Fate/atlantis 衛宮切嗣生存stay night 作:星P/すたーりん
もう少しだけ続きますので、お付き合いいただければ幸いです。orz
じりりりりり……。
耳障りな音が、容赦なく鼓膜を叩く。
――……もう、うっさいわね……。
半ば夢の底に沈んだまま、私は眉をひそめた。
じりりりりり……。
枕元の目覚まし時計が、主人の怠惰を糾弾するかのように鳴り続けている。
――ああ、うるさいうるさい……。
布団を頭まで引き上げる。
だが、音は止まらない。
そこでふと気付いた。
――‥‥‥あ、そうだった。
昨夜、三十分早めにセットしておいたんだっけ。
なら、まだ寝られる。
普段は六時三十分に起床している。そして七時
学校へ行くのに七時起きでも十分間に合うが、朝は余裕を持って支度を済ませたい。
だからいつも、この時間に起きている。
……のだが。
ふと、胸の奥に小さな違和感が生まれた。
――うん?
――なんかそれ、おかしくない?
私は目覚まし時計へ視線を向ける。
その瞬間。
霞のかかっていた意識が、一気に覚醒した。
七時。
時計の針は、無慈悲にもその数字を指していた。
「はあ……」
深いため息が漏れた。
朝は苦手だ。
私は慌ただしく身支度を始める。
遠坂の名を背負う者が、寝坊などという失態を晒すわけにはいかない。
鏡の前で髪を整えながら、なかなか収まらない寝癖に小さく舌打ちする。
昨夜は魔術の研究に没頭していた。
気付けば日付はとうに変わっていて、睡眠時間は散々なものだった。
原因は明白だ。
だからといって、今さら後悔しても遅い。
「まったく……優雅さが聞いて呆れるわね」
自嘲気味に呟きながら制服に袖を通す。
机の上には、昨夜のまま放置された魔術書や宝石が散乱していた。
片付けている時間はない。
一通り支度を終え、鞄を手に取る。
そのまま部屋を出ようとして――足を止めた。
「っと、危ない危ない。これを忘れちゃダメね」
机の上にポツンと置かれた赤い宝石を手に取る。
朝の光を受けた深紅の結晶は、まるで内側から燃えているかのように輝いていた。
今手元にある宝石の中では、最も多くの魔力を蓄えた一品。
まだ始まったわけではないが、何が起きてもおかしくない以上、使えるものは一つでも多い方がいい。
それに――。
私は宝石を握り締める。
父の形見。
残された数少ない思い出の一つだった。
「……さて、行きましょうか」
宝石を鞄へしまい込み、私は部屋を後にした。
*
いつも見慣れた通学路。
だが、今朝はどこか様子がおかしかった。
――……やけに静かね。
人の気配がない。
通勤途中の住民はおろか、同じ学校の生徒の姿すら見当たらなかった。
時刻は七時半。
普段なら登校する生徒たちで賑わい始める頃だ。
――まあ、そんな日もあるか。
深く考えることもなく、私は歩みを進めた。
やがて校門へと辿り着く。
――......ここまで誰もいないなんて。
さすがに妙だ。
まさか今日は休校でした、などという笑えない話ではないだろう。
だとすれば考えられる可能性は一つだけ。
「あれ?遠坂?今日は一段と早いね」
「やっぱりそうかぁ……」
私は小さくため息をつき、声のした方へ振り返った。
「おはよ。今日も寒いねぇ」
そこにいたのは美綴綾子だった。
彼女は同じクラスの友人であり、私が朝に弱いことを知る数少ない人物でもある。
「おはよう、美綴さん。つかぬことを聞くんだけど、今何時かわかる?」
「ん? 何時って、まだ七時前だけど。遠坂、寝ぼけてる?」
「……どうやら、うちの時計が一時間進んでたみたい。しかも一つじゃなくて全部。柱時計まできっかりね」
あり得ない。
だが現実にこうして一時間も早く登校してしまっている以上、認めるしかなかった。
――父さんが残した宝石に、変な細工でもしてあったんじゃないでしょうね。
そんな馬鹿げた考えが脳裏をよぎる。
「ははっ。まあ、そんな日もあるって。みんな来るまでまだ時間あるし、弓道部でも見ていく?」
彼女は弓道部の主将だ。
私にも弓道部には何人か知り合いがいる。その縁もあって、彼女とはそれなりに親しくしている。
「そうね。どうせ暇だし、付き合うわ」
「よし、決まり」
そうして私は美綴とともに弓道場へ向かった。
*
朝の道場はひどく静かだった。
まだ部員もほとんど集まっておらず、張り詰めた空気だけがそこにある。
「主将が一番乗り?」
「今日はたまたま。いつもはもう少し後かな」
彼女はそう言うと、慣れた手つきで戸を開けた。
道場へ足を踏み入れる。
凛とした空気と、磨き上げられた床の匂い。弓道には縁のない私でも、この場所がきちんと手入れされていることくらいは分かった。
「遠坂は弓道やってみる気ないの?」
「ないわよ。私が朝弱いこと知ってるでしょ?」
「そうだったそうだった。」
「部活なんかやれっこないわよ」
彼女は苦笑し、私は肩をすくめる。
そんな取り留めのない話を交わしているうちに、ぽつりぽつりと部員たちが姿を見せ始めた。
やがて登校する生徒たちの姿も増え、校舎の方からは賑やかな声が聞こえてくる。
いつもの朝の風景が戻ってきた。
「それじゃ、そろそろ行くわね。弓道頑張ってね」
「うん、またね遠坂。」
私は道場を後にし、校舎へと足を向けた。
*
教室へ向かう途中、一人の男子生徒と目が合う。
「げっ……遠坂か」
開口一番、それだった。
「何が『げっ』よ。生徒会長ともあろう人が、ずいぶん失礼じゃない?」
「それは相手がお前だからだ。どうにも相性が悪い」
そう言って彼――柳洞一成は露骨に視線を逸らした。
まったく、朝から感じの悪いことである。
と、その時。
「修理終わったぞ、一成」
部屋の中から声がした。
振り向けば、スパナやドライバーを抱えた男子生徒が出てくる。
「悪いな、衛宮。全部任せてしまって」
「別に構わないさ。家で爺さんの代わりに色々やってるし、これくらいならすぐ終わる」
「助かる」
二人はそのまま連れ立って歩き出した。
衛宮士郎。
同じ学年の男子生徒で、私も多少は顔と名前を知っている。
それにしても――。
あれほど工具の似合う人間も珍しい。
スパナを持っている姿に違和感がなさすぎて、もはや身体の一部なのではないかと思えてくる。
そんな馬鹿なことを考えていると、不意に衛宮が振り返った。
「朝、早いんだな。遠坂」
「……」
私が返事をするより先に、彼は一成とともに廊下の向こうへ消えていった。
*
かくして今日も一日が終わった。
私は帰宅すると、この後に控えた儀式の最終確認を始める。
いよいよ本番だ。
今日という日のために準備は万全に整えてきた。魔力の調整も済ませた。
あとは、私の魔力が最も高まる刻を待つだけである。
焦る必要はない。
むしろ焦った者から失敗する。
私は居間の時計に目をやりながら静かに時を待った。
その時だった。
不意に電話のベルが鳴る。
受話器を取り上げた私は、慣れた調子で応答した。
「はい、遠坂ですが――」
「凛。今日が期限だ。準備は済んでいるか」
聞き慣れた低い声だった。
冬木教会の神父にして、聖杯戦争の監督役。
言峰綺礼である。
「ええ。確認なら昨日もしたでしょう」
「そうだったか」
相変わらず感情の読めない声だ。
この男は本当に人間なのだろうか、と時々思う。
「それで? わざわざ電話してきた用件は何?まさかその確認だけじゃないでしょうね」
「なに、用件というほどのものではない」
言峰は淡々と言った。
「残る席が二つとなったのでな。念のため確認しておこうと思っただけだ」
「セイバーとアーチャー...だったっけ」
「そうだ」
短い返答。
「お前が召喚に成功すれば、残る枠は一つになる」
「成功するわよ。当然でしょう」
失敗する理由がない。
遠坂家はこの日のために代々備えてきたのだ。
私もまた、そのための研鑽を積んできた。
「だろうな」
言峰はあっさりと肯定した。
それが少し癪に障る。
「何よ、その反応」
「いや」
わずかな間。
「遠坂の魔術師らしいと思っただけだ」
「褒め言葉として受け取っておくわ」
「好きにするといい」
そこで会話が途切れる。
受話器越しの沈黙は妙に居心地が悪かった。
先に口を開いたのは言峰だった。
「召喚を終えたら教会へ来い」
「マスター登録のため?」
「そうだ。監督役として確認する必要がある」
「わかったわ」
「それと――」
珍しく言峰が言葉を継いだ。
「準備だけは怠るな」
「言われなくてもそのつもりよ」
「そうか」
そして少し間が空き
「...なにか妙な胸騒ぎがしていてな]
それだけ言うと、
「ではな」
通話は一方的に切れた。
受話器を戻しながら、私は小さく息を吐く。
相変わらず掴みどころのない男だ。
もっとも、今は言峰のことなど考えている場合ではない。
今夜は私の聖杯戦争の始まりの日。
つまり――
遠坂凛がサーヴァントを召喚する夜なのだから。
ほとんど『Fate/stay night』のプロローグをベースにしているので、文章や細かな描写は違うものの、流れ自体は原作とほぼ変わりません。
変更点といえば、士郎や言峰との会話を少し弄ったくらいです。
とはいえ、個人的には早く本編を書きたいので、まずはプロローグを駆け抜けたいところです(笑)。
このままいけば、本編は原作と同じく「運命の夜」から始まる予定です。
もう少しだけ原作沿いの展開が続きますが、引き続きお付き合いいただければ嬉しいです