Fate/atlantis:衛宮切嗣生存stay night   作:星P/すたーりん

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プロローグは全4話前後で終わる予定です!

本編を読みに来てくださった方には少しお待たせしてしまいますが、もう少しだけお付き合いください。

本編もすぐに始まりますので、楽しみにしていただけると嬉しいです!


1日目夜:1

ふう……」

 

 吐いた息は白くもないのに、どこか冬の朝のような冷たさを帯びていた。

 時計を見る。

 午前一時四十分。

 

 あと二十分。

 

 たかが二十分。されど二十分である。

 

 私にとって、その刻限は他の誰とも違う意味を持つ。天体の運行と魔力の流転が最もよく重なり合う時刻。遠坂の血を継ぐ者として、最も力を振るいうる瞬間。

失敗は許されない。

いや、失敗などという言葉を最初から念頭に置くべきではないのだろう。

 

 だが人は不完全である。

 

まして私は触媒を持たない。

英雄を招くための縁を欠いたまま、この召喚に臨もうとしている。

常人なら無謀と呼ぶだろう。

だが――。

 

(私は遠坂凛。)

 

静かに己へ言い聞かせる。

 

(触媒がなくとも構わない。必ずセイバーを引き当てる)

 

それは願望ではない。宣言だった。

聖杯戦争において、サーヴァントとは剣であり盾であり、そして運命そのものである。

召喚の瞬間に勝敗の半ばは定まる。

ならば最優の席に座す者を求めるのは当然のことだった。

 

 セイバー。

 

数多の英霊の中でも最も完成された器。私が望むべきものは、それ以外にはない。

時計の長針が音もなく進む。

 

 やがて一時五十五分。

 

世界がわずかに息を潜めたように思えた。

私は床に描かれた魔法陣を見下ろす。

宝石。

惜しみなく魔力を注ぎ込んだ結晶たち。

長い年月をかけて蓄えた財産が、今夜のためだけに並べられている。

失うことを惜しむ気持ちはなかった。

勝利とは常に代償の上に築かれるものだからだ。

 

「――始めるわ」

 

魔術回路を開く。瞬間、血液の代わりに炎が流れ始めたかのような錯覚が全身を駆け抜けた。

魔力が溢れ出す。川が堤を破るように。

いや、それよりももっと暴力的に。

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公――」

 

詠唱は古き契約への呼びかけ。

言葉は鍵であり、法であり、世界への命令である。

 

「降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ――」

 

空気が震えた。部屋の温度が変わる。

見えない何かがこちらを振り返ったような気配。

額を汗が伝う。魔力が削られていく。

骨の髄まで吸い上げられるような感覚。

 

 だが止まらない。

 止めない。

 

「閉じろ。閉じろ。閉じろ。閉じろ。閉じろ――」

 

魔法陣が輝く。

まるで地上に落ちた星のように。

 

「繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する――」

 

光はなおも増していく。

世界と世界の境界が薄れていく。

そして。

 

「―告げる」

 

「汝の身は我が下に。我が命運は汝の剣に――」

 

風が荒れ狂う。窓が鳴る。

宝石が悲鳴を上げるように軋む。

 

「聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うならば応えよ――」

 

呼ぶ。

遥かな神代より、伝説の彼方より。

時の海を越えて。

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者。我は常世総ての悪を敷く者――」

 

光はもはや視界を埋め尽くしていた。

世界が白く染まる。

それでも私は叫ぶ。最後の一節を。

運命を定める最後の鍵を。

 

「汝、三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ――天秤の守り手よ!」

 

その瞬間だった。

光が爆ぜる。轟音はなかった。

だが世界そのものが一度だけ脈打ったように感じられた。

 

―来た。

 

私は理解した。これは理屈ではない。

確信だった。

召喚は成った。

そして――。

この光の中に立つ者こそ。

 

 私が求めた最優の剣である、と。

 

「――っ!」

 

光が消えた。

否、消えたのではない。

激しく輝いていたものが、ある瞬間を境に潮が引くように静まり返ったのである。

私は息を呑んだ。

開いた視界の先を見据える。

そこには。

 

「……え?」

 

思わず声が漏れた。

 

何もなかった。

 

魔法陣はある。魔力の残留もある。

召喚の余熱さえ残っている。

それなのに、肝心の英霊の姿だけが見当たらない。

 

空虚だった。あまりにも。

 

一瞬、自分が何を見ているのか理解できなかった。

まるで舞台の幕が上がったにもかかわらず、役者だけが現れなかったかのような異様さである。

 

 召喚に失敗した。

 

そんな考えが脳裏をよぎる。

だが私はすぐに首を振った。

ありえない。

失敗ではない。

そうであってはならないという意地ではなく、事実として違う。

右手を見ると、そこには鮮やかな紋様が刻まれていた。

 

 令呪。

 

聖杯が選んだ証。

紛れもなくマスターとなった者に与えられる印。

夢でも幻でもない。

さらに意識を澄ませば、見えない糸のような魔力の流れが感じられた。

どこかへ続いている。

 

確かに、契約は成立していた。ならばこの世のどこかに英霊は存在する。

少なくとも私と繋がっている。

 

「どういうこと……?」

 

問いかけても答える者はいない。

部屋は静まり返っていた。

つい先ほどまで荒れ狂っていた風さえ、何事もなかったかのように沈黙している。

その静寂がかえって不気味だった。

すると。

不意に轟音が響いた。

まるで何か巨大なものが落下したかのような衝撃。

屋敷全体が震え、窓硝子がかすかに鳴る。

私は弾かれたように顔を上げた。

 

「な、何!?」

 

音は上階からだった。

胸の奥がざわめく。

理由はわからない。

けれど、その音が今の異常と無関係であるとは思えなかった。

 

私は裾を翻し、階段へ向かって駆け出した。

まだ見ぬ何かに急き立てられるように。

 

 




これじゃあただのstay nightじゃないか...
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