Fate/atlantis:衛宮切嗣生存stay night   作:星P/すたーりん

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VSバーサーカー②

「うわっ――!」

 

衝撃に身体が浮いた。

何が起きたのかもわからない。

視界がぐるりと反転し、地面も空も判別できないまま投げ出される。

 

「っ、マスター!」

 

次の瞬間、背中に柔らかな感触があった。

セイバーに受け止められたのだと理解するまで、一拍遅れた。

息が詰まる。

肺が潰れたみたいに苦しいのに、呼吸より先に意識したのは、今の一撃への違和感だった。

 

なんだ、今のは。

矢なんて生易しいものじゃない。

貫いた、というより、空間そのものを抉り取ったような衝撃だった。

目に見えない何かが一直線に走り、その先にあったものをまとめて削り飛ばした――そんな、理不尽な破壊。

 

「なっ……!」

 

セイバーが息を呑む。

その声につられて顔を上げ、俺もまた言葉を失った。

 

「嘘、だろ……」

 

バーサーカーの上半身が、消えていた。

胸から上が丸ごとない。

残っているのは、地面を踏み砕くように立つ下半身だけだ。

あれほど巨大な身体の半分が消し飛んでいるのに、なおも倒れずにそこにある。

その異様さが、かえって現実味を奪っていた。

 

「ふぅん……」

 

その声には、驚きよりも好奇心の方が強く滲んでいた。

イリヤスフィールは吹き飛んだバーサーカーを見つめたまま、面白いものでも見つけたみたいに目を細めている。

恐れている様子はない。

むしろ、ようやく退屈しのぎになるものが現れた、とでも言いたげな顔だった。

 

「やった……!」

 

遠坂が息を弾ませる。

 

「これで、バーサーカーを倒した……!」

 

その言葉で、ようやく頭が追いつく。

倒した――?

あれが、アーチャーの一撃だっていうのか。

理解した瞬間、身体から力が抜けた。

腰が抜けたみたいに足が動かない。

自分が助かったのかどうかさえ、まだうまく実感できなかった。

 

その様子を見て、イリヤの口元がゆっくりと綻ぶ。

ぞくり、とした。

笑った、というだけなのに、なぜかそれがひどく嫌なものに見えた。

 

「リンって、ほんと可愛い。」

 

小さく笑う。

 

「まだ終わってないのに。」

 

「■■■■■――!!」

 

咆哮が境内を震わせる。

 

吹き飛んだ肉塊が脈打つ。

骨が軋み、裂けた筋肉が互いを引き寄せる。

血肉が渦を巻くように繋がり、失われた胴体が瞬く間に形を取り戻した。

まるで最初から傷など存在しなかったかのように、巨人は再び立っていた。

 

「う、嘘でしょ……そんな、そんなことってあり得るの……?」

 

遠坂の声が掠れる。

そんな中、イリヤスフィールは感心したように小さく目を見開いていた。

 

「へえ……」

 

その視線は、再生したバーサーカーではなく、高台に立つ弓を構えたままのアーチャーへ向けられている。

 

「バーサーカーを、一度だけでも殺せるなんて。」

 

無邪気な声。

けれど、その響きにはさっきまでとは違う重みがあった。まるで、ただの遊びの相手だと思っていた相手を、初めて“危険な敵”として見直したような。

 

「セイバーだけだと思ってたのに、まさかそっちまでそんなのを隠してるなんてね」

 

イリヤはふっと息を吐き、肩をすくめる。

その仕草は子供っぽく愛らしいのに、どこかぞっとするほど冷静だった。

 

「……うん。今日はもういいや。」

 

「な……?」

 

遠坂が息を呑む。

俺も、思わずイリヤを見た。

 

「バーサーカー」

 

主の呼びかけに応じ、今にも飛びかかりそうに唸っていた巨人がぴたりと動きを止める。

なおも殺気を撒き散らし、俺たちを見据えたままだが、イリヤの命令には逆らわない。

 

「今日はここで十分」

 

くるり、とイリヤは踵を返す。

夜の散歩に飽きたとでも言いたげな、あまりにあっさりした仕草だった。

白い髪が、月明かりの下でふわりと揺れる。

 

「セイバーより、あなたのアーチャーの方に興味が湧いたわ」

 

すると、イリヤは肩越しにこちらを振り返った。

その微笑みは無垢で、けれど底が見えないほど冷たい。

 

「今度は、ちゃんと殺してあげる」

 

「っ……」

 

喉がひくつく。

ただ指を差されただけなのに、全身の血が冷えるような感覚が走った。

 

「それじゃ、おやすみなさい」

 

ひらりと手を振る。

それを合図に、バーサーカーが低く唸りながらイリヤの後を追った。巨体が石段を軋ませ、やがて二人の姿は山門の向こうへ消えていく。

後に残ったのは、ひどく重い静寂だけだった。

 

「……助かった、のか」

 

自分でも情けないくらい弱い声が漏れる。

けれど、誰もすぐには答えなかった。

セイバーは剣を構えたまま、イリヤたちが消えた先を睨んでいる。

遠坂もまた、悔しげに唇を噛んでいた。

 

戦いは終わった。

そう理解しても、身体はまだ震えていた。

あの少女は笑っていた。

人を殺すと言いながら、まるで明日の約束でもするみたいに。

 

――今度はちゃんと殺してあげる

 

あの少女の声音だけが、いつまでも耳の奥に残っていた。

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