の前の女を見据えたまま、思考を走らせる。
――こいつがマスター……いや、違う。
今の一撃に宿っていたのは、魔術師が行使するには濃すぎる魔力。
加えて、ただそこに立っているだけで周囲の空気を塗り替えてしまうような圧。人間の魔術師が持つ気配ではない。
――サーヴァントか。しかも術者。ならばキャスター……!
「わざわざ山道を通ってきたってことは、参道のアサシンには気づいていたのね」
「……」
切嗣は答えない。だが、その沈黙だけで十分だった。
問いに返答せず、ただ相手の言葉を受け流す。その態度そのものが、無駄な情報を渡さぬという意思表示になる。
――あれがアサシンか......こいつらは共闘している......?
そんな疑問を浮かべる切嗣の内を覗き込むように、キャスターは唇を吊り上げた。
「あなた今、私たちが手を組んでいると思ったでしょう?」
くすり、と喉の奥で笑う。
「そんなわけないじゃない。あいつはただの駒」
そう言って、キャスターは片手を持ち上げた。
月光に照らされた白い手の甲には、鮮やかな紋様が刻まれている。令呪。マスターだけに与えられる、サーヴァントを縛る三度きりの絶対命令権。
「お前……サーヴァントでありながら、サーヴァントを従えているのか」
「ええ。だって私は魔術師だもの」
フードの奥で、女が妖しく微笑む。
その声音には、己の才覚を疑う余地など一片もない。
「私にも、マスターになる資格くらいあるでしょう?」
その言葉を合図に、切嗣は懐からキャリコM950Aを引き抜いた。
躊躇なく引き金を絞る。吐き出された弾丸には、サーヴァント相手にもわずかでも通用するよう、最低限の魔力強化が施されていた。
だが、キャスターはそれを難なく躱す。
翻る黒衣の裾をかすめることすらなく、同時に展開された魔術が切嗣へと放たれた。
その発動速度は、目を見張るほどではない。通常の魔術師より幾分か速い――せいぜいその程度。
だが、それで十分だった。長い隠居生活で鈍りきった今の切嗣を捉えるには、それだけで足りる。
魔術が目前まで迫る。
直撃は避けられない――そう見えた瞬間、切嗣の唇が短く呪文を刻んだ。
「Time alter――」
衛宮家に伝わる秘術、時間操作。
本来なら大がかりな儀式を要するその術式を、切嗣は己の肉体内部に限定して運用することで、戦闘用に特化させていた。『固有時制御』。体内時間の流れそのものを加速・遅延させる、彼だけの戦闘術式。
「――double accel!」
二小節で完結する起動。
瞬間、切嗣の内的時間が二倍へと加速する。世界がわずかに鈍り、肉体だけがその隙間を縫うように動いた。寸前まで迫っていた魔術を紙一重で躱し、切嗣は横へ跳ぶ。
それを見たキャスターの口元に、不気味な笑みが浮かんだ。
「面白い魔術を使うのね。それに――それは近代の武器かしら?」
興味深げに、キャリコへ視線を落とす。
「魔術師の在り方も、ここ数千年でずいぶん変わったものね」
キャスターはそこで追撃の手を止めた。
先ほどまで展開していた魔法陣が、音もなく霧散していく。敵を仕留めるためではなく、まるで珍しい玩具でも見つけたかのように、フードの奥の双眸が切嗣を見据えていた。
「あなた――私の仲間にならないかしら?」
キャスターVS切嗣は凄く見たかった!
だからこそ、今後うまく書けるか心配.....
ちなみに、切嗣が銃を強化していたのは士郎に強化の魔術を教えていたところから持ってきていて、「教えてるなら使えるでしょ!」っていうスタンスで使いました。完全独自解釈です。
はてさて、起源弾は活躍するのでしょうかねぇ......