モン娘ゲットだぜ! ~目指せモン娘マスター~   作:トマトルテ

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4話:ブラックカラー団

「はい、もしもし、ユウマです」

『おう、ユウマか? 俺だ俺』

「おれおれ詐欺ですか? 随分と古い手口ですね、ゴウさん」

『ちげぇよ! そもそも、俺の名前言ってんじゃねぇか!』

 

 講演会へ出演するために、新幹線で移動している最中だった。

 地属性ジムのリーダー、岩本ゴウさんから電話がかかってくる。

 45歳という年齢には似合わない筋骨隆々の、イケオジだ。

 

『たく……他の奴らにも見せてやりたいぜ、お前のクソガキぶりを』

「甘えてるだけですよ。それで……珍しいですね。いつもは、『ジムでひよっこ共の相手が忙しい』なんて言って、連絡をほとんど寄越さないのに」

 

 俺がチャンピオンになる前からお世話になっている、兄貴分みたいなものだ。

 なので、肩の力を抜いて話が出来る。

 

『珍しくて悪かったな。で、今大丈夫か?』

「大丈夫ですよ、移動中なので誰かと会っているわけでもないので」

 

 俺は手持ちのタブレットに、文字を打ち込んでいた手を止める。

 モン娘の進化とその段階について、原作知識をもとにまとめた論本を作成していたところだが、急ぎの仕事ではない。

 

『悪いな。ちょっとした世間話だ。面白い奴がうちのジムに訪ねてきてな。アオイっていう嬢ちゃんだ』

「…! 来たか、アオイ」

 

 マシロタウンから一番近い町にあるジム。

 それが、ゴウさんの居るダイチシティのダイチジムだ。

 つまり、アオイが順調に旅を進めているのだと知り、俺は思わず頬を緩めてしまう。

 

『やっぱり知り合いか。お前と会ったみたいな話をしてたからな』

「はい、幸運にも新たなマスターの誕生に立ち会えましたから。それで……どうでしたか? アオイちゃんは」

『……お前以来だよ。ガキんちょにマジになりかけたのはよ』

 

 ゴウさんが感嘆の息を吐く。

 

『モン娘の方はいたって普通のモン娘だが、マスターの指示がとにかく的確だ。まるで、空からフィールドを見ているみてぇだったよ。もちろん、モン娘との信頼関係もバッチリだったぜ』

「やっぱり……天才か」

 

 これぞ原作主人公の力かと、思わず身震いをする。

 このまま順当に成長してくれれば、いずれは俺を真正面から打ち倒して、新時代のチャンピオンになってくれるだろう。

 

『よく言うぜ。俺からしたら、お前もバケモンだよ。……懐かしいな、ヒカリの嬢ちゃんと一緒に来て、うちのジムマスター達を徹底的に叩き潰していた頃のお前が。俺がさっさと相手してやるって言ってんのに、わざわざ全員をぶちのめしてから挑んできたよな? あん時は、とんだバトルジャンキーが現れたと思ったぜ。何人かはお前の顔見るだけで、震えるようになってたぞ』

「ははは……その節はご迷惑をおかけしました。若気の至りということで、ここは1つ」

『たく、今はすっかり猫を被るのが、上手くなりやがって……』

 

 昔のことを掘り出されて、俺は苦笑いを浮かべる。

 原作知識を持っていた俺は、ジムトレーナーは倒すと多めの経験値が貰えることを知っていたので、全員と戦ってヒカリのレベル上げを狙っていたのだ。

 ゲーム感覚が抜けていなかったせいだが、今考えると凄い失礼なことをしたと思う……。

 今度、菓子折りでも持って謝りに行こうか……。

 

「それで、他に要件があるんですよね? 有望な新人が出たからと言って、一々俺に電話をしてくる程、暇じゃないでしょ? ゴウさんは」

『嫌みか、お前。まあ、当たりだよ。こっからは、チャンピオンのお前への報告だ』

 

 それはそれとして、話を自然に過去の俺の話から逸らしつつ、本題に移る。

 

『うちの町で“ブラックカラー団”が何か企んでるみたいでな。お前、ブラックカラーの情報を欲しがってただろ?』

「“黒い首輪(ブラックカラー)”が…!」

 

 俺はゴウさんの報告に、ギリリと歯ぎしりをする。

 “ブラックカラー団”。直訳で、黒い首輪。

 原作では、ポケ〇ンで言う所のロケ〇ト団的な、お邪魔組織になる。

 そして、俺がサッサと引退できない理由の1つでもあるのだ。

 

「何をやっているか分かりますか?」

『分からん。うちのもんが、路地裏とか山の麓とかで、それらしい影を見たって言ってるだけだ……今のところはな』

「念のため、町の人やモン娘には怪しい人を見かけたら、下手に追わずに、通報するように伝えておいてください。モン娘が攫われて、強制支配を受けたら一大事ですから。俺からもそれとなく、手を回しておきます」

 

 やってることは、ロ〇ット団とほぼ同じ。

 モン娘を捕まえたり、攫ったりして、売りさばいて金を稼ぐ。

 典型的な悪党だ。

 

 だが、えげつないことに、売るものがポケ〇ンからモン娘になっているので、見た目は完全に人身売買である。

 これだけで、CEROがR18まで上がったのではないかと思う。

 

 しかも、奴らは俺の大嫌いなNTR要素を一手に担う存在なのだ。

 考えても見て欲しい。原作のロケ〇ト団は人のポ〇モンを攫おうとしていた。

 これがモン娘になるのだ。完全に強制NTRである。

 

 しかも奪い方もエロゲのせいで、モン娘からマスターと契約した指輪を奪った上で首輪をはめるというもの。

 そして、首輪をはめられたモン娘は、洗脳されたように支配した人間の命令を聞くだけの存在になる。

 惨いなんてもんじゃない。

 

『ああ、あいつらの使う“支配の首輪”は危険だからな。町のもんにはよく言っておく』

「モン娘の同意を得ずに、強制的に契約状態にする黒色の首輪……あんな旧時代の違法物を使う時代遅れの変質者共なんぞ、死んでしまえばいいのに……」

『おいおい、気持ちは分かるが抑えろって? お前はもう、バトルジャンキーのガキじゃなくて、チャンピオンだろ。誰に聞かれてるか分からねぇぞ?』

「……ふぅー、ご忠告ありがとうございます。ゴウさん」

 

 ゴウさんの言葉に、俺は深く息を吐く。

 そういう意味で言ったのではないだろうが、ゴウさんの危惧は当たっている。

 何せブラックカラーのボスは、様々な場所に影響力を持つ、財政界の重鎮という設定だ。

 そして、この手のゲームのお約束とでも言うべきか、古参のジムリーダーの1人でもある。

 

「……簡単にはいかないものですね」

 

 原作ゲームだと、力でぶちのめせばそれで終わるのだが、ここは現実だ。

 金を持っていて、政治家にも顔が利く。

 何なら、警察にも内通者がいる。

 おまけに古参のジムリーダー故に、本来チャンピオンが影響力を持つはずの、バトル界でも信頼されている。

 

 これをただ強いだけで潰せというのは、無理があるのだ。

 いや、潰せるが潰したところで、また芽が出てくるというべきか。

 とにかく、現状の俺の影響力では、陰ながら邪魔をするのが最適解なのだ。

 

『お前が品行方正なチャンピオンをやって、それ以外にも講演会開いたり、イベントに出たり、論文を発表して世間での力を強めてるのは、ブラックカラーに対抗するためってのも、俺はぁ良く分かってる。そんなお前の努力がちんけな失言で、水の泡になるなんざ、つまらねぇからな』

「おっしゃる通りです」

 

 そして、俺がチャンピオンの仕事以外にも、多忙になっている理由の1つでもある。

 モン娘チャンピオンは、現実で言えば、ただのスポーツ選手だ。

 政治や企業に対して出来ることは限られている。

 

 だが、それはただのスポーツ選手であった場合だ。

 O谷さんみたいなスーパースターになれば、世論や他のマスターを動かすことが出来る。

 要するに、世間で認められ、様々な分野で力をつけるために、仕事を増やすしかないのだ。

 全ては、NTR集団(ブラックカラー)を叩きのめすために。

 

 マジで許さねえからな、NTR集団共。人のイチャラブスローライフを返せ。

 

『まあ、吐き出したい時は俺に言いな? 良い店を知ってるからな。酒なら、いくらでも付き合うぜ』

「………遠慮しておきます」

『おいおい!? そこは、嫌でも社会人として、ぜひ機会があればって返すところだろうが!』

「ゴウさんに付き合ってたら、二日酔いどころか、四日酔いになりそうなので。酒抜きなら、いつでもお誘いに乗りますよ」

 

 以前付き合った結果、嘔吐や頭痛に苦しんだ日々を思い出して、俺は苦い顔をする。

 酒は嫌いじゃないが、酒豪レベルのゴウさんには付き合えない。

 

『たく……あの時から成長したのか、してねぇのか……とにかく、ブラックカラー団の件は伝えたからな』

「はい。路地裏などの怪しい場所に行ったり、怪しい人に声をかけられたら、すぐに逃げるように、ジムに来る子供達にも伝えておいてください。後、可能なら見回りもお願いします」

『おう。それじゃあな、お前さんも仕事はほどほどにな? 声から疲れが滲んでるぜ』

 

 そう言って、ゴウさんとの電話を終える。

 俺はしばらく、暗くなった携帯の画面を見つめたまま考えこむ。

 

(ブラックカラー団……今までは、潰したくても完全に潰せなかったが、今は違う)

 

 原作はスタートした。

 俺の原作知識通りならば、アオイはジム巡りをすると共にブラックカラー団と出会う。

 ストーリーラインとして、ジム巡りだけでなく悪の組織も潰すという形になっているから、間違いない。

 そして、原作主人公であるアオイはブラックカラー団との戦いの果てに──完全に潰す。

 

(敗北ルートもあるが、結局の所、正史は主人公がチャンピオンになる。そのついでに、ブラックカラー団は潰される。要するに、奴らの滅びのカウントダウンが始まったんだ)

 

 そうすれば、俺も何の憂いもなく今の仕事から手を引ける。

 新チャンピオンに負けた、旧チャンピオンとしてのんびりと余生を過ごさせてもらおう。

 だから、アオイ──

 

(頼むぞ……アオイ…!)

 

 ──仕事で動けない俺の代わりに、ブラックカラー団の壊滅を頼む! 

 

(ダイチシティはゲームではブラックカラー団のチュートリアルだから、負けるはずはない! ……はず)

 

 ……もちろん、本当にヤバいときとか、権力関連の絡め手の対策は俺も手伝うから。

 

 

 

 

 

「この──アホマスターッ!! 子供みたいに、フラフラするなって言ってるでしょうが!!」

「うひぃ……で、でも、ココちゃん。見たこともない道って、ワクワクしない? 奥に何かあるのか気になっちゃうし」

「どうせ、行き止まりで、引き返す羽目になりますよ! さっきの道もそうだったじゃないですか!? ジムバッチも手に入れたんですし、早く次の町に行きましょうよ!」

「……知ってるココちゃん? 諦めたら、そこで探検は終了なんだよ?」

「諦めろって言ってるんですよ!!」

 

 ダイチシティ。

 狭い路地裏を突き進むアオイへ、ココの怒鳴り声が壁に反響してぶつかる。

 だが、良くも悪くもココと打ち解けたアオイは、その言葉にもどこ吹く風だ。

 得意げなドヤ顔が、更にココの眉を吊り上げさせる。

 

「はぁ……お母さんから『いい、ココちゃん? アオイから絶対に目を離さないでね? 町の中で迷子になるどころか、人の家に勝手に上がり込んでたりする子だから……本当にお願いね?』と言われた理由が、今になって分かりましたよ」

「も、もう、人の家に勝手に入ったりしないから……ちゃんと、許可貰うよ」

「たとえ、友人の家でも、タンスの中なんかは調べたらダメですからね?」

「…………」

「返事!」

「はーい……」

 

 これがアオイの主人公補正。

 この道……もしかして先に進める? と思ったら、主人公(プレイヤー)は気楽に進む。

 ノックも無しに人の家に入り、タンスやごみ箱を漁ったりする。

 そして簡単には(探索を)諦めない。

 

 お母さんは、さぞや苦労してこの子を育ててきたことだろう。

 

「まったく……バトルでは、ボクなんかでも完璧に動けるぐらい、指示が冴えているのに……なんで私生活はこんな何ですか」

「違うよ! それはココちゃんが、私のことを信じて動いてくれてるからだよ! だから、私の勝利じゃなくて、私達の勝利!」

「もう……本当に調子が良いんですから」

 

 行動は困ったことばかりするが、その心の優しさと絆は本物。

 そして何より、バトルの才能がある。

 マスターとしては最高なのに、人としてはなぁと、ココが内心でため息を吐く。

 あっちが立てばこっちが立たない。これが人生だ。

 

「あ、ココちゃん! 見て見て、今度はちゃんと道が空けたよ! やっぱり、諦めないでよかったね!」

「壊れた時計も、日に二度は正確な時刻を指すってことわざ、知ってます?」

「うひぃん!? 私は壊れた時計じゃないよ!」

「じゃあ、壊れたコンパスですかね……ここは捨てられた工場?」

 

 そんな話をしながら、狭い道を歩いていると不意に道が開ける。

 雑草とカビ。

 そして、すすけた灰が黒々しく壁を彩った工場が、2人の目の前に現れるのだった。

 

「アホなマスターに一応言っておきますけど、入ったらダメですからね? 捨てられていても、土地の管理者はいますし、何よりきちんと手入れされていない建物は危ないですから」

「わ、分かってるよー……」

 

 廃工場の半開きになっている錆びた扉を見ながら、ココが釘をさす。

 流石のアオイも、これだけ行くなと言われれば、ワクワクした足を後ろに向けるしかない。

 ココがマジギレしないうちに、そろそろ帰ろうかと踵を返した時。

 

 

 ──誰か……誰か助けてください…! 

 

 

 かすかに廃工場の中から聞こえる苦しげな声に、アオイが足を止めた。

 

「……ココちゃん、今の声、聞こえた?」

「……はい。助けを求める声が」

 

 ピクピクと猫耳を動かして、ココが表情を険しいものに変える。

 人間の耳でも聞こえる声が、猫の耳で拾えない訳が無い。

 何よりも、野生時代に何度も嗅いだことのある、危険な匂いを感じ取ってしまう。

 

「行こう、ココちゃん」

「ちょ! 待ってください! 危ないって説明しましたよね!? まずは、警察か誰かに連絡して──」

「放っておいたら、死んじゃうかもしれないんだよ!」

 

 アオイはココの言葉を無視して、迷わず扉を押し開ける。

 そして、堂々と薄暗い工場内部に足を踏み入れた。

 

「ああ…もうッ! ボクから離れないでくださいね!?」

 

 ココは舌打ちをしながらも、素早くアオイの後ろに続く。

 向こう見ず、だが、そんなアオイの性格に救われたからココだからこそ、否定できなかったのだ。

 

「見て、ココちゃん。足元の非常灯…? だけは、今も点いているよ」

「……この道だけ、埃やカビが少ないです。誰かが、定期的に通っている証拠ですね」

「行ってみよう……」

「ボクが前に出ます。マスターは戦闘になったら指示を。どうしようもなくなったら、ボクを置いて逃げてください」

「うん、その時は一緒に逃げようね?」

 

 ココのもしもの時は逃げろという忠告を、軽く無視して、アオイ達はココを先頭に進んでいく。

 すると、他よりも光源が多い場所に近づいてくる。

 

「マスター……」

「うん…!」

 

 誰か居る。

 そのことに気づいた2人は、息を潜めて足音を殺す。

 そして、ゆっくりと奥の方を確認する。

 

「フー……()()()から(さら)ってくるのに苦労したが、やっとお楽しみタイムだな」

(さら)う…!?)

 

 工場の奥、薄暗い明りの下で、黒がベースの赤の刺繍の入った制服を着た男達が数人、輪になっていた。

 その中心にいるのは、怯えた様子で床に膝をついている、20代後半に見えるヒツジ娘だった。

 白いふわふわの耳と角が震え、手足を拘束された状態で、今まさに首に()()()()がはめこまれそうになっている。

 

「誰か……誰か助けてください…!」

「ほらほら、暴れるなよ〜。すぐに気持ちよーくになるからさ? マスター(飼い主)との思い出の指輪を渡してくれよ」

「そうそう、その後にこの支配の首輪(ブラックカラー)を付けたら、辛いことも全部忘れられるぜ?」

「ま、大切な他のことも全部忘れて、俺達の命令を聞くしか出来なくなるんだけどな! ひゃっはっはッ!」

 

 男達、ブラックカラー団の下っ端達が下種な顔で笑いながら、ヒツジ娘の前で支配の首輪をコロコロと弄んでいる。

 まるで、これからのヒツジ娘の未来を暗示するかのように。

 

「や…やめて…! その指輪は私とマスターの誓いの証なの…っ! 取らないで!!」

「あーん? モン娘(畜生)の意志なんて関係ねぇんだよ! お前達は人間様にとって都合の良い道具なんだよ!! 近いだの約束だの、畜生がいきがるなよ!」

「ま、どれだけ抵抗しても、指輪を外して、この首輪をはめさえすれば、数十分で俺達の忠実なペットだ。『前の飼い主なんかより、俺達の方が飼い主に相応しいです』って土下座して、詫びさせてやるよ」

「ふざけないで! あの人は飼い主じゃなくて、わたしの家族よッ!! あなた達みたいなクズ共と一緒にしないでッ!!」

 

 ブラックカラー団の外道なセリフに対して、怯えていたはずのヒツジ娘が、激昂して怒鳴り返す。

 当然、頭の出来が低次元な下っ端達は、そのセリフに対して激昂する。

 

「この畜生(あま)が…ッ! おい! カオル! 少し、こいつをいたぶってやれ!! どうせ売り捌くんだ。死ななきゃ、後は何してもいいだろ!!」

 

 そして、首輪をはめる前にいたぶって遊んでやると叫び、両腕を組んで壁にもたれかかっていた残りの仲間に声をかける。

 

「……断る」

「ああん!?」

「オレの仕事は、そいつを捕まえることまでだ。とっとと終わらせて、帰りたいんだ。無駄な残業なんてごめんだね」

 

 だが、キャスケット帽を深く被った、少年風の服の小柄な子供は、努めて低い声でその要請を拒否する。

 

「カオル! 先輩の言うことが聞けねぇのか…!」

「あんたらこそ、ボスのオーダーが聞けないのか? 『モン娘は商品』なんだろ? 売り捌く予定の商品を傷つけるバカがいるか」

 

 軽く鼻を鳴らして、子供、黒瀬カオルは呆れたように青みがかった緑の瞳を細める。

 そして、それに同意するようにカオルのモン娘である、闇属性のコウモリ娘がカオルの短い灰色の髪を横から撫でる。

 

「そうそう、あたし達はお金が欲しくてブラックカラー団に入っただけなんだから。おバカな先輩達と一緒にしないでくれる?」

「この…! 運良く、人間様と契約を結べただけの道具風情がッ! 調子に乗るんじゃねぇぞ!」

()()()…? クフフ、面白ーい! 少しは冗談が言えるのね、先輩方も。支配の首輪で捕まえたモン娘すら、譲ってもらえない下っ端なのに」

「リコ……あまりしゃべるな」

 

 なんか勝手に、仲間割れを始めたブラックカラー団。

 その様子を、陰から窺っていたアオイとココは──

 

「ココちゃん! ヒツジ娘さんの周りにいる人達に体当たり!!」

「了解です!」

 

 ──その隙を逃すことなく、攻撃に移るのだった。

 

「正当防衛体当たり!」

「「「ぐべらッ!?」」」

 

 ココの体当たりで、べしょっと揃って壁に叩きつけられる下っ端達。

 そして、そのまま気絶してズルリと力なく地面へと転がり落ちる。

 暴力? 正当防衛だ! 

 

「あ……」

「わーお、人間相手に思いっきりが良いー! 君、悪党の素質あるよ。あたし達と一緒に来ない?」

「今まで聞いた中でも最低の勧誘ですね。宗教勧誘の方が幾分か、聞く気になりますよ」

 

 そして、カオルは突然の事態に間の抜けた高い声を出し、コウモリ娘のリコは面白そうに笑う。

 

「……リコ、気づいてたのか?」

「そりゃあね? コウモリ娘だもの。暗闇がホームグラウンドよ。まあ、面白そうだから放置しておいたけど♪」

「気づいていたなら言ってよ……コホン。いや、言えよ」

 

 面白くなりそうなので、無視をしていました。

 などと、堂々と供述するリコに思わず男らしい口調が崩れる、カオル。

 その隙に、アオイもココとヒツジ娘の所へと到着する。

 

「大丈夫ですか?」

「あ、あなたは…?」

「白峰アオイです。声を聞いて、助けに来ました! 早く逃げましょう!」

「で、でも、手足が鎖で繋がれていて……」

「ココちゃん、爪で斬れない?」

「無茶を言わないでください。ボクは雑魚モン娘なんですから……鍵が必要ですね」

 

 ヒツジ娘を拘束している鎖。

 それを解くためには、鍵が要る。

 

「ああ、そうだ。せっかく助けに来たところ悪いが、鍵はオレが持っている」

 

 そして、その鍵はカオルが持っているのだ。

 カオルが、これ見よがしに鍵を指で摘まんで、見せびらかした後にポケットへと入れる。

 

「そーそー、だから、あたし達とバトルしないと助けられないってわけ。ね、シンプルでしょ?」

 

 鍵が無ければ、ヒツジ娘を助けられない。

 それを分かっていたからこそ、リコはアオイ達を見逃して遊んでいたのだ。

 

「そっか……じゃあ、話は早いね。ココちゃん、いける?」

「多分、相手は結構強いですよ」

 

 ココがアオイの言葉に、渋面を返す。

 リコはこんな状況で遊べる程度には腕に自信がある、モン娘。

 一筋縄ではいかないだろう。

 

「……ただまあ、チャンピオンの化け物達ほどじゃないですが」

 

 だが、ココはリコよりも遥かに高みを知っている。

 それが、心に余裕を産んでいた。

 

「よし! それじゃあ、行くよ! ココちゃん!」

「来るか……残業はあまり気乗りしないが……リコ!」

 

 マスター同士が目と目を合わせる。

 そして、モン娘指輪(リング)のついた手を掲げる。

 

「指示はお任せします、マスター」

「それじゃあ──バトル開始ーッ!」

 

 

 

 

 

「リコ、一気にケリをつけろ!」

「了解♪ 遊んであげるね〜!」

「さっさとやれって言ってるだろ!」

 

 黒色の髪を翻し、大きなコウモリ耳と膜状の翼を広げたリコが適当な返事を返す。

 彼女はニヤニヤと笑いながら宙に浮かび、翼をゆっくりと羽ばたかせている。

 アオイはその様子をじっと観察し、すぐに相手の特徴を把握する。

 

(コウモリ娘……確か夜行性で音波と飛行能力が武器。暗い場所がホームグラウンド。ココはスピードで勝負できるけど、翼で翻弄されると不利……でも、ここは室内。こっちが届かないほど高くは飛べないはずだよね)

 

 アオイは大きく深呼吸をして、冷静に声を張った。

 

「ココちゃん! まずは部屋の角に相手を追い込むよ! 相手の翼は大きいから、狭い場所で翻弄されると嫌がるはずだよ!」

「了解!」

 

 ココが即座に猫らしい低姿勢で突進する。

 リコは楽しそうに笑いながら、高度を少し上げて迎え撃った。

 

「良い指示だな。だが、そのぐらいはこっちも分かってる。リコ、出来る限り天井近くに居ろ。相手はネコ娘だ。ジャンプする以外に、対策はない。そうすれば、相手の行動を限定できる。着地の瞬間を狙う!」

「クフフ、猫ちゃん速いね〜! でも、それぐらいはこっちも対策済み——」

 

 空を飛ぶモン娘を持つのだから、その対策と攻略方法ぐらい相手も把握している。

 結局は、飛べないモン娘はただのモン娘。

 攻撃方向が限定されるのだから、そこを叩けばいいだけ。

 そう、カオルは指示を出すが。

 

「ココ! 今! 壁を蹴って右から跳んで、ひっかいて! 狙いは翼の膜の部分!!」

「はい!」

「──いいッ!?」

 

 アオイの指示は的確だった。

 ココは壁を使い、右から斜めに跳びながら爪を閃かせて、リコの左翼の膜を浅く切り裂く。

 膜が傷ついたことで、リコの動きがわずかに鈍る。

 

「痛っ…やるじゃない!」

(よし! チャンピオンさんとセラさんのバトルを見て、考えてた空中戦のやり方……上手くいったみたい)

 

 飛べないモン娘が、空中で戦うにはどうするか。

 セラは開けたフィールドだったために、仲間を使って足場を作った。

 だが、ここは室内。壁も障害物もネコ娘にとっては立派な足場だ。

 

「いいよ、ココちゃん! このまま少しずつ、相手の機動力を削っていくよ!」

「リコ、距離を取れ! 遠距離から超音波で攻撃すれば、こっちの有利は崩れない!」

 

 カオルが慌てて声を上げる。

 想定外の攻撃に焦っているのだ。

 

「はーい、マスター♪ じゃあ、あなたの可愛い耳をズタズタにしてあげる?」

 

 しかし、リコの方はそんなカオルの焦りを消すためか、努めて余裕そうな声で返事をする。

 そして、大きく息を吸って、コウモリ娘特有の超高音波の波動を口から吐き出す。

 

「ココちゃん、超音波攻撃が来るよ! そのまま前転して距離を縮めながら回避!」

「はい!」

 

 ココは即座に前転し、攻撃を回避することに成功する。

 

「よし! リコ、そのまま攻撃を続けろ。相手を近づけさせなければ、こっちの勝ちだ!」

「はいはーい♪」

 

 その隙に体勢を整える、リコ。

 空を飛ぶ有無だけでなく、遠距離攻撃の有無も戦況を大きく左右する。

 残念なことに、今のココには状況を打破する技はない。

 

(超音波は強力だけど、大きく息を吸う準備動作がある、それに室内だから音は反射する。壁や地面に直角に当てたら、相手に跳ね返るから、逆にそれを利用できるかも……)

 

 リコが超音波を放った直後、アオイの瞳が鋭く光る。

 一瞬で、相手の攻撃の溜め動作と副作用を見抜き、策を練る。

 

「ココちゃん! 飛んでる相手の真下に潜り込んで!!」

「!? 何言ってるんだ、あいつ? わざわざこっちの餌食になりに来るつもりか…?」

 

 一見すると意味不明な指示。

 カオルの方が困惑してしまうほどだ。

 だが、そんな指示に対しても。

 

「──了解です!」

 

 ココはノータイムで頷いて見せる。

 

「何をするつもりか分からないけど……いいじゃない! その目、気に入ったわ♪」

「言ってる場合か! リコ、また超音波攻撃だ!!」

 

 迷うことのない踏み込みで、一気に空を飛ぶリコの真下に潜り込む、ココ。

 リコはそんなココを楽しそうに見つめながら、攻撃のために大きく息を吸い込む。

 

「じゃあ、超音波いくよー!」

(相手が大きく息を吸った!)

 

 アオイの狙い通りに。

 

「ココちゃん! 今ッ! 転がって逃げて!!」

「ッ!!」

 

 即座に回避指示を出す、アオイ。

 またも、ノータイムで指示に従う、ココ。

 そして、ココが居なくなった地面に、垂直に超音波が当たり──

 

「ホギャッ!? こ、声が、は、跳ね返って……」

「あ!? しまった! 真下に来たのは、超音波の反射のためか!?」

 

 ──そのまま最短で、撃ち出したリコの下へと返っていくのだった。

 

「今だよ! ココちゃん!!」

「はい!」

 

 そして、それによってできた隙をアオイとココは見逃さない。

 ココが爆発的な加速で壁を蹴り、廃工場の鉄骨や柱を利用して、三連続で跳躍を行う。

 そうして、宙に浮いたまま硬直するリコの死角である背後を取る。

 

「全力で翼を引き裂いて!」

「ハァアアッ!」

 

 鋭い爪がリコの左翼の膜の中心を深く引き裂いた。

 コウモリの膜状の翼は飛行に不可欠な部分。

 大きく傷つけられた以上は、当然リコはバランスを崩して、飛べなくなり──

 

「うわっ!? この…ッ!」

「さあ、止めだよ、ココちゃん! その勢いのまま、上から──体当たり!!」

「どりゃあああッ!!」

 

 ──容赦なく地面へと叩きつけられるのだった。

 

「きゃぁああッ!?」

「リコ!?」

 

 リコの悲鳴に、カオルが心配そうな甲高い悲鳴を上げる。

 

「はぁ…はぁ…やるじゃない……猫ちゃん」

「まだ、やりますか?」

「そこはマスター次第だけど……カオル、どうする?」

 

 リコがココに押し倒された状態で、苦笑しながらカオルに視線を送る。

 ここから先、どうするかの権利はお前にあると確かな信頼を見せながら。

 

「………戻れ、リコ。オレ達の負けだ」

 

 カオルは瞳を閉じて、悔しそうに唇を噛みながらリコをモン娘リングに戻す。

 これ以上戦っても、モン娘が傷つくだけだと判断して。

 

「おい、お前……」

白峰(しらみね)アオイだよ、あなたは?」

「……黒瀬(くろせ)カオルだ。今回はお前の勝ちだ。ほらよ、鍵だ」

「あッ! 何で投げるの!?」

 

 明後日の方向に鍵を投げる、カオル。

 当然、アオイとココの視線はそちらに吸い寄せられる。

 

「じゃあな! 次に会った時は覚えておけよッ!!」

 

 そして、その隙をついてカオルは一目散に逃げだしていくのだった。

 

「い、行っちゃった……何だか、悪い子じゃなかった気がするけど」

「人を攫っておいて、悪い子じゃないは無理がありますよ。ほら、鍵を拾ってきましたよ」

「あ! そうだ! これで、鎖を解けるね……怪我とか無いですか?」

「え、ええ、怪我はないわ……あなた達まだ子供なのに、凄く強いのね。本当にありがとう」

 

 こうして、アオイのブラックカラー団との初遭遇は、無事にアオイの勝利で終わりを迎えるのだった。




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