白子とシロコ   作:気弱

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偽りの言葉と語られる真実の愛

皮膚を刺すような、身を切るほどの凍てつく寒さの中で、少女は冷たく暗い意識の海からゆっくりと浮上した

 

まぶたを持ち上げたとき、彼女は自分がどこにいるのかすら分からない見知らぬ景色の中に立っていた

 

視界の端から端まで見渡しても、どこまでも広がる死の砂漠と、砂を巻き上げる冷たい風ばかりが吹き荒れている

 

自分が一体何者なのか

 

なぜこんな寒風吹きすさぶ果てのない場所に、たった一人で放り出されているのか

 

その理由すら、頭の中をいくら探しても何一つ思い出せなかった

 

身に纏っているのは、夜の寒さを防ぐにはあまりにも頼りない1枚の薄いシャツだけ

 

ただ、なぜか右手に吸い付くようにしっかりと握りしめられていた一丁のアサルトライフルの冷たい重みと、そして自身の記憶の底にポツリと残されていた「名前」だけが、かろうじて脳裏に刻まれていた

 

自分が誰で、どこから来たのか……記憶の糸を手繰り寄せることすらできぬまま、彼女はまるで自我を持たないゾンビのように、ただひたすら冷たい砂の上を彷徨い歩き続けた

 

 

お腹が、すいた

 

 

寒い

 

 

凍えて、手足の感覚がなくなっていく

 

 

このまま、私は誰にも知られることもなく、この誰もいない砂の海で凍え死んでしまうのだろうか

 

『……』

 

どれほどの時間、あてもなく歩き続けただろうか。朦朧とする意識の中でふと顔を上げると、目の前には吹き荒れる冷たい風を遮るように、古びた校舎の影がぽつりとそびえ立っていた

 

人の気配や明かりは一切感じられない

 

だが、今の彼女にはそんなことを気にする余裕など一滴も残されていなかった

 

せめて今夜のこの寒さを凌ぎ、身を寄せる屋根だけでも確保できなければ――

 

………

 

 

それからどれだけの時間が流れたのか、彼女にはもう分からなかった

 

冷たい床の上でいつの間にか意識を失っていたらしく、気がつくと周囲はすっかり暗闇に包まれ、気温はさらに下がっていた

 

(ぐぅぅぅ……)

 

空腹を告げる無情な音が、静まり返った夜の廃校舎に虚しく響く。お腹が、絞り出されるように痛むほど空いていた

 

少女が冷え切ったお腹を両手でギュッと押さえつけ、酷い飢えと寒さに必死で耐えていると、不意に遠くの廊下の闇から、カサリ、カサリと足音が聞こえてきた

 

(いったい誰だろう……こんな場所に……)

 

少女は息を殺して身を潜め、柱の暗がりからそっと廊下を窺った

 

そこには、桃色の長い髪を後ろで一つに綺麗にまとめ、首元にはいかにも暖かそうな厚手のマフラーを巻きつけた一人の少女が歩いていた

 

少女は乾ききった喉の奥で、ゴクリと生唾を飲み込む

 

遠目から見た限り、相手の体格も大きくはない。お世辞にも強そうには見えなかった

 

しかも、近づいてくるその歩き方はどこか力なくフラフラとしていて、ずっと視線を落とし、うつむいたままだった

 

少女は震える指先で、手に持っていたアサルトライフルのグリップをぎゅっと力任せに握りしめる

 

自分が何者なのかも、過去の思い出も何一つ分からない……

 

だけど、こんな虚しい寒さと飢えの中で、みすみす野良犬のように死んでいくのだけは絶対に嫌だ

 

だから――目の前を歩くあの人から、生きるためのすべてを奪うんだ

 

………

 

 

――負けた

 

 

勝負は、一瞬の出来事だった

 

完璧な死角からタイミングを測り、命がけの不意打ちを仕掛けたはずだった

 

しかし相手は、まるで背中に目でもついているかのように軽々とその攻撃を回避し、気づいた時には硬いアスファルトの地面へと鮮やかに叩きつけられていた

 

それでも負けじと、少女は野生の獣のように唸り声を上げ、泥臭く獲物へと飛びかかった。しかし、その華奢で小柄な見た目からはまったく想像もつかないほどの底知れない武力を前に、相手に傷一つすら負わせることもできず、少女は再び冷たい地べたへと叩き伏せられた

 

『……ごめんね。久しぶりの手加減だったからさ、ちょっと力の調整が上手くいかなくて……痛かったかな?』

 

目の前に立つ少女は、あんなにも圧倒的で絶望的な強さを誇りながら、自分に対して気遣うような謝罪の言葉を口にしている

 

どうやら彼女は、これでも自分を殺さないように手加減をしてくれていたらしい

 

……私では、もうどうあがいてもこの人には勝てない

 

きっと、このまま襲撃の報いとして殺されてしまうんだ

 

冷たい地面に横たわり、静かに死を覚悟した。しかし、目の前の少女は怒るどころか、どこか優しげで今にも泣き出しそうな瞳のまま、自分がいったい誰なのかと静かに問いかけてきた

 

もはや拒絶したり隠したりする気力もなく、少女は掠れた声で正直に答えた

 

『……分からない』

 

『学校も、家も、過去も……何も……ない。……ただ、寒くて……お腹がすいて……だから、襲った。奪う、ために……私が、生きる、ために……』

 

こんな惨めで身勝手な身の上話を聞かせて、いったい何になるというのだろう。私はあなたに銃を向け、命と糧を奪おうとした侵略者だというのに

 

それなのに、彼女は――

 

『……そう、なんだ』

 

なぜ、そんなにも胸を痛めるような、深く哀しそうな目をして私を見つめるのだろう

 

『……ねえ、君。名前はなんていうの?』

 

『……シロコ。……砂狼、シロコ』

 

記憶の中で、唯一消えずに残っていたその名を口にした瞬間、目の前の少女はハッと息を呑み、驚いたように目を大きく見開いた

 

そしてそれと同時に、どこか切なく、胸が締め付けられるような耐えがたい悲しい表情を浮かべたように見えた

 

しばらくの間、少女は夜風に吹かれながら何かを深く考え込むように沈黙していたが、やがてゆっくりと、口を開いた

 

『……もし、行くあてがないならさ。……この学校の、生徒に……ならない?』

 

そう言って彼女は、自分の首に巻いていた、ぬくもりの残る暖かなマフラーをゆっくりと外し、冷え切っていた少女の首元へと優しく巻いてくれた

 

 

――暖かい

 

 

それは、ただ毛糸のもふもふとした物理的な暖かさだけではなかった。凍えきっていた体の芯から……そして、なぜか胸の奥のずっと深い、孤独だった場所までが、じんわりと温かく満たされていくようなホッとする感覚に包まれていく

 

『……私の名前は小鳥遊ホシノ。今日からよろしくね、シロコちゃん』

 

『……ん』

 

ホシノが差し出したその小さな右手を、少女はそっと、零れ落ちないように両手で強く握り返す

 

繋ぎ合わせた手の平から、今度は言葉にできないほどの温もりが、次から次へと胸の奥へ溢れてきたのだった

 

♢

 

「ん……っ」

 

 

シロコが瞼をそっと開けると、そこには見慣れたはずのアビドス高校のグラウンドが広がっていた

 

しかし、気を失うまでの夜の暗闇と静寂はどこにもなく、水平線の彼方から差し込んできた朝日の柔らかい光が、白く乾いた地面を少しずつ淡い橙色に染め上げ始めている

 

冷たい早朝の風が吹き抜ける中、シロコの瞳に真っ先に映ったのは、目の前の広大なグラウンドに惨惨と横たわる異様な光景だった

 

複数の機体――アヤネが丹精込めて組み上げた『雨雲号』が、外装を凄まじい衝撃で破砕され、内部のフレームを露出させた黒焦げの残骸となって、無惨にグラウンドの各所に転がっていたのだ

 

「夢……」

 

身を切るような冷え切った朝の空気の中に、シロコは小さな呟きをそっと溶かした

 

意識を失っている間に頭の中に流れ込んできたのは、過去の記憶の残像

 

何も持たず、自分が誰かも分からずにこの過酷な砂漠世界に初めて目覚めた時から、吹き荒れる砂塵の中で小鳥遊ホシノという一人の少女と運命的な出会いを果たすまでの、遠い日の記憶の断片

 

あの寒風が吹きすさぶ校舎での温かな出会いがあったからこそ、ただあてもなく砂漠を彷徨うだけの名もなき亡霊だった自分は、今こうして生きる意味を知り、仲間の温もりを知る「アビドス対策委員会」の生徒として、ここに存在できている

 

「っ……!」

 

その思考に達した瞬間、先ほどまで朦朧としていた頭の芯が一気にクリアに冴え渡り、同時に容赦のない残酷な現実が津波のように押し寄せてくる

 

そうだ。自分は一人で危険な大人たちの待つ場所へと向かおうとするホシノを、自らの武力をもって力づくでも止めようとしたのだった

 

しかし、その結末は惨敗だった

 

この2年間で重ねてきた模擬戦のデータとホシノの細かな癖を泥臭く研究し尽くし、奇策に奇策を重ねて一時はホシノを追い詰めたものの、最後は覚悟を決めた「アビドス最強」の圧倒的な実力差の前に、一方的にねじ伏せられてしまったのだ

 

そして――何よりも、シロコの胸を抉り続けているもの

 

『……私はね、シロコちゃんのことを、一度だって本当の意味で愛したことなんてないよ。君のことはただの……失ったあの子の穴埋めをするための『代わり』の身代わりとしてしか、最初から見てなかったんだ』

 

気を失う直前、ホシノが己の存在価値のすべてを冷たく粉砕するように放った、あの拒絶の言葉

 

自分の命の恩人で、孤独だった自分に居場所をくれ、これまでの辛くも温かくて楽しいかけがえのない生活のすべてを与えてくれたホシノからの、あまりにも残酷な真実

 

その記憶が脳裏に鮮烈に蘇るだけで、シロコの心臓は激しい痛みを伴って早鐘を打ち、激しい息苦しさに耐えかねて、彼女は思わず両手で自分の制服の胸元をぎゅっと強く抑え込んだ

 

呼吸が浅くなり、涙で視界が歪みそうになる

 

「あっ、シロコ先輩……! 体の方はもう大丈夫なの……!?」

 

不意に頭上から降ってきた声に、まだ全身のあちこちがジンジンと痛む身体を無理やり動かして振り返ると、そこには同じように制服や顔のあちこちに黒い煤がこびりつき、髪を乱したボロボロの姿のセリカが立っていた

 

手には小さなドライバーとスパナを握りしめ、眉を下げて心底心配そうにこちらを覗き込んでいる

 

「……ん」

 

「よかった……。大きな骨折や外傷もなさそうだし、意識もしっかりしてるわね……本当に良かった……」

 

セリカは安堵の息を吐き出すと、手に持っていた工具を制服のポケットに突っ込み、その場に力なくしゃがみ込んだ

 

シロコは掠れた声で、喉の奥から絞り出すように尋ねる

 

「……ホシノ先輩は……?」

 

シロコのその問いかけを聞いた瞬間、セリカの表情がキュッと硬直し、悲しげに目を伏せると、小さく首を横に振った。

 

「……行っちゃったわ……。シロコ先輩が倒れた後、アヤネちゃんが雨雲号を4機も出動させて本気で止めようとしたんだけど……ダメだった。そのまま、一人で……駅の方へ……」

 

「そっか……」

 

セリカのその言葉を聞いた瞬間、シロコは深く追及することもなく、再びスッと視線を足元の冷たい土の上へと落とした

 

静まり返った広大なグラウンドの真ん中で、二人の間に気まずく、そして絶望を含んだ冷たい空気が重く澱むように流れていく

 

風が黒焦げになった雨雲号の残骸を撫で、金属の軋む音だけが虚しく響いていた

 

「……そういえば、アヤネは?」

 

ふと、辺りを見回しながら思い出したかのようにシロコがポツリと呟くと、セリカは困ったような、どこか苦々しい自嘲気味の笑みを浮かべた

 

「アヤネちゃんのことだけど、私やシロコ先輩以上に本気でホシノ先輩に怒り狂って止めようとしたの。

 

でも、私たちじゃシロコ先輩みたいにホシノ先輩に一矢報いることすらできなくて……あっという間に雨雲号を全滅させられちゃってさ。

 

その自分の無力さと悔しさからか……戦いで破壊された雨雲号の残骸を目の前にしてね

 

『じっとして、ただ悔しがってるなんて絶対に耐えられません』って言って、シロコ先輩が目を覚ますまで、ずっと夢中で機体の修理をしながら身体を動かしているのよ」

 

セリカの言葉に促されるように耳を澄ませてみると、確かに少し離れた手前の残骸の影から、カチカチ、金属を叩くカンカンという細かな作業音が途切れることなく響いてきていた

 

悲しみや絶望に呑み込まれないよう、アヤネは機械に向き合うことで必死に己の心を繋ぎ止めているのだと分かった

 

「アヤネちゃーん! シロコ先輩が目を覚ましたわよ! いったん手を止めて戻ってきて!」

 

セリカが両手を口元に当て、大きく声を張り上げて呼ぶと、少し間を置いて「はーい! 今行きます!」と、少し裏返った声で返事が返ってきた

 

やがて、セリカと同じように制服のあちこちを汚し、額に汗と黒い煤をつけたアヤネが、工具箱を抱えながら足早に駆け寄ってくる

 

アヤネはシロコの無事な姿を確認すると、眼鏡の奥の瞳をうるませて深く胸を撫で下ろした

 

三人はそれ以上、ホシノが去り際に残した酷い言葉や、自分たちの敗北についての言葉を交わすことはなかった

 

言葉にすれば、今にも心が完全に折れて砕け散ってしまいそうだったからだ

 

彼女たちはただ肩を寄せ合うようにして、グラウンドの冷たい土の上に並んで腰を下ろした

 

そして、薄っすらと明るくなってきた東の空――冷たい砂漠の果てから太陽が昇り始め、世界を赤く染め上げていく方向を、ただぼんやりと見つめ続けていた

 

「……これから、私たちはいったい、どうしたらいいのかな……」

 

ホシノの圧倒的な力には敵わなかった

 

そして……何よりも、ずっと隠されていたはずの衝撃的な過去と秘密を冷たく突きつけられ、自分はホシノにとってただの『亡き犬の身代わり』でしかなかったのだと突き放された

 

そのどうしようもない悔しさと、胸を鋭くえぐられるような惨めな痛みに耐えかねて、シロコは小さく膝を抱え込み、砂粒の混じるアスファルトを見つめたまま消え入りそうな声で呟いた

 

「シロコ先輩……」

 

アヤネが何か温かい言葉をかけて慰めようと、悲しげにそっと手を差し伸べた、まさにその瞬間だった

 

「おーい!! みんな、無事かいっ!」

 

朝靄の広がるグラウンドの静けさを一瞬で切り裂くように、校門の正門の方向から必死に自分たちの名前を呼ぶ、どこか聞き覚えのある声が響き渡った

 

ハッと顔を上げると、そこにいたのは、額や首筋にびっしりと汗を流しながら、必死の形相でこちらへ向かって走ってくる先生の姿だった

 

三人は思わず反射的に立ち上がり、吸い寄せられるように駆け足で先生の方へと向かう

 

先生は三人の目の前までたどり着くと、両膝に手をつき、荒い呼吸を整えようと何度も肩を上下させて大きく息を吐き出した

 

「ふう……っ、はぁ……流石に、少し運動不足がたたったかな……体力が持たないよ……」

 

「せ、先生……!? 病院から抜け出してきたの!? もう体調は大丈夫!?」

 

セリカが心配の色を隠せないまま、慌てて声を荒げて先生の顔を覗き込む

 

先生は困ったような笑みを浮かべて後頭部をかいた

 

「うん、みんなが手配してくれた処置のおかげで、なんとか動けるくらいにはね。……それよりも、ノノミやホシノの姿が見当たらないけど……二人はどうしたんだい? 一体ここで何があったの?」

 

先生がグラウンドに転がる『雨雲号』の無惨な黒焦げの残骸と、満身創痍の三人の姿を見渡し、眉をひそめる

 

「それが……っ!」

 

アヤネが震える唇を固く噛み締めながら、昨夜から今朝方にかけて起きた出来事の経緯を、先生に事細かに、涙ぐみながら説明し始めた

 

ノノミがネフティスの執事によって、対策委員会を縛り付けるための人質として連れ去られてしまったこと

 

そして、その報せを受けたホシノが、単身ですべての裏切りと過酷な運命を背負ってノノミを助け出し、総会を破砕しに行こうとしたこと

 

それを阻止するため、自分たち三人が総出で、全戦力を注ぎ込んで力ずくでも止めようとしたものの、見事なまでに返り討ちにされてしまったこと――

 

すべてを聞き終えた先生は、険しい表情で固く腕を組み、深く考え込むように長い沈黙を守った

 

「うーん……また、ホシノが悪い癖を出して完全に暴走しちゃったんだね……」

 

「はい……今回のは、前回のカイザーとの一件の時よりもさらに覚悟が固まっていて……私たちの言葉や制止なんて、最初から聞き入れる気なんて全くなかったんです……」

 

アヤネの切羽詰まった声を聞きながら、先生はさらに深刻そうな、悲痛な色の混じった曇った表情を浮かべるのだった

 

「……きっと、何か事情や、ホシノ一人では抱え込み切れないほどのあまりにも酷で重い荷物があったんだろう……。あの子は、大切なものを守るためなら、自分をどこまでも擦り減らしてしまうから」

 

地面からゆっくりと身体を起こして立ち上がった先生は、どこか遠くの砂漠の地平線を見つめるような静かな目でそう呟いた

 

「先生……これから私たちは、どう動けばいいと思う? ホシノ先輩はもう、遠くまで行っちゃったし……」

 

抱えきれない不安を拭いきれないようにセリカが尋ねると、先生はわずかに思考を巡らせたのち、三人の目を順番にしっかりと見つめ返して力強く頷いた

 

「……私たちに残された選択肢は限られている。まずは、総会が開かれる会場へ私たちも直ちに向かい、捕らわれているノノミを必ず助け出そう。ノノミを取り戻せば、ネフティスの思い通りにはさせないで済む」

 

「そうですね……! 確かに、ノノミ先輩が囚われたままでいる以上、私たちがここで立ち止まって泣き言を言っていても何も始まらないですよね!」

 

アヤネがぐっと涙を拭い、しっかりと眼鏡の位置を直しながら、力強い決意を込めた声で同意する

 

「それじゃあみんな、昨夜からの過酷な戦闘や雨雲号の修理で疲労が限界まで溜まっているとは思うが……10分で出発の支度を済ませられるかい?」

 

「はいっ!」

 

「勿論よ! 急いで準備してくるわ!」

 

セリカとアヤネは、先生の力強い言葉に励まされるように頼もしく返事をした。しかし、そのすぐ横で、シロコだけはその場から一歩も動けずに、ただ冷たい地面を見つめたまま固まっていた

 

「シロコ先輩、何してるのよ。早く装備を整えて、あのバカ先輩を追いかけて止めに行くわよ!」

 

セリカがシロコの背中を押そうと、その冷え切った細い手をぎゅっと強く握りしめた、その瞬間だった。

 

シロコは弾かれたように、セリカの手を力強く振り払った

 

「し、シロコ先輩……?」

 

セリカが驚愕に目を見開く。シロコは力なく首を振り、弱々しい声でぽつりと呟いた

 

「……私たちが今さらあの場に駆けつけても……どうしようもないんじゃないかな……。行くだけ……ホシノ先輩の邪魔になるだけかもしれない」

 

「……シロコ?」

 

いつもの冷静で、どんな絶望的な困難にも前向きに立ち向かう彼女らしからぬ、あまりにも弱々しく諦めきったその言葉に、先生は怪訝そうに首を傾げた

 

(ホシノ先輩は、本当に私たちのことを心の底からただの足手まとし、邪魔な存在にしか思ってないんだ……)

 

(大好きな先輩に……一度だって『砂狼シロコ』としての私を意識したことも、愛したことなんてないって言われた……)

 

もし、あれが自分たちを危険から遠ざけ、突き放すためだけに咄嗟に出た嘘や下手くそな演技だったのだとしたら、シロコはきっと泣きながらでも本気で怒り、ホシノを追いかけていただろう

 

しかし、もし本当に……かつて失われた大切な生徒会役員である子犬の『白子』の身代わり、その穴埋めをするためだけの無価値な道具としてしか自分を見ていなかったのだとしたら――

 

そう想像してしまった瞬間、シロコの胸の奥底にど黒い絶望と恐怖が渦巻き、ホシノの背中をこれ以上追いかけることへの強い拒絶感が襲いかかった

 

膝の力が一気に抜けそうになるほど、シロコの両足は激しく、惨めにも震え始めていたのだった

 

「……先生、ちょっといいですか……?」

 

静まり返った朝の空気の中、ただならぬシロコの様子を察知したアヤネが、そっと息を殺して先生の耳元へ歩み寄った。そして、先ほど立ち去り際にホシノの口から冷たく告げられた、あまりにも残酷な秘密と『身代わり』の事情を、震えるひそひそ声で小さく伝えた

 

アヤネの言葉を一口ずつ噛みしめ、事態の詳細を聞き進めるにつれて、先生の表情はみるみるうちに暗く沈み込み、激しい痛みを伴って曇りきっていった

 

「……そうか、白子のことを……ホシノ自身の口から直接、聞いてしまったんだね」

 

「えっ……!? せ、先生……その話、知っていたんですか……!?」

 

先生のその隠し切れない悲哀の籠もった反応に、セリカだけでなく、打ち明けたアヤネまでもが信じられないものを見るような驚愕の表情を浮かべる。

 

「……先生は、もしかして最初から……『白子』のことも、すべて知っていたの……?」

 

シロコが震える瞳で先生をまっすぐ見つめて尋ねた

 

先生は悲しげに視線を落とし、重く深く息を吐き出す

 

「……黙っていてごめん。ホシノから……特にシロコにだけは絶対に言わないようにと、固く口止めをされていたんだ……」

 

「……」

 

シロコはそれ以上、追求するような言葉を発さなかった

 

ただトボトボと、力のない足音を立てずに先生のすぐ目の前まで歩み寄ると、そのまま何の躊躇もなく、先生の胸元にギュッと頭と顔を強く押し付けた

 

「し、シロコ先輩っ……!?」

 

思いがけないその行動に、セリカとアヤネは少し頬を赤らめながらも、驚きのあまり目を見張った。

 

しかし、すぐに先生のシャツを掴むシロコの細い指先や、小さな肩と背中が震えていることに気づき、二人の表情は驚愕から耐えがたい切なさへと変わっていく

 

「……シロコ?」

 

何も言わずにただ必死に涙を堪え、震え続ける彼女の名前を、先生は包み込むような優しく穏やかな声で静かに呼びかけた

 

「やっぱり……私は……あの子の、ただの『代わり』でしかなかったんだ……っ!」

 

「!」

 

先生の胸元に、溢れ出た温かい涙の雫が染み込んでいくのが伝わってくる

 

ようやくゆっくりと顔を上げたシロコの瞳には、普段の冷静な姿など微塵も残されていなかった

 

そこにはただ、世界に一人取り残され、大好きな人に存在を拒絶されて深く傷つき、怯える行き場のない幼い少女の姿があった

 

シロコは、先生の先ほどの反応で残酷な事実を確信してしまったのだ。先生も、そして連れ去られたノノミも、ホシノの抱える過去の秘密をすべて知っていたのだと

 

普段は少しだらしなくて面倒くさがり屋なのに、いざという時は誰よりも頼りになり、自分と一緒に生活してたくさんの愛おしい思い出をくれた、まるで姉であり母親のようにも慕っていた小鳥遊ホシノ

 

そんな大好きなホシノが、自分にその真実をずっとひた隠しにし、最後の最後で「お前は代わりでしかなかった」と冷酷に突き放したということは――自分という人間は、本当にあの「白子」という幻影の穴埋めをするためだけの不必要な道具でしかなかったのだと、胸を抉られるように痛いほど思い知らされてしまったからだ

 

「私は……ホシノ先輩のことが、世界で一番……大好きだったのに……!! ……なのに、先輩は……私のことなんて、最初から一度もちゃんと見てくれていなかったんだ……っ!」

 

「……シロコ先輩」

 

これまでどんな苛烈な戦火の中でも一度たりとも弱音や涙を見せたことのないシロコの、今にも崩れ去ってしまいそうな儚い姿に、アヤネとセリカは完全に言葉を失った

 

胸が締め付けられるような息苦しさの中で、どう声をかけていいのかすら分からず立ち尽くすことしかできない。

 

一度堰を切ったようにこぼれ落ちてしまった言葉と溢れ出る感情は、まるで壊れてしまった蛇口のように止めどなく溢れ出し、朝露の降りる冷たい空気に虚しく消えていくのだった

 

「私があそこに行っても……どうせ先輩の邪魔になるだけ……それなら、私なんか……私なんて、最初から……」

 

「……シロコ」

 

自暴自棄になりかけ、自分自身の存在意義のすべてを投げ出そうとするシロコの震える言葉を遮るように、先生はしっかりと彼女の両肩に温かい手を置き、静かながらも芯の通った力強い声で呼びかけた

 

「……ホシノの抱えているあまりにも深く辛い事情を汲み取ろうとするあまり、結果として君にこんなにも酷い隠し事をしてしまったこと……本当にすまないと思っている」

 

「……」

 

「私も、すべての過去の出来事を最初から見ていたわけじゃない……。ノノミのように、『白子』がいた頃のアビドス生徒会の時代を直接目撃したわけでもないんだ」

 

「えっ……ノノミ先輩が……その子犬を実際に見たことがあるんですか……?」

 

先生の言葉に、アヤネが驚きのあまり眼鏡を直しつつ目を丸くして問いかけると、先生はゆっくりと深く頷き返した

 

「ああ。もっとも……当時はまだ、遠目から見かけた程度だったけれどね。

 

だから私は、ノノミほど当時の詳しい事情やホシノの繊細な心の動きをすべて把握しているわけではない。だけど……これだけは私の命にかけても自信を持って言える

 

君が今、自分で自分を傷つけるように思い込んでいるような冷酷で残酷な理由で、ホシノが君を愛していたなんてことは絶対にないよ」

 

「そんなこと……そんなことない……! だって先輩は、私に直言したんだよ……っ! その子の身代わりの……代わりなんだって……!!」

 

現実を受け入れたくない恐怖と、突きつけられた言葉への絶望から、シロコは泣きじゃくりながら反射的に先生の言葉を否定しようと激しく頭を振る。しかし、先生の穏やかで温かな声色は微塵も揺らがなかった

 

「……それなら、直接確かめに行こう」

 

「っ……」

 

その一切の迷いがない揺るぎない言葉に、シロコは喉まで出かかった悲鳴のような反論を飲み込み、息を呑んでその場で固まってしまった

 

「……で、でも……ホシノ先輩からは、あんなにもはっきりと……言われたのに……」

 

「もう一人、いるだろう? 私よりもずっと長くホシノの側に寄り添い、その秘密のすべてを温かく共有していて……そして何より、今こうして傷つき泣いているシロコに対して、隠し事なんて絶対にしない優しい子が」

 

「!」

 

先生のその言葉に、シロコの涙で潤んだ瞳が大きく見開かれる

 

「それって……ノノミのこと……?」

 

「ああ。それぞれに守るべき理由や事情があったからこれまで伏せられていたけれど……今の状況なら、あの当時から現在に至るまでの詳しい話をすべて話してくれるはずだ。

 

ホシノがどんな想いで君を拾い、どんな気持ちでこれまで一緒に笑い合い、過ごしてきたのかをね……

 

ここで、私の口から知っている限りの情報をすべて話すこともできるけれど……それではきっと、シロコの胸には本当の意味で届かないと思うんだ」

 

「……でも……もし、そこでも……ノノミに、ホシノ先輩と同じことを言われたら……私は……本当に……」

 

あの極限の状況下で、ホシノは自分たちを巻き込まないために冷酷な嘘をついたのかもしれない。だが、ホシノの暴走を止めるために必要な情報だと知ったノノミが、今さら自分を傷つけないための優しい嘘をつく理由などどこにもない

 

もしその場所で、ノノミの口から『実は本当に代わりだったの』と告げられたなら――きっと、シロコは二度と立ち上がることができなくなってしまうだろう

 

恐怖に怯え、小刻みに身を震わせるシロコの様子をそっと察した先生は、まるで冷え切った心を温めるように、彼女の背中を優しく撫で続けた

 

「大丈夫だ。私を信じて、シロコ」

 

その真っ直ぐで温かな言葉に促され、シロコはゆっくりと濡れた顔を上げて先生の瞳と目を合わせた

 

どこまでも誠実に向けられるその温かな眼差しを見つめていると、不思議なことに、初めてあの荒涼とした校舎でホシノと出会い、首元にぬくもりのあるマフラーを巻いてもらったあの日のような、どこかホッとする安心感が胸の奥底にじんわりと広がっていく

 

「……分かった」

 

凍りついていたシロコの心に、かすかな、しかし消えない希望の火が灯る

 

ホシノが自分のことを本当は見ていてくれなかったのではないかという恐怖や不安は、まだ完全に消え去ったわけではない

 

それでも、先生のまっすぐな目を見ていると、もう少しだけ、自分を信じて前を向けるような気がした

 

「ノノミを……ノノミ先輩を必ず助け出して……そして、ホシノ先輩の本当の気持ちを、自分の耳で確かめるんだ」

 

「うん。その強い光を宿した顔こそが、いつものシロコだよ」

 

「んっ……!」

 

先生はにっこりと柔らかく笑うと、シロコの頭をポンポンと優しく、慈しむように撫でた

 

ノノミやホシノの手つきとはまた違う、少し大きくて無骨で温かいその手のひらのぬくもりに、シロコは少し恥ずかしそうに頬を赤らめ、目を細める

 

「ちょっと先生! こんな緊迫した場面で2人だけの世界に入り込まないでよ……!」

 

「!!」

 

セリカの照れ隠しのような茶々を入れる鋭いツッコミに、シロコはハッと現実に引き戻され、慌てて照れくさそうに先生の胸元から離れて顔を背けた

 

「それじゃあみんな、行くよ! 10分後に、この正門前に全員弾薬と装備を整えて集合だ!」

 

「はいっ! 支援用の物資は任せてください!」

 

「絶対に先輩の鼻を連れ戻してやるんだから!」

 

先生の力強い掛け声にセリカとアヤネが応え、そして今度は迷いや躊躇いを完全に吹っ切ったような力強い足取りで、シロコも凛とした声で返事をした

 

「……ん」

 

三人は最終決戦に向けたそれぞれの装備と武装を再調整するため、一度朝日の差し込む校舎へと駆け戻っていった

 

(……待っててね、ノノミ)

 

静まり返った廊下を足早に走りながら、シロコの胸の奥には揺るぎない確固たる覚悟が満ちていく

 

もしも、仮に本当に自分が何かの「代わり」なのだとしても、泣いてすがるのはすべての真実をその目で確かめてからにすればいい

 

今はただ、仲間であるノノミを死力で救い出すことだけに、すべての弾丸と意思を注ぎ込むんだ

 

♢

 

冷え切った朝の空気を切り裂くように、シロコたちはアビドス中央駅の旧庁舎へと向けて急ピッチで走り続けていた

 

目的地へ近づくにつれて、周囲の景観は一変し、異様なまでの修羅場の痕跡を荒々しく物語っていた

 

砂煙が燻る街道のあちこちには、白目を剥いて気絶した数え切れないほどのPMC傭兵や民間警備会社の兵士たちが転がり、その脇では真っ黒な煙を吹き上げる巨大な主力戦車や、メインローターを砕かれて無惨に晒された戦闘ヘリの残骸が転がっている

 

路面は破片と硝煙の匂いで満たされていた

 

「こ、これ……全部、本当にホシノ先輩一人でやったっていうの……!?」

 

規格外すぎるホシノの戦闘力と、そのあまりにも凄まじい破壊の痕跡を目の当たりにして、セリカは走りながら絶句し、信じられないものを見る目で周囲の惨状をキョロキョロと見渡した

 

しかし、奇妙なことに、これほどの大人数と重火器を相手にしたはずの激闘の痕であるにもかかわらず、シロコたちの行く手には、もはや彼女たちの足を止めようとする敵の姿はただの一人も残されていなかった

 

すべては、ホシノが自分の行く手を阻む一切の障害をたった一人で完膚なきまでに叩き潰し、綺麗に掃除していった――覚悟と執念の軌跡だったのだ

 

「見えました! あそこがアビドス中央駅の旧庁舎です!」

 

アヤネが前方にそびえ立つ一際大きな石造りの古びた建物を指さし、焦燥に満ちた声をあげる

 

時計の針を見れば、契約や総会の手続きが進められるまでに残された時間はもうわずかしか残されていない

 

これほどの破壊の足跡を残してきたのだとすれば、ホシノはすでに先回りしてこの内部に深く踏み込んでいるはずだった

 

全員が一斉に靴底を鳴らし、石段を駆け上がり、総会の会場へと繋がる重厚な通路に飛び込む。しかし、その室内や廊下に至るまで、広がっていた光景は先ほどと同じだった

 

カイザーローンや私募ファンドが数合わせのためにかき集めたであろうヘルメット団のチンピラや強欲な用心棒たちが、あちこちで壁にめり込み、気絶して死屍累々と転がっている

 

その不気味なほど静まり返った廊下を全速力で駆け抜け、ついに総会が執り行われる最奥の大部屋の扉の前にたどり着いた

 

「……誰も、いませんね」

 

恐る恐る重厚な扉を開け放った室内には、確かに直前まで大勢の人間がひしめき合い、怒号や交渉の声が飛び交っていた生々しい気配が残り香として残されていたものの、その中身はすっかりもぬけの殻になっていた

 

残されているのは荒らされた書類と倒れたパイプ椅子だけだ

 

「ん……気のせいかもしれないけど……上空から、ヘリの音が聞こえない?」

 

ふと脚を止めたシロコが耳を澄ませて低く呟くと、他のメンバーも一斉に息を殺し、周囲の音に神経を鋭く研ぎ澄ませた

 

確かに、頭上のはるか高い空から、重苦しく風を切り裂くヘリコプターのプロペラの回転音と、それに重なる爆音の残響が微かに響いてきている

 

「急ぐよ! 屋上だ!」

 

先生の合図で全員がその場から一斉に引き返し、非常階段を蹴散らすようにして屋上へと続く扉を目指して駆けあがった

 

屋上の重い鉄の扉を力いっぱい押し開けたその瞬間、目の前に広がっていたのは――異様な光景だった

 

ヘリコプターでまさに高飛びしようとしていたカイザーローンの最高幹部、プレジデントの乗る巨大な大型機体

 

それが突如として何者かの容赦ない一撃によって尾翼を叩き折られ、黒煙を吹き上げながら激しい爆発と共に遠くの砂地へと撃墜されていく凄惨な光景だった

 

「な、何が起きたというのだ!? つ、墜落す――!?」

 

墜落する機体から上がる炎と衝撃波の中、屋上の縁にポツリと立っていたのは、冷たく凍てついた無機質な目をたたえたホシノだった

 

彼女は背後から駆けつけてきたシロコたちの気配に気づく素振りすら見せず、まるで自ら奈落の底へ身を投げるようにして、屋上の端からふっと踏み出し、視界から消え去っていった

 

「くっ……! 一歩、遅かった……!」

 

荒い息を整えながら、先生は悔しそうに固い拳で屋上の壁を叩きつける

 

「ど、どうするのよ……! これじゃあホシノ先輩がどこへ行ったかなんて、全く分からないじゃないっ……!」

 

セリカが絶望と焦燥に駆られた声を荒げ、頭を抱えそうになった、まさにその時だった

 

「………みなさん……?」

 

背後からかけられた、どこか戸惑いと愛おしさに満ちた柔らかな声

 

全員がハッと息を呑み、弾かれたように一斉に振り返る。そこには、信じられないという顔で美しい目を丸くして立っている、ノノミの姿があった

 

「の、ノノミ先輩……っ!!」

 

「きゃっ……!? セリカちゃん!? アヤネちゃんまで……っ!?」

 

「無事だったのね……!? よかった、本当によかったぁ……っ!」

 

「あ、危ないですからそんなに強く抱きつかないで――あはは、心配かけてごめんなさい、みんな」

 

セリカとアヤネは嬉しさと安堵のあまり涙をこぼしながら、同時にノノミの豊満な胸元へと飛びついた

 

ノノミは困ったような苦笑いを浮かべながらも、愛おしそうに二人の頭を優しく撫で、固く抱きしめ返す

 

「ノノミ、怪我はないかい? 無事で本当によかった」

 

「先生……! その、お身体の方はもう大丈夫なんですか? 入院したと聞きましたけど……!」

 

「ああ、頼もしいパートナーたちがずっと守り、支えてくれていたからね。あの激しい爆発や混乱の時も無事だったよ」

 

「パートナー……?」

 

ノノミが小首をかしげると、先生は意味深に柔らかく微笑んだ

 

「それよりも、ノノミ。ここで一体何があって、ホシノがどこへ向かったのか……君には分かるかい?」

 

ノノミは二人の頭を撫でる手を止め、表情を真摯なものへと引き締めて大きく頷いた

 

「あっ、はい……! ホシノ先輩は『列車砲』を完全に破壊するために、生徒会の谷へと向かいました。ホシノ先輩からは『危ないからここで待っているように』と強く言われて……」

 

「えっ……? な、なんでそんな場所へ向かうのよ……!? 」

 

ノノミの予想外の言葉に、まだ胸元に抱きついたままのセリカがポカンと口を開ける

 

「プレジデントは、最初から私たちとの正規の契約手続きなんて踏む気はありませんでした。契約書はただの足止めで、力づくでアビドスの遺産である列車砲を奪い去る気でいたんです……。

 

だから、ホシノ先輩はあえてその元凶となる兵器そのものを、自らの手で跡形もなく破壊することを選んだんです。アビドスに二度とそんな悪意が寄り付かないように……」

 

「なるほど……流石は私欲のためなら手段を選ばない悪徳金融会社ですね。どこまでも汚い」

 

「……あの、セリカちゃん? アヤネちゃん? こうして抱き合っているのも大好きなのですが、もうそろそろ離れてもらえると嬉しいんですけど……ちょっと息が苦しいのですが……」

 

「あ、す、すみません……! つい、嬉しくて……!」

 

「なんだか、ノノミ先輩にこうして抱きついていると、すごく安心しちゃうのよね……」

 

なぜか妙に納得したようにコクコクと頷くセリカと、恥ずかしそうに顔を真っ赤にするアヤネが、ようやくノノミの体からそっと離れる

 

しかし、ノノミはかけがえのない仲間たちの無事な姿を再びこうして見られたことへの、溢れんばかりの安堵の涙が静かににじんでいた

 

「?」

 

ふと、ノノミの視界の端に、先生の少し後ろでぽつんとじっと立ち尽くす少女の姿が映った

 

それは、先ほどから一言も声を上げず、ただ拳を握りしめたまま俯き、微動だにしないシロコだった

 

「シロコちゃん……どうかしたんですか? そんなに暗い顔をして……」

 

遠くで燻る黒煙もどこか遠くの出来事のように感じられる静寂の中、ノノミは心配そうに眉をひ下げ、シロコの前へと歩み寄った

 

「……ノノミ……ホシノ先輩が……」

 

シロコは胸の内で渦巻く感情を必死に抑え込みながら、ゆっくりと重い顔を上げた。そして、まっすぐにノノミの温かな双眸を見つめ返す

 

先ほどのように溢れ出る感情に任せて激しく泣き崩れることはなかったが、その瞳の奥には、今にも零れ落ちてしまいそうなほど大きな涙の雫がたっぷりと溜まっていた

 

言葉を失ったまま、ただ傷ついた小動物のように自分を見つめてくるシロコ

 

その異様な様子と、あまりにも痛々しい表情を目にした瞬間、聡明なノノミは余計なやり取りを挟むまでもなく、彼女の悲しみの根底にある意味を瞬時に察知した

 

「……そうですか。ホシノ先輩……シロコちゃんに、すべて伝えたのですね」

 

ノノミの声からいつもの柔らかなトーンが消え、しんと冷えた静けさが混じり合う。

 

「……うん……私は、あの『白子』っていう子犬の……ただの代わりでしかなかったんだって……あの子の穴埋めのために拾われただけなんだって、言われた……」

 

「……え?」

 

シロコの口から漏れたあまりにも予想外で残酷な言葉の意味がすぐには飲み込めず、ノノミは一瞬、きょとんとした表情を浮かべて固まった

 

しかし、その直後――

 

ノノミの美しい瞳がすっと細められ、冷たく、そしてゾッとするほど美しく整えられた作り笑いがその唇に浮かび上がった

 

それは、普段は誰よりも温厚で穏やかなノノミが、ホシノの度重なる無茶や暴走に対して、本気で怒り狂った時にしか見せない――絶対の怒りを秘めた極限の笑顔だった

 

「の、ノノミ……?」

 

「……ようやく分かりました。ホシノ先輩がまた、あんな暗い顔をして一人ですべてを抱え込んでいた理由が

 

……また、私たちに何も言わずに一人で全部を終わらせようと勝手に突っ走って……シロコちゃんにそんな酷い事を言ったんですね?」

 

「う、うん……」

 

ノノミの背後から、目に見えないほどの凄まじく重い、漆黒のオーラのようなものがふつふつと立ち上ってくる錯覚に襲われ、シロコやセリカ、アヤネは背筋を氷のように冷たく凍りつかせた

 

(……やっぱり、アビドスで絶対に怒らせてはいけないのは、ホシノ先輩でもアヤネでもなく……ノノミかもしれない……)

 

という絶対の確信が、その場にいた全員の脳裏を稲妻のように駆け巡る

 

セリカに至っては、ノノミの威圧感に気圧されてアヤネの背中にそっと隠れたほどだった

 

「……ノノミ、怒っているところ悪いのだけど……その、ノノミが知っているホシノの本当の気持ちを、シロコに……そしてあの『子犬』の本当のことを、彼女に教えてあげてくれないかい?」

 

額に冷や汗を流しながら、先生が冷や冷やとした心地でそっと取りなすように声をかける

 

すると、ノノミの全身を纏っていた恐ろしい圧力は、一瞬にして綺麗に消え去った

 

「ふう……まったく、本当にどこまでも仕方のない人ですね、ホシノ先輩は。……分かりました」

 

ノノミは深くフッと息を吐き出すと、シロコの元へとゆっくり柔らかな足取りで歩み寄り、その小さな身体を包み込むように優しく頭を撫でた

 

「ん……」

 

「辛かったですよね、シロコちゃん……。あんなに大好きで、誰よりも大切で頼りにしていたホシノ先輩から、そんな酷い言葉を突然投げつけられたら……いくら強いシロコちゃんでも、耐えられるはずがありません」

 

「っ……うん……すごく、胸が痛かった……」

 

「……私が知っていることだけで良ければ、すべてお話ししますね。もう、隠す必要なんてありませんから」

 

そう言うと、ノノミは一度静かに目を閉じ、遠い日の愛おしくも切ない記憶の引き出しをゆっくりと開いた

 

「……私は昔、たった一度だけですが、子犬の白子ちゃんを遠目から見かけたことがあるんです。まだ元気だったユメ生徒会長と……今ではちょっと想像もつかないでしょうけれど、当時の、少し尖っていて不器用だけど、真っ直ぐで真面目だったホシノ先輩が……今のホシノ先輩と変わらないくらい本当に楽しそうに、満面の笑みで笑い合っている、そんな温かな姿を」

 

ノノミは懐かしむように、優しく穏やかな声で語りかける

 

「……ねえ、シロコちゃん。私がこの学校にやってきて、初めてシロコちゃんに出会ったあの日のことを覚えていますか?」

 

シロコは過去の情景を思い起こすように、静かに深く頷いた

 

「あの時……シロコちゃんに少しだけ外に出てもらったのは、その事情を少しだけ知っていた私に、ホシノ先輩が改めて詳しい説明をするための時間だったんです」

 

「……あの時から、ノノミは全部……知っていたんだね」

 

「はい、黙っていてごめんなさい……。でも、当時のホシノ先輩があんなにも頑なにその過去を隠そうとし、シロコちゃんに触れさせまいとしたのには……ちゃんとした理由があったんです」

 

「……やっぱり、私が……あのコの代わりだから……?」

 

シロコの胸の奥で、心臓の音が再び早鐘のようにうるさく、苦しく鳴り響く

 

震える掠れた声で絞り出した、あまりにも怖ろしいその質問。もしここでノノミが言葉を濁したり、わずかでも否定をためらったりしてしまったら――自分は本当に行き場を失い、存在そのものが消えてしまう

 

底知れぬ恐怖が彼女の全身の血を凍らせていく

 

そんなシロコの怯えた様子をそっと見つめたノノミは、困ったように優しく微笑むと、そのままシロコの身体をそっと腕の中に抱きしめた

 

「……ノノミ……?」

 

あたたかい

 

包み込まれた身体から伝わるぬくもりと、ノノミがいつも纏っている、どこか心を落ち着かせる甘いお日様のような匂いが鼻腔をくすぐる

 

「安心してください、シロコちゃん。そんなひどい考えなんて、最初からホシノ先輩の頭にはありませんでしたよ」

 

そのノノミのはっきりとした力強い断言に、シロコは全身に電流が走ったかのような衝撃を受けた。瞳が大きく見開かれる

 

「確かに……白子ちゃんとシロコちゃんは、綺麗な銀色の毛並みや髪の色、そして無邪気でどこか放っておけない可愛い所など、似ている部分がいくつもあったと先輩は仰っていました」

 

抱きしめたまま、ノノミはシロコのシルクのように美しい銀髪を、愛おしそうに優しく指先で梳く

 

「美しい銀色の毛髪……そして、初めて出会ったあの冷たい砂漠の廃校舎……。あまりの奇跡的な偶然に、ホシノ先輩も最初は運命の悪戯を感じて、深く驚き戸惑うこともあったみたいです」

 

「……」

 

「ですがね、シロコちゃん。その『似ている』という事実に、ホシノ先輩はずっと誰にも言えず深く悩んでいたんです。

 

自分はシロコちゃんを一瞬たりとも『代わり』だなんて思ったことはない……目の前にいる一人の大切な少女として愛している。

 

だけど……もしシロコちゃんがいつかあの過去の秘密を知ってしまったら、自分が亡き犬の代わりにされていると勘違いして、傷ついてしまうかもしれないって。

 

……だからこそ、ホシノ先輩はシロコちゃんには絶対にその話を生涯隠し通そうと、心に誓っていたんです」

 

ノノミの口から紡ぎ出される一つ一つの優しく誠実な言葉が、絶望によって氷のように固く凍りついていたシロコの心を、温かな春の陽射しのように幾重にも包み込んでいく

 

さっきまで胸の底を冷たく冷やし、息すら出来なくさせていた暗い疑念と絶望が、まるで陽光に晒された春の雪のように、すルスルと跡形もなく溶け去っていくのが分かった

 

「……よく思い出してみてくださいね。シロコちゃんが一人暮らしをするための家を決めて……私達が部屋の扉から出ていこうとした、あの日の夜のことです」

 

柔らかな朝光の差す屋上で、ノノミは過去を愛おしむように目を細めながら、静かに語りかけた

 

「!」

 

その言葉に、シロコはハッと息を呑み、瞳を大きく見開いた

 

それは、入学式が終わって少し経った頃の記憶。いつまでもホシノの個人部屋や生徒会室に身を寄せ、甘え続けるわけにはいかないと、シロコが自立のために一人暮らしを始めたいと言い出した日のことだった

 

最初は「ダメだよ~! シロコちゃんが一人で暮らすなんておじさん心配で夜も眠れなくなっちゃうよ!」と親バカ全開のホシノに盛大に却下されかけたものの、シロコの頑なな覚悟と「自分の足で立ちたい」という強い眼差しを認め、最終的にはホシノが自ら街に出て人脈とツテをフル活用し、一番セキュリティがしっかりとした安全なアパートを借りられるよう手を尽くしてくれたのだ

 

そして、部屋の手配と引っ越し作業がすべて終わったあの夜

 

ぽつんと一人きりになり、どこか寂しくなったシロコが「ん……よかったら、晩御飯食べていって」とホシノたちを自分の部屋に誘ったのだった

 

「あの時、私は空気を読んで早めに『お邪魔しました~』って部屋を退出しましたけれど……あの後、ホシノ先輩は自分の部屋に帰ってから、『シロコちゃんが一人ぼっちで寒がってないか心配で眠れない』って言って、私に朝までずっと電話をかけてきたんですよ?」

 

「……え……?」

 

「『パトロール中も、生徒会室に戻ってもシロコちゃんがいなくてすごく寂しいよノノミちゃん~』って……なんと、朝の太陽が昇るまでずっと、泣き言と愚痴に付き合わされたんですから」

 

当時の微笑ましい大騒動を懐かしそうに振り返りながら、ノノミは「ふふっ」とクスリと可愛らしく笑った

 

あんなに部屋を出る時は「シロコちゃん、今日から立派なお姉さんだね~! 鍵はちゃんと閉めるんだよ~」と涼しい顔をして平然と送り出してくれたはずのホシノが、裏ではそんな子供のように弱音を吐いて取り乱していたなんて――

 

「とまあ……ホシノ先輩の可愛い親バカエピソードでしたら、日が暮れるまでいくらでも語れますけれど……今、シロコちゃんが一番聞きたかった答えを言いますね」

 

ノノミは抱きしめていた腕を少しだけ緩めると、しっかりとシロコの目を見据え、心からの温かな声で告げた

 

「……ホシノ先輩は、シロコちゃんのことを、誰の代わりでもなく1人の人間として、誰よりも深く愛していましたよ。まるで、我が子を慈しむ母親のように、そして誰よりも大切な家族のように……ずっと、ずっと大切に想っていたんです」

 

ノノミの口から溢れ出た偽りのない温かな真実は、シロコの胸の奥に澱のように冷たく溜まっていた不安と恐怖の霧を、一瞬にして綺麗に拭い去っていった

 

自分が誰かの身代わりの人形などではなく、あの小鳥遊ホシノという誇り高く優しい少女に、たった一人のかけがえのない存在として愛されていたのだという確信

 

それが身体の芯まで染み渡った瞬間、張り詰めていた糸がプツリと切れるように、シロコは堪えきれなくなった感情のままノノミの柔らかな胸元へと再び顔を埋め、ぽろぽろと涙をながら小さく肩を震わせた

 

「……よかった……っ、本当によかった……っ」

 

「シロコ先輩……本当に、良かったですね……!」

 

「もう……こういうの、弱いのよ私……グスッ、涙が出ちゃうじゃない……!」

 

その光景を少し離れた場所から見守っていたアヤネとセリカは、まるで自分のことのようにホッと胸を撫で下ろし、目元を拭いながら心底安心したような優しい笑顔を浮かべた

 

「……うん、すごく安心した。……でも、これでやるべきことが、一つ増えた」

 

ノノミの胸に顔を埋めたまま、シロコはこくんと小さく頷き、ふっと普段の冷静さを取り戻しながらも、その声には鋭い光が宿っていた

 

「やること……?」

 

「ん……。無事に連れ戻したら、ホシノ先輩を床に正座させて、たっぷりと説教して怒る。……ホシノ先輩は、そろそろ本気で自分のやったことを反省するべき」

 

「ふふ、いいですね! そのお叱りタイム、私も喜んでノリノリでお供しますよ♪」

 

先ほどまでの感動的な雰囲気が嘘のように、おっとりとした笑顔のまま銃を構え直し、爛々とした目で戦闘態勢に入るノノミの姿に、思わず先生やセリカたちは「あはは……」と乾いた苦笑いを漏らすしかなかった。

 

「ねえ、ノノミ……少し気になっていたんだけど……その、白子って子は……私の……お姉ちゃん、になるのかな?」

 

ふと、顔を上げてきょとんとした純粋な表情でシロコが尋ねる

 

「んー……どうでしょう。アビドスに来た順番や在籍していた時期を考えるなら、最初に来たのは白子ちゃんですが……実年齢的なところから推測するなら、シロコちゃんの方がお姉さんだったかもしれませんね」

 

「ん! じゃあ、私はお姉ちゃん」

 

どこか誇らしげに、パッと目を輝かせて胸を張り、小さく「よし」とガッツポーズを作るシロコ

 

「それならなおさら、学校に戻ったら、ホシノ先輩からその『妹』についての昔話をたくさん聞き出さないと」

 

「そうですね。そのためにも、何を始めるにしても……まずは暴走しているバカなホシノ先輩を、私たちの手でしっかりと連れ戻しましょう!」

 

ノノミが柔らかな、けれど揺るぎない決意を秘めた笑みを浮かべると、シロコも満足したようにすっきりとノノミの胸から離れ、力強い足取りでしっかりと前を向いた

 

「それじゃあ、シロコもすっかり元気を取り戻したことだし……! 私たちの次の目的地は、あの列車砲が待ち受ける『生徒会の谷』だ。みんな、ここからの道中も敵の妨害が予想される酷い戦いになると思うけれど……気を引き締めていこう!」

 

「はいっ!」

 

「勿論です!」

 

「……ん!」

 

先生の力強い号令に合わせ、セリカ、アヤネ、そしてシロコの三人が一斉に頼もしく返事をする。彼女たちは再び胸に燃え上がる闘志をみなぎらせながら、屋上の出口へと力強く足を踏み出していった

 

そんな頼もしい生徒たちの背中を優しく見送りながら、先生はふと足を止め、ポケットへとそっと手を伸ばした

 

(そうだ……もしもの最悪の事態が来た時のために……あらかじめ打てる手は打っておかないと……)

 

思考を素早く巡らせた先生は、ポケットから愛用のシークレットタブレット端末を取り出した

 

「アロナ、プラナ。聞こえているかい?」

 

画面をタップすると、瞬時に光が弾け、二人の愛らしい姿がホログラムのように浮かび上がる。

 

「はいっ! 呼んでいただけましたか、先生! アロナはいつでもバッチリ準備OKですよ!」

 

「……はい。システム正常動作中。いつでもスタンバイ完了しています、先生」

 

元気いっぱいに手を挙げるアロナと、その隣で少し控えめに、しかし完璧な姿勢で一礼するプラナの声が、直接先生の耳元へ心地よく響いた。

 

「すまないが、大至急である人物に緊急通信のメールを送ってもらえるかい?」

 

「分かりました! どなたにお送りすればよろしいでしょうか? アロナが爆速で送信しちゃいます!」

 

「……ゲヘナ学園の風紀委員長、空崎ヒナへ。現在のこちらアビドスでの緊迫した状況の共有と……いざとなったら、彼女の力を借りてすぐに現地へ駆けつけられるよう、作戦の準備を進めておいてほしい……と伝えてくれるかい?」

 

『りょーかいです! アロナにお任せください! ゲヘナのヒナさん宛てですね、超スピードで通信を飛ばします!』

 

『……了解しました。メッセージの暗号化を完了。ヒナさんへ送信します。……ですが先生、くれぐれも無理な無茶だけはなさらないでくださいね。私たち、とても心配なんですから』

 

プラナがじっと画面越しに先生の顔を見つめ、どこか愛おしそうに小さな眉をひそめる

 

「うん、分かってるよ。いつも助けてくれてありがとう、二人とも」

 

タブレットの画面がスッと暗転し、静かにスリープモードに入る

 

端末を再びポケットへと大切にしまうと、先生は頬を一度叩いて気合いを入れ直し、頼もしい背中を見せるシロコたちの後を追うように、足早に階下へ向かって駆けていくのだった




書ける時と書けない時の差が酷すぎる気がする
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