白子とシロコ   作:気弱

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梔子ユメの日記

〇月×日(雲ひとつない快晴! 私の心も大快晴!)

 

今日ね、本当に、本当にっ……うう、思い出すだけでも涙がポロポロ出ちゃうくらい、世界で一番嬉しいことがあったの!

 

実を言うとね……日記さんだから白状しちゃうけど、最近のアビドスは砂漠化がどんどん進んでいて、誰もいない廊下を歩くたびに胸が締め付けられるみたいに苦しかったんだ。これからのアビドスのことを考えると、夜ちょっとだけ眠れなくなっちゃう日もあって

 

「この広くて静かな学校で、私は卒業の日までずーっっと一人ぼっちで生徒会をやっていくのかな」「アビドスのこんなに大きな歴史を、私だけで支えきれるのかな」って、誰にも言えない弱気で辛いことばかり頭をぐるぐる回っていたの

 

私のドジのせいで、学校を余計にダメにしちゃったらどうしようって、すごく怖かった

 

だけど……神様は、砂漠の隅っこにいる私のことをちゃんと見ててくれたんだね!

 

なんと! 新入生の小鳥遊ホシノちゃんが、今日から新しくアビドス生徒会に入ってくれることになりましたー!

 

パチパチパチパチ、ドンドンパフパフ!

 

ホシノちゃんはね、一見するとすっごくクールで物静かな女の子。でも、その小さな体に身の丈に合わない大きなショットガンを持たせたら、アビドスの誰よりも強くて、息をのむほどかっこいいの。ただ、時々ものすごーく真面目すぎて、「ユメ先輩、そんなにお人好しだとすぐにまたタチの悪い大人たちに騙されますよ。いい加減にしてください」って、冷たいジト目でじーーっと見つめてくるときは……うん、ちょっとだけお母さんみたいで、背筋がピシッて伸びちゃうくらい怖い時もあるんだ(笑)

 

でもね、そんなホシノちゃんが、私がため息をつきながら書類とにらめっこしているのを見て、ハァ……って大きなため息をつきながら、

 

「……しょうがないですね。放っておいたら先輩、アビドスごとどこかに消えてなくなりそうですし。私が隣で手綱を握ってあげます」って言って、生徒会入りの入部届を机にトンッて提出してくれたの!

 

もう嬉しくて嬉しくて、言葉にならなくて、その場でホシノちゃんにギュッて抱きついちゃった(「暑苦しいです!」ってすぐに引き剥がされちゃったけどね、ひぃん)

 

それでね、記念すべき入会祝いとして、今日の放課後に私の全財産をはたいて(笑)、購買のアイスを一緒に買って食べたんだ

 

その時のホシノちゃん、思い出すだけでも胸がキュンとしちゃうくらい、すっごく可愛かったなぁ……♪

 

最初は「私は子供じゃないんですから、こんな甘いもので釣られないでください」なんて、眉間にシワを寄せて仏頂面をしてたの。なのに、おずおずと一口パクリって食べたら……一瞬で表情がとろけて、「……ん、甘い」って、すっごく幸せそうに細い目をきゅっと細めて笑ったんだよ

 

ちょうど沈みかけた夕日に照らされて、ホシノちゃんの綺麗な薄ピンク色の髪がキラキラと茜色に光っていて、その横顔を見たとき、胸の奥がじわーって温かくなった。こんなに愛おしくて頼もしい後輩が私の隣にいてくれるなんて、私、いま間違いなく世界一の幸せ者だよ

 

ホシノちゃんが来てくれたアビドス生徒会、今日から新しい一歩をスタート!

 

一人じゃないって、こんなに心強いんだね。明日はどんな楽しい事をしようかな〜。まずは生徒会室の埃を全部吹き飛ばす、大掃除から始めよっと!

 

〇月□日(風がちょっぴり強くて、砂が目に染みる日)

 

えへへ、すっごく久しぶりの日記になっちゃった……。何日ぶりかな……あはは。

 

あ、あのね、日記さん! 決して書くのを忘れてた訳じゃないからね!? 本当だよ?

 

ホシノちゃんが来てくれてからの毎日が、ドタバタと充実しすぎてて、楽しすぎて……夜、机に向かってペンを持つ前に、ベッドにバタンキューって倒れてそのまま朝まで気絶しちゃってただけなんだからね!

 

ホシノちゃんが生徒会に入ってくれて、今日でちょうど1週間が経ちました

 

……うーん、この激動の7日間を振り返ってみると、今日にいたるまで、ホシノちゃんに一回も怒られなかった日は1日として無かったなぁ(遠い目)

 

だってね、ホシノちゃんが生徒会に入ってくれた次の日のことなんだけど、ホシノちゃんの歓迎会をサプライズでやって驚かせよう!って思いついて。お祝いのホールケーキに、普通のローソクじゃつまらないからって、倉庫の奥で見つけたお祭りの残りの爆竹に火をつけて刺してみたら……お部屋に突入した瞬間に「バチバチバチ大爆発!!」を起こしちゃって、生徒会室の壁も天井も、私達の顔も、全部真っ白な生クリームだらけになっちゃって……。あのお掃除、本当に大変だったなぁ(ホシノちゃん、般若みたいな顔でお説教してたよ……)

 

それから、これからの生徒会の素敵な活動方針を青空の下で考えようと思って、ホシノちゃんを連れて屋上に行ってみたの。そしたら突然ものすごい突風が吹いてきて、用意していた新しい資料ノートが、文字通り砂漠の彼方へとヒラヒラ〜って飛ばされちゃったり……(結局、私の執念で死守したこのボロボロの日記帳だけが手元に残ったよ。これだけ残るなんて、なんだか不思議な縁だよね)

 

あ、あとはね、今日の一番の大失敗!

 

生徒会室の棚の上を片付けている時に、私が盛大に足を滑らせて後ろ向きに転んじゃって、すぐ後ろで書類を整理してくれていたホシノちゃんを巻き添えにして押し倒しちゃったの。その時、慌てた私の手が、ホシノちゃんのスカートの裾を不注意でぐいっと下に引っ張っちゃって……その、ね

 

その結果……アビドスのカンカン照りの厳しい太陽の下、屋上の硬いコンクリートの上で、丸々1時間もしっかり正座をさせられました……。足の感覚がなくなって、立ち上がるときに生まれたての小鹿みたいにプルプルしちゃって本当に大変だったなぁ

 

えへへ、でもね、あの時のホシノちゃん、湯気が立ちそうなくらい顔を真っ赤にして怒ってて怖かったけど、普段は絶対に見せないくらい恥ずかしがってオロオロしてる姿が、すっごく新鮮で、すっごく可愛かったな! いつも冷たいから、ちょっと新鮮だったかも

 

でもね、そんな怒られてばかりの大変なことだけじゃないんだよ

 

なんと今日、アビドス生徒会に、新しくて最高に可愛い「役員」がもう一人増えました!

 

銀白色のサラサラな毛並みがとっても綺麗な、子犬の白子ちゃんです! ちなみにこの素敵なお名前は、ホシノちゃんがつけてくれたんだよ

 

今朝ね、私が校門の前を歩いていたら、トボトボと力なく歩いていて、お腹がペコペコで足元がフラフラになっている小さな白い子犬を発見したの。そんなの放っておけるわけないじゃない? だから思わずギュッと抱っこして、生徒会室に連れて帰ってきたんだ

 

最初はね、ホシノちゃんにものすごい剣幕で反対されちゃったの

 

「ユメ先輩。ここは学校ですし、この子は人じゃないので生徒会役員にはなれません。野生の動物なら、元の場所に返すのが筋です。一時の感情で甘やかしてはいけません。アビドスには、犬一匹を養う余裕なんてないんですから」って、すっごくキリッとした冷徹な顔で、正論を突きつけられちゃって。私も「うう、でも……」って言い返せなくて、白子ちゃんを抱きしめてオロオロしてたんだ。

 

だけどね、そのとき腕の中の白子ちゃんが、何かを察したみたいに私の腕からぴょんって飛び降りて、ホシノちゃんの足元にトコトコって歩いていったの。そして、ホシノちゃんの履いているローファーに、自分の小さな体を「スリスリ〜」って全力で擦り付けて、潤んだ瞳で見上げながら「きゅ〜ん、きゅ〜ん……」って、消え入りそうな声で甘える最高無敵のロケット攻撃を仕掛けたの!

 

……その瞬間、勝負あり。ホシノちゃん、完全敗北です!

 

「っ……!」って声を詰まらせて顔を真っ赤にしたかと思ったら、突然「ちょっと待っててください!」って教室を飛び出していっちゃって。何事かと思ったら、ホシノちゃんがコツコツ貯めていた自分のお小遣いを全部叩いて、白子ちゃん用のドッグフード、新鮮なお水、骨の形をしたおやつ、それに可愛い白子ちゃん専用のお皿まで、両手いっぱいに抱えて息を切らせて戻ってきたの!

 

あはは! 今ではね、私よりもホシノちゃんのほうが白子ちゃんの体調を「ご飯の量は適正ですか?」「ノミはいませんか?」って四六時中心配していて、あんなに過保護でデレデレなお姉ちゃんになるなんて、出会った日のクールな彼女からは想像もつかなかったよー。白子ちゃんがちょっと鳴くだけで、ホシノちゃん飛んでいくんだもん

 

……ねぇホシノちゃん。そんな風に白子ちゃんに注いでいる優しさの、ほんの少し、本当に爪の先くらいだけでもいいから、私にも分けてくれたら、お姉さんすっごく嬉しいんだけどな?(笑)

 

そうそう、言い忘れてたけど、今朝白子ちゃんを最初に見つけた時、くりくりした目の雰囲気がホシノちゃんにどこかそっくりだったから、私、「この子の名前は『ミニホシノちゃん』にしよっ!」って満面の笑みで提案したんだよね

 

そしたらホシノちゃん、今日一番の恐ろしい声で、「絶対にダメです。私の尊厳に関わります。もしその名前で呼んだら、私は今日限りで生徒会を辞めます」って、恐ろしい目力で即却下されちゃった。すっごく似合いそうで、可愛いと思ったのになぁ……

 

でも、私はまだ諦めきれません!

 

明日はホシノちゃんよりもいつもより1時間早く登校して、生徒会室で二人きりのときに、白子ちゃんのお耳に向かって「あなたの本当の名前は、ミニホシノちゃんですよ〜、覚えた?」って、ホシノちゃんに隠れてこっそり教え込んじゃおうかなって計画中(笑)

 

あはは、もしバレたら今度は2時間正座かな? でも、そんなこと考えてるだけで、明日学校に行くのが待ちきれないや。アビドス生徒会、明日も3人で頑張るぞー!

 

〇月△日(昨日の大快晴がウソみたいな、どんより曇り空。私の心も雨模様……ひぃん)

 

ひぃん……大失敗、大失敗だよぉ……。日記さん、私は今日、自分の浅はかな行動を心の底から大反省しています……

 

今朝ね、ホシノちゃんが登校してくる前の、あの静かで誰もいない生徒会室のゴールデンタイムを狙って、かねてより温めていた秘密の『ミニホシノちゃん洗脳作戦』を決行したの!

 

白子ちゃんを私のひざの上にちょこんって乗せて、お日様の匂いがする白い頭を優しくなでなでしながら

 

「いい? 白子ちゃん。君の本当の名前は、今日から『ミニホシノちゃん』だよ〜。くりくりしたおめめが、お姉ちゃんにそっくりなミニホシノちゃんだよーーー」って、すっごく熱心に教え込んでいたんだ

 

私の腕の中で、白子ちゃんも「くぅん?」ってお耳をパタパタさせて首をかしげて、じっと私の目を見つめてくれてたの。あのお利口な様子なら、今にも「わうっ(私はミニホシノちゃんです)!」って覚えてくれそうな大チャンスだったんだよ!

 

なのに、まさにその、作戦成功の一歩手前という瞬間……!

 

「ガラッ!!!!」

 

って、鼓膜が破れるかと思うくらいものすごい勢いで生徒会室の引き戸が開いて……そこには、薄暗い廊下の光を背負って、ものすごーーーく冷たい、氷点下100度くらいのジト目を浮かべたホシノちゃんが仁王立ちしてました……

 

あの瞬間、部屋の温度が確実に5度は下がったと思う。うう、完全に現行犯逮捕です。言い訳の余地なんて1ミリもありませんでした

 

当然、恐ろしいお仕置きが待っていて、ホシノちゃんは肩に担いでいたショットガンを机にドンッて置くと、冷ややかな声でこう言い放ったのです

 

「先輩。そんなに朝から無駄な洗脳に費やす気力と時間があるなら、そこに溜まっている今月の予算申請書と地域住民からの要望書、全部今日中に一人で終わらせてください。……よし、白子、お散歩に行きますよ。こんな不届き者と一緒にいたら純真な脳がダメになります」

 

そう言って、私を生徒会室に完全軟禁状態にして、二人で楽しそうにお出かけしちゃったの……

 

ひぃん、自業自得とはいえ寂しいよ〜!

 

それからはもう、お昼休憩もそこそこに、たった一人で山のように積まれた書類の束と睨み合う地獄の時間が始まりました。数字と漢字の羅列のせいで、午後には目がチカチカしてきて、ゲシュタルト崩壊っていうのかな? 文字が一文字も見たくなくなるくらい頭がパンパンになっちゃった

 

お陰で、せっかくの放課後も白子ちゃんともホシノちゃんとも全然遊ぶ時間が作れなくて、気がついたら窓の外はもう綺麗な、でもどこか寂しい夕焼け空

 

私がヨロヨロになりながらペンを置いたとき、隣の教室に帰る白子ちゃんが、私のほうを振り返って、寂しそうに「きゅ〜ん……」って切ない悲鳴をあげるのが聞こえて、胸がキリキリ痛んじゃった

 

白子ちゃん、お姉ちゃんの悪巧みのせいで寂しい思いをさせてごめんね。明日は書類を絶対に溜めないで、今日遊べなかった分まで、いーーーっぱい撫で回して、もふもふの刑にしてあげるからね!

 

〇月▲日(どんより、窓の外はシトシト細かい雨。私の心は大洪水)

 

ひぃん……。神様、アビドスの仏様、どうか聞いてください。私の涙でこの日記のインクが滲んじゃいそうです

 

今日からとうとう、鬼の副会長ことホシノちゃんによって、世にも恐ろしい「3日間連続・おやつ全面禁止刑」に処されてしまいました……。酷いよー、容赦ないよー、血も涙もないよー、ホシノちゃん! 私の細々とした生きがいである、放課後の甘いお楽しみ(購買の限定イチゴジャムパン)が、3日間も没収されるなんて、そんなの生殺しだよ〜!

 

事の始まりは、今朝の気持ちいい始まりのハズだったの

 

私は白子ちゃんの朝ご飯用の特製ミルクを購買で買って、まずは白子ちゃんが寝ている小部屋のケージへ直行。白子ちゃんの天使みたいな可愛い寝顔と、ミルクをペロペロ飲む姿にたっぷり癒やされて、「よし! 今日も一日、アビドスのために生徒会を頑張るぞー!」って意気揚々とスキップ混じりで生徒会室に向かったんだ

 

そしたら……ドアを開けた瞬間、目の前が真っ白(というより絶望で真っ暗)になりました。

 

「な、ななな、なにこれぇぇーーー!?」

 

って、漫画みたいに叫んじゃった。だって、私が昨日、あの洗脳の罰として涙目を流しながら血反吐を吐く思いで終わらせた大事な書類たちが……まるで部屋の中で紙吹雪でも散らしたみたいに、床一面にクシャクシャ、ボロボロになって散らばってたの!!

 

何枚かは砂まみれになって汚れてるし、私の昨日の努力の結晶が台無しになっていて、もう悲しさとショックのあまり、その場に膝から崩れ落ちちゃったよ……

 

私が「ア、アビドスを狙う凶悪な泥棒が入ったのかも!?」って頭を抱えて大パニックになっていたら、ここで我がアビドス生徒会の名探偵・ホシノちゃんが登場

 

部屋を鋭い鷹のような目でギロリと見渡したホシノちゃんは、書類が置いてあった私の机のすぐ近くの窓が、ほんの数センチだけ隙間が開いていることに気がついたの

 

……そう、私が昨日の夜、精神的にクタクタになりすぎて、窓の鍵(クレセント錠)を閉め忘れて帰っちゃったのが、一瞬で発覚しちゃったんだ

 

アビドスの夜の砂嵐はすっごく強いから、わずかな隙間から入り込んだ突風が、部屋の中を吹き荒れて書類を全部ひっくり返しちゃったみたい

 

うう、確かに鍵の閉め忘れは私の不注意だし、私が100%悪いのは認めます。だけど、だからっておやつ抜きを3日も言い渡すなんて、あんまりだよホシノちゃん……

 

悲しくて、悔しくて、散らばった紙の上でペタンと女の子座りをして、「しくしく……うえーん……」って本気で泣き真似をしながらホシノちゃんの顔をチラチラ伺ってたら、私の足元に「トコトコ……」って小さな足音がやってきたの。

 

見上げると、さっきミルクを飲んだばかりの白子ちゃんが、すっごく心配そうな顔で私の顔をのぞき込んでいて、私の頬を伝う涙の跡を、ちっちゃくて温かいピンク色の舌で「ペロペロ、ペロペロ」って優しく舐めてくれたの!

 

ひん、白子ちゃん……! やっぱりこの世界で白子ちゃんだけが私の味方だよ〜! ホシノちゃんという名の鬼上司に虐げられる私を癒やしてくれる聖女(聖犬?)だよ〜!

 

えへへ、白子ちゃんの優しさに触れたおかげで、私のやる気メーターが一瞬で満タンにチャージされて、「よし! 今日も書類の片付けと書き直し、死ぬ気で頑張るぞー!」って元気よく立ち上がれました。白子ちゃん、大好き!

 

あ、でもね、書類を拾い集めながら気づいたんだけど、あの窓の鍵自体、経年劣化でかなりガタついていて、建付けが壊れかけてるみたいなんだよね。風が強く吹くと、外からの振動で勝手に鍵が緩んで開いちゃうのかも……?

 

うん、これは私の閉め忘れのせいだけじゃない気がする! 近いうちに工具箱を持ってきて直さないと、また私のせいにされておやつ抜きが延長されちゃうね。気をつけなきゃ!

 

〇月▲▽日(お日様がジリジリ照りつける、まぶしい晴天!)

 

うう、今夜は悔しさと理不尽さで、日記を書くペン先がプルプル震えちゃう。ホシノちゃんは、やっぱり私に対してだけ心が絶対零度に凍りついているのかもしれない……(シクシク)

 

だってだって! 昨日のおやつ抜きの原因になった「窓の開けっ放し事件」だけど、私は名誉挽回のために、昨日の夜はそれはもう徹底的に対策したんだよ?

 

ホシノちゃんと二人で窓の前に並んで、「鍵、ヨシ!」「窓の隙間、ナシ!」「ヨシ!」って、鉄道の車掌さんみたいにビシッと指差し確認までして、完璧にロックされたのをお互いに目視して一緒に帰ったはずなんだよ?

 

なのに……それなのに! 今朝私が一番に生徒会室に来たら、またしても! あの窓がすこーーーしだけ、あやしく開いてたの!!

 

さすがに今回は私のミスじゃないからホシノちゃんに向けて、

 

「ほらーーー! 見て見てホシノちゃん! やっぱり私の閉め忘れじゃないよー! 私は無実だー! おやつ抜きは撤回だー!」

 

って、こーんなにも大きく身振り手振りで、全身で無罪を主張して抗議したんだ

 

なのに、それを受け止めるホシノちゃんは、朝一番の眠そうな声のまま、心底冷た〜いトーンでこう言ったの。

 

「……何言ってるんですか、先輩。ユメ先輩は普段の行いが悪すぎます。諦めてあと2日間、おやつ抜きを堪能してください」って!

 

もう、めっっっ!!! だよ! ホシノちゃん!

 

間違ったことを言ったら、先輩に対してでもちゃんと「私の間違いでした、ごめんなさい」って謝らないと、メッされる悪い子なんだからね! お姉さんと一緒に手を繋いで、おめめを見て「ごめんなさい」しよ?

 

……なーんて、本人の前で堂々と言えたら、今頃私の立場はもっと上だったのになぁ。うう、現実の私は悲しいくらいチキンで、普段から私のドジのせいでホシノちゃんを怒らせてばかりだから、あの目つきの悪い「눈_눈(ジト目)」で睨まれると、蛇に睨まれた蛙みたいに「う、うにゅぅ……」って何も言い返せなくなっちゃうんだよね……。情けないなぁ、お姉ちゃん

 

でもね、そんなオカルト冤罪は一旦置いておいて! ついに本日、部屋を荒らす真犯人(仮)の決定的な証拠が判明したのです!

 

散らばった書類を整理していたホシノちゃんが、「……あ」と声を漏らして、1枚の白い予算申請書を掲げたの。その紙の隅っこには、黒い砂で汚れた、ちょこん、ちょこんと、それはそれは小さくて愛らしい、まごうことなき「肉球の足跡」がくっきりと残されていたんだ

 

……そう、真犯人は白子ちゃんだったの!

 

でもね、これが本当に不思議で、アビドス最大のミステリーなんだよ。白子ちゃんが夜を過ごしているお部屋(生徒会室の隣の部屋)の引き戸は、毎晩私とホシノちゃんで念入りに鍵がかかっているのを確認してるから、内側からは絶対に開けられないし、外に出られないはずなんだよ

 

どうやってその厳重な防壁を突破して、この生徒会室の窓際まで忍び込んで書類をオモチャにしたのか、まさにアビドス生徒会の七不思議状態。白子ちゃん、実は壁をすり抜ける超能力でもあるのかな?

 

「うーん……」って二人で首を傾げて頭を悩ませていたら、今日の放課後、ホシノちゃんがなんだか見たこともないようなドヤ顔をして、両手で小さな四角い箱を大事そうに抱えて帰ってきたの

 

「ホシノちゃん、それなあに?」って聞いて、箱を開けてみたら、なんと中から出てきたのは、メカニカルで格好いい最新式の「ペット用お留守番・暗視機能付き見守りカメラ」だったの!

 

ええっ!? って、私は目を丸くしてびっくりしちゃった。だって、ホシノちゃんこの前「今月はお小遣いピンチで、クジラグッズが買えません……」ってシクシク言ってたし、今の砂漠化で火の車な生徒会の予算に、そんなハイテクなお買い物をする余裕なんて1ミリも無いはずなのに……

 

「ホシノちゃん、これどうしたの!? お金どこから出たの!?」って、悪いことに手を出してないか心配になって問い詰めたら、ホシノちゃんはちょっと気まずそうにふいっと目をそらしながら、

 

「……別に、大したことしてませんよ。市街地とか、ちょっと遠くの砂漠の奥地に落ちてた、いくつかのアビドス領内を不法占拠してる『動くゴミ』を片付けて、ジャンク屋に売ってきただけです」って、事も無げに言ったの。

 

……動くゴミ? なんだろう、それ。

 

うちの後輩、白子ちゃんのことになると、本当に手段を選ばない最強の親バカ(姉バカ?)になっちゃうんだから……! でも、白子ちゃんのためにそこまで体を張れるホシノちゃん、実はすっごく格好いいお姉ちゃんだよね。不器用だけど、愛情の深さが宇宙規模だよ

 

というわけで、さっそくホシノちゃんが手際よく、生徒会室の天井の隅にその防犯カメラを取り付けてくれました! これさえあれば、明日になれば白子ちゃんが夜中にどうやって小部屋を脱出し、この部室で書類の紙吹雪を作って暴れていたのか、その秘密が全て白日の下に晒されるはず!

 

どんな驚きのトリックが隠されているのか、今からワクワクして待ちきれないや。早く明日にならないかな〜

 

〇月▽▼日(抜けるような青空、すっきり快晴! どこまでも砂漠が澄んで見える日)

 

びっくり、びっくり、大びっくりだよーーー! 日記さん、聞いて、本当に仰天しちゃうような大発見があったんだから!

 

まさか、私達が毎日使っているこの生徒会室の壁の裏側に、あんな映画に出てくるような隠し扉と秘密の通路が隠されていたなんて……。アビドスに誰よりも長く在籍していて、学校の隅々まで知り尽くしているはずの私ですら、今日まで全然、1ミリも知りませんでした!

 

今朝ね、まだ誰も登校していない早い時間に、ホシノちゃんと二人で生徒会室に集まって、固唾を呑みながら昨日の夜の見守りカメラの録画データを確認したんだ。スマホの小さな画面を二人で頭を突き合わせるようにして覗き込んでいたら、そこに信じられない光景が映し出されていました

 

真夜中、しんと静まり返った小部屋でむくりと起き上がった白子ちゃんが、壁に飾られている古いアビドスの校章レリーフの隙間に小さな前足をねじ込んで、一生懸命「カリカリ、カリカリ」って引っ掻いたの

 

するとね、まるでからくり屋敷みたいに、ゴゴゴ……って鈍い音を立てて、大人の人が一人やっと通れるくらいの暗い隠し穴がパカッと開いたんだよ! 白子ちゃんはその中に器用に吸い込まれていって、壁の裏の狭い配管スペース(?)を通って、この生徒会室の窓際にスポッとワープして出てきてたの!

 

どうやら大昔、アビドスがまだ今よりずっと賑やかで、色んなトラブルがあった時代に作られた、有事の際の隠し通路だったみたい。それにしても、道具も何も使わずに、本能だけでそんな歴史の遺物を見つけ出しちゃうなんて……白子ちゃん、野生の勘というか、お利口さんレベルがちょっと鋭すぎだよ〜!

 

本当はね、夜中に勝手に部屋を抜け出して、私の大切な書類をまたしてもクシャクシャの紙吹雪にしちゃったんだから、先輩として、お姉ちゃんとして、白子ちゃんに「めっ! 悪戯しちゃダメでしょ!」って、キリッと厳しくお説教をしなきゃいけなかったの。

 

だけど……カメラの映像を進めて、隠し通路を抜けて生徒会室にやってきてからの白子ちゃんの「本当の行動」を見たら、私達二人とも、胸がギューッと締め付けられて、叱る言葉を全部失っちゃいました

 

白子ちゃんはね、誰もいない暗い部屋に入ってくると、書類を散らかして遊んでいたわけじゃなかったの

 

私がいつも座っている使い古したお昼寝用のクッションや、ホシノちゃんが大切にしている大きなぬいぐるみに、自分の小さな体を「きゅーーーっ」って押し付けるように擦り付けて、何度も何度も、寂しさを埋めるみたいにクンクンと私達の匂いを嗅いでいたんだ

 

それから、私達の残り香が一番強く残っている、机の椅子の足元の狭い隙間に潜り込んで、自分の体を丸めて、寒さと不安に耐えるみたいに小さく、小さく震えていたの……

 

昼間はあんなに尻尾を振って、元気いっぱいに校庭を駆け回っているのに。夜になって私達が帰って、誰もいない真っ暗な学校にポツンと取り残されるのが、まだ小さい白子ちゃんにとっては、本当は寂しくて寂しくて仕方がなかったんだね。大好きな私達の匂いを探して、ここで必死に、泣き言も言わずに寂しさを我慢してたんだ

 

画面の向こうで、白子ちゃんが窓の外の遠い夜空を見上げて、声にならない、小さな悲しい遠吠えを上げている姿。白黒の粗い映像で、音なんて入っていないはずなのに、その胸が張り裂けそうなほどの寂しさが、痛いほど画面越しに私達の心に伝わってきて……

 

ふと隣を見たら、いつもはクールを気取っているホシノちゃんが、今にもボロボロと大粒の涙をこぼしそうな顔をして唇を噛み締めていたの

 

でもでも! 今日からはもう、白子ちゃんにそんな寂しい思いなんて、絶対に絶対にさせないんだからね!

 

夜泣きの本当の理由が分かった私達は、今日の放課後、大急ぎでお互いのお家から、使わなくなったお気に入りのぬいぐるみや、フカフカで柔らかい特大の毛布を台車いっぱいにかき集めてきたの。そして、白子ちゃんが寝る小部屋のケージの周りに、これでもかっていうくらい山積みに敷き詰めて、私達の匂いがたっぷりついた特製の「秘密基地」をプレゼントしてあげたんだ!

 

そしたらね、あの普段は「子供っぽいものは必要ありません」なんてツンツンしてるホシノちゃんが、自分が物心ついた小さい頃から、それこそボロボロに擦り切れるまでずーーーっと宝物として大切にしてた、あの使い古したクジラのクッションまで持ってきて、

 

「……これ、白子にあげます。夜中にまた寂しくなったら、これにギュッと掴まって寝てね。私の匂い、たくさんついてるから」って、すっごく照れくさそうに顔を赤くしながら、白子ちゃんの手元に差し出していたの

 

ホシノちゃんにとって、あのクジラさんがどれだけ片時も離せない大切な、心の支えのような存在だったかを知っていたから……私、なんだか胸の奥が熱いものでいっぱいになっちゃって、ホシノちゃんの代わりに涙がポロポロと溢れて止まらなくなっちゃった

 

ホシノちゃんは本当に、言葉はぶっきらぼうだし不器用だけど、世界で一番優しくてあったかいお姉ちゃんだよ

 

これだけたくさんの、大好きな私達の匂いと温もりに囲まれていれば、今日の夜からはもう、暗いお部屋でも寂しくないよね♪ 白子ちゃん、今夜は私達の夢を見て、スヤスヤ安心して眠ってね

 

追伸

 

日記に書くのを何日かすっかり忘れちゃってたんだけど……あの事件の後ね。夜中に誰もいなくなった、ただのガランとした空っぽの生徒会室の映像を毎朝確認しているよりも、白子ちゃんが新しいふかふかベッドでスヤスヤ気持ちよさそうに眠っている可愛いところを毎日見て癒やされたいね、ってホシノちゃんと意見が一致して、あのハイテクカメラを白子ちゃんのお部屋の方へお引っ越しさせたんだ!

 

お陰でこれからは、お昼の厳しい書類仕事の休憩中とかに、「昨日の白子ちゃんはどんな面白い格好で寝てたのかな〜?」って、ホシノちゃんと一緒にスマホの画面を覗き込みながら、クスクス息抜きする楽しみが増えちゃいました! えへへ、ホシノちゃんとの共通の秘密の楽しみがまた一つ増えちゃって、お姉さん本当に幸せです!

 

△月〇日(雲ひとつない大快晴! どこまでも歩いていけそうな、絶好の冒険日和!)

 

大変です、大変です、大・大・大英断の、大変事件です!!

 

今日という日は、私こと梔子ユメが、これまでのアビドス人生の中で一番の、「一世一代の覚悟」をガチッと決めた、歴史に刻まれるべき記念日となりました

 

……だってね、聞いてよ日記さん。先週の、あの窓閉め忘れ(本当は白子ちゃんの隠し通路ワープのせいだったけど!)による「3日間おやつ抜き刑」がようやく今日で満了するって信じて疑わなかったから、私は今日の放課後はどのアイスを購買で食べようかな〜、限定のメロンパフェ味にしようかな〜♪って、朝からルンルン気分でお尻を振るくらい浮かれていたんだよ

 

なのに、今朝意気揚々と生徒会室のドアを開けたら、待ち構えていたホシノちゃんから、表情一つ変えない氷のような声で、あまりにも信じられない非情な宣告を突きつけられちゃったの

 

「ユメ先輩。昨日の夕方、あれほど念を押し、耳にタコができるくらいお願いした『購買の領収書』のファイリングですけど。なんで月別のインデックスが前後逆さまのまま、机の上にポイッと放置されてるんですか? ……ハァ、先輩には反省の色というものが全く見えませんね。よって、刑期を大幅に延長します。今日から丸々『1週間、おやつ全面禁止』にします」って……

 

いちしゅうかん……な、な、なな、7日間だよぉぉぉ!?

 

1日でも甘いものを断たれたら干からびちゃうこの私から、7日間も糖分を奪うなんて、それってアビドス生徒会長への実質的な死刑宣告と同じだよ〜! ひぃん、いくら普段からドジばかりで頭が上がらない頼りない私だからって、さすがにこのまま涙を呑んで、黙って引き下がるわけにはいきません!

 

なんとかしてホシノちゃんをあっと驚かせるような大金星を挙げて、私の有能なところ、頼りになるところをこれでもかっていうくらい見せつけて、その理不尽な(うう、原因の100%は私の詰め切りの甘さだけど!)おやつ抜き刑をドカンと一発で特赦・全面撤回してもらわなきゃ!

 

そう一念発起して、何か生徒会のためになるような歴史的大発見や、学校の財政を助けるようなお宝はないものかと、お部屋の大掃除と整理も兼ねて、学校のずーっと奥深く、地下にある誰も立ち入らない古い図書室へと向かったの。何百年分もの埃が積もって、まるで地層のようになっている古い資料の山を、顔を真っ黒にしながら「くしゅんっ!」って何度もくしゃみをしながらひっくり返して探していたんだ

 

そしたらね……見つけちゃったんだよ! 誰も触れていないボロボロの木製書棚の裏側、壁の隙間に挟まるようにして残されていた、茶色く色褪せてパリパリになった1枚の、すっごく古びた羊皮紙の地図を!

 

そこに細かく書かれた砂漠の地形、怪しげなインクで記された点線、そして中央に堂々と描かれた巨大なバツ(×)印、見たこともない奇妙な磁場の等高線……これってどう見ても、冒険映画に出てくるような伝説の「隠されたお宝の地図」そのものじゃない!?

 

うう、でもね、見つけた瞬間は、嬉しさよりも先に「これをホシノちゃんに見せたら、またあの冷たいジト目で『ハァ……ユメ先輩。夢を見るのは勝手ですけど、いい加減現実を見てください。そんなただの落書きの紙切れを追いかける暇があったら、目の前にエベレストみたいに積まれている未処理の書類の山を1枚でも片付けてください』って、キリッと冷たく怒られちゃうかな……」って、内心ビクビクして、お説教される覚悟をしてたんだ

 

だけど、おやつ1週間没収の絶望に比べたら何でもできる!って勇気を振り絞って、生徒会室の机の上にドサッとその地図を広げてみたら……あれれ? ホシノちゃんの反応が、私の予想と180度違ったの!

 

ホシノちゃんって、普段はすっごく現実主義でお堅い真面目ちゃんだけど、実は意外と、こういう未知のロマンとか冒険っていう言葉に、めちゃくちゃノリが良いところがあるのかな……?

 

私がね、「見て見て、ホシノちゃん! この地図のバツ印の場所、今の感覚だとアビドスの遥か西の砂漠の奥地なんだけどね、ここにはきっと、ものすごい古代のエネルギーを秘めた、アビドスの多額の借金を一瞬で完済して学校を救うことができる伝説の超稀少鉱石が眠っているんだよ! その名も……『プラズマ鉱石』!!!(ちなみに名前は私が3秒でカッコよく命名しました!)」って、拳を握りしめて目をキラキラさせながら大熱弁したの

 

そしたらホシノちゃん、その古びた地図と、鼻息を荒くしている私の顔を交互にすっごく真剣な、まるで軍師のような目で見つめた後……口元をフッ……と不敵に、好戦的に歪めて笑ったんだよ

 

「……プラズマ鉱石、ですか。いいですね、それ。もし本当にそんな大層なものが見つかって、高く売れたら……借金も返済出来て白子に沢山おやつを買ってあげられますもんね。……よし、決まりです先輩。明日さっそく、全装備を整えて砂漠の奥地へ発掘調査に行きましょう!」って、ものすごい気合と目の色を変えて、ノリノリで賛成してくれたの!

 

あははは……アビドスを救う伝説の鉱石のハズなのに、いつの間にか「白子ちゃんのおやつを買うため」に軍資金を稼ぎに行くっていう、なんだか主旨がもの凄く私的な方向に変わっちゃってる気がするけど……まぁ、ホシノちゃんがこれまでにないくらいやる気になってくれたから、結果オーライかな?

 

でも、白子ちゃんのことになると本当に手段もプライドも全部投げ捨てて周りが見えなくなっちゃうから、ちょっとお姉さん、ホシノちゃんが将来どんな過保護な親バカになっちゃうのか、今から少しだけ心配になってきちゃったよ(笑)

 

何はともあれ、明日は待ちに待った、アビドス生徒会・初の大宝探し冒険の本番!

 

砂漠の過酷な奥地で、私がビシッと「プラズマ鉱石」を発見して、先輩としての最高に頼りがいのあるかっこいい所をホシノちゃんにこれでもかっていうくらい見せつけるんだから! そしてホシノちゃんに「ユメ先輩、今まで頼りないなんて見くびってました、ごめんなさい。先輩は最高の生徒会長です! おやつ抜きは今日で全面撤回、なんなら今からご褒美として、購買の高級三色アイスを3個、私のお小遣いで奢らせてください!」って、顔を真っ赤にさせながら白旗を揚げさせてみせるんだからね! 待ってろよーお宝! 3人で力を合わせて、明日は大勝利を掴むぞー!

 

△月△日(地平線に沈む夕焼けが、言葉を失うくらいすっごく綺麗な茜色に染まっていた日)

 

うう……結果から包み隠さずに白状しちゃうとね、日記さん。私達が砂だらけになりながら夢見た伝説の「プラズマ鉱石」は……残念ながら、西の砂漠の奥地をどれだけ探しても、影も形も、手がかりすら全く見つかりませんでした!

 

地図に描かれた巨大なバツ印の場所に到着してからは、それはもう一大発掘レースの始まり。私とホシノちゃんで、持ってきた大きなスコップを両手に執念深く大汗をかきながら、砂丘を何メートルも、何メートルも深く掘り返してみたんだよ。だけど、どれだけ掘り進めても出てくるのは、サラサラと虚しく指の隙間をこぼれ落ちていく代わり映えのしない熱い砂と、大昔に誰かが捨てたであろう文字の潰れた古びた空き缶ばかり……

 

やっぱり、アビドスを救うような夢のお宝なんて、そう簡単には見つからないからこそ「伝説」なんだね。さすがに体力の限界を迎えて、すっかり日も傾いて涼しくなってきた砂の上にペタンと座り込んで、口から魂が抜け出たような熱い溜め息を何度も吐き出していたんだ。私の頭の中では、おやつ1週間没収の現実がブーメランみたいに頭の周りをぐるぐる回り始めて、目の前が真っ暗になりかけていたの

 

だけどね……! 神様は、私達をただの徒労感だけで手ぶらで帰すような、意地悪なことはなさらなかったんだよ!

 

なんと、私とホシノちゃんが完全に肩を落として、夕日を浴びながらトボトボと撤退の路を歩いていたすぐ後ろで。一緒についてきていた白子ちゃんが、まだ遊び足りないと言わんばかりに、近くの奇妙なクレーターみたいな砂山を一生懸命に前足で「カリカリ、カリカリ、ガシガシ!」って猛烈に掘り返し始めたの

 

「どうしたのかな?」って二人が振り返って見守っていたら、次の瞬間、砂の奥から夕日に反射してパッと眩しくきらめく、言葉にできないほど不思議で美しい、二つのきらきらした石を見つけて掘り出してくれたんだよ!

 

最初に白子ちゃんが、自慢げに小さな口で「ハムッ」ってくわえて、私達のところにトコトコ走って持ってきてくれたのは、まるで奥深い森の底に溜まった聖水のように透き通った、エメラルドみたいに深い、綺麗な「緑色の石」だったの

 

それを見た瞬間、あわやアビドス生徒会始まって以来の、血を見るような大喧嘩が勃発しそうになっちゃいました……

 

だってね、ホシノちゃんがその緑の石の美しさを目にした瞬間、普段のクールさはどこへやら、両目をこれ以上ないくらいハートマークにして

 

「……っ! 先輩、見ましたか!? これは白子が、日頃の感謝を込めてこの私のためだけに、世界中から見つけてきてくれた運命の石なんです! 」

 

って、それはもうデレデレのフニャフニャなベタ褒め親バカモードを大全開にしちゃったんだもん

 

それをすぐ隣で見ていた私は、ちょっぴり……ううん、白白白状すると、めちゃくちゃ寂しくなっちゃったの!

 

だから思わず、頬を限界まで膨らませて、

 

「ちょっと待ってよ、ホシノちゃん! 白子ちゃんは私達のために、力を合わせて頑張ったご褒美として見つけてくれたんだよ! それにほら、さっき私に最初に手渡そうとして、足元に歩み寄ろうとしてくれた気がするもん! 私のだよー!」

 

って、ムキになって全力で抗議しちゃったんだ

 

だって、だってね……! 最近のホシノちゃん、本当に白子ちゃんのことになるとお顔がとろけちゃって、私に対するあの冷た〜い塩対応(눈_눈)と比べると、天と地、太陽と深海ほどの格差があるんだもん……。私だってアビドスの生徒会長だし、ホシノちゃんのお姉さんなんだから、たまにはホシノちゃんから「ユメ先輩、今日の書類仕事すごいです! 偉いですね!」って、優しく頭をなでなで、よしよしされたいよー!

 

そんな子供っぽくて情けないヤキモチも心の中にあったせいで、アビドスにホシノちゃんが来てから初めて、本気のトーンで「私の!」「いいえ、私のですよ! 先輩は引っ込んでてください!」って、小さな子供の砂場遊びみたいに、石を真ん中にして大の大人が言い合いをしちゃったの

 

そしたらね……そんな私達の醜い小競り合いを一歩引いた安全圏から、なんとも言えない、冷ややかで呆れ果てたような目で見つめていた白子ちゃんが、「ハァ……」と人間みたいに小さくため息をつくように、短く鼻を鳴らしたの

 

自分たちが大人げない行動をしていることに気づいて、私達がピクッと動きを止めたとき、白子ちゃんはトトト……ともう一度近くの砂山へと駆けていっちゃった。そして、器用に前足で砂を払いのけると、今度はさっきの緑色の石と、大きさも形も全く同じ、まるで今私達を包み込んでいる夕焼け空をそのまま閉じ込めたように鮮やかで優しい、美しい「ピンク色の石」を、ひょいっと健気に咥えて戻ってきたんだよ

 

白子ちゃんは、その新しく見つけたピンク色の石を、私の足元に「ちょこん」って優しく置いて。それから、さっきの緑色の石をホシノちゃんの足元にしっかりと置き直して、まるでお仕事完了と言わんばかりに、満足そうに「わんっ!」って短く可愛らしく吠えたの

 

その姿は、どう見ても、

 

「二人とも、そんなことで喧嘩しないで。これでお揃いなんだから、仲良くしなよ」

 

って、精神年齢の低い先輩と後輩を優しく宥めて、仲直りさせようとしてくれているみたいで……

 

あははは……なんだか私達、完全に子犬の白子ちゃんに気を遣わせちゃったね。ひょっとしたら、いつもドタバタ暴走してドジを踏む私や、白子ちゃんのことになるとIQが下がっちゃう過保護なホシノちゃんよりも、白子ちゃんのほうが精神的にずーーーっと大人で、冷静沈着なアビドス生徒会の頼れる新会長に向いてるのかもしれないなぁ……なんて、ちょっと本気で思っちゃった(笑)

 

そんな優しい白子ちゃんの大人の気遣いに、私達はお互いに顔を見合わせて、耳の先まで真っ赤になって赤面しちゃって、それまでの子供じみた喧嘩なんて一瞬でどこかへ吹き飛んじゃった

 

恥ずかしさを隠すように、帰りの沈みゆく砂漠の道すがら、ホシノちゃんがちょっと照れくさそうに片手で頭をかきながら

 

「……まぁ、その。この二つの石、せっかく白子が私達のために掘り出してくれたんですから。上に小さな穴を開けて丈夫な紐でも通して、アビドス生徒会の『世界に一つだけのお守り』にしませんか? 二人で一つ、みたいな」

 

って、ボソッと提案してくれたの!

 

それを聞いた瞬間、私の胸の奥は言葉にできないくらいのワクワクと感動でいっぱいに膨らんじゃった!

 

「それ、私が作りたい! 私が絶対に心を込めて、世界一可愛くて最高のお守りに仕上げてみせるから、今日のところは二つの石、私に預からせて!」

 

って、落とさないように二つの石をギュッと両手で包み込んで、宝物みたいに大切に生徒会室まで持って帰ってきたんだ。白子ちゃんが私達にくれた、アビドスの砂漠がくれた、世界にたった一つだけの大切な大切な絆の証だもん。不器用なりに、一針一針、心を込めて一生懸命編み上げるぞー!

 

……そういえばね。いま、静まり返った机の上で、緑色のランプの優しい光に透かしながら、この二つの石をじっと見つめているんだけど。

 

ホシノちゃんの手元に手渡された、深みがあって吸い込まれそうなほど綺麗な「緑色の石」と、いま私の手元にある、温かくて鮮やかな「ピンク色の石」……。なんだかこの色彩って、ホシノちゃんの綺麗な髪と、私の髪の毛の色に、すっごくよく似ているような気がするんだ。これって、ただの偶然なのかなぁ? それとも、白子ちゃんには最初からそう見えていて、私達に手渡してくれたのかな? もしそうなら、なんだか運命を感じちゃうね

 

それにね……お守りの紐を通すための細い金属パーツを合わせようと思って、石の表面を「コンコン、コンコン」って指先で少しだけ叩いて刺激を与えてみたら……

 

なんだか石の奥深層のほうが、まるで生きていて呼吸を始めたみたいに、淡く、ぽうっと内側から熱を持って、怪しく、でもとっても温かく明滅するように光ったような気がしたの

 

……ううん、気のせい……だよね?

 

アビドスの歴史を変えるようなエネルギーを秘めたプラズマ鉱石ではなかったけれど、やっぱりこの広大な砂漠には、私達の知らない不思議なロマンや秘密が、まだまだたくさん眠っているみたい

 

ホシノちゃん、明日は絶対に、世界一素敵なお守りを完成させるからね。待っててね!

 

△月△〇日(雲ひとつない晴れ、夜は砂漠の虫の音が心地よく響く、とっても静かな日)

 

ひぃん……今日は本当に、本当に、身体中のありとあらゆる筋肉がバラバラに引きちぎれちゃうんじゃないかっていうくらい疲れましたーーー……。お布団に入って日記を書いている今も、ペンを持つ指先がプルプル震えて力が入らないよぉ。でもね、日記さん。それと同じくらい、ううん、それ以上に、すっごく心が内側からポカポカと温まる、アビドス生徒会にとって最高に特別で愛おしい1日になったんだ

 

すべての事の始まりは、昨日決行したあの砂漠での大冒険。伝説の「プラズマ鉱石(仮)」を探して、私とホシノちゃんで砂山をこれでもかっていうくらい猛烈に掘り返したでしょう? その時、一緒になって砂穴に飛び込んでガシガシ手伝ってくれていた白子ちゃんの、あの自慢のサラサラで綺麗な銀白色の毛並みが、おうちに帰る頃にはすっかり細かい砂埃と泥にまみれて、まるで黄色い狐さんみたいになっちゃってたの

 

「これはアビドス生徒会の一大事だ! 白子ちゃんの尊厳に関わるよ!」ってことで、今日は急遽、学校の敷地内にある、もう何年も誰も使っていない古いお風呂場(昔、生徒数が何千人もいた頃の大きな寄宿舎の浴場なんだよ)を、みんなで大掃除することに決定したのです!

 

私達はお掃除用具を両手に抱えて、意気揚々と「お風呂場綺麗にするぞー!」って浴場の重い鉄のドアを開けたんだけど……次の瞬間、目の前の光景に言葉を失って絶句しちゃいました

 

本当に、何年も何年も放置されて厳しい砂嵐に晒されていたから、コンクリートのひび割れた壁を力強く突き破って、外の砂漠から太くて青々とした緑のツタや奇妙な植物が、浴場の中にまで「にょきにょきにょきーーーっ」って、まるでジャングルの入り口みたいに入り込んで群生してたの! 割れた窓から差し込む一筋の光に照らされる、怪しくうごめくツタの群れ……

 

何も知らずに夜中に一人で迷い込んだりしたら、絶対に本物の悪霊が出るお化け屋敷だと思って、腰を抜かしてその場にへたり込んじゃうレベルの恐ろしさだよー

 

でも、アビドス生徒会の底力と団結力を見せるのは、まさにこういうピンチの時!

 

私とホシノちゃんで、長い柄のついたデッキブラシを両手にしっかり持って、埃まみれの床や高い天井、それに大人数が入れそうな大きなコンクリート製の浴槽の中を「ゴシゴシ!」「ガシガシ!」って、お互いに声を掛け合いながら猛烈にお掃除を開始しました

 

途中、天井の隅にある頑固な蜘蛛の巣を払おうとしてはしごに登っていた私が、足を滑らせて「わわわっ!」ってバランスを崩しちゃったんだけど、すぐ下にいたホシノちゃんが、自分の小さな体でしっかり受け止めて支えてくれたの

 

ホシノちゃんは、「おっとっと……危ないですよ先輩! 本当にユメ先輩は、一瞬でも目を離すとこれなんですから……手がかかるお人好しなんだから、もう」って、いつものジト目で呆れながらお小言を言ってくれたんだけどね

 

でも、ふと見たら、そんな風に私を心配してくれたホシノちゃんの薄ピンク色の頭のてっぺんに、大きな蜘蛛の巣がぽふっと不恰好に乗っかっちゃってて。私が「あはは、ホシノちゃん頭に勲章がついてるよ」って笑いながら優しく取ってあげたら、ホシノちゃん、一瞬だけ驚いたように目を見開いたあと、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして「……あ、ありがとうございます、先輩」って、小さな声で俯いちゃったの!

 

きゅん、やっぱり私の可愛い後輩は、照れると世界一、宇宙一かわいいなぁ! お姉さん、疲れが半分吹き飛んじゃったよ

 

一通り浴場の中がピカピカに輝きを取り戻したところで、効率を上げるために役割分担をすることに。ホシノちゃんが脱衣場の床やロッカーの丁寧な拭き掃除、そして私と白子ちゃんで、お風呂場の外の排気口周りに生い茂っている、建物を痛めちゃう頑固な砂漠の雑草たちをむしり取る「草取り担当」になりました

 

それでね、日記さん! 今回の草取り作業で、私は改めて、新入役員の白子ちゃんって本当に、本当に頭が良くて賢い、天使みたいな子なんだなーって心の底から感動しちゃったの

 

私が生え放題の太い草を両手で掴んで、「ううーん……! この草、アビドスの大地に根っこが深く張りすぎてて、私の力じゃどうしても抜けないよ〜、ひぃん……」って地面と涙目で格闘していたら。私のすぐ後ろで一人でトコトコ歩いて遊んでいたはずの白子ちゃんが、私のピンチを察したみたいに、突如として「ガリガリガリガリッ!!」って猛烈な勢いで、その草の根元の砂を激しく掘り始めたの

 

最初は「あ、やっぱり子供だから、退屈して砂遊びを始めちゃったのかな? 可愛いな」って微笑ましく思ったんだけど、全然違ったんだよ! 白子ちゃんはね、私がその頑固な草を少しでも抜きやすくできるように、自分の前足が泥だらけになるのも構わずに、周りの固く固まった土を一生懸命に掘り起こして、柔らかくほぐしてアシストしてくれていたの……!

 

その健気な姿を見たら、愛おしすぎて「白子ちゃん、ありがとう〜っ!!」って、砂まみれの体をギュッと抱きしめたくなっちゃった。白子ちゃんのそんなスマートで完璧なサポートのおかげで、その後の草むしり作業は信じられないくらいサクサク進んで、後から脱衣場のお掃除を終えて見にきたホシノちゃんに、「えっ……凄いですね先輩! たった二人でこんなに沢山の量をこなしたんですか!?」って、あのホシノちゃんが目を丸くして褒めてくれるくらい、たーーーっくさんの草をむしり取ることができちゃったんだよ! えへへ、おかげで「頼れる有能な生徒会長」としての先輩の威厳が、ちょっとだけ(白子ちゃんのおかげだけど!)保てたかも!

 

……でもね、その輝かしい大成功の直後に、世にも恐ろしい悲劇が起きました

 

お掃除がすべて完璧に終わって、綺麗になった大浴場に、学校に備蓄されていた貴重な水を大切に使って沸かした、ほかほかの温かいお湯をなみなみと張ったの。それを見たら、今日の激務の解放感もあって嬉しくなっちゃった私が、テンションが最高潮に上がりすぎて、タオルを体に巻き付けただけの姿で、「わーーーいっ! 一番風呂だーーーっ!!」って、白子ちゃんとお風呂にダイブするように勢いよく飛び込んじゃったんだよね……

 

ザブーーーーン!!! と盛大な水飛沫が上がり、当然のごとく、浴場全体に響き渡るホシノちゃんの恐ろしい怒りの雷が落ちました

 

お風呂上がりに、まだ湯気の立ち込める脱衣場で、水飛沫で濡れてしまった自分の制服を絞りながら、私は床の上にペタンと正座をさせられて。ホシノちゃんから

 

「……先輩。せっかく二人がかりで何時間もかけて綺麗にしたばかりのお風呂に、なんですかその原始人みたいな愚行は。小学生ですか? 先輩が跳ね上げた水のせいで、私の服までびちょびちょですよ。……何か、この状況に対して私に言うことがあるんじゃないですか、ねぇ、生徒会長?」

 

って、ものすごーーーく冷たくて底暗いジト目で、長々と、それはもう延々とお説教をされちゃった。ひぃん、せっかくお風呂で温まったのに、ホシノちゃんのお説教の寒さで湯冷めしちゃうよ〜

 

でもね、今回は不思議なことに、いつもなら定番の「明日から追加でおやつ抜き!」とは言われなかったの

 

言葉のトゲはいつも通りチクチクしてたけど、お説教をしながら私の頭をバスタオルでガシガシ拭いてくれるホシノちゃんの瞳の奥が、どこか切ないくらい優しく揺れていたから……きっと、本気では怒っていなかった……のかな? そうだといいな、お姉ちゃん思いの優しい後輩だもんね

 

すべての片付けが終わる頃には、窓の外はすっかり夜が更けて、満天の星空が広がる時間になっていました。お互いに身体がこれ以上ないくらいクタクタに疲れ果てちゃったから、「今日は特別に、みんなでお家に帰らないで生徒会室にお泊まり会をしちゃおう!」ってことに決定したの!

 

誰もいない夜の冷たい一人部屋じゃなくて、住み慣れた生徒会室のソファーの前に、お布団を並べて特製の大きな敷布団を作ってあげたら。さっきお風呂で綺麗に洗われて、乾かしてもらったばかりの真っ白でフワフワになった白子ちゃんが、ものすごーく嬉しそうに短い尻尾をちぎれんばかりにブンブン振って、お布団の上をピョンピョン楽しそうに跳ね回ってて。その姿を見ているだけで、胸の奥から愛おしさが大爆発しちゃいそうだったよ!

 

ホシノちゃんに「はいはい白子、じっとしててください。風邪ひきますよ」って、おっきなタオルで頭を優しくワシャワシャ乾かして貰っている白子ちゃん。そしてその横で、お日様のポカポカした匂いと石鹸の甘い混ざった、白子ちゃんの洗いたてのいい匂いを「クンクン、スーハー!」って思いっきり嗅いで悦に浸る私……。なんだか本当に、血の繋がった本物の家族みたいで、胸が詰まるくらい夢のように幸せで楽しい時間だったなぁ

 

……ただね、日記さん。その幸せな夜ご飯の時間に、一つだけ、すっごく意外というか……驚天動地の大発見(?)があったの

 

夜ご飯の準備のとき、ホシノちゃんが「私は普段から一人暮らしで自炊に慣れているので、先輩の怪しい料理を食べるより安全です。私が作りますよ」って言って、学校の地下倉庫から持ってきた長期保存用の乾物と缶詰を使って、何か特製の温かいメニューを作ってくれたんだけど……

 

あの、大きな声では言えないんだけど、日記さんだから内緒で書くね。ホシノちゃんって、意外とお料理の才能が……その、一般的な基準から言うと、かなり壊滅的に下手くそ……というか、前衛的すぎるのかな……?

 

だってね、使ったのは普通の保存食の乾物と、トマトか何かの缶詰だったはずなのに。目の前に出来上がって運ばれてきたのは、怪しい紫色に変色した、今まで人生で一度も見たこともないような不気味な「ドロドロの物体(ホシノちゃん曰く、特製満腹スープ)」だったんだもん……

 

(あと、これがいま思い出しても一番のミステリーなんだけど、あのドロドロのスープの具材として中央に鎮座していた、私の手のひらサイズくらいある『巨大な砂漠サソリ』は、ホシノちゃん一体いつの間に、どこから素手で捕まえてきたの!? アビドスの野生の砂漠、本当に恐るべしだよ……!)

 

ホシノちゃんが「さあ、ユメ先輩。私の手料理ですよ? 愛情をたっぷり込めたんですから、後輩の好意を無駄にせず、一滴残さず綺麗に食べてくださいね(ニッコリ)」って、目が全く笑っていないもの凄い目力で器を差し出してくるから、私はお姉ちゃんのプライドをかけて、決死の覚悟を決めてスプーンで一口パクって食べたの

 

そしたらね……食べた瞬間に、頭の芯がシャキーンって電流が走ったみたいになって、目の前が真っ白になって、気がついたら急に身体の力が抜けて意識がスーッと遠のいていっちゃったの! 視界の向こうの方に、すっごく色鮮やかなお花が綺麗に咲き乱れていて、向こう岸で誰かが手を振っている三途の川……じゃなくて、とっても綺麗な川の景色が見えちゃったよ……! あやうく本当にお星様になって、この日記が未完で終わるところだったよぅ。隣にいた白子ちゃんも、そのスープの器に鼻を近づけて一口匂いを嗅いだ瞬間、野生の危険察知本能がフル稼働したみたいで、短い悲鳴を上げて全力で生徒会室の外に脱兎のごとく駆け出しちゃうし、もう大騒ぎだったんだから

 

その後、スープの毒気(?)で完全に気絶して倒れちゃった私を、ホシノちゃんが慌てておんぶして、空気の綺麗な屋上へと運んでくれて。お部屋の換気が終わるまでの間、みんなで夜風に吹かれながら、満天の星空を見上げる形になったの

 

(あ、そのバタバタの最中に、私がホシノちゃんに隠してソファーの隙間にコレクションしていた、ちょっと恥ずかしい大人向けの恋愛小説の存在がホシノちゃんに完全にバレて、じっくり表紙を見られちゃったけど……お星様になりかけたことに比べたら、もう些細なことだから気にしないもん!)

 

夜の屋上に上がるのは初めてだったから、きらきら光る星空の下で、見たこともないくらい大はしゃぎして星を追いかけるみたいに飛び跳ねている白子ちゃんを見ていたとき。私は、白子ちゃんがここに来たばかりの頃に比べて、ひと回りもふた回りも身体が大きくなっていることに、初めて気がついたの。アビドスの過酷な環境でも、この子はちゃんと育ってくれているんだね

 

そのあとは、お部屋に戻って、みんなでお布団を並べて「川の字」になって一緒に横になって眠りにつきました。私の右側には、すやすやと可愛い寝息を立てる白子ちゃん。左側には、私の布団の端っこを無意識にギュッと小さな手で掴んだまま眠っているホシノちゃん

 

二人の温もりと、お風呂上がりの石鹸のいい匂いに包まれていたら、今日までの疲れも、明日からの山のような書類仕事への不安も、今もなお継続中の一週間の厳しいおやつ抜き刑の絶望も、全部全部、綺麗に吹き飛んで「明日も頑張るぞー!」って心の底から思えたよ

 

いつかアビドスの砂漠化が止まって、もっとたくさんの生徒がこの学校に戻ってきたとしても。私はまた何度も、この静かで大好きな生徒会室で、この最高の3人で、川の字になって一緒に仲良く眠りたいな

 

おやすみなさい、日記さん。そして、おやすみなさい、私の大切な、世界で一番大好きな、かけがえのない家族のみんな

 

×月×日(雲ひとつないどこまでも高い青空! でも、夕方の砂漠の風はちょっぴり涼しくなってきたかも?)

 

えへへ……毎日欠かさず日記をつけるのって、私ののんびりした性格からすると、想像以上にすっごく、すっごく大変なことだね、日記さん……

 

「今日こそは書くぞー!」ってベッドに入るたび、心地いい疲れのせいで一瞬で夢の国に旅立っちゃう日が続いて、気づいたら机の引き出しの中でページを開くのをすっかり忘れたまま放置されていました……。恐る恐るカレンダーを確認したら、な、なんと、前回のあの「お化け屋敷お風呂場の大掃除&お泊まり会」の日から、丸々3ヶ月くらい経っちゃってました! ひぃん、月日が流れるのって本当に早すぎるよ〜!

 

でもね、日記さん! 私がこうして書くのをサボっていたこの空白の3ヶ月の間、アビドス生徒会には(主に私の相変わらずのドジのせいや、白子ちゃんのことになると完全に理性を失って限界親バカと化してしまうホシノちゃんの文字通りの大暴走のせいで!)それはもう、日記のページが何百枚あっても足りないくらい、数え切れないほど色んなドタバタ劇があったんだよ! 毎日がジェットコースターみたいにバタバタと目まぐるしくて、書類が砂嵐で吹き飛んだり、夕ご飯の買い出しで迷子になったり、大変なこともたくさんあったけれど、今こうして静かな夜に思い返してみれば、どれも胸がキュンとするような、クスッと笑っちゃうような面白い日常の1コマばかりでした

 

そしてね、その数ある出来事の中でも、何より一番の、アビドス最大の大ニュースは……白子ちゃんの成長スピードが、とにかく凄まじくて驚異的すぎるっていうこと!

 

私達が数ヶ月前、出会ったばかりの頃の白子ちゃんは、あんなに小さくて、私の両手の中にすっぽり収まって「くぅ…」って鳴いていたはずだったのに。気がついたら、とうとう見違えるくらいおっきくて立派な体格になっちゃったの!

 

ただ体がおっきくなっただけじゃなくて、体幹の力というか、筋肉のパワーもものすごく強くなっていてね。最近の定番の朝の挨拶で、白子ちゃんが「わんっ!」って嬉しそうに尻尾を千切れんばかりに振りながら私達に向かって弾丸みたいに突進してくると(たぶん本人は、小さい頃の感覚のまま全力でお姉ちゃん達に甘えようと胸に飛び込んできてくれているんだと思うんだけど……)、不意打ちを食らった運動不足の私だけじゃなくて、あのいつも足腰の軸がしっかりしていて戦闘訓練もバッチリなホシノちゃんですら、一瞬「おっとっとっと……! 白子、ストップ、ストップ!」って顔を引きつらせてよろけてしまうくらいに、骨格も力も大・大・大成長を遂げたんだよ!

 

今では、白子ちゃんが四つん這いでフツーに立っている状態でも、ちょうど私の膝の上くらいの高さまで頭が届くようになったの。毛並みも毎日ホシノちゃんが高級なブラシでご奉仕しているおかげで、シルクみたいにツヤツヤの真っ白で、お日様の光を浴びるとキラキラ輝いて本当に神聖で立派になって……うう、最初のお母さん(?)代わりだったお姉さんとしては、なんだか成長が嬉しくて目頭が熱くなって感動しちゃうよ

 

それでね、さすがにこれだけ急激に大きくなったし、私達の素人判断だけじゃなくて、一度ちゃんとした専門のお医者さんに見てもらって体の具合を確認しようってことになって。今週の初めに、ホシノちゃんと一緒に白子ちゃんをなだめすかしながら、アビドス地区の端っこに残っている古い「アビドス動物病院」へ健康診断を受けに連れて行ったの。

 

そしたらね、白子ちゃんを丁寧に触診してレントゲンを撮ってくれた担当の獣医の先生から、あまりにも信じられない衝撃の事実を告げられて、私とホシノちゃんは診察室で同時に目を丸くしてフリーズしちゃいました

 

なんと白子ちゃん、これだけ体が大きくて力強いのに、歯の生え変わりの状態や、骨の成長線(軟骨の隙間)の様子から見て、これでも「まだ産まれてから1年くらい」しか経っていない、正真正銘の子供なんだって……!

 

「えええっ!? まだ1歳なんですかっ!?」って、病院の静かな待合室に響き渡るような大声を揃えて、ホシノちゃんと一緒にハモるように驚いちゃった。本当にびっくりだよね、日記さん。じゃあ、私達が出会ったあの日、あの燃えるような太陽の下で倒れていた白子ちゃんは、まだ生まれてから数ヶ月しか経っていない、人間の赤ちゃんで言えばハイハイすら出来ないような、本当に本当の「乳飲み子」だったんだなぁ……

 

そんな小さな、頼りないちっちゃな体で、あんなに過酷で水もない広大な砂漠を、たった一人で、どんなに細い息を吐きながら彷徨っていたんだろう。そう思うと、今でも胸が締め付けられるようにキュッて痛くなっちゃう。あの時、諦めずに探しに行って、私達の手で白子ちゃんを見つけることができて、本当に、本当によかった……!

 

あ、それとね? 体の成長と一緒に、最近になって私達がようやく知ることになった、白子ちゃんのちょっぴり意外で、とっても愛らしい「内面の一面」があるんだ〜

 

実は白子ちゃんってね……あんなに普段は甘えん坊に見えて、ものすごーーーく「嫉妬深くて独占欲が強い」女の子なんだよ

 

この前もね、生徒会室のソファーが砂っぽくなってきたから、私が午後の時間を使ってクッションの衣替えと大掃除をしていたの。その時、昔ホシノちゃんが「夜泣き対策」として白子ちゃんのお部屋にプレゼントした、あのホシノちゃんの大切な、ちょっとクタクタになったお気に入りの「クジラさんの大きなぬいぐるみ」を久しぶりに洗濯してあげたんだ

 

夏のカラッとしたお日様の匂いでフカフカの絶品に仕上がったクジラさんを、生徒会室のソファーに運んできたとき、ホシノちゃんがなんだか昔を懐かしむみたいに、愛おしそうな優しい目でそのクジラさんを「ギューーーッ」って自分の胸に強く抱きしめながら、

 

「ん……ふふ、久しぶりに抱きましたけど、やっぱり落ち着くというか、良いものですね、これ。……まぁ、すっかり白子の匂いが混ざっちゃって、私だけのものじゃなくなってますけど」

 

って、いつになくのんびりした穏やかなトーンで呟いていたの。私達が居ない真夜中の間、隠し通路を通って寂しさを耐えていた白子ちゃんが、ずーっと大切に抱きしめていた宝物だもんね!

 

そこまでは、見ていて心が洗われるような、生徒会室の微笑ましい平和な日常の1コマだったんだけど……

 

次の瞬間、部屋の隅の特等席でその様子をじーーっと見ていた白子ちゃんが、突然「ガルルルル……」って、今まで一度も聞いたことがないような、野生の猛獣みたいな低い地鳴りのような声で喉を鳴らして、ホシノちゃんの手元をもの凄い眼光で睨みつけたの!

 

その予想外のド迫力と殺気に、流石の戦闘特化のホシノちゃんも一瞬で頬を引きつらせて大慌てで両手を挙げて、

 

「わ、分かってます! 分かってますよ白子! 怒らないでください、そんな怖い目で見ないで! これはもう私のじゃなくて、白子の、白子専用のクジラさんですからね、はいっ!」

 

って、冷や汗をかきながら慌ててクジラさんを白子ちゃんの前に差し出したんだ

 

そしたら白子ちゃん、差し出されたクジラさんを大きなお口で「ガシッ!」って力強く受け取ったかと思ったら、なんと次の瞬間、首を「ブンッ!」って横に激しく振って、部屋のフローリングの床に向かって「ポイッ」って、信じられないくらい無造作に放り投げちゃったの!

 

えええーーーっ!? クジラさんをお気に入りで独占したくて怒ってたわけじゃないの!?(笑)

 

自分の大切な宝物をゴミみたいに投げ捨てられて、目を丸くしてポカン……と呆然と立ち尽くしているホシノちゃんの足元に、白子ちゃんは「トコトコトコ……」って、まるで戦いに大勝利した女王様みたいに勝ち誇った足取りで歩み寄ると。そのままホシノちゃんのふくらはぎや太ももに、自分の大きな頭と白い体を「スリスリスリ〜〜〜❤」って、これでもかっていうくらい全力で擦り付け始めたの! そして、じっと潤んだ瞳でホシノちゃんのお顔を見上げて、おっきくなった自慢の白い尻尾を「パタパタ、ビシビシ」と床に叩きつけて……

 

その一連の動きは、どう見ても『そんな使い古したぬいぐるみを可愛がっている暇があるなら、世界で一番可愛い本物の私を、早くその両手で気が済むまで撫で回してください』って、無言で特等席のスキンシップを最優先で催促しているアピールだったんだよ!

 

これには、普段はどんな時でもクールで大人びた態度を気取っている親バカなホシノちゃんも、一瞬で顔を耳の先まで真っ赤にして、

 

「ははは……もう、降参です、私の負け。ユメ先輩に似て、本当にワガママで甘えん坊な悪い子に育っちゃって……」

 

って、嬉しさを隠しきれないクシャクシャの苦笑いを浮かべながら、白子ちゃんの頭や背中を「ワシャワシャ、よしよし」って、両手で激しく撫で回してご奉仕していました

 

あはは、もしかしてホシノちゃん、毎日美味しいフードをあげたり、ブラッシングをしてあげたり、夜のお留守番の反動もあってちょっと甘やかしすぎて我が儘に育てちゃったのかな? でもね、そんな独占欲全開な白子ちゃんに困惑しつつも、目尻を下げて愛おしそうに笑っているホシノちゃんを見ている時間が、私にとっては何よりの贅沢で、世界で一番大好きな景色なんだけどね

 

他にもね、白子ちゃんが大きくなって体力や身体能力にものすごい余裕が出てきたからってことで、最近はホシノちゃんが教官役になって、白子ちゃんの「本格的なタクティカルトレーニング(戦闘訓練?)」も開始されたんだよ

 

生徒会室や、誰もいないだだっ広い校庭を使って、ホシノちゃんがキリッとした凛々しい指揮官の声で「ステイ(待て)!」とか「GO(突撃)!」って鋭く合図を出すとね、白子ちゃんは大きな耳をピンと前方に立てて、どんなに勢いがついていてもその場で「ピタッ!」って、砂煙を上げながら正確に動きを止めたり。ホシノちゃんが砂漠の彼方に全力で投げた標的(練習用の古い標的ぬいぐるみ)に向かって、風を切り裂くような凄まじいスピードの跳躍で一直線に突進して、一撃で仕留めたりするの!

 

その一連の、1ミリの無駄もない機敏で美しい戦闘モーションは、なんだかテレビのニュースで見る本物のエリート警察犬や、特殊部隊の軍用犬の戦闘訓練みたいに洗練されていて、遠くから見ていてすっごく、すっごく格好いいんだ! 訓練が終わると、ホシノちゃんも「よし、よくできました。いい子です」って、満足そうに自分のポケットから特製の乾燥肉おやつを出してあげていて、二人の息はもう、本物の相棒みたいにピッタリ

 

……まぁ、その素晴らしいトレーニングの素晴らしい成果のせいで、私にとっては、ちょっと……ううん、生活の危機に関わるレベルでかなり辛い「最悪の副作用」が起きちゃってるんだけどね。ひぃん

 

最近、ホシノちゃんの厳しい監視の目を盗んで、私が生徒会室の机の物陰や、古い書類が詰まった隠しロッカーの裏に身を隠して、こっそり購買で隠れて買ってきた限定のチョコレートとかお菓子を食べようとすると……。どこにその痕跡を隠しても、どんなにゴミを細かく丸めてポケットの奥に捨てても、白子ちゃんがその超ド級の特殊部隊級のくんくん鼻(超嗅覚)で、一瞬で甘い匂いを嗅ぎつけて見つけ出しちゃうの!

 

そして、私が「あ、白子ちゃんシーッだよ? 内緒ね?」って指を口に当てて懇願しているのも虚しく、白子ちゃんはそのお菓子の包み紙の空き殻を丁寧に大きなお口に咥えて、わざわざ私の目の前を通り過ぎて、ホシノちゃんの目の前までトコトコ持って行って……。「ほら、ユメ先輩がまた生徒会規則を破って、お小遣いを前借りして買い食いをしていましたよ。証拠物件を提出します」って報告するみたいに、ホシノちゃんの足元に「ポトッ」って冷酷に落とすようになっちゃったのーーー!!

 

そのたびに、ホシノちゃんから(눈_눈)←この、この世の終わりみたいな冷たいジト目をされて、「……先輩? ちょっとそこへ直って、私の話を聞きましょうか」って、正座をさせられて特大の、2時間コースのお説教が始まるんです……。ううう、白子ちゃん、信じられないくらい賢くて頼もしいアビドスの戦力になってくれたのは涙が出るほど嬉しいけれど、お姉ちゃん(私)の数少ないプライベートの癒やしの領域にまで、その有能すぎる捜査能力を発揮するのは勘弁してよ〜〜! 私にも、ホシノちゃんに対するみたいにもうちょっとだけ優しく手心を加えてよぉ……ひぃん……

 

でもね、そんな風に外見も中身もどんどん大人びて、頼もしい戦友みたいになっていく白子ちゃんだけど。夕方になって私達に思いっきり甘えてくるときや、すべての緊張を解いて生徒会室で完全に安心しきって眠っているときなんかは、初めて出会ったあの日の小さな赤ちゃんの頃と、なーんにもちっとも変わらないんだ

 

私がソファーで書類仕事をしていると、私の膝の上に大きくて温かいお顔を「ちょこん」って乗せて、上目遣いで「きゅ〜ん……」って、切なくてか細い可愛い甘え声を漏らしてくれたり

 

みんなでお昼寝をするときには、いわゆる「ヘソ天」っていうのかな? 長い手足をだらーーんと四方に投げ出して、真っ白で柔らかいお腹を天井に向けて真っ直ぐお天道様にさらしながら、無防備の極みみたいな格好で、すっごく気持ちよさそうに「スースー、ふにゃぁ……」って可愛い寝息を立てて爆睡しちゃうの

 

あの、世界中の何に対しても警戒していない安心しきった寝顔を見るたびに、体がどれだけおっきくなって力が強くなっても、この子はやっぱり、私達が命をかけて守るべき、アビドスのかけがえのない大切な子供なんだなって、愛おしさと責任感で胸の奥がぎゅうぎゅうにいっぱいになります

 

これから白子ちゃんがもっともっと大きくなって、どんな素敵な女の子に、どんな立派なアビドスの生徒に成長していくのか、本当に、これからの毎日が楽しみで仕方がありません!

 

よし、決めた! 明日はホシノちゃんに内緒で、お説教の仕返し(?)も兼ねて、白子ちゃんと二人だけで砂漠の秘密のオアシスまで、楽しい楽しい秘密のお散歩に行く約束を今夜のうちに取り付けちゃおうっと! ホシノちゃんには内緒の、私と白子ちゃんだけの秘密の冒険なんだからね!

 

 

ユメがコトリと筆を置く

 

部屋の窓からは、砂漠の地平線へとゆっくり沈んでいく、燃えるような夕日が差し込み、生徒会室の使い込まれた木製の机を、優しい茜色に染め上げていた

 

「ふぅ……久しぶりの日記は、こんな感じかな?」

 

満足げにふにゃりと微笑んだユメは、まだ少し青いインクの香りが残るノートを両手でそっと閉じ、愛おしそうにトントンと表紙を叩いてから、大切そうに胸へと抱きしめた

 

窓の外は、砂漠の地平線を黄金色に染め上げる見事な夕焼け。静まり返った生徒会室に、トコトコと小気味よい足音が響き、使い古された木製のドアが勢いよく開け放たれた

 

「ユメ先輩、何してるんですか?」

 

夕日を背に浴びて現れたホシノが、額の汗を拭いながら声をかけてくる。その足元からは、白い毛並みを弾ませた白子がひょっこりと顔を出した

 

『わう?』

 

白子は首を傾げ、丸い瞳を輝かせてユメの持つノートを見つめている。ホシノと白子は、先ほどまで校庭で特訓をしてきたばかりなのだろう。熱心に走り回った証拠に、ホシノのスカートの裾や、白子の自慢の白い前足には、乾いた泥や砂がそこかしこにくっついていた

 

「あ、ホシノちゃん! 白子ちゃんも、おかえりなさーい! 訓練お疲れ様。ふふふ〜、これね? 生徒会の今までの記録を書いてたんだ。私達がここでどんな風に出会って、どんなに楽しい毎日を過ごしてきたか、忘れないようにね!」

 

ユメは胸に抱えたノートを誇らしげに見せて、へへ、と笑う。しかし、それを受け止めるホシノの視線は、どこか微妙なものだった。じーっと表紙を見つめたまま、一歩引いている

 

「……その、変な鳥のノートに、ですか?」

 

「酷いなぁ、ホシノちゃん! バナナとりちゃん、こんなに可愛いのに! ほら、この何とも言えないつぶらな瞳とか、ちょっと熟れかけてるお尻のあたりとか!」

 

ユメが宝物のように持っているそのノートは、表紙に大きく「たのしいバナナとり」と脱力感のある文字が躍る、なんとも独特な学習帳だった。しかも、その下に描かれているイラストは、鳥の体にバナナの皮が生えているのか、あるいはバナナに鳥の顔がついているのか、言葉に詰まるような奇妙なクリーチャーである

 

「はぁ……。申し訳ないですけど、その致命的なセンスだけは、私には一生理解できそうにありませんよ。白子もそう思いますよね?」

 

ホシノが同意を求めると、白子はノートをくんくんと嗅いだ後、ぷいっと興味なさそうに横を向いた

 

「ほら、白子だって呆れてます。何ですかその熟れかけてるお尻って」

 

「むぅ……二人してそんなこと言って。ホシノちゃん、私がいつか卒業するときには、このノートは次の生徒会長になるホシノちゃんの物になるんだよ? 今のうちに愛着を持っておかないと、後で後悔しちゃうんだからね?」

 

ユメが何気なく口にした「卒業」という言葉に、ホシノは一瞬だけ、夕日の陰に隠れるように切なげな目を向けた。けれど、すぐにいつもの不敵な笑みに戻って、ピシャリと言い放つ

 

「いりませんよ!?」

 

「ひぃん!? は、ハッキリ言われちゃった……。ちょっとは悩んでよぅ……」

 

予想以上の即答ぶりに、ユメはがっくりと肩を落とし、ノートを机の引き出しへと、そっと引っ込めた

 

「ふふ、まぁノートの引き継ぎは置いておくとして。……それより先輩、私達は今からお風呂に入るんですが、先輩もどうです? 先に誘っておかないと、後から『私だけ仲間外れだ〜ひぃん!』って、先輩がめんどくさく拗ねるの、目に見えてますからね」

 

「お風呂!? 行く行く、絶対行くー!」

 

それまでの落ち込みが一瞬で吹き飛び、ユメはパッと目を輝かせてソファーから飛び上がった。そんな現金な先輩の姿に、ホシノは「本当に手がかかるんだから」と言いたげに呆れ顔を見せる

 

しかし、その足元にいる白子もまた、お風呂という言葉を聞きつけた瞬間、お耳をピンと立たせて、ユメと同じように目をキラキラと輝かせていた。しっぽが千切れそうなほど激しく振られている

 

「ほら、現金な犬と先輩ですね……。それじゃあ、私達は先に行って浴槽にお湯を溜めておきますから、先輩は私の着替えの服も持ってから、後でゆっくり来てくださいね。忘れて置いてきちゃダメですよ? 本当にフリじゃないですからね?」

 

「はーい! 任せておいて! ホシノちゃんの可愛いお洋服、ちゃんと持っていくからね!」

 

「よし、行くよ、白子。先輩に置いていかれないうちにね」

 

『ワン!』

 

ホシノが短く合図を出すと、白子は嬉しそうに短い尻尾を振りながら、その小さな影を追いかけるように廊下へと駆け出していった

 

パタン、とドアが閉まり、静かになった生徒会室。ユメは、ホシノの予備の制服を丁寧に棚から取り出し、腕に抱えながら、窓の外の美しい夕焼けをもう一度見つめた

 

(ふふ、今日も一日、本当に楽しいなぁ……♪)

 

胸の奥から湧き上がる愛おしさに自然と口元が緩む。ユメは大切なノートが仕舞われた引き出しをもう一度優しく端っこまで撫でてから、二人と一匹が待つ、賑やかなお風呂場へと急足で向かった

 

ーーその後

 

かつてみんなで大掃除をした、あの思い出のお風呂場から、すさまじい「バシャーーーン!」という盛大な水音が響き渡ったのは、言うまでもない

 

「わーい! 一番乗り〜っ! あったかーい!」

 

湯気の立ち込める浴場の真ん中で、同じくバスタオルを巻いた格好のホシノが、両手を腰に当てて仁王立ちになり、盛大に青筋を立てていた

 

「……先輩。バカなんですか? なんで服を脱いだ途端に全力でダイブするんですか。お湯がそこら中に飛び散ったでしょう。説教の時間なので今すぐ湯船から出なさい。早く」

 

「ひぃん! 冷たいお説教はやめてよホシノちゃん! ほらほら、ホシノちゃんもおいでよ、お湯が温かくてすっごく気持ちいいよ〜!」

 

そんなお姉さんたちの騒がしいお説教なんてこれっぽっちも気にしていない様子で、真っ白な毛並みをフワフワと湯船に浮かべた白子が、楽しそうに「すい〜っ、すい〜っ」と器用な犬かきで泳ぎ回っていた。耳だけは濡らさないように綺麗にピンと立てている

 

「あはは! 見て見てホシノちゃん、白子ちゃん泳ぐの上手〜! お魚さんみたい!わぷ!?」

 

「ハァ……もう、どっちが子供なんだか分かりませんよ。……ほら白子、調子に乗って先輩の顔に水をかけちゃダメですよ。わっ?!だからと言って私にかけないでください!」

 

夕暮れのアビドスに、優しくて、どこまでも温かい3人の笑い声が、白い湯気と一緒に優しく夜空へ溶けていった

 

 

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