Fate/atlantis:衛宮切嗣生存stay night   作:星P/すたーりん

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邂逅

二人は向かい合ったまま、ぴたりと動きを止めた。

 

「お、おい……。一体、何なんだよ」

 

爺さんへ問い掛ける。

返事はない。

少女も同じだった。

まるで、その一角だけ時間が止まってしまったような静寂。

 

「あー……そろそろ、いいか?」

 

間延びした声が土蔵の入口から響く。

その声でようやく現実に引き戻された。

 

そうだ。

 

俺は、あの青い男に殺されかけていたんだ。

 

「――っ!」

 

少女も同時に気付いたらしい。

一歩前へ踏み出し、見えない剣を構える。

 

「マスター、下がっていてください」

 

その声音には迷いがない。

 

「あれは……ランサーか」

 

爺さんが低く呟き、俺の肩へ静かに手を置いた。

 

「ラ、ランサー……?」

 

耳慣れない単語だった。

さっきから二人の言葉は何一つ理解できない。

 

「……見ていなさい、士郎」

 

静かな声だった。

けれど、その一言だけで俺は言葉を失う。

 

「これが——聖杯戦争だ」

 

「聖杯……戦争……?」

 

——聖杯。

キリスト教に伝わる聖遺物。

あらゆる願いを叶えるとされ、騎士王が生涯をかけて追い求めたという伝説すら残る代物。

 

その名と、戦争という言葉がどうして結び付く。

考える暇もない。

 

「……キリツグ。癪ですが、マスターをお願いします」

 

少女はそう言い残すと、身を翻した。

 

「——っ!」

 

止める間もなかった。

風を切るように土蔵を飛び出していく。

 

「待——!」

 

痛みも忘れて立ち上がる。

 

「士郎!」

 

爺さんの制止が聞こえた気がした。

それでも足は止まらない。

放っておけるわけがない。

あんな男を相手にするには、彼女の身体はあまりにも華奢に見えた。

 

「やめ——」

 

最後まで叫ぶことはできなかった。

——甲高い音が、夜を切り裂く。

 

「な……」

 

息を呑む。

思考が止まる。

月明かりが雲へ隠れ、庭は再び闇に沈む。

 

その闇の中で、火花だけが幾度も咲いた。

鋼と鋼がぶつかり合う。

 

距離が開いたかと思えば、次の瞬間には互いの間合いへ踏み込んでいる。

速すぎる。

目で追える速さじゃない。

 

「あ……」

 

ようやく漏れた声は、自分でも情けないほど小さかった。

なんとあの少女は、青い槍兵と互角に斬り結んでいた。

……いや。

そう見えたのは最初だけだった。

少しずつだが、青い槍兵が押され始めている。

 

「くっ!」

 

青い影が跳ぶ。

次の瞬間には火花。

気付けば二人の位置が逆になっている。

 

セイバーの持つもの、あれはおそらく剣だ。

ランサーの槍からまた火花が散る。

 

「卑怯者め、自らの武器を隠すとは何事か......!」

 

セイバーはそんな問いを気にするそぶりも見せず、さらに剣技を加える。

 

「テメェ......!」

 

ランサーは防戦一方だった。

セイバーにも隙はない。

何発か槍で弾くと、ランサーは距離を取った。

 

「もう降参ですか、ランサー」

 

挑発するように言うが、セイバーは警戒を解かない。

 

「そんなわけねえだろ。勝負はこれからだぜ」

 

ランサーも構えを止めることはしない。

そのまま数秒見合う。

セイバーが口を開いた。

 

「どうしたランサー。止まっていては槍兵の名が泣こう。そちらが来ないのなら、私が行くが」

 

「.....は、わざわざ死にに来るか。それは構わんが、その前に一つだけ訊かせろ。貴様の宝具——それは剣か?」

 

ぎらり、と相手の心を射抜く視線を向ける。

 

「さあどうかな。戦斧かも知れぬし、槍剣かも知れぬ。いや、もしや弓か

も知れんぞ、ランサー?」

 

「けっ!何をいうか剣使い」

 

ランサーはそれが余程面白かったのか高笑いした。

 

そしてランサーの構えが変わる。

俺は、あの構えを知っている。

数時間前、夜の校庭で行われた戦い。

その最後を飾る筈だった、必殺の一撃を。

 

「......ついでにもう一つ訊くがな。お互い初見だしよ、ここらで分けって気はないか?」

 

「悪い話じゃないだろう?そら、あそこで惚けているオマエのマスターは使い物にならんし、オレのマスターとて姿をさらせねえ大腑抜けときた。

ここはお互い、万全の状態になるまで勝負を持ち越した方が好ましいんだが一」

 

「断る。貴方はここで倒れろ、ランサー」

 

「そうかよ。ったく、こっちは元々様子見が目的だったんだぜ?サーヴァントが出たとあっちゃ長居する気は無かったんだが——」

 

「......じゃあな。その心臓、貰い受ける——」

 

獣が地を蹴る。

まるでコマ飛び、ランサーはそれこそ瞬間移動のように

少女の目前に現れ、

その槍を、彼女の足下めがけて繰り出した。

 

「———」

 

それは、俺から見てもあまりに下策だった。

あからさまに下段に下げた槍で、さらに足下を狙うなど少女に通じる筈がない。

事実、彼女はそれを飛び越えながらランサーを斬り伏せようと前に出る。

 

その、瞬間。

 

「——刺し寄づ」

 

それ自体が強力な魔力を帯びる言葉と共に、

 

「——死棘の槍——!」

 

下段に放たれた槍は、少女の心臓に迸っていた。

 

「——っ!宝具か......!」

 

セイバーが守りの姿勢に入る。

 

「もう遅え!くらいやがれ」

 

直後赤い一閃が少女の心臓向かって突進した。

セイバーはそれを間一髪で避けた。

だが、その槍は有り得ない方向へ軌道を曲げた。

 

「なっ!」

 

そのままセイバーを目指して突っ込んだ。

そして槍が突き刺さる。

 

「ぐっ......!」

 

そのままセイバーが土蔵の壁に衝突した。

しかし、なんとか体勢を立て直す。

 

彼女の左胸辺りから血が出ていた。

それを見てランサーの顔が強張る。

 

「一躱したなセイバー。我が必殺の一撃を」

 

地の底から響く声。

セイバーはあの瞬間、予知めいた勘で軌道を逸らしていた。

 

「っ......!?ゲイ・ボルク......御身はアイルランドの光の御子かーー!」

 

ランサーの顔が曇る。

 

「はあ......だからこれが必殺でなけりゃいけないんだがなぁ」

 

ランサーがもう一度同じ構えをとる。

 

「ならここからは隠す必要もねえな!」

 

セイバーも構えを解かない。

来る—

さっきのあれが。

今のセイバーは傷を負っている。

こんな状態は避けられないだろう。

 

だが、セイバーの構えは変わらない。

どうにかできないか。

いくら俺たちと違う存在だったって相手は少女だ。

それに、もう目の前で人が死ぬのはごめんだ。

俺が飛び出そうとしたその時

不意に、ランサーが構えを解いた。

 

「己の正体を知られた以上、どちらかが消えるまでやりあ

うのがサーヴァントのセオリーだが......あいにくうちの届い主は臆病者でな。槍が躱されたのなら帰ってこい、なんてぬかしやがる」

 

「逃げるのか、ランサー」

 

「ああ、勝負はお預けだ。追ってくるのは勝手だぜ?だが、その時は決死の覚悟でこい」

 

トン、という跳躍。

ランサーは家の塀を飛び越え外へと駆けて行った。

 

「待て、ランサー!」

 

セイバーが追おうとしたが、さっきの傷の影響かよろけてしまった。

 

「お、おい!」

 

俺は側へ寄った。

 

「すみません、マスター。ランサーを逃してしまった」

 

少女は謝るように言った。

 

「ランサーを逃したって......そんな傷じゃ戦えないだろ!」

 

そう叫びかけて、言葉が止まる。

傷が——ない。

血痕だけを残し、左胸の裂傷は跡形もなく消えていた。

そして少女も立ち上がる。

その時。

 

「......士郎。セイバーを連れてこっちへきなさい。これは秘密にしておこうかと思っていたが、どうやら話さなくてはいけなくなったらしい」

 

爺さんはいつにもなく神妙な顔つきだった。

俺はセイバーと呼ばれる少女を見た。

 

「......行きましょうマスター」

 

一瞬だけ、その表情に険が宿る。

睨むような、恨むような目だった。

 

その時セイバーが不意に外を見る。

そして、構えを取った。

 

「外に二人、まだ敵がいます。先にそちらを片付けましょう」

 

セイバーが塀を飛び越える。

 

「待て、セイバー!」

 

俺もそれを追いかけるように門へ向かって駆け出した。

爺さんは来ていなかった。

 

「どこだあいつ.......!」

 

周囲を見渡していると、セイバーと赤い外套をつけた、あいつがいた。

グラウンドでさっきのやつとやりあってたあいつだ。

 

そしてセイバーが今にもそいつを斬り伏せようとしていた。

 

「やめろ!セイバー!」

 

左手の令呪が光る。

その瞬間、セイバーの動きが止まった。

 

「ま、マスター.......!」

 

良かった。どうやら止まってくれたようだ。

だがその瞬間、見てしまった。

 

赤い外套の男とその隣に立つ少女。

赤い上着に赤いリボン。

月明かりに照らされた黒髪を見た瞬間、思考が止まる。

 

「……遠坂?」




次回切嗣大活躍!
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