モン娘ゲットだぜ! ~目指せモン娘マスター~ 作:トマトルテ
これ、原作イベント発生か?
「お子さんが森で行方不明?」
「ユ、ユウマチャンピオン!? ど、どうしてこんな片田舎に…!?」
「イベントのついでに、足を延ばしただけですよ。それより、お子さんが見つからないんですか? お母さん」
太陽が沈み、月が顔を出す時間帯。
チャンピオンである俺に声をかけられているからか、それとも子供が帰ってきていないからか、もしくはその両方か。
狼狽えながら話す、母親の言葉に俺は原作知識からピンと来て話しかける。
「は、はい……元々、好奇心旺盛であっちに行ったり、こっちに行ったりと、落ち着きのない子供なので、GPS携帯を持たせていたんですが、森の中で位置情報が止まったままで、電話をしても何時間も反応がなくて……」
(ここはマシロタウン。原作主人公の故郷……しかも、森で迷った時に初めてのモン娘と出会ったという説明があったはず。もしかすると、当たりか?)
ここは“マシロタウン”。
片田舎の町だが、ゲーム的には主人公の故郷なので、前々から俺も目を付けていた場所だ。
ヒカリにスケジュールを調整してもらって、近場でのイベントのついでに、何とか立ち寄ることに成功したのだが、俺の努力は無駄ではなかったようだ。
まあ、フェンの散歩兼、野生モン娘調査のためのフィールドワークという無理やりな理由をつけてなのだが。
(母親の顔までゲームで描写してあれば、簡単に分かったんだが……まあ、ゲーム的には力を入れる所じゃないからな。実際に、主人公かどうか確認しないと確証が持てないな)
溜まっていく仕事のことは後で考えよう。
今は、原作主人公らしき子供のことだ。
もう少し情報が欲しい。
「お子さんのお名前は?」
「アオイです。
当たりだ!
苗字も名前も、原作主人公と同じもの。
あちこちに行ったりする落ち着きの無さは、多分プレイヤーがマップを隅々までを探索する行動が反映された結果だろう。
「GPSが動いていないとなると……元気な子なら携帯を落としただけかもしれませんね」
「だと良いんですが……」
しかし、子供が行方不明という事実に違いはない。
それどころか、同姓同名の別人がガチ目に、危険な目に合っているかもしれないのだ。
なので、俺は喜ぶ内心を表には出さずに、母親を安心させるようにそれらしい理由を述べる。
「森は野生のモン娘が居るので、危険です。俺が行ってみましょう。お母さんはここで、待っていてください。もしかすると、お子さんが帰ってくるかもしれないので」
「え!? そ、そんな、チャンピオンに行ってもらうなんて……お忙しいでしょうし」
「実はこの地域には、野生のモン娘の生態を調べに来たのもあるんですよ。なので、森ならついでの用事みたいなものです」
俺は嘘ではないが本当でもない理由を並べて、母親を丸め込む。
今も仕事が溜まっていっている最中だが、俺の目的のためにこのイベントは最重要だ。
なので、どう動くべきかをしっかりと考える。
携帯を落として、そのまま帰ってきているならば何も問題はない。
問題は、携帯を落としたうえで、そのまま森で彷徨っていることだ。
GPS情報も無しに、人力で森の中で人を探し出すのは、正直に言って厳しい。
「……フェン」
「うん、分かった」
まあ、あくまでも人にとってはだが。
モン娘の力を借りればいい。
俺は右手の中指の黄色の宝石の指輪、モン娘リングから、フェンを呼び出す。
「お母さん、何かその子の匂いがついているものはありませんか? うちのフェンはオオカミ娘です。匂いで足取りを辿ることが出来ます」
「そ、それでしたら、少し待ってください……確か今日使ったタオルが……」
バタバタと家の中に消えていく、母親の姿を見送りながら俺は空を見上げる。
真ん丸な満月がぷかぷかと浮いていた。
「何はともあれ、無事だといいんだが……」
「マスター、この辺り……匂いが強くなってる。多分、しばらくここに居たみたい」
「休憩でもしてたのか? ……フェン。この辺りで、一番強い匂いはどこだ? 携帯が落ちてるかもしれない。そこから探そう」
「分かった……匂い……こっちから行こう」
フェンの案内の下、しばらく歩くと、彼女がピタリと足を止める。
鼻を鳴らしながら、あたりの匂いを嗅ぎ分け出す。
オオカミ娘の嗅覚は、犬や猫とは比べ物にならない程優れているのだ。
たまに浮気チェックと称して俺の匂いから、誰と会ったとかを当てて来るので能力は保障する。
「あった……携帯だ」
「携帯を落としていた予想は当たったわけか……問題は、ここからどこに行ったかだな」
ポケットから滑り落ちたのか、キーホルダーのついたピンクの可愛らしい携帯が地面に転がっていた。
俺はそれを拾い上げ、どう動くかを考える。
すると、フェンが何かに気づいたようにピクッと鼻を動かす。
「うん? 別の……子供の匂いと違う……これはモン娘の匂いも混ざってる」
「モン娘の匂いが混ざってる? 一緒に行動しているのか?」
「それは分からない。ただ……血の匂いも一緒にする」
「血…! それはどっちの…?」
フェンの言葉に俺は息を呑む。
子供がモン娘に傷つけられたという、最悪の可能性が頭を過る。
「分からない……でも、血の匂いはするのに、地面には血の跡が無い。手当てをしたか、傷口を抑えて移動したんだと思う」
「ここで治療をして、その際に携帯を落とした感じか……落ち着いて行動しているのか?」
差し迫った状況ではないと考えるが、油断はできない。
誰かが怪我をしているのは確かなのだから。
「待って…! 匂いが増えた? それにこの足跡……追われてる…ッ」
だが、フェンが次にもたらした情報は、俺の血の気を引かすには十分なものだった。
何者かに追われているということは、俺の楽観的な予想とは大きく異なっていたのだから。
思わず、唇を噛みしめる。
「他の野生のモン娘にか?」
「多分……血の匂いはモン娘同士の縄張り争いで、出来たものかも」
「その負けた方を、アオイちゃんが手当てしたのかもしれないな」
「そうかもしれない」
要するに、原作主人公のアオイが縄張り争いで負けて、逃げてきたモン娘と出会う。
この場所で治療していたが、勝った方が追撃を仕掛けて来たので逃げ出した。
そんな危機的状況の可能性が高い。
「急ごう、フェン!」
「うん」
そして、俺達は駆け足で森の奥へと進んでいくのだった。
「ね、ねえ、怪我…大丈夫…?」
「……何で助けたんですか?」
「え? だ、だって、怪我してたし……」
「ボクの血の匂いが、あなたにもついてしまいました。他のモン娘も、ボクだけじゃなく、あなたも狙いますよ。縄張りは匂いをつけるものですから」
森の奥の、木の根の張り出した根元で、2人の少女が身を寄せ合っていた。
一人は白いワンピースを着た、ふわりとしたセミロングの茶髪の青眼の美少女。
膝や足に貼られた多くの絆創膏から、普段のお転婆ぶりが伺える。
「ボクなんて……見捨てればよかったのに」
もう一人は、短めのピンクの髪をボサボサにした、赤い目の痩せたネコ娘だ。
ネコ娘の手には深い怪我があり、ハンカチで手当てをしているが、そこからはまだ血が滲み出ている。
「で、でも、怪我している人を見捨てられないよ!」
「あなたは自分の命より、他人の命を優先するんですか? バカですね。人間は役に立たない他人は見捨てるものと思っていましたよ」
「うひぃ……そんなこと言わないでよぉ……」
「まったく………ありがとうございます」
ネコ娘の言葉に、少女は頬を膨らませて睨むが、ネコ娘はバツが悪そうに視線を逸らす。
まっすぐな眼差しに、捻くれたネコ娘は正面から礼を言えなかったのだ。
そんな少女達に、森の奥から怪しい気配が近づいてくる。
「っ! さっきの奴らですね…!」
「ど、どうしよっか? また逃げなきゃ…!」
ガサガサと森の闇が蠢き、いくつもの光る眼が2人の少女を照らす。
それは、獲物を狙う捕食者の冷たい瞳。
そこにあるのは敵を排除するという、合理的な野生のみ。
「……あなたは逃げてください。ボクはここに残ります」
「え…? だ、ダメだよ! 一緒に逃げなきゃ!」
「元はと言えば、ボクのせいです。ただ単に縄張り争いに負けて死ぬだけならともかく、あなたに助けられてしまった……どうせ野生ではみ出し者のボクは、遅かれ早かれ死ぬ運命だったんです。あなたまで、巻き添えになる必要はありません」
ネコ娘は諦めたように息を吐き、立ち上がる。
そして、自分の方から敵の方へと近づいていく。
「ダメ! ダメったらダメ!」
「うるさいですね……本当に、最後に会う人間があなただなんて、ついていませんね。ですが……助けて貰えて、ちょっと嬉しかったですよ」
少女の静止を振り払い、ネコ娘はかすかに笑う。
もっと早くに、この馬鹿な娘と出会えていたら、何かが変わったかもしれないなと思いながら。
「では、出来る限り時間を稼ぎますので、あなたはこのまま、まっすぐに森から出──」
──ゾクリ。
森の空気が変わる。
鳥や獣が一斉にざわめきをたてて、その場から逃げ出していく。
ネコ娘の全身に鳥肌が立ち、冷や汗が噴き出す。
息をするのすら苦しくなるほど、重いプレッシャーが襲い掛かる。
(何だこれ…!? あいつら…じゃない? 新しい敵…!?)
ネコ娘は指一本動かせない状態で、息を荒げたまま、ただ前を向いているだけだ。
だというのに、その視界からは既に先程まで自分達を見ていた敵は消えていた。
他の獣と同じように逃げたのである。
「な、なに…? この空気……」
(敵なんてもんじゃない……化け物だ。化け物がいるんだ…!)
突如として、この場に現れた絶対的な強者から。
あまりにも隔絶した力の差が、野生の本能に逃げることを選択させたのだ。
「だ、誰…?」
「に、逃げてくださ…ッ!」
パキリッと木々を踏み分け、何かがこちらに近づいてくる。
ネコ娘は必死に逃げろと少女に告げようとするが、声が掠れて上手く出てこない。
先程の野生のモン娘達とは次元の違う存在。
それが、今まさに彼女達の前へと──
「おー、いたいた。マスター、探してる女の子がいたよー」
「本当か? リューカ。何とか、間に合ったみたいでよかった」
──現れる。
「ド、ドラゴン娘…?」
「……え? チャ、チャンピオンさんとリューカさん!? 本物のッ!?」
現れたのは、ユウマとそのモン娘、リューカであった。
「うん、リューカ先輩。威圧しすぎ。モン娘の方が怖がってる」
「あー……ごめんねぇ? 邪魔な奴らをどけようと思って、威圧しただけでお嬢ちゃん達には敵意はないよー」
「ドラゴン娘は、野生の生態系の頂点に立つモン娘だからな。他のモン娘が怯えるのも仕方ないさ」
のんびりと会話を行うフェン、リューカ、ユウマ。
だが、一方のネコ娘の方は安堵と恐怖から、腰が抜けたようにへたり込む。
「さて……君が白峰アオイちゃんだね? 俺の名前は神崎ユウマ。知っての通り、モン娘チャンピオンさ」
そんなネコ娘を横目に見ながらユウマは、少女・白峰アオイへと声をかける。
「な、なんでチャンピオンさんがここに!?」
「君のお母さんが心配していたのを見かけてね。俺が代わりに探しに来たんだ。それから……この携帯。君のものだろう? お母さんに電話をして、安心させてあげなさい」
「あ! 携帯! あ、ありがとうございます……いつの間に落としたんだろう……ど、どうしよう……お母さんに怒られちゃう」
命の危険だったことに気づけていないのは能天気なのか、子供故か。
あわあわと慌てふためくアオイを見ながら、ユウマは内心で考える。
(この子が、主人公の白峰アオイか……男だと思ってたが、そう言えば女主人公も選べたな。百合プレイやモン娘と一緒に敗北プレイを受ける特殊ENDが、確か作られてたな。基本男主人公でやってたから、見たことはないけど)
この世界の主人公との出会いに、感動するべきか、困惑するべきか。
そんな戸惑う内心を押し隠して、ユウマは穏やかに笑いかける。
挙動不審な態度で女子小学生に接すると、通報されることがあるのが、世の中だ。
世知辛い。
「そして、君は……
故に、笑顔を崩すことなく、今度はネコ娘の方へと目を向ける。
この子が、前世でもよくお世話(意味深)になった、主人公の最初のモン娘かと少し感動しながら。
「ただの
だが、ネコ娘はプイとそっぽを向く。
抜けていた腰がようやく元に戻ったらしく、立ち上がってフラフラとした足取りのまま、森の奥へと消えていこうとする。
「あ! 待って!!」
「……なんですか?」
「怪我してるんだから、ちゃんと手当てしないと!」
「……あなたにハンカチを巻いて貰ったので、大丈夫ですよ」
だが、アオイに呼び止められて嫌そうな顔をする。
放っておいてくれ。
明らかにそんな表情だが、足だけは呼びかけに応えるように律儀に止まっている。
先程のアオイを庇おうとした行動もだが、助けて貰った相手に対して義理堅い性格なのだろう。
「血を流していたのは君の方か……クレハ」
「はい、かしこまりました、マスター」
ユウマが、左手の薬指の白い宝石の指輪に声をかけると、そこから九尾のクレハが飛び出してくる。
「わわ! 本物のクレハさんだ! そっか、クレハさんなら、どんな怪我でも治せるもんね!」
「あら、随分と詳しいですわね」
「私! モン娘さんのことが大好きで、チャンピオンさんが出した“モン娘図鑑”とかを良く読んでるんです! それになにより私! クレハさんのファンなんです!! チャンピオンさんの最後の砦! 強くて、綺麗で、カッコ良くて……憧れちゃいます!」
目をキラキラとさせて、クレハのことを見つめる、アオイ。
そんな様子に、クレハの方も機嫌が良さそうに目を細める。
「あらあら、可愛いらしいファンの方ですわね。それにマスターの本を読んでるとは……とーってもいい子ですね。では、ご期待に応えて、私の力を見せて差し上げましょう」
「ほ、本当ですか!?」
クレハの登場に、目をキラキラと輝かせるアオイ。
クレハはユウマにとっての最後の砦。
必然的に、目立つ場面に出ることが多いので、人気が高いのだ。
「おっとー、雑魚から助けてあげたのはお姉さんなんだけどなー。お姉さんのファンにもなってくれなーい?」
「ここまで辿り着いたのは私のおかげ。私のファンにもなって? 今なら、サインと洗剤もつける」
「え、え、ええッ!?」
そして、そんな様子を横から、リューカとフェンが邪魔をする。
からかっているのか、それとも普通に嫉妬しているのか?
とにかく、2人はアオイを取り囲んでファンサービスもとい、ウザ絡みを行う。
「では、手を出してくださいますか?」
「……い、いや、この程度舐めておけば、治ります……だから、ボクは別に──」
「──いつかではなく、今、治して差し上げるとおっしゃっているのですよ?
ユウマの願いに
先程と同等。もしくは、それ以上のプレッシャーがネコ娘に襲い掛かる。
(ドラゴン娘に九尾……な、なんで、こんな化け物達が、ボクなんかに構ってるんだ…?)
種族からして、格の違いがあるというのに、それに加えてチャンピオンであるユウマのモン娘。
野良モン娘と力の差は、まさに天と地ほどにもある。
ネコ娘は借りてきた猫のように固まってしまう。
「クレハ、あんまり怖い顔をしないでくれ。俺は優しい顔の君が好きだ」
「うふふふ、お上手ですね、マスター」
だが、そんな威圧感も、ユウマが声をかけると一瞬で消失する。
人間からすれば、惚気ているようにしか見えない。
だが、力関係の分かるネコ娘からすれば全く違った見え方になる。
(こいつだ……この人間が群れのリーダーなんだ。化け物達が全員こいつを上に置いている…!)
隔絶した力を持つモン娘達が従う存在。
それが、目の前の神崎ユウマなのだと、否応なしに理解させられる。
そして何より。
「さて……君とは自己紹介がまだだったね? もう知ってると思うけど、俺は神崎ユウマ。よければ、君の名前を教えて欲しい」
「……ココ」
「ココか、良い名前だ。さて、怪我の治療はすぐに終わるけど……君は少し瘦せているように見えるし、しっかり検査をしたい……一緒に来てくれるかい?」
「……はい」
こいつらに逆らうのは不可能だという事実を。
「クレハ、ココの状態はどうだった?」
「傷は完治させました。ただ……軽い栄養失調が見られましたわ」
「やっぱりか……どう思う? みんな」
もう遅いという理由で、アオイのお母さんに頼み込んで、ココをアオイの家に泊めさせた後。
俺は、家の外でクレハに人除けの結界を張ってもらい、ココの状態から推測されることを、みんなで意見交換をする。
明日も仕事で早いが、みんなもココを見捨てる訳にはいかないと夜遅くまで付き合ってくれる。
本当に良い家族を得たよ、俺は。
「アオイちゃんを庇おうとして、お姉さんの前に立つ優しい子だねー……まあ、あの優しさだと、野生で生きていけるようには見えないけどさ」
「うん。詳しく匂いを嗅いだけど、完全な野生とは違う。
リューカとフェンが、ココは野生で生きている子には見えないと告げる。
その意見に俺も頷く。
ココは明らかに人慣れしている。
「多分ですけど……ココちゃんは人間との契約を破棄した後のモン娘ですね。可哀想……ママがいっぱいよしよしして、甘やかしてあげないと……」
「ああ……リリアの言う通りだろうな。前半部分は」
サキュバス娘のリリアが、ココは契約を破棄されたモン娘ではないかと考察する。
俺もその考えに重々しく頷き、手にはめた指輪を見る。
契約の証である指輪、モン娘リング。これを破棄したことがあるという事実に、胸が痛む。
「私達、モン娘は人の言葉を理解することが出来ますが、話せるようになるためには人と関わって会話をすることが条件です。私達にとって人間の言葉は、外国語と同じようなものですから。話す能力があるのと、実際に話せるかは別の問題ですので」
「ココは人間の言葉を話している。ヒカリの説明通りなら、人間社会に入って学んだことになる。そして、その可能性が一番高いのは一度人間と契約を結び、その後野生に戻ったという仮定。これなら、ココの野良発言も納得がいく」
ハーピー娘のヒカリが、モン娘側の視点を詳しく説明してくれる。
モン娘は人と会話できる存在だが、人と関わらない野生の状態で話せるモン娘は稀だ。
日本人とアメリカ人がいきなり会っても、会話が出来ないのと一緒だ。
日本人だって勉強すれば英語を話せるようになるが、何もしなければ話せないのだから。
「契約破棄って、もしかして捨てられたの!? 最低ッ!」
「ミミ、そういう言い方はよすんだ。まだ憶測の段階だ」
「だって、まともにご飯も取れずに痩せてる! 仲間もいない! 人間の匂いがついているから、完全に野生にも帰れない! こんな状態で放り出した奴が、まともな奴なわけがないじゃない! マスターならちゃんと考えるでしょ!?」
「………そうだな」
スライム娘のミミが怒りで、スライムボディをプルプルと震わせながら怒鳴る。
その剣幕に俺は、歯切れの悪い言葉を返すことしかできない。
モン娘は家族だ。
たとえ、マスターが急死したのだとしても、家族に対して何も残さない親はクソだ。
仮に事情があっても、考え無しだと批判を受けるのは仕方がないのかもしれない。
かくいう俺も、内心では少し怒りが湧いているのも事実だ。
「それで……いかがなさいますか、マスター。野生にこのまま返すのは論外として……新しい家族として、迎え入れますか?」
「もしくは、野生でも生きていけるように鍛えなおす? お姉さん張り切っちゃうよー」
「新しい家族は歓迎。可愛がる。二重の意味で」
「慌てたらダメですよー。捨てられたのが事実だとしたら、人間不信になっているかもしれませんから……ここは、私の甘やかしカウンセリングから始めましょう?」
「あ、あの、まずは本人の意思を確認するのが一番だと思うのですが……」
「そうよ! 本当に捨てられたなら、あんまり刺激するのは良くないわよ!」
あーだこうだと言い合う、我が家のモン娘達を眺めながら考える。
ココに関しては、アオイ同様に原作知識がある。
主人公の初めてのモン娘。
仲間になった過程は、詳しく書かれていないがそれは確定のはず。
つまり、ここはアオイに任せるのが正解なのだが。
(この雰囲気で子供のアオイに任せるって言うと、色々と言われそうだな……)
アオイが原作主人公だと知っているのは、当然ながら俺だけだ。
彼女達からすれば、ただの一般人の子供。
仮にも大人でチャンピオンの俺が、いきなり
今夜中に2人の仲が進展していれば、まあ、それを見て任せるとか言えるのだが……それを期待するには、ココの人間不信が邪魔をしそうだ。
(いや、待てよ? 時間が解決してくれるのなら、アオイとココを一緒にしておく理由があればいいのか)
俺はあることを思いつき、軽く咳払いをする。
家族達の目線が自然と俺の方に向く。
「とりあえず、いきなり聞くのは無しにしよう。トラウマだった場合、ココの傷口を抉ることになる」
「当たり前ね」
ミミが我が意を得たりとばかりに頷く。
「そして、しばらくはアオイと一緒に居させてもらう様に、お母さんに頼もうと思う。ココはアオイにはある程度、気を許しているように見えるからな」
「だよねー。お姉さんの威圧にも負けずに、守ろうとするなんて感動ものだよー」
リューカが眠そうに牙を剝きだして、欠伸をしながら頷く。
「可能なら、ココにはもう一度人間と契約してもらいたい。野生には帰れないだろうからな」
「マスターのおっしゃる通りだと思いますわ。今のまま返しても、良くて飢え死に、悪くて餌でしょうから」
クレハがちょっとブラック気味な言葉で、肯定してくれる。
「でも……そうなるなら、やっぱり人への不信感を和らげないといけませんよ? やっぱり、私がギューッと抱きしめて優しく甘やかして、赤ちゃん返りさせて──」
「俺達のバトルを見て貰おうと思うんだ」
自分の胸を潰れる程に抱きしめるリリアを無視しつつ、俺は提案を出す。
ココに俺達のモン娘バトルを見せたいと。
「バトル? なんで?」
「ココが本当に捨てられたのなら、人間との絆に不信感を抱いているはずだ。だから、俺達に出来る最高のバトルで、人間とモン娘はちゃんと通じ合うことが出来ると、ココにもう一度信じられるようにしたいんだ。それが、チャンピオンとして出来る最高の行為だと思う。俺達の絆は、誰にも負けないからな」
可愛らしく小首をかしげるフェンに、それっぽく説明する。
まあ、本音は試合までの時間で、ココとアオイの仲を深める時間稼ぎをしたいだけなのだが。
後は、アオイが主人公としてちゃんと、モン娘バトルに興味を持つようにという理由もある。
打算OF打算だ。
「だから、今度のエキシビションマッチにココを招待する。警戒されないように、アオイも一緒に来るように頼んでな」
「次のエキシビションマッチとなると相手は……セラさんですね。魅せる綺麗な戦いという点では、最適な相手ですね」
ヒカリが眼鏡を翼で上げながら、次の対戦相手を手帳で確認する。
“銀狼の女王”の二つ名を持つ、最速のモン娘マスターだ。
「人とモン娘の絆。バトルの楽しさ。それを分かって貰えたら、ココも再契約を前向きに受け入れてくれると思うんだ」
「いいんじゃない? 私は賛成よ!」
「マスターのお言葉でしたら、私は全て受け入れますので」
もう何度も戦っているので、彼女の戦い方が人に見せるには一番美しいというのは良く知っている。
俺ですら、惚れ惚れとしてしまうような戦いぶりなのだ。
「ココにはバトルを通じて、俺達の絆と……勝利を見てもらう」
まあ、だからと言って、負けてやるつもりは微塵もない。
それは、チャンピオンとしての矜持でもあるが、何よりも──
「そうと決まったら、みんな! チャンピオンに相応しい華麗なバトルで、ココ達を魅了する勝利を掴むぞ!」
「「「「「「はい!」」」」」」
──バトルぐらいでしか息抜き出来ないので、悔しい思いなどしたくないのだ。
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