「うへぇ……。やっと、やっと帰ってきたよぉ……。やっぱり、おじさんにはアビドスのこの何にもない静けさが、一番性に合ってるね……」
ガタゴトと頼りない音を立てて走り続けた列車がアビドス駅に滑り込んだ頃、周囲はすっかり黄金色から深い群青色へと染まり、日が沈みかけた黄昏時に包まれていた
改札を抜け、駅舎の外へ一歩踏み出すと、肌を刺すような冷たい砂交じりの風がホシノのボサボサの髪を優しく揺らす
ゲヘナの、あの息が詰まるほどの喧騒と近代的なビル群が嘘のように静まり返った、廃墟同然の馴染み深い街並み
その寂寥感が、今のホシノにはかえって心地よく、一日中張り詰めていた肩の力をようやく抜くことができた
「さてと……。お家に帰る前に、最後に学校に寄って白子ちゃんの仏壇を綺麗にしてあげよっかな。買っておいたお菓子もお供えして……ワンちゃんにお菓子って本当は良くないんだっけ? でもまぁ、お供え物だし、おじさんの気持ちが大事だよね。それが終わったら、今日こそ早くお布団に潜り込んで、泥のように眠るんだ……」
ホシノは両手を頭の後ろで組み、自分のショットガンの重みを心地よく感じながら、ぽつりぽつりと独り言を呟きつつ歩き始めた
お昼の模擬戦や移動の疲れで足取りは重いが、心はどこか落ち着きを取り戻しつつあった。
人影など微塵もない、崩れかけたコンクリートの建物が不気味に並ぶ薄暗い路地裏。いつも通りの寂れたアビドスの、いつも通りの静寂――そのはずだった
「せ、セリカちゃん! もうやめようよ! どう見てもこれ、怪しすぎるってば! 早く帰ろうよ!」
「ん?」
突如、すぐ近くの薄暗い入り組んだ路地裏の隙間から、アビドスの静寂を鋭く引き裂くような、若い少女の悲鳴に近い切羽詰まった声が響き渡っ
ホシノは瞬時に歩みを止め、気の抜けていた瞳を獣のように鋭く細める。いつもの締まりのない表情から、一気に戦場を見見据える冷徹な実戦の顔へと切り替わる
気配を完全に殺し、背負った銃のストラップにそっと手を添えながら、声の主たちがいる薄暗い路地裏の角へと無音で足を進め、物陰からそっとその様子を覗き込んだ
そこには、薄暗い路地のゴミ溜めに挟まれるようにして、実に対照的で奇妙な三人組が対峙していた
「何言ってるのよ、アヤネちゃん! 簡単にお金が増えるかもしれないのよ! 今を逃したら、二度と手に入らないかもしれないのよ!?」
「それ、詐欺の典型的なセリフだよーっ!!」
必死な形相でまくし立てているのは、小柄で、頭に可愛らしい黒い猫耳を生やしたツインテールの女の子――セリカだった。掴んだ掴みどころのない夢を離したくないとばかりに身を乗り出している
そんな彼女の制服の腕を、同じく黒色の髪に知性的な眼鏡をかけた、いかにも真面目そうな女の子――アヤネが、半ば涙目になりながら全力の力で引っ張って引き止めようとしていた
そして、その二人の対面に立っているのは、薄汚れたパーカーに身を包み、不気味な髑髏のマークが描かれた鉄製のヘルメットを被った少女だった
「ふふふ、お姉ちゃん、そこの眼鏡の暗い子の言うことなんて気にしちゃダメだよ? その通り、今を逃したら、この『金運アップ間違いなし・アビドス復興約束お守り』は二度と手に入らない。これさえあれば宝くじも大当たりの、我が組織の最高傑作。今なら特別価格、たったの5万クレジットで譲ってあげるって言ってるんだからさぁ」
ヘルメット団の少女が、ニヤニヤとした下劣な笑みを浮かべながら、いかにも安っぽい、赤のフエルト生地に金色のペンで「金」と殴り書きされた手作りの巾着袋を目の前でひらひらと揺らしている
(んー……。見た感じ、まだ中学生くらいの子たちかな? そんな子をターゲットにして詐欺をするなんて、アビドスの治安も本当に悪すぎるよ……。にしても、うへぇ……。なにあの怪しすぎるお守り。小学生の図工の工作でも、もうちょっとマシなもの作るよ? 接着剤がはみ出て糸引いてるの丸わかりじゃん。あんなあからさまな詐欺に本気で引っかかりそうになるなんて、あの猫耳の子、すっごくチョロいというか……素直で純粋な子なんだねぇ)
ホシノは物陰からその様子を観察しながら、呆れたように小さくため息をつき、おでこにそっと手を当てた
「そんな怪しいお守り、絶対に要りません! セリカちゃん、お願いだから目を覚まして! 完全に詐欺だってば! さあ、帰りますよ!」
「ちょっと待ちなさいよアヤネちゃん! もしこれが必要経費だったらどうするのよ!?」
「必要経費なわけないでしょう!?」
アヤネが強い口調で遮り、セリカの細い体をグイと引っ張ってヘルメット団から力ずくで引き剥がそうとする
その頑なな抵抗に、それまで「物分かりの良い親切な商人」を演じていたヘルメット団の表情が一変した。苛立ちを隠そうともせず、ちっと激しい舌打ちの音が薄暗い路地裏に苦々しく響く
「……ちっ、おいコラ。黙って聞いてりゃ、ガキのくせにピーピーと外野がうるせえんだよ!」
「な、何よこいつ……急に態度変えて……!?」
先ほどまでの猫なで声とは打って変わり、地を動かすような不機嫌極まりない怒声
ヘルメット団の少女は腰のホルダーから無造作に黒光りするサブマシンガンを引き抜くと、銃口を空へと向け、引き金を思い切り引いた
ダダダダンッ!!!
激しい連続した銃声がコンクリートの壁に反響し、火花と共に削れた壁の破片がパラパラと薄暗い路地に降り注ぐ。銃撃の熱い匂いが一気に立ち込めた
その激しい轟音に一瞬だけ肩をすくませたものの、猫耳の少女――セリカの瞳に宿ったのは、恐怖ではなく、燃え盛るような激しい怒りだった
「詐欺だったのね……! 私の純粋なアビドスを想う気持ちを弄んで、アビドスをバカにして……絶対に許さないんだから!!」
「だから言ったじゃないですかセリカちゃん……! もう、本当に頑固なんだから! でも、やるしかないですね!」
そう叫びながら、セリカは怒りの形相で背中に背負っていたアサルトライフルを素早く手元へと引き寄せ、流れるような動作でチャージングハンドルを引く
アヤネは震える手でカバンから戦術支援用の通信端末を取り出して、必死にキーを叩いて電子マップを起動しようとする
しかし、その防衛行動の速さに、ヘルメット団のリーダーもすぐに警戒を強めて銃口をしっかりと二人へと突きつけた
「おい! 誰が勝手に武器を持って動いていいって言った! 動くのはなぁ、お前らの財布から、全財産がこっちのポッケに移動する時だけだ!」
物陰からその様子をつぶさに観察していたホシノは、ヘルメットを被った少女のあまりにもテンプレ通りな三下風の脅し文句に、思わず心の中で再び額に手を当てた
(うへぇ……。なんというか、ものすごい小物臭が漂ってくるなぁ、あの子……。台詞の端々から知性の欠如を感じるよ。ちょっとかわいそうになってきちゃうね)
ホシノは苦笑いしながら、左腕に馴染んだ盾の重みを確認し、愛用のショットガンのセーフティを親指でカチリと静かに解除した
不意を突いて一気に距離を詰め、この路地裏ごと一瞬で制圧してしまおうと腰を浮かせ、突撃のタイミングを計る
だが、ホシノが動くよりも早く、セリカたちの威勢の良い声が再び路地裏に力強く響き渡った
「うるさいわね! あんたみたいな犯罪者に差し上げるお金なんて、一クレジットだって残ってないわよ!」
「そ、そうです! 私たちは一歩も引きませんから! 不当な暴力には屈しません!」
(お、おお……?)
飛び出そうとしていたホシノは、思わずその場に足を止め、踏みとどまった
てっきり、初めて実戦の荒々しい銃声を聞いたセリカたちが、恐怖で腰を抜かして泣き出してしまうのではないかと心配していたのだ。しかし、アヤネこそ少しだけ膝を震わせて怯えているものの、その言葉には確かな強い意志があり、セリカに至ってはヘルメット団の銃口を真っ向から睨みつけ、一切の怯えも見せていない
(最近の中学生は、なかなか肝が据わっててやるねぇ……。うん、おじさん感心しちゃうな。見直したよ。でも――)
「チッ、生意気なガキどもが……! 手間かけさせやがって! おい、お前ら、物陰で燻ってねえでさっさと出てきてこいつらを取り押さえろ! 痛い目見せてやりな!」
リーダーが苛立たしげに上空へ左手を掲げて合図を送る。その瞬間、路地裏を囲むひび割れたコンクリートの塀の裏や、錆びついた非常階段の影から、ガサガサと複数の無遠慮な足音が湧き上がった
「きゃっ!? ど、どこから出てきてるのよ、こいつら! 包囲されてる!?」
セリカが周囲を見回して驚愕の声を上げる
アビドスの静かな夕闇に紛れるようにして潜んでいた、髑髏のヘルメットを被った少女たちが次々と路地へ飛び出してくる
その数、瞬く間に増えておよそ10人以上
セリカとアヤネは、あっという間に完全な包囲網の中に立たされてしまった
「ひひっ、この人数だ! いくら銃を持ってようが、お前らみたいな中坊のヒヨッコじゃ、逆立ちしたって勝ち目なんてないんだよ! 大人しくお守りを10個買いな!」
形勢が完全に逆転したと確信したリーダーの少女が、いやらしく、勝ち誇ったように鼻で笑う。
圧倒的な戦力差。包囲され、退路を断たれた最悪の状況。それでもセリカは、その鋭い瞳でリーダーを、そして周囲のヘルメット団をキッと睨みつけ、決して銃口を下げようとはしなかった
指がトリガーにかかり、緊迫した空気が張り詰める
そんな健気で、同時に危うすぎる後輩たちの姿を、ホシノは微笑ましく、そして少しだけかつての自分たちを重ねるように悲しげに見つめた
そして、その小さな肩をすくめると、あえてその場の緊迫感を台無しにするような、どこか気の抜けた声を出しながら、物陰からゆっくりと歩み出た
「……そんな、まだ中学生の女の子たちを相手にさ。そのくらいの大人数で囲まないと勝てないなんて……。ちょっと、ヘルメットを被ってても恥ずかしいと思わないのかなぁ?」
「あぁ!? 誰だテメェは! どっから湧いて出た!」
静かな路地裏に響いた、異質なまでに穏やかでマイペースな声
ヘルメット団の全員が驚き、焦った様子で一斉に声の方向――ゆっくりと歩いてくるホシノへと銃口を向けた
ホシノはいつも通りのへにゃりとした眠たげな笑みを浮かべ、片手で愛用のショットガンを使い古された肩に担ぎながら、緊張感のカケラもなく歩いてくる
「そこにいる君たちは、本当に強いね。このヘルメットを被った子たちなんかより、ずっとずっと立派だよ。おじさん、見てて感動しちゃった」
ホシノはセリカとアヤネに目を向け、優しく瞳を細めた
突然現れた、ピンク色の上品な長い髪に左右で色の違う瞳を持つ不思議な上級生に、二人は武器を構えたまま呆気に取られる
「あ、あなたは……? 」
アヤネが困惑しながら尋ねる。そんな彼女の純粋な疑問に、ホシノは「うへへ」といつもの気の抜けた笑い声を漏らした
「んー……。そうだねぇ、アビドスの治安をのんびり守る、ただの通りすがりのおじさん、って覚えてもらえると嬉しいかなー」
「お、おじさん……?(どこからどう見ても、ちっちゃくて可愛い女の子じゃないの……!?)」
セリカが心の中で激しくツッコミを入れ、二人が完全に困惑の表情を浮かべる中、完全に蚊帳の外に置かれたヘルメット団のリーダーは、こめかみに青筋を立てて怒り狂った
その挑発的な態度と、自分たちを完全に「格下の手間のかかる子供」扱いするホシノの余裕が、彼女のささやかな自尊心を激しく逆なでしたのだ。
「おい、テメェ!! ふざけたこと抜かしてんじゃねえぞ! こっちは10人以上いるんだ! そんな細腕で、この人数をたった一人で相手にできると本気で思ってんのかよ! なめやがって!」
銃口を一斉に向けられ、数に囲まれても、ホシノの「にへら」とした笑みは微塵も揺らがない。それどころか、その瞳の奥に揺らいでいた、先ほどまでユメの病室やゲヘナ駅で見せていた感傷的な光は一瞬にして消え去った
代わりに、かつて「暁のホルス」として裏社会に恐れられた頃の冷徹で圧倒的な輝きが、静かに、そして鋭く宿り始める
「てめえら、まとめて蜂の巣にしちまえーー!!」
リーダーのヒステリックな絶叫を合図に、周囲を取り囲んでいたヘルメット団が一斉に引き金を引き、無数の銃弾を撃ち始めた
路地裏の狭い空間に、鼓膜を激しく震わせる銃声が幾重にも重なって反響する。火花が激しく散り、コンクリートの壁が粉々に砕けて飛び散る。しかし、ホシノはあくびでも噛み殺すかのように退屈そうな表情のまま、巨大な戦術シールドを体の前にガチリと構えた
カンカンカンカンッ!!!と、凄まじい金属音が響く。ホシノの構える盾は、数十発の突撃銃の弾丸をその頑丈な表面で完璧に弾き返した
ホシノは一切の無駄のない鋭い足運びで、激しい弾幕を正面から受け流しながら、獲物を見据える肉食獣のような速度で一気に突進を開始した
「うへぇ、当たらないよ〜っと!」
「えっ、うそ、突っ込んでく――ぎぇっ!?」
ホシノがシールドを構えたまま弾丸のごとく踏み込むと、最前線にいたヘルメット団の一人が、まるでダンプカーに真っ正面から撥ねられたかのように盾の衝撃で一撃で吹き飛ばされ、背後の崩れかけたレンガの壁に激突して昏倒した
ホシノはその勢いと慣性を利用して、流れるような動作で背中からショットガンを引き抜く
ズドンッ!!!
爆音と共に放たれた容赦のない散弾が、至近距離にいた2人の武器を正確に撃ち砕き、その衝撃で相手をまとめて後方のゴミ集積所へと叩き伏せた
重たい金属製のシールドをまるで羽毛のように軽々と振り回し、敵の銃撃をすべて盾の裏に遮断しながら、もう片方の手のショットガンで丁寧に、冷酷なまでに効率よく一人ずつ無力化していく
「な、何あの人……!? 一人なのに、寄ってたかって銃を撃ちまくるヘルメット団を完全に圧倒してる……! 動きが見えない……!」
そのあまりにも次元の違う戦闘光景を、セリカはアサルトライフルを構えたまま、ただ唖然として眺めながらぽつりと呟いた
自分たちが必死で立ち向かおうとしていた脅威が、嵐のような速度で片付けられていく
「私、思い出しました! あのスカートの刺繍と、胸につけている校章……。あの方、やっぱりアビドス高等学校の人です!」
隣でタブレット端末を抱え、呆然と見ていたアヤネが、弾かれたように叫び声を上げた
「アビドス高校って……! 私たちが来年、進学しようって志望してるところじゃない! あんな化け物みたいな人が本当に在籍してるの!?」
「はい! そしてあの巨大なシールドと、恐ろしく強力なショットガン……そして、あの綺麗なピンク色の長髪! 間違いありません、あの人は小鳥遊ホシノ先輩です!」
「小鳥遊ホシノ……あの、アビドスで一番有名で、一番凶暴だって噂の、あの小鳥遊ホシノ先輩!? 一人きりで、この廃墟だらけの広大なアビドス管区の治安を全部守ってるっていう……」
「絶対にそうですよ! まさか、こんな路地裏で本物の伝説の戦闘を見られるなんて……!」
二人が興奮と驚愕の入り混じった会話を交わしている間にも、路地裏からは「ごふっ!」「うげっ!」と、ヘルメット団の悲惨な断末魔が響き渡る
一人、また一人と、ホシノのシールドバッシュと精密極まる接射によって泥の中に叩き伏せられ、次々と白目を剥いて気絶していった
気づけば、立っているのはヘルメット団のリーダーの少女、ただ一人になっていた
「きゅう……」と、床に転がった部下たちが白煙を上げながら気絶している
「な、な、なんだよてめえ……!? 化け物かよ!? 人間じゃねえ!」
リーダーはガタガタと膝を震わせ、引きつった顔でサブマシンガンをホシノに向けるが、その手は目に見えて激しく震えていた
ホシノはショットガンを片手で器用にクルリと回し、にへらと気の抜けた笑みを深める
「うへ〜、ひどいなー……。おじさん、これでも一応、か弱くて可憐な女子高生2年生なんだよ? 傷つきやすいお年頃なんだから」
「この人数を一人でボコボコにしておいて、か弱いの定義が通るわけあるか、このゴリラ女ぁぁ!!」
「はいはい、おじさんをゴリラ呼ばわりする悪い子は、お仕置きだよ〜」
「ぐぇっ!?」
ホシノが一瞬にして間合いを詰めると、リーダーの少女の顎の下からシールドの底面が滑り込むようにぶち当てられた
リーダーはそのまま綺麗な放物線を描いて宙を舞い、地面に叩きつけられて完全に沈黙した
「おしまいっと。ふぅ……いい運動になっちゃった。これに懲りたら詐欺は辞めようね」
(この子達、詐欺はしてるけど学校には手を出さなそうだし、これくらいで許してあげるか。キリがないしね)
ホシノは慣れた手つきでショットガンのセーフティをかけると、背中のスリングに収め、愛用の巨大な盾を手際よく片付けた。そして、髪をパタパタと手で払うと、いつもの穏やかな顔に戻って、呆然と立ち尽くすセリカとアヤネの元へと歩み寄った
「さてと……。そこの可愛いお二人さん、怪我はなかった? びっくりさせちゃってごめんね」
「は、はい! ホシノ先輩が来てくれたお陰で、私たちは無傷です!」
アヤネは目をこれ以上ないほどキラキラと輝かせると、大急ぎで駆け寄ってきて、ホシノの小さな両手をぎゅっと熱烈に握りしめた
「わわっ!? お、おじさんの名前、知ってるの?」
ホシノが目を丸くして少し照れくさそうに頭を掻く
「当然です! アビドス地区に住んでいて、先輩の名前を知らない人なんていませんよ! 一人で莫大な借金を背負いながら、この広大な自治区の裏組織を片っ端から壊滅させまくっている、伝説のすごい先輩なんですから!」
「そうよ! ……まさか、アビドスを一人で守り抜く伝説の死神が、こんなにちっちゃくて、ゆるキャラみたいに気の抜けた人だったなんて思わなかったけどね」
セリカが腕を組み、ツンとした態度を崩さないまま、それでもどこか尊敬の眼差しを隠しきれずにホシノをじっと見つめる
「ち、小さいとか、ゆるキャラとかは余計だよ! というかおじさん、いつの間にそんな不穏で怪しい呼ばれ方されてるのかなぁ!? 死神って誰が言い出したのさ!」
ホシノが本気でショックを受けたように頬を膨らませてジタバタと抗議すると、路地裏に張り詰めていた硝煙の空気が一気に霧散し、セリカとアヤネは顔を見合わせて楽しそうに声を上げて笑った
そんな二人の曇りのない笑顔を見つめているうちに、ホシノも「もう……」と困ったように眉を下げ、少し恥ずかしそうに頬を掻きながらにへらと笑う
先ほどまでゲヘナ駅で胸を覆っていた重苦しい孤独感が、この二人の無邪気な笑い声によって、驚くほど綺麗に洗い流されていくようだった
「それより、本当に助かりました、ホシノ先輩。セリカちゃん、最近になって貯金とか、とにかくお金を貯めることにすっごく躍起になっていて……。その焦りのせいで、こういう怪しい詐欺にすぐ引っかかりそうになっちゃうんです」
アヤネがやれやれと眼鏡を押し上げながら告げ口すると、セリカは即座に顔を真っ赤にして、まるで威嚇する子猫のように猫耳を逆立てた
「う、うるさいわよアヤネちゃん! それに、私はただアビドスの膨大な借金を少しでも無くすために、自分にできることを必死に頑張ってるだけなんだから、いいでしょ!」
「アビドスの、借金……? どうして君たちがそんなことを気にするの?」
セリカの口から飛び出した「アビドスの借金」という重苦しい単語に、ホシノは不思議そうに首を傾げた
目の前にいる少女たちは、まだアビドス高校の生徒ですらない。ただでさえ大人でも逃げ出すような絶望的な額の借金を、まだ中学生の彼女たちがそこまで切実に背負い込もうとする理由が、ホシノにはどうしても分からなかった
すると、何故か当のセリカではなく、隣に立つアヤネが誇らしげに胸を張って答えた
「セリカちゃんはですね、もちろん私もなんですけど、アビドスの街が本当に大好きなんです。だから、アビドスの為に頑張ってるホシノ先輩をただ見ているだけじゃなくて、何か少しでも街の力になりたいって、去年からずっと二人で話し合って言ってたんですよ」
「わぁぁ! ア、アヤネちゃん、それ以上言わないで! 本人の前で改めて言われると、すっごく恥ずかしいじゃないの!」
セリカは顔を耳の先まで真っ赤に染め、大慌てでアヤネの口を手で塞ごうとする
「あはは! セリカちゃん、照れてるのすっごく可愛いです!」
「照れてなんか、ないわよ! もうっ!」
砂ぼこりの舞う薄暗い路地裏で、ポカポカとアヤネの肩を軽く叩いて抗議するセリカと、それを身をかわしながら嬉しそうに避けるアヤネ。二人の間に流れる、お互いを深く信頼し合っている空気は、見ているこちらまで心が温かくなるものだった
その眩しい様子を静かに見つめながら、ホシノの唇から自然と温かい笑みがこぼれ落ちる
「うへ、二人は本当に仲良しなんだね」
「はい♪ 何と言っても、私たちの通っているアビドス中学校、今や生徒が私たち二人しかいませんので……。毎日一緒にいるうちに、自然と何でも話せる親友になったんです」
「ええ。最初の頃は、アヤネちゃんが真面目すぎて何を話していいのか分からなかったけどね……。あっ、そういえば、まだちゃんとした自己紹介がまだだったわね」
セリカはコホンと一つ咳払いをすると、ツインテールを揺らしながら、姿勢を正して真っ直ぐにホシノを見つめた
「アビドス中学校3年の、黒見セリカよ。来年からは、憧れのアビドス高校に通うつもりなんだから。得意なのは……そうね、会計のお手伝いとかかしら? 数字の計算にはちょっと自信があるの」
「同じくアビドス中学校3年の、奥空アヤネです。私は、物事のスケジュールを管理したり、予定を立てたりするのが得意です。来年、セリカちゃんと一緒にアビドス高校に進学して、ホシノ先輩の力になりたいと思っています!」
二人の真っ直ぐな、一点の曇りもない決意に満ちた言葉
それを聞いた瞬間、ホシノの胸の奥に、言葉では言い表せないほどの愛おしさと喜びが爆発するように込み上げてきた
「おおぉ……! つまりは、おじさんの可愛い後輩ちゃんになるんだね! まだちょっと気が早いけど……アビドス高校へようこそ!」
「わっ……!? 先輩!?」
「ちょ、ちょっと! 恥ずかしいわよ、急に何するのよ!」
嬉しさを抑えきれなくなったホシノは、短い悲鳴を上げる二人を、両手を大きく広げて勢いよく抱きしめた
アビドスの制服から香る、どこか懐かしい砂と日向の匂い。その温もりを全身で受け止めながら、ホシノは二人の頭を愛おしそうに撫回す
「うへへ……ごめんごめん、嬉しすぎてつい体が動いちゃった。もう知ってるかもしれないけれど、おじさんはアビドス高校2年の小鳥遊ホシノだよ。これから、よろしくね」
ホシノが腕を解いてにっこりと笑いかけると、セリカとアヤネは一瞬だけ驚いたように顔を見合わせ、それから弾けるような笑顔で声を揃えた
「「よろしくお願いします、ホシノ先輩!」」
「うん、元気があってとってもいいね〜。おじさん、君たちみたいな可愛い後輩なら、いつでも大歓迎だよ〜」
ホシノが目を細めて満足そうに頷いていると、アヤネがふと、前々から抱いていた素朴な疑問を口にするように小首を傾げた
「……あの、そういえば、ずっと気になっていたんですけど……。ホシノ先輩は、どうしてご自身のことを『おじさん』って呼ぶんですか?」
「あ、それ! 私もずっと気になってたのよ。伝説の死神とか言われてるのに、自称がおじさんって、どういうことなの?」
セリカも我が意を得たりとばかりに身を乗り出し、興味津々といった様子でホシノの顔を覗き込んできた
「うへぇ……。そ、それはねぇ……?」
「それは……?」
二人のきらきらとした、純粋な好奇心に満ちた瞳が、じっとホシノの一点に向けられる
(ううう、うへぇぇぇぇ……! なにこの目! キラキラしすぎて眩しい、眩しすぎるよー!)
これまでに出会ったことのない、全く別種類の純粋無垢なエネルギーに、ホシノは内心で本気でのけぞりそうになっていた
現在一緒に活動しているノノミは、年下でありながらどこか包容力のある、母性を感じさせるような温かい目線を向けてくる。シロコからは、この二人と同じように「ホシノ先輩!」と慕うような真っ直ぐな視線を受け止めたことはあるが、このセリカとアヤネの向けてくる目は、未来への希望と先輩への無条件の憧れがダイレクトに詰まった、また異なる強烈な輝きを放っていた
(どうしよう……。ここで普通に理由を言ったら、絶対に引かれるよね。入学前の大事な後輩ちゃんたちに、少しは格好いい先輩だと思われたい気持ちもあるんだけど……。でも、今ここで無理に格好つけて、入学後に『なんだ、ただの怠け者じゃん』って落差で冷たい目を向けられるくらいなら、今ここで引かれておいた方がまだダメージが浅いのでは……!?)
ホシノの脳内では、かつてないほどの高速演算がぐるぐると駆け巡り、様々な言い訳と妥協案が浮かんでは消えていく
冷や汗を流しながら葛藤すること数十秒、ホシノはついに諦めたように深く一息を吐き出すと、観念したように視線を泳がせた
「……な、なんとなく、かなぁ……?」
「「…………」」
アビドスの夕暮れの路地裏に、痛いほどの沈黙が流れた
(ほらーーー! やっぱりぃぃぃ!!! おじさんのバカバカ! もっとマシな嘘はつけなかったの!?)
セリカとアヤネの二人から、一瞬にしてきらきらとした光が消え去り、「え? なんとなくでおじさん?」という深い困惑の眼差しと、「期待して損したわ」という何とも言えない温度感の、じっとりとした冷たい視線がホシノへと容赦なく突き刺さる
「……まぁ、ホシノ先輩がそう言うなら、そういうことにしておくわ」
「そうですね……。深く追求しない方がいいタイプの内容だったのかもしれません」
「うへぇ、二人とも、その生暖かい目で見るのはやめておくれよ〜!」
呆れたようにため息をつく未来の後輩たちに、ホシノはタジタジになりながらも、その胸の中は今日一番の温かい光で満たされていた
あんな風に遠慮もなく、けれど確かな信頼を寄せて笑い合える関係
それこそが、かつて自分とユメが夢見ながらも、途中で手放さざるを得なかったアビドスの「日常」の縮図そのもののようだったからだ
「……あ、そろそろおじさん、本当に帰らないとまずいかも」
ふと夜風の冷たさに首をすくめ、ホシノが頭上の夜空を見上げると、いつの間にか太陽は地平線の彼方へと完全に沈み、辺りは濃密な夜の帳に包まれた
錆びついた街灯がパチパチと頼りない音を立てて明かりを灯し、砂漠の境界線特有の、急速に気温が低下していく夜の冷気が路地裏を支配し始めている
「そうね、私たちも早く帰らないと。暗くなったら、またこいつらみたいな質の悪い連中がうろつき始めるもの。本当に、アビドスの治安はどうなってるのかしら」
セリカがツインテールを揺らしながら、足元で完全に目を回して「きゅう……」とうめいているヘルメット団のリーダーを、忌々しげに見下ろした
その表情にはまだ少し尖ったところがあるものの、先ほどまでの恐怖や焦燥感はすっかり消え去っている
「それでは、ホシノ先輩! 改めまして、来年からどうぞよろしくお願いします!」
アヤネが丁寧にもう一度、眼鏡の位置を直しながら深く頭を下げた
セリカも少し気恥ずかしそうにしながらも、「じゃあね、先輩。風邪引かないようにしなさいよ!」と不器用な気遣いを残していく
二人は街灯が比較的多く、安全な大通りへと向かって、お互いの肩を寄せ合うようにして歩いていった
遠ざかっていく二人の小さな背中を、ホシノは夜闇の中でじっと見つめていた。その姿が完全に角を曲がって見えなくなったのを確認すると、深く息を吐き出し、帰るべき場所であるアビドス高等学校の本校舎へと向けて足を向けた
♢
「うへぇ……。随分と遅くなっちゃったなぁ……。おじさん、もう体力の限界をとうに迎えてるよ……」
静まり返ったアビドス高校の校舎に辿り着いた頃には、夜の静寂が建物の隅々にまで染み渡っていた
誰もいない暗い昇降口で、カチカチと寒さに震える指先を動かしながら下駄箱で上履きに履き替える
その瞬間、一日中砂漠を歩き、模擬戦を行い、ゲヘナまで往復した疲労が一気に押し寄せ、ホシノは心底疲れ切った表情を浮かべて大きく肩を落とした
重くなった足取りを引きずるようにして、暗い廊下を歩いていく。かつて生徒会室として使われていた部屋の横を通り過ぎ、さらに奥の、普段は誰も立ち入らせない隔離された空き教室へと向かう
「……ん? あれ……?」
目的の扉の前にたどり着いたホシノは、違和感に足を止め、不意に首を傾げた
目的の扉の前にたどり着いたホシノは、違和感に足を止め、不意に首を傾げた
月明かりだけが差し込む薄暗い廊下、その古びた木製の扉の前。埃を被った床の上に、何故か小さな花束が、丁寧に包まれた状態で静かに置かれていたのだ
夜の底のような闇の中で、気品ある紫色の色彩を放つ「トルコキキョウ」、それに寄り添うように清廉に咲く「白菊」、そしてそれらを静かに支える「ハシバミの枝」
その3本が美しく調和し、冷たい空気の中に静かに佇んでいた
「……なんで、こんなところに花が……?」
ホシノは顔をしかめ、警戒心を宿らせながらその花束をそっと持ち上げた。しかし、茎の周りや包み紙を確認しても、怪しい仕掛けや爆発物の類などあるはずもなく、それはどこからどう見ても、ただ優しさに満ちた一本ずつの美しい花と枝だった。まるで、かつてアビドスで共に過ごし、今はもういない愛犬の「白子」へ向けられたかのように
「……白子の存在を知っているのは、対策委員会の中だとノノミちゃんくらいのはずだし……。でも、おじさん、この部屋の正確な場所まではノノミちゃんにも伝えてないはずだよね。一体誰が……。うへへ、まぁ、いいや。深く考えるのはおじさんの性に合わないしね」
頭の隅で、ふと、唯一ここで白子と遊んだゲヘナの風紀委員長――ヒナの顔がよぎったが、「まさか、ヒナちゃんがこんな時間のアビドスに来るわけないよね」とすぐに頭の中で打ち消した
鍵穴に鍵を差し込み、カチャリと静かな音を立てて扉を開ける。暗闇に包まれた室内の壁をなぞり、主電源のスイッチを入れると、古びた蛍光灯がパチパチと音を立てて、部屋の全貌を白く照らし出した
明るくなった教室の真ん中には、ピンク色に塗装された小さな仏壇と、その中央に飾られた、楽しそうに笑う一匹の白い犬――「白子」の写真が、変わらぬ佇まいでホシノを出迎えてくれた
「遅くなってごめんね、白子。今日はいろんなことがあってさ……。おじさん、ちょっと予定を詰め込みすぎちゃったよ」
ホシノは手元に持っていた紫のトルコキキョウ、白菊、ハシバミの枝を一度机の上に置くと、手慣れた様子で仏壇の前に跪き、小さなハンカチで薄く積もった埃を丁寧に払い落とした。それから、小さな器に入った古い餌と水を捨て、新しく持参した新鮮なものへと取り替えていく
「うん。今日も綺麗になったかな」
商店街のお土産屋で一緒に買っておいた素朴なお菓子を、写真の前にそっと供える。それから、手元に残った花束を見つめ、少しだけ視線を彷徨わせた
「……これも、一緒に飾ろうか。せっかく届いたんだからね」
誰が置いたのか、どんな目的でここを突き止めたのかは分からない。けれど、アビドス高校の敷地内に忍び込みながらも、器物破損も泥棒もせず、ただこの部屋の前に花だけを置いて去っていったのだ。きっと、白子の冥福を心から祈ってくれる、悪い人ではないはずだ
ホシノは紫のトルコキキョウと白菊、そしてハシバミの枝を写真のすぐ隣にある小さな花瓶へと丁寧に挿し、線香に火をつけた。細い灰色の煙がまっすぐに立ち上り、部屋の中に特有の厳かな香りが広がり始める
仏壇の横に置かれた金属製のお鈴を、小さな棒で静かに叩いた
チーン――
澄んだ、どこまでも高い金属音が、静まり返った無人の教室の中に波紋のように広がっていく。ホシノはそのままそっと目を閉じ、胸の前で両手を合わせ、深く祈りを捧げた
「……白子。私ね……自分が今、本当に最低なことをしてるっていう自覚はあるんだよ」
手を合わせたままで、ホシノの唇から、昼間の明るい時間には決して誰にも見せることのない、ドロドロとした本音が漏れ出した
「シロコちゃん……。あのちっちゃくて記憶喪失だったあの子を保護して、一緒に過ごすようになってから、もうそろそろ1年が経つよ。……おじさんね、あの子を見るたびに、どうしても君の名前を呼ぶ時の感覚や、君の面影を重ね続けちゃうんだ。こんなこと、シロコちゃんに対しても、逝ってしまった君に対しても、本当に失礼で、最低な裏切りだって分かってるはずなのに……」
合わせられた両手に、ぎゅっと力がこもる
「……そんなシロコちゃんもさ、いつの間にかおじさんの元を離れて、一人で生活を完璧にこなせるようになってるんだ。ノノミちゃんもすっかりアビドスに馴染んで、最近だとシロコちゃんとの連携もピッタリで、今日の模擬戦なんておじさん、本当にやられちゃうかと思ったくらいなんだよ」
ホシノの言葉が、自嘲気味に震え始める
「……あはは。結局、成長してないのは私だけなんだよね。ずっと、頭の中では『白子とシロコちゃんは違う存在だ』って必死に線を引いて考えていたはずなのに……。いざ、あの子が自立して、私の手が必要なくなって、こうして夜に一人きりになると、どうしようもないくらい寂しくて……。また私のせいで、シロコちゃんまで居なくなってしまうんじゃないかなって……。そんなことばかり考えて、最近、全然眠れなくなっちゃうんだ」
線香の煙が、ホシノの視界を白く曇らせていく
その煙の向こうに、かつて失ったユメの笑顔と、冷たくなっていった白子の温もりが、代わる代わる現れては消える
「それでね、時々……本当に時々だけど、考えちゃうんだ。あの時、私がもっとしっかりしていれば。敵の罠に気づいて、油断なんかしなければ、君は死なずに済んだのにって。……いや、そもそも、私がこのアビドスに最初から来なければ、何もかも上手くいってたんじゃないかってさ」
一度決壊した心の堰は、もう止らなかった。神仏への祈りではなく、それは自らの存在理由を否定するような、暗い独白だった
言葉を吐き出す度にズキズキと胸が痛む。まるで心のヒビから流れ出る黒い感情をせき止めるように、ホシノは胸を強く押さえた
「……私の選んできた道って……本当に正しかったのかな。私がいなければ、白子、君だって今も生きて、ユメ先輩だって元気に笑ってアビドスを卒業してただろうし……。残されたこの学校だって、シロコちゃんやノノミちゃんが、ちゃんと二人で手を取り合って引き受けてくれたはずなんだ。それに……今日出会ったアヤネちゃんやセリカちゃんも、まだ中学生なのにすっごくしっかりしてるから、きっとシロコちゃんたちのことを、側でちゃんと支えてくれる……」
ホシノは、ゆっくりと目をあける
視線の先にある線香は、いつの間にか半分以上が燃え尽きて、灰となって崩れ落ちていた
静寂だけが、彼女の言葉を飲み込んでいく
「……ごめんね、白子。命日なのに、こんな変なことばっかり言って。私、やっぱりちょっと疲れが出ちゃったみたい」
ホシノはいつものように「にへら」と締まりのない笑みを浮かべた。けれど、その瞳の端には、滲み出そうになる深い悲しみと涙を必死に堪え、仮面の下に押し殺したような、痛々しい歪みが混ざっていた
「また、来るよ。今度はもっと明るい話題持ってね」
ホシノはそう言い残し、優しく白子の写真に背を向けて、教室の電気を消した
暗転した部屋の扉が静かに閉まり、カチャリと鍵がかけられた金属音が寂しく廊下に響く。パタパタと、上履きが床を叩くホシノの足音が、暗い校舎の奥へと少しずつ、少しずつ遠ざかり、やがてアビドスの完全な夜の静寂の中に消えていった
一体誰がどんな意味を込めてこの花を送ったのでしょうか…