Fate/atlantis:衛宮切嗣生存stay night   作:星P/すたーりん

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真に本編開始です。対戦よろしく!!


本編
運命の夜1


校門をくぐる。

登校してくる生徒たちが、まばらに昇降口へ吸い込まれていく。

朝の空気はまだ冷たく、吐く息がわずかに白い。

 

教室へ向かう。

昨日の放課後、一成から声を掛けられていた。

 

「なあ衛宮。明日の朝、少し生徒会室まで来てくれないか」

 

珍しく用件を言わなかったので、少しだけ気になっていた。

教室へ着き、鞄だけ机に置く。

そのまま踵を返し、生徒会室へ向かった。

 

「おや、これはこれは衛宮じゃないか。今日も生徒会の雑用かい?」

 

廊下で声を掛けてきたのは、間桐慎二だった。

 

「おい慎二。雑用って決めつけるなよ。それに、お前だって何かあれば手伝うんだから何でも言ってくれよ」

 

「...ふん。そういうお人好しなところだよ。衛宮、お前はいつか都合よく使われるようになるさ」

 

肩をすくめると、慎二はそのまま教室へ戻っていった。

……相変わらず口は悪い。

生徒会室の前に立ち、扉をノックする。

 

「入ってくれ」

 

聞き慣れた声に従い、中へ入る。

部屋の中央では、一人の男子生徒が書類に目を通していた。

制服は寸分の乱れもなく、背筋は真っ直ぐに伸びている。

 

生徒会長、柳洞一成。

 

俺に気付くと、書類から目を離した。

 

「おはよう、一成。用って何だったんだ?」

 

「うむ。実は生徒会室のヒーターが故障してしまってな。衛宮、お前なら修理できるかと思ったのだ」

 

「なんだ、そんなことか。任せとけ」

 

部屋の隅に置かれたヒーターへ近寄る。

 

「一成、すぐ終わるからちょっと出ておいてくれないか?」

 

「わかった。終わったら呼んでくれ」

 

一成が外に出た。

軽く息を吐き、意識を一点へ集中させた。

 

――同調、開始。

 

視界の奥で世界がほどける。

内部構造。

配線。

素材。

組み上げられるまでの工程。

一つずつ情報が頭へ流れ込んでくる。

 

――基本骨子、解明。

――構成材質、解明。

 

……なるほど。

断線しているだけだ。

 

「配線が一本切れてるだけだな。これならすぐ直る」

 

ーー全行程、完了

 

魔術を解除し、棚の上にあった工具箱を開く。

ドライバーで外装を取り外し、断線した箇所を繋ぎ直して絶縁テープで補強する。

 

もう一度、意識をヒーターへ向ける。

 

――同調、開始。

 

一度把握した構造をなぞるように、内部の情報が脳裏へ流れ込む。

……いや。

配線だけじゃない。

固定用のボルトの奥、目立たない箇所にも異常がある。

 

スパナを手に取り、慎重にボルトを外す。

案の定、その裏で配線が断線していた。

絶縁テープで補強し、部品を元通りに組み直す。

最後にもう一度、全体を確認する。

 

――異常なし。

 

ーー全行程、完了

 

魔術を解除し、電源を入れる。

小さな駆動音とともに、ヒーターが温かな風を吐き出した。

 

「よし。これで大丈夫だ」

 

その時、外から女性の声がした。

 

ーーこれは、遠坂......?

 

とりあえず、修理は終わったので呼びに行く。

 

「一成。修理、終わったぞ」

 

俺の声に、一成がこちらを振り向く。

 

「悪いな、衛宮。すべて任せてしまって」

 

「別に構わないさ。家でも爺さんの代わりにあれこれ直してるし、これくらいならすぐ終わる」

 

「そうか。助かった」

 

一成は小さく頷いた。

そのまま教室へ向かおうとして――足を止める。

さすがに挨拶くらいはしておくか。

 

「朝早いんだな、遠坂」

 

返事を聞く間もなく、教室へ入った。

 

 *

 

放課後。

帰る支度をしていると、また一成に呼び止められた。

 

「衛宮、今朝も頼んで悪いんだが、これを生徒会室へ持って行ってくれないか。どうしても外せない用があってな」

 

「ああ、もちろん任せてくれ」

 

「本当に恩に着る。いつか埋め合わせをしよう」

 

「いいって、そんなの。それじゃ、また明日な」

 

一成は軽く頭を下げると、そのまま廊下を足早に去っていった。

 

さて。

 

俺も行くとするか。

 

荷物を抱えて廊下に出たところで、ちょうど慎二と鉢合わせた。

女子生徒を何人も連れているあたり、相変わらず人気者らしい。

 

「おい、衛宮。朝の忠告をもう忘れたのか? お前はあいつにいいように使われてるだけだって、さっさと気付けよ」

 

少しだけ眉をひそめる。

 

「慎二。一成はそんなやつじゃない。それに、これは俺が好きでやってることだ」

 

「……衛宮、ほんとそういうところだよ」

 

慎二は呆れたように肩をすくめた。

 

「そんなに人助けがしたいってんなら、僕も助けてくれよ。道場の掃除がまだなんだ」

 

「でも、それは藤村先生が間桐先輩に頼んだんじゃ――」

 

「いいんだよ、そんなの。掃除なんて誰がやっても同じだろ?」

 

そう言って、慎二は悪びれもせず笑う。

 

……まったく。

 

理屈としては納得できない。

けれど、頼まれた以上、放っておくのも後味が悪い。

 

「わかったよ。これが終わったらすぐ行く」

 

「さすが衛宮。それじゃ、あとはよろしくね」

 

ひらひらと手を振って、慎二は女子生徒たちを連れて歩いていく。

 

「あ、あの……すみません」

 

その中の一人が、申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「いいよ。気にしなくて」

 

それで済む話だ。

彼女はほっとしたように笑うと、小走りで慎二たちのあとを追っていった。

 

今から俺がすることは、まずは生徒会室へ荷物を届ける。

そのあとで道場の掃除。

 

まだまだ帰れそうにないな。

 

 *

 

「ふう、これで完璧だな」

 

磨き終えた道場を見回す。

 

入ってきたときとは見違えるようだ。

これなら文句はない。

 

満足して外を見る。

いつの間にか、日はとっくに落ちていた。

 

「まずいな。出かけているとはいえ、早く帰らないと、爺さんに怒られる」

 

帰る支度を始めた、そのときだった。

 

――ドォン。

 

グラウンドのほうから、重い音が響いた。

 

「……なんだ?」

 

何かが落ちたような音。

こんな時間に部活でもやっているわけがない。

 

気になった。

 

気になってしまった以上、放ってはおけない。

気がつけば、足は音のしたほうへ向かっていた。

 

 *

 

グラウンドへ近づく。

すると今度は、金属同士が激しくぶつかり合う音が耳に届いた。

甲高い音。

剣道の竹刀なんかじゃない。

本物の鉄が打ち合わされる音だ。

 

「なんだ……?」

 

足を止める。

それでも、確かめずにはいられなかった。

物陰から、そっと様子をうかがう。

そして、息を呑んだ。

 

赤い外套の男。

その男が、青い装束の男と斬り結んでいた。

片方は剣。

もう片方は、長い槍。

 

あり得ない。

 

人間の動きじゃない。

踏み込みも、速度も、腕力も。

どれを取っても常識の外だ。

 

――なんだ、あれ。

 

言葉にならない。

目の前の光景を理解することを、頭が拒んでいる。

 

青い男の槍が閃く。

赤い男の肩を貫く。

 

勝負がついた。

そう思った。

 

だが次の瞬間。

赤い男の手に、いつの間にか二本の剣があった。

そのまま青い男の腹を切り裂いた。

 

「……っ!」

 

頭が痛い。

ズキリ、と脳の奥を刺すような痛み。

 

なんだ、この頭痛は。

 

まるで

 

――それを見るな。

 

そう言われているような頭痛。

 

二人は距離を取る。

何か言葉を交わしているようだった。

けれど、ここまでは聞こえない。

 

その直後、青い男の雰囲気が一変した。

 

ぞくり、と背筋が凍る。

 

殺気。

 

それだけで、全身が硬直した。

 

――逃げろ。

 

考えるより先に、体が動く。

駆け出した、その瞬間。

 

「誰だ!」

 

鋭い声が夜に響いた。

 

しまった。

 

足元の小枝を踏んだ。

乾いた音が、静かな夜には致命的だった。

振り返る余裕なんてない。

俺はただ、夢中で校舎へ駆け込んだ。

 

二階へ駆け上がる。

そこで、思わず後ろを振り返った。

誰もいない。

 

――そう思った。

 

「……がっ!」

 

衝撃。

 

胸が熱い。

 

何が起きたのか理解するより先に、体から力が抜けた。

視線を落とす。

胸から、赤い槍の穂先が突き出ていた。

 

「悪いな、坊主」

 

すぐ後ろで、男の声がする。

 

「これも必要な犠牲ってやつさ。ま、運が悪かったと思って諦めな」

 

青い装束の男は、それだけ言い残すと闇へ溶けるように姿を消した。

 

槍が引き抜かれる。

 

激痛。

 

声にならない悲鳴が喉で潰れた。

 

「……あ……」

 

息ができない。

胸から溢れる血が、床を赤く染めていく。

 

立っていられない。

膝が折れ、そのまま冷たい床へ倒れ込んだ。

 

視界が滲む。

暗い。

寒い。

 

――死ぬ。

 

そんな言葉だけが、ぼんやりと頭をよぎった。

そのとき

 

「……なんだって……」

 

かすかな声。

誰かが話している。

 

「……こんな時間に……」

 

聞き取れない。

声は少しずつ近づいてくる。

 

助けを呼ばないと。

 

そう思ったのに、口は動かなかった。

意識が遠のく。

暗闇が、ゆっくりとすべてを飲み込んでいった。

 

 *

 

 

「……ハッ!」

 

ガバリと身を起こす。

 

ズキン、と全身に痛みが走る。とりわけ胸――心臓の辺りが焼けるように痛む。

 

「……ぐっ」

 

窓枠に手をつき、ふらつきながら立ち上がる。

 

「う、ぐああああっ!」

 

体の中をかき混ぜられるような感覚に襲われる。

とにかく気持ちが悪い。

 

「帰ら……ないと……」

 

足取りもおぼつかないまま、ゆっくりと校舎を後にした。

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