モン娘ゲットだぜ! ~目指せモン娘マスター~   作:トマトルテ

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3話:エキシビションマッチ

 

 エキシビションマッチ当日。

 場所はマシロタウン近郊にある“ホワイトスタジアム”。

 普段は満員になることも少ない、田舎のモン娘バトルスタジアムだが、今日は別。

 ひしめき合う観客と、大量の熱気に包まれていた。

 

「わあ…すごい人だかり! ココちゃん! ココちゃん! 私こんなに人が集まる場所は初めて!! ココちゃんは?」

「はいはい、2回も呼ばなくても聞こえてますよ。それより、勝手にどこかに行って迷子にならないでくださいね? お母さんから目を離すなって頼まれてるんですから」

「うひぃ……わ、私の方が地元だから詳しいはずなのに……」

「ボクもこれだけの人だかりは初めてなので、はぐれたら見つけ出すのは一苦労なので、諦めてください」

 

 ぜひ見に来て欲しいと、ユウマに渡されたチケットを握りしめて、アオイが目を輝かせる。

 その横では、ココが腕を組んで不機嫌そうに座っているが、時折、好奇心を隠しきれずに耳をピクピクさせている。

 

「ところで今日のメインイベントの『“沈まぬ栄光” vs “銀狼の女王”』って……片方がボクを拉致したチャンピオン(あの化け物)達なのは知ってますけど、銀狼の女王って誰ですか?」

「ら、拉致って……手当てをして貰っただけだよね」

「モン娘の身からすると、あの強さの相手には本能で逆らえませんから。で、結局女王っていうのは?」

 

 片方が先日出会ったユウマ達なのは分かる。

 しかし、もう片方が何者かを知らないココは、アオイに説明を求める。

 

「えっとね、夜見(よみ)セラさんっていう、すっごい美人の人でね。モン娘マスターランキング3位のすっごい人なの」

 

 今日のエキシビションマッチの目玉は、現チャンピオンであるユウマと、モン娘マスターランキング3位の夜見セラによるスペシャルマッチ。

 そのため、このような大盛況になっているのだ。

 

「へー……銀狼ということは、フェンさんみたいなオオカミ娘と、契約でも結んでるんですか?」

「うん。モン娘は全員、オオカミ娘だけのチームで、みんなすっごい綺麗なんだよ」

「さっきから、すっごい美人とか、綺麗とかしか言ってませんけど、他に表現方法はないんですか?」

「だ、だってー……あ! ほら、ココちゃんも見たらわかるよ!」

 

 アオイが指さすと同時に、会場のアナウンスが響き渡る。

 

『さあ、皆様お待たせいたしました! 本日のエキシビションマッチのメインイベント! “沈まぬ栄光”神崎ユウマ選手VS“銀狼の女王”夜見セラ選手の3対3のタッグバトルの開始です! それではまずは、セラ選手からご入場をお願いします!!』

 

 歓声でスタジアムが満たされる中、銀と白を基調としたコートを翻し、夜見セラが悠然と入場して来る。

 長い銀髪を高く結び、鋭いアイスブルーの瞳が会場を冷たく一瞥する。

 その後ろには、揃いも揃って銀の髪を持つオオカミ娘達が整然と並んで続く。

 

「おお…! 凄い毛並み……羨ましい」

「ね、綺麗でしょ?」

 

 太陽の光を浴びて宝石のように輝く毛並みに、思わずココが感嘆の声を上げる。

 同じモン娘から見ても、美しいとしか言いようのない髪艶、毛の張り。

 マスターもそのモン娘も、美しいとしか形容できないのだ。

 

『神崎ユウマ。今日はエキシビションマッチ。勝敗は度外視で、戦いましょう……何て言う気は無いわ』

 

 観客の視線を一手に集めながら、セラはフィールド中央でマイクを取り、静かに、しかし力強く宣言する。

 

『朝起きて、夜寝るまで、そして夢の中でまで……私はいつも一番に、あなたを倒すことだけを考えているわ。いつでも死力、真正面から、最速の私達の牙をあなたの心臓に届けてあげる』

 

 ラブレターかな? 

 などと思ってしまうような、宣言に再び会場が盛り上がる。

 

「……なんか重くないですか?」

「え? テレビで見てるけど、セラさんはいつもこんな感じだよ」

「マイクパフォーマンスなんでしょうか……」

 

 初見のココはなんか発言が重いなと思うが、アオイの言葉にマイクパフォーマンスだろうと思いなおす。

 深くは考えないようにしたのだ。

 

『続きまして、ユウマチャンピオンの入場です!!』

 

 瞬間、地震のようにスタジアムが揺れる。

 

「な、なんですか!? 地震ッ!?」

「初めて生で見たけど……す、すごいねー……歓声? 拍手? 足踏み? あ、ジャンプしてる人も居る」

 

 突然の衝撃に、ビクッと尻尾を跳ね上げる、ココ。

 アオイの方は事前情報で知っていたので、驚きは少ないが、それでも大きな目をさらに丸くしている。

 

 割れんばかりの歓声と拍手。

 興奮した人間の足踏みや、ユウマの姿をよく見ようとジャンプをする観客の動作。

 それら全てが合わさり、地震のような揺れをホワイトスタジアムにもたらしているのだ。

 

『みなさん……本日はここホワイトスタジアムにお越しくださり、誠にありがとうございます!』

 

 ピタッと、先程までの大歓声が嘘のように鳴りやむ。

 誰もが、チャンピオンであるユウマの声を聞き洩らさないように、息を呑んでいるのだ。

 

(これが……チャンピオン…! ただ強いだけじゃない……)

 

 どれだけ強くなろうとも、野生では身につくはずもない圧倒的なカリスマ。

 その重厚なオーラを、今更になってココは理解して、つばを飲み込む。

 

『さっそくのご声援、ありがとうございます。ただ、小さなお子様もいらっしゃるので、転落防止のためジャンプなどはお控えください。私は皆様に安全に家に帰って頂いて、今日の試合の感想を、家族や友人の方々と一緒に語り合って頂きたいのです。皆様の興奮を冷ますようなことを言ってしまい、申し訳ありません』

 

 危ないからジャンプはやめてねという、ユウマからのお願い。

 バツの悪いような空気が少し広がる。

 

『その代わりと言ってはなんですが……ここでお約束します。今日の私達の試合は──一生の記憶に残る程、華麗なものになると!!』

 

 再び歓声の嵐が巻き起こる。

 足踏みもジャンプもない。

 だというのに、声だけで空間がビリビリと揺れていく。

 

『あら、私と戦う前から、もう勝った気でいるのかしら?』

『まさか、ファンの前で負けないと自分を鼓舞しただけだよ、セラ。さあ! フェン、ヒカリ、リューカ、今日は君達に決めた!』

 

 ユウマが右手を掲げる。

 3つのモン娘リングから、フェン、ヒカリ、リューカが同時に出現する。

 

『それでは、今回のエキシビションマッチのルール説明をさせて頂きます。今回はお互いがモン娘を3人同時に出した状態での、3対3のタッグマッチになります。勝利条件は、どちらかのモン娘が全員戦闘不能になるか、マスターによる棄権になります』

 

 スタジアム全体が息を潜め、全てのカメラが二人の顔に集中していく。

 セラはコートを翻し、静かにユウマの顔を見据える

 だが、その瞳は燃えるような執念を宿している。

 対するユウマは、いつもの仕事モードの完璧な笑みを浮かべて、セラにウィンクを返す。

 

「始まるね……」

「はい……」

 

 アオイの声に、ココが反発することもなく素直に頷く。

 否、素直ではなく、他のことなどどうでも良くなるほどに、目の前の試合に集中しているのだ。

 

『それでは──モン娘バトル! レディ……ファイトッ!!』

 

 6つの影が同時に動き出し、華麗なる死闘が今──始まる。

 

 

 

 

 

 セラのオオカミ娘達が銀の疾風となって襲いかかる。

 

 リーダー格のルナの爪が月光のように鋭く、フェンの爪と激しくぶつかり合う。

 風を切り裂く高速戦。火花が散り、観客の息を奪う。

 ほぼ互角のように見えるが、徐々にではあるが僅かにフェンが押されていく。

 だが、ユウマは動じない。

 

「リューカ、フェンの方に一瞬で良いから火を吹いてくれ」

「こっちもサンちゃんを相手してるのに、モン娘使いが荒いなぁ……ほーい」

 

 リューカが空に浮かび上がり、生み出した一瞬の猶予で、紅蓮の炎を正面からフェンの方に吹きだす。

 

「ルナ、一度下がりなさい!」

「御意」

 

 仲間ごと自爆覚悟の攻撃か? 

 そう判断した、セラは素早くルナをフェンの攻撃から下げさせる。

 

「ヒカリ!」

「分かりました!」

 

 ただ静かに指を鳴らして一声。

 ハーピー娘のヒカリがフィールドに嵐を巻き起こす。

 単なる風。だが、その向かう先には、リューカが吹いた炎があった。

 

「風で炎の軌道を変えるのね……でも無駄よ! 切り裂きなさい!!」

「OK、ボス」

「ラジャー、ボス」

 

 炎の竜巻となって、ルナを襲う攻撃をフリーになった残りの2体のオオカミ娘、サンとソラが防ぐ。

 銀閃が紅蓮を切り裂く。

 

「綺麗……」

 

 誰かが呟いた。

 暴力的な攻撃だというのに、全てが美しい。

 それはまるで、夜空というキャンパスに銀河を描くよう。

 

「ルナ、サン、ソラ。『シルバーストリームアタック』を仕掛けるわよ!」

「フェン、ヒカリに掴まって空に退避だ。リューカも飛んで逃げてくれ」

 

 攻防の全てが、計算され尽くした演出のように完璧だ。

 銀色の光を撒き散らし、セラの狼群が幻のように高速移動を始める。

 それをユウマは、空に逃げることでやり過ごそうとするが、セラの声が響く。

 

「逃げ道なんて、用意してないわ! 空も私達の縄張りよ!!」

 

 1人が2人を投げて、更に投げられた2人が空中で片方を踏み台にして加速する。

 そして、投げたモン娘もその後ろに続く。

 

 まるで宙を蹴るような、跳躍。

 空中だというのに、その速度を落とすことなくセラのオオカミ娘達は、牙を剥き飛び掛かってくる。

 しかしユウマは、微笑んだまま答える。

 

「いいや、このスタジアムの支配者は、チャンピオンである俺達だ」

 

 リューカが、硬い鱗でがっしりとルナの牙を受け止める。

 

「痛ったーッ!!」

「流石はドラゴン娘ね。一撃は受け止められるのは想定内よ。でも……3連撃はどうかしら?」

 

 だが、攻撃はそこで終わらない。

 まるで影のように、ルナの後ろについてきていた、残りの2体のオオカミ娘であるサンとソラが、続く。

 

「うげぇッ!?」

「ターゲットクリア」

 

 銀の牙と爪。

 ルナの攻撃を受け止めて、動けなくなったところへの連撃に、さしものドラゴン娘もひとたまりもない。

 

「お姉さんの、最後っ屁を食らえー……じゃあ、ギブアップ……戻るから後はお願い」

「ありがとう、リューカ……ヒカリ! フェン!」

 

 リューカが最後に苦し紛れの炎を吹いて、指輪に戻っていく。

 敵は3人とも空中に居て、炎で視界が塞がれた状態。

 ユウマは動揺を見せずに、冷静にその隙をつく。

 

「うん、分かった。纏めて屠る」

「はい、空の最速の称号が誰のものかを、教えてあげます!」

 

 フェンとヒカリが空中で旋回し、風と爪による斬撃、そしてリューカの残した炎を融合させた突撃を仕掛ける。

 

「3人とも! 迎撃準備よ!! 数はこっちの有利! 防御は考えなくていいわ!」

「ボスの仰せのままに」

「カウンターで仕留める!」

「来い! フェン!!」

 

 しかしセラのオオカミ娘達は、まるで一つの生き物のように連携し、銀色の光の渦を巻き起こして迎え撃つ。

 

 全てが美しい。

 暴力も、痛みも、必死ささえも、完璧な角度で演出されている。

 

 観客は息を飲む。

 これがショーなのだと。

 誰もが望む、最高のクライマックス。

 

「シルバーストリームアタック!!」

「2人共、トルネードタックルだ!!」

 

 ルナ、サン、ソラの銀の光が、ヒカリとフェンの炎と斬撃の竜巻とぶつかり合う。

 銀と紅蓮の光が正面から激突し──爆発した。

 

 瞬間──時が止まる。

 スタジアムが静まり返った。

 

 そして。銀の光が、ゆっくりと崩れ落ち、紅蓮の竜巻が消え去る。

 モン娘達が4つの光となり、それぞれの指輪に戻っていく。

 

「……また、負けたわね」

 

 自分の指輪に戻った3つの光を見て、セラは部隊上の女優の様に片膝をついた。

 負ける瞬間さえ美しく。

 そんな美学が現れた行動であった。

 

「な、何とか、持ち堪えました……」

 

 そして、フィールドの上には競泳水着がボロボロになりながらも、しっかりと空を飛ぶヒカリの姿だけがあった。

 

『決まったー!! エキシビションマッチの勝者は、チャンピオン、ユウマだーッ!!』

 

 拍手喝采。歓声の嵐。

 誰もが息を飲む、完璧な終幕。

 そんな中、ユウマはセラに歩み寄り、手を差し伸べる。

 

「君の牙は、今日も美しかった」

「その牙をへし折っておいて、言うことかしら?」

「君のことだ。どうせまた生えて来るんだろう?」

「私はサメ娘じゃないわよ。でも……そうね、あなたの言う通りだわ。また、何度でも生えて来る。いつか、あなたの喉元を切り裂くために」

 

 セラが立ち上がり、2人が握手をする。

 大歓声に包まれる中、その姿はまるで一枚の絵画のように、神聖なまでに美しかった。

 こうして、エキシビションマッチは大成功に終わったのだった。

 

「凄い……これが生のモン娘バトル……いつか私も…!」

 

 小さな少女の胸に消せぬ火を灯して。

 

 

 

 

 

「い、忙しいのに、関係者さんしか入れない楽屋まで、呼んでもらってすみません!」

「ははは、大丈夫だよ。もうインタビューや取材は終わったしね?」

「……机の上に、仕事をしてるっぽい道具がいっぱいありますけど」

「手持無沙汰で時間を潰していただけさ。それよりも……俺達のバトルはどうだったかな? アオイにココ」

 

 観客席から、スタッフに俺の楽屋までアオイとココを呼んでもらって、今日の感想を聞いてみる。

 今後のモン娘バトルについての意見書を作成したりしていたが、そんなものより目の前の主人公の方が大切だ。

 2人の気持ちが、モン娘マスターに向いてくれればいいんだが……俺の引退のためにも。

 

「すっごく……かっこよかったです!! 戦っているモン娘も、応援する人も……みんなが楽しそうで、かっこよかったです!!」

「格好いいか……確かに凄い戦いでしたね。空を飛ぶモン娘が相手だったのに、普通にオオカミ娘が空戦までやるなんて……正直、最初はチャンピオンが空を飛ぶモン娘を出して、ガンメタ張ってるのを、意地が悪いなと思いながら見てました」

「ははは、セラは強いからね。最初から有利を取るぐらいじゃないと、勝てなかったと思うよ」

 

 2人が口々に感想を漏らす。

 ココの意地が悪い戦いという評にちょっと苦笑いを返してしまうが、悪印象ではないようだった。

 何せ、2人とも興奮したまま、心の内を素直に語ってくれているだから。

 

「それで……ココはバトルを見れて楽しめたかな?」

「……面白かったですよ、はい。ただ、あんなのを何度も戦って、本当にやっていけるものなのか……疑問にも思いましたが」

 

 だが、次の俺の質問に対しては、ココはどこか曖昧な答えを返す。

 そこには、疑念があるのだろう。

 何度も戦って傷つくことに、恐怖を感じないのかと。

 痛みを感じることにどうして、耐えられるのかと。

 

「そうだな……俺はあくまでもマスターだ。君のようなモン娘の気持ちに答えるには、やっぱり同じモン娘が良いだろうな」

 

 俺は指輪から、今日戦ったリューカ、フェン、ヒカリを出す。

 ここは直接、モン娘達に語って貰おう。

 

「うーん、何度でも戦える理由? お姉さんはドラゴン娘だからなー……そもそも頑丈だし、戦うのも嫌いじゃないし。まあ、一番はマスターのためかなー。恩返しってやつ?」

「恩返し……」

 

 リューカの欠伸と共に吐かれた言葉に、ココは右手に目をやる。

 そこには、アオイに手当てをして貰った跡があった。

 

「私は戦うのが好きだから。でも、一番はマスターにぞっこんだから」

「ぞ、ぞっこん…!」

 

 アオイがフェンの言葉に顔を赤らめる。

 俺も、まっすぐな言葉に少し恥ずかしくなるが、嬉しいので止めはしない。

 こういうイチャイチャをのんびり毎日やって、暮らしていきたいんだ。

 

「確かに、戦うと傷つきますし、怖いこともたくさんあります。でも、仲間とマスターのためなら、頑張れます。それに、上手く計画を立ててバトルをすれば、お金を稼いで野生にいる時よりも良い生活が出来ますよ? 野生では本なども読めませんし。良ければ、私が、お2人の今後の大雑把なスケジュールを作ってあげましょうか?」

「ぞ、俗ですね……」

「俗で良いんだよ、こういうのは。バトルが出来なくても、俺はモン娘達とは一生一緒にいるつもりなんだから、俗なことも大切だよ」

 

 ヒカリの力説にちょっと引くココに、俺はバトルだけが人間とモン娘の関係じゃないと説く。

 

「バトルだけが人間とモン娘の関係じゃないし、モン娘の人生の全てでもない。でも、モン娘にとってのバトルは、純粋な楽しみだったり、マスターや相手のモン娘と仲良くなるための、大事なコミュニケーションになったりするんだ」

「……なら、そのコミュニケーションが、あなた達は好きなんですね」

「うん。バトル中はマスターの目も私に釘付け。独占できる」

「……一応参考にしておきます」

 

 そこにフェンが同意を示す。

 ココもチベットスナギツネのような顔をしながらも、納得したように頷いてくれた。

 きっと、ココの中の疑問は解決したのだと思いたい。

 

「ねえねえ、ココちゃん! 私と一緒にバトルをしてみない? 私はココちゃんともっと、仲良くなりたい!」

「え? ボ、ボクと?」

 

 キュッと年の割に大きな胸の前で、手を抱くように握り合わせて頼み込む、アオイ。

 その姿にココは動揺したように。激しくまばたきを行う。

 

「アオイはバトルに興味があるのかい?」

「はい! 観戦してる時も、自分ならどうするかって考えてました……それで、今日のバトルを見て決めたんです! 私……いつかチャンピオンさんみたいな、モン娘マスターになりたいって!!」

「…! そうか、それはいいな。そうなると、まずはジム巡りかな? 俺も陰ながら応援させてもらうよ」

 

 原作主人公の参戦確定! 

 あっという間に、成長して新チャンピオンになれるように、俺も応援したい。

 俺のイチャイチャスローライフと、今後のモン娘達のために。

 

「だからね、ココちゃん。私と一緒にいる契約をしてくれたら嬉しいなって……」

「こんなボクなんかで良いんですか…? ボクはネコ娘で弱いモン娘だし……だから」

 

 自分は弱い。

 だから、捨てられたんだと目を伏せる、ココ。

 

「弱いモン娘なんていないわよ!!」

「ミ、ミミさん?」

 

 すると、ミミが黙っていられないとばかりに、青色のモン娘リングから飛び出してくる。

 

「戦い方や、鍛え方でモン娘はいくらでも強くなれるわ! スライム娘の私が言うんだから、間違いないわよ!」

「そうだな。ミミの言う通りだ。種族として強いモン娘は確かに存在する。でも、弱いモン娘は存在しない。誰でも必ず強くなれる。それがこの世界の良い所だ。良かったら、俺の書いた育成本でも読んでみるかい? 今なら、サイン付きだ」

「誰でも強くなれる……」

 

 この世界の素晴らしい点は、ビジュアルは大好きだけど性能が……という悲劇が無いことだ。

 一目惚れしたモン娘を鍛えれば、進化などを経て必ず強く出来る。

 エロゲー故に、キャラデザの方を重視した結果の副産物だ。

 

「それにね、ココちゃん。戦いたくないから、戦わなくてもいいよ? 私とずっと友達でいようよ? 弱くても友達としてなら、ずっと一緒にいられるよ」

「友達……」

 

 アオイの真剣な目に、ココの視線が揺らぐ。

 強さだけでなく、純粋に友達として一緒に居たいという願い。

 それが、ココの心に響いたのかもしれない。

 

「こんなボクでも良いんですか…?」

「当然だよ!」

「返品は出来ませんよ?」

「友達を返品しないって!」

「本当の本当に?」

「本当の本当の本当に!」

 

 力強いアオイの言葉に、ココが目を閉じる。

 そして、再び目を開いた時、何かを振り切ったかのような強さがその瞳に宿っていた。

 

「はい……アオイがマスターを目指すなら、ボクがアオイのモン娘になって手助けしたい。野生でさまようのも、そろそろ限界でしたし……それにアオイには助けて貰った恩がありますので」

 

 ココが言葉を紡ぎ、前に出る。

 いつもはチラつく、全てを疑うような眼差しはなく、子供らしいまっすぐな表情で、手を差し出している。

 

「よろしくお願いします、マスター」

「うん! よろしくね、ココちゃん!!」

 

 そうして、2人の間で硬い握手が交わされるのであった。

 2人の未来にどうか、幸がありますように。

 

「はは、めでたいな。よし、新しいモン娘マスターとその家族の誕生を祝って、俺からのプレゼントだ」

「プレゼント?」

「ああ、モンスター娘リングだよ。新品のものを持ち歩いていてね。良かったら、使って欲しい」

 

 そう言って俺は、綺麗だが何の装飾も宝石もついていない、対になった2つの指輪をアオイに渡す。

 これがあれば、アオイも俺と同じように、モン娘を指輪の中に入れられる。

 

「わぁ! これがモン娘リング……2つ共はめたら良いんですか?」

「1つは自分、もう1つはココに着けてもらうんだ。契約の誓いは……さっき終わっているから、それだけで大丈夫だよ」

「じゃあ……はい、ココちゃん!」

「ありがとうございます」

 

 2人がお互いの指に指輪をはめる。

 するとすぐに、指輪が同時に光り輝き始める。

 

「わッ!? チャ、チャンピオンさん、指輪が急に光って!?」

「大丈夫だよ、すぐに終わる」

 

 初めての経験に驚く、アオイを落ち着かせると徐々に指輪の発光が収まっていく。

 すると、先程まで何もなかった指輪に、猫柄の台座と赤色の宝石がついていた。

 その形状に、俺は懐かしさを覚えながら、これから先のヒントを2人に与える。

 

「なるほど……火属性か」

「え、火属性? ボク、火とか扱えませんけど……」

 

 何を言っているんだ、こいつは。という目を向けてくる、ココ。

 俺は、ここで説明しておけば今後の2人の成長が早まるなと、内心で計画通りと思いながら、話を続ける。

 

「多分だけど、ココは進化すると火車になるんだ。珍しいけど、偶にいるんだ。進化するまでは、無属性の技しか使えないモン娘が」

「ど、通りでひっかくとか、体当たりとかしか出来ないわけですね……」

 

 だから、強くなれなかったのかとガックリと肩を落とす、ココ。

 恐らくは、以前のマスターからは、大した技も覚えない雑魚として扱われたのだろう。

 俺がもっと早くに、モン娘の知識について広めていれば、こんなことにはならかったかもしれないと思うと、少し罪悪感が湧く。

 だが、まあ、今から取り戻していけばいい。

 

「あの……火車って何ですか、チャンピオンさん?」

「猫又の一種、妖怪のことだね。分類的には、うちのクレハの九尾に近いかな? 一言にネコ娘と言っても、色々と種類が居て分類が難しいから、ココは本来は化けネコ娘と呼ぶべきなのかもしれないね」

「なるほど……それで、どうしたらボクは進化出来るんですか?」

「そうだね……」

 

 前世の原作知識を思い起こす。

 確か、火車に進化させるには特殊な条件があったはず。

 まず、レベル20になると猫又に進化する。

 その後、レベル30になった後で、火の結晶を与えたら火車になるというものだ。

 

「とにかく、まずは経験を積んで成長することで猫又への進化を目指す。そこから、更に成長して、火の結晶を使うと火車に進化出来るよ」

 

 しかしながら、悲しいかな。

 エロゲー世界に転生したと言っても、ここは俺達にとっての現実。

 生物のレベルなんて、便利な目安が見えないので具体的なことまでは、言いたくても言えない。

 

「進化…! よし、頑張ろうね、ココちゃん!」

「まあ、何も目標がないよりはマシですね。ありがとうございます、ユウマさん」

 

 しかし、2人に取ってはそれで十分だったのか、揃って意気込んでいる。

 まあ、レベル何て概念を意識しているのは、転生者の俺ぐらいなものか。

 

「ははは、それじゃあ俺はいつか君達が、チャンピオンとしての俺の前に立つ日を陰ながら応援しているよ」

「はい! いつか、チャンピオンさんと今日みたいなバトルを…!」

「はぁ……目標が高いのは良いですけど、まずは目の前のことを1つ1つクリアしていきましょうね、マスター。目の前の人はちょっと次元が違いますからね?」

 

 こうして、新たなモン娘マスターとその家族が、この世界に生まれたのだった。

 

(よし! こんな感じでさり気なく、ジム巡りをするアオイとココをサポートしていけば、いつかは俺をも超えるマスターとなって、俺の前に現れてくれる! ……はず)

 

 後、俺とこの世界における希望も無事に生まれ落ちたのだった。

 




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