モン娘ゲットだぜ! ~目指せモン娘マスター~   作:トマトルテ

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5話:お礼

「お手柄であります! あなたのその正義の心に、本官……感服ッ! いたしました!!」

 

 警帽に手を当て、大きめの胸を張りながらビシッと敬礼をする、黒い犬のお巡りさん。

 もとい、婦警の犬養(いぬかい)ミコトがアオイに対して、オーバーにお礼を述べる。

 

「見ず知らずの人を、モン娘との絆で助ける……これぞまさしく、モン娘マスターのあるべき姿であります! 素晴らしい! 本当に素晴らしい!」

「わ、私は悪い人が居たから、捕まえただけで……」

 

 黒いショートカットの髪に生えた、尖った耳をピクピクと動かし、黒い瞳を涙でにじませる、ミコト。

 だが、アオイの方はミコトのあまりの感激ぶりに、ちょっと引いている。

 

「謙遜する必要はありません! ブラックカラー団は、モン娘を支配し、道具として扱い、売りさばく悪党……モン娘にとっての脅威! この体に流れる()()()()も、アオイ殿とココ殿の正義を褒め称えております!!」

 

 血の半分。

 その言葉に、ココがミコトの黒い肌と黒い耳に目をやる。

 人間とは思えない。だが、通常のイヌ娘よりも毛は濃くない。

 

(もしかして……ハーフ? でも、いきなり聞くのも失礼か)

 

 恐らくは人間とモン娘のハーフだと思うが、初対面で聞くのは失礼かなと自重する、ココ。

 

「半分? あ、もしかして、ミコトさんはハーフなんで──」

「お口チャァアアック!!」

 

 そして、何も考えずに暢気に聞こうとするアオイの口を肉球で塞ぐ。

 

「むぐッ!?」

「すいません、マスターはバカなだけなんです。耳とか尻尾を見て、疑問に思っただけなんです」

 

 愛想笑いを浮かべながら、アオイの頭をもう片方の手で小突く、ココ。

 悪気が無いからと言って、アイデンティティの問題を軽々しく触れるべきではないのだ。

 一応は野生に居たのに、なぜココの方が社会性に富んでいるのだろうか? 

 

「構いません。皆が思うことでしょうから、ですが、本官はハーフではありません」

「え? じゃあ、モン娘ですか?」

「いえ、ハーフではなく──」

 

 ミコトは何かを思い出すように、明るく笑い大きく声を張りあげる。

 

 

「──ダブルであります!」

 

 

 ダブル。

 その宣言に、ココは驚いた顔をしてアオイの口につけていた、肉球を離す。

 

「ダブル? それって、ダブルチーズバーガーとかのダブル?」

「その通りであります! 人間とモン娘で2倍! 嫉妬されることが多くて、困ってしまいます!」

 

 そう冗談を言って、笑ってみせる、ミコト。

 何かを吹っ切ったような笑い方だ。

 

「確かに……耳も尻尾もふわふわで、気持ちよさそう……」

「よければ、耳を触ってみますか?」

「本当!? じゃあ、失礼します」

 

 ミコトは身長がかなり高いため、アオイでは届かないので、しゃがみこむ。

 そして、撫でられやすいように帽子を外す。

 

「では、どうぞ!」

「それじゃあ……うわぁ、ふわふわしてる!」

「自慢の耳でありますから!」

 

 キャッキャッと笑いながら、ミコトの耳を撫でる、アオイ。

 

「………ボクにも耳があるんですけど?」

 

 面白くなさそうに、鼻を鳴らす、ココ。

 

「え? ココちゃんも撫でさせてくれるの?」

「い、いや! そうは言って…! ……ますけど」

 

 プイとそっぽを向く、ココ。

 だが、その耳は相手が撫でやすいようにペタッと下ろされていた。

 

「ハッハッハ! 美しい友情でありますな! では、本官はお邪魔にならないように、アオイ殿が捕まえた者達を連れていきますので、これで。しばらくは、調査でダイチシティに残りますので、機会があればまたお会いしましょう。それでは!」

 

 ミコトは、お邪魔虫はさっさと退散するべきとばかりに、気を使ってそそくさと消えていく。

 

「あ、行っちゃった……」

「何と言うか……前向きな人でしたね」

 

 アオイとココは、その後ろ姿を見つめながら耳を撫でる。

 

「それから、マスター。知らない人に対して、いきなり耳を撫でたいとかは言わないように。セクハラになりますよ?」

「そ、そうなの?」

「はい。ですので、撫でたい時は……ボ、ボクに言ってください」

 

 頬を赤らめて、独占欲を発揮する、ココ。

 そんな様子に、アオイは目をパチクリとさせて、ニッコリと笑う。

 

「ココちゃんは可愛いね~」

「ッ! だ、黙らないと、もう撫でさせてあげませんよ!」

「ふふ、ごめんね?」

 

 そうして、2人の穏やかな時間は続いていくのだった。

 

 

 

 

 

「改めて、助けてくださって本当にありがとうございます…!」

「おかげで、大切な家族が連れていかれずに済みました。何とお礼をしたらいいか……」

「い、いいですよ。人として当然のことをしただけですから……ね、ココちゃん?」

「ボクは警察を呼ぼうとしてましたから、マスターじゃなかったら助けられなかったと思いますよ? まあ、警察の方も、呼べばすぐに来てくれそうな方でしたが」

 

 ブラックカラー団から救出したヒツジ娘。

 そんな彼女の自宅で、彼女のマスターから土下座せんばかりの例を受け取る、アオイ。

 ミコトにブラックカラー団の下っ端を引き渡した後に、お礼を言いたいと言っていると、ゴウから呼ばれたのだ。

 

「そうだぜ、嬢ちゃん? 大人としては、危ないことすんなって言わないといけねぇが……1人のマスターとしては、よく悪党をぶちのめしたと言わせてもらうぜ!」

「わ、わ! ゴ、ゴウさんまで……そんなに頭を撫でないでください」

「あ、ボクは遠慮しておきます」

 

 よくやったと、アオイの頭を豪快に撫でるジムリーダーのゴウ。

 ヒツジ娘がいなくなったという騒ぎを聞きつけて、捜査に出た所で、アオイがブラックカラー団を倒したという話を、ミコトから聞いたのだ。

 因みに、ココの方はゴウに撫でられるのは嫌なのか、サラッと回避している。

 

「流石は、ユウマが認める天才だな。うちのゴーレム娘を初見で突破出来るやつは、中々いないんだぜ?」

「へ? ユウマさんが?」

 

 褒められたことよりも、その前の名前が気になり、アオイが大きな目をパチクリとさせる。

 

「おう。お前のことを天才って言ってたぜ。まあ、才能があるのはさっき言った通りだ。自分達の不利も指示で乗り越えるのは、誰にでも出来ることじゃねぇ」

 

 ゴウの誉め言葉はジムリーダーという立場として、実に的確なものだった。

 一度戦うだけで、その子の素質などを見抜く。

 まさに、職業柄と言っていいだろう。

 

「で、でも、私達はユウマさんの前で、バトルしたことないよね…?」

「はい。あるとしたら、森で会った時にボクが前に出たぐらいですけど」

 

 しかし、ユウマは違う。

 アオイ達がバトルをしている姿を見たことが無いのに、才能があると見抜いたのだ。

 その事実に、アオイとココは首を傾げるしかない。

 

「まあ、あいつは昔からどういう訳か、人を見る目があるからな……。街で見かけたガキを連れてきて、次のジムリーダー候補とか言ったら、本当にジムリーダーになったり。何の変哲もない男を指差して怪しいって言ったら、ブラックカラーの連中だったりな。未来でも見えてんのかって精度だぜ?」

「エ、エスパー…?」

 

 遠い目をしながら、若かりし頃のユウマの謎の行動を振り返る、ゴウ。

 まあ、エスパー染みた行動は全て、原作知識によるものなのだが。

 原作キャラの名前と顔を覚えておけば、有望株や敵が分かるのだから便利なものだ。

 

「まあ、流石にチャンピオンになってからは、誰構わずに言うのは、抑えてるみたいだがな。ここまで言うのは、俺も久しぶりに聞いたぜ」

「何でですか? 便利じゃないですか」

「そりゃあ、お前………チャンピオンっていう社会的に影響力のある奴に、悪人って言われたら冤罪でも社会的に不味いだろ? 人を見る目があるって言っても、絶対じゃねぇんだしよ」

「……言われてみるとそうですね」

 

 ゴウの言葉に、ココは少し寒気を感じてしまう。

 誰もが知っていて、人気のあるチャンピオンが、あいつは悪人だと言ったらどうなるか? 

 原作知識で補強されているとはいえ、()()()犯罪者かは別だ。

 

 足を洗ったかもしれないし、未来に悪人になるだけで今は善良な市民かもしれない。

 それを、名指しして気を付けろと言ってしまえば、社会は証拠などなくとも私刑に処してしまうだろう。

 酷ければ、それが理由で、原作のような闇落ちをしてしまうかもしれないのだ。

 

 立場が、ユウマの行動を慎重なものに変えさせたのは言うまでもない。

 これもまた、ユウマが簡単にチャンピオンを辞めることが出来ない理由である。

 

「昔から、未来を見ているみてぇなガキんちょだったが……今は、ちゃんと現在を見れる大人になったからな」

「チャンピオンさんに、そんな過去が……」

「ま、今も若い奴の才能を見抜くのは上手いままだ。気張る必要はねぇが、自信を持つのはいいことだぜ? 何せ、最強のチャンピオンのお墨付きだ」

 

 そう言って、ガハハと大きな口で笑う、ゴウ。

 カラッとした大地のような性格が良く分かる。

 

「おっと、話が脱線しちまったな。とにかく、今回のことは本当に助かった。ダイチシティを代表して礼を言わせてもらうぜ」

「あの……お礼と言ってはなんですが、このモン娘リングをどうぞ。ジム巡りをしているなら、これから仲間も増えていくでしょうから、持っていて困るものではないでしょうから」

 

 頭を大きく下げる、ゴウ。

 まだ契約の結ばれていない、新品のモン娘リングを差し出す、ヒツジ娘。

 

「えっと……お礼とかは別に……」

「頂いておきましょう、マスター。かさばるものでもないですし、それに無償では相手も気が病みます」

「そ、そうなのかな? じゃあ、その……ありがとうございます!」

 

 ギュッと指輪を握りしめて、笑顔を返す、アオイ。

 その横では、ココも満足そうな顔をしている。

 なんだかんだ言って。自分のマスターが認められたことが嬉しいのだ。

 まあ、言葉に出すことは滅多にないのだが。

 

「嬢ちゃん、まだモン娘はココの嬢ちゃんだけか?」

「はい」

「だったら、ついでにタカイ山で新しい仲間を探したらどうだ?」

「タカイ山?」

 

 疑問符を浮かべるアオイに対して、ゴウは町から見える一際高い山を指差す。

 

「おう。あそこの山には地属性のモン娘が数多く生息してるからな。次はイズミシティに行くんだろ?」

「はい、そのつもりです」

「まあ、その前に探検と称して、町のあちこちを連れ回されましたけど」

 

 素直に頷く、アオイを小突きながらココが呆れたような顔をする。

 今回は、結果的に人助けになったが、いつも付き合わされる身からすれば、たまったものではない。

 

「ガハハ! だったら、いいプレゼントになりそうだな。イズミシティのジムは水属性だ。地属性は水属性に相性がいいからな」

 

 ゴウはだったら、遊べる場所を紹介してやると、豪快に笑う。

 

「嬢ちゃんの指示能力なら、うちでのバトルみたいに相性差も跳ね返せるだろうが、それでも選択肢があるとないとじゃ大違いだぜ。タカイ山で遊ぶついでに、新しい仲間でも募集してきな」

「あ、そっかぁ……ココちゃんが強いから気にしてなかったけど、ココちゃんって一応火属性だもんね」

「現状だと、全くもって火が使えませんけどね。弱点だけある状態です……嫌になりますよ、ホント」

 

 属性の相性を説明されて、アオイとココは確かにと頷く。

 ココの火属性は、風と闇には強いが、地と水には弱いのだ。

 のっけから、ハードモードである。

 

 因みに、属性の相性表は下のようになる。

 

 

 属性| 有利属性| 不利属性 |

 ────────────────

 地属性| 水・火 | 風・闇 |

 ────────────────

 水属性| 火・光 | 地・風 |

 ────────────────

 火属性| 風・闇 | 水・地 |

 ────────────────

 風属性| 地・水 | 光・火 |

 ────────────────

 光属性| 闇・風 | 闇・水 |

 ────────────────

 闇属性| 光・地 | 火・光 |

 ────────────────

 

 

「一応聞いとくが、属性の相性は分かるか?」

「はい。えーと……地は水と火に強い。水は火と光に強い。火は風と闇に強い。風は地と水に強い。光は闇と風に強い。闇は光と地に強い……ですよね?」

「正解だ。よく勉強してるな」

「えへへ、普通のお勉強はそんなに得意じゃないけど、モン娘バトルのことは得意なんです」

 

 地は水を吸い込み、火を消し止める。

 水は火を打ち消し、光を反射して歪ませる。

 火は風で燃え広がり、闇を照らす。

 風は地の上を駆け抜け、水を巻き上げる。

 光は闇を晴らし、風を置き去りにする。

 闇は光を吸収し、地を飲み込む。

 

 これが属性ごとの相性になる。

 もちろん、出力が上がれば水を蒸発させる火も出てくるのだが。

 

「バトルっていうのは、相性だけで決まるもんじゃねぇが、知ると知らないじゃ天と地の差だ。仲間が見つからなくても、属性の特徴を掴むだけでも役に立つぜ?」

 

 だから、タカイ山に登ってみたらどうだと、ゴウが親切心から告げる。

 ゴウもまた人を導く存在。

 アオイという才能のダイヤモンドを、磨いてみたくなったのだ。

 

「よし…! ついでだし、新しいお友達を探しに行ってみよっか! ココちゃんもそれでいい?」

「別に構いませんよ。出来れば、マスターの暴走を止めるストッパー役が居れば、ボクも楽を出来るんですが」

 

 2人に特に断る理由はない。

 それを確認したゴウは、ジャンバーのポケットから簡単な書類を取り出す。

 

「決まりだな。入山許可証は……登山道の入り口に、係の人間がいる。そいつに、俺のサインを書いたこいつを見せれば入れるぜ。じゃあ、良い仲間が見つかるといいな」

 

 こうして、アオイとココは新たな仲間を求めて、タカイ山へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

「カッカッカ! 随分と精力的に動き回っておるそうじゃのう? ユウマ君」

「………お久しぶりです、サカイさん。わざわざ、こんな所まで来てくださるとは……そちらこそ、ジム経営の方は順調ですか?」

 

 講演会も終わり、一息をついていた俺の下に、豊かな髭を蓄えた老いた男性が尋ねて来る。

 闇属性、ヨルノジムのジムリーダー、横島(よこしま)サカイ。

 またの姿を──

 

 

「カッカッカッ! もちろんだとも、君への挑戦権を得ようとする、血気盛んなマスターが今月も何人も押し寄せて来たわい! まあ、権利を得ることが出来たのは、一握りじゃがのう」

 

 

 ──ブラックカラー団のボスだ。

 

「それはよかった。政治に経済と、サカイさんは顔が広いですから……忙しくて、ジムが疎かになっていないかと心配していました」

「若造が、自分のことを棚に上げて、言うようになったのう。心配ご無用。まだまだ若い者には負けんわい!」

 

 俺の皮肉にも全く動じずに、豪快に笑って見せる、サカイ。

 とてもではないが、老人には見えないエネルギーだ。

 まあ、実際に見た目通りの老人ではないのだが。

 

「相変わらず、お歳に見合わない力強さで何よりです。若さの秘訣でもあるんですか?」

「毎日、人を食っておるからのう、カッカッカッ!」

 

 てめえが食ってるのは、モン娘を売り捌いて得た暴利だろうが。

 そう言ってやりたいのを、グッと堪える。

 

「それで……今日は何の御用で?」

「いやいや、仕事で来たのだが近くで、ユウマ君が講演会を行っていると聞いて、冷やかしに来ようと思ってな」

「それはよかった。どうでしたか? 私の『モン娘は家族』だという話は。年寄りの冷や水程度で、冷める熱意ではなかったと思いますが」

 

 冷たい舌戦を繰り広げるが、今の俺に出来るのはそこまで。

 

「非常に勉強になったわい。これもまた、()()()()に利用できそうじゃとな。家族のためなら、人間はいくらでも金を出すからのう。二重種(ハーフ)の子供を持つ家庭なども今後増えるじゃろうからな。君の講演は実に参考になったわい!」

 

 俺にあるのは、こいつがブラックカラーのボスだという原作知識だけ。

 証拠がないのだ。

 巧妙に自分の足がつかないように、部下だけをしっぽ切りして逃げる。

 警察を抱き込んで、証拠をもみ消させる。

 原作知識にあるアジトも、一定の場所に作らずにすぐに動かすため、見つけづらい。

 

「サカイさんはモン娘の移動や居住に関する、法案にも一枚噛んでいるとか……」

「おお、知っておったか? モン娘の()()()侵害されるのは、ワシとしても困るからのう」

(移動の自由は言い換えれば、密輸の自由だろう…! 一般的には正しい法案を作って、それを陰で悪用する……食えない爺だな、本当に)

 

 そもそも、表の顔がデカいので俺以外は誰も疑わない。

 疑っても、むしろ被害者面でこんなことは望んでいなかったと、嘘泣きすらする。

 そのせいで、俺の権力だけでは強硬的な調査が出来ずに、冷戦状態が続いているのだ。

 

「ええ、その言葉には賛同しますよ。それで……私の講演会はどうでしたか?」

「うむ。今回は飛び入り参加になってしまったが、周りを見れば講演会に参加しているのは、ほとんどが若い者……いやはや、モン娘が家族とは昔とはずいぶんと常識が変わって来たのう」

「そう言ってもらえると、私も講演会を開いたかいがあったというものです」

 

 サカイの目が細くなる。

 笑顔のまま、探るような視線をこちらに向けた。

 俺も、笑顔で細めた瞳の奥で睨み返す。

 

「じゃが……世の中はそう単純ではない。人と居るモン娘はともかく、野生のモン娘は危険な存在。しっかりと()()しなければ、食われるのはワシら人間の方……それが自然の摂理というものじゃ」

「……一理ありますね」

「君のように『家族』などと甘いことを言っていると、いつか痛い目を見る者が出るやもしれんぞ?」

 

 喧嘩を売っているのか。

 それとも、純粋な忠告なのか。

 それは分からないが、相手が本気なことだけはその目で分かる。

 

「……サカイさん」

「なんじゃ?」

 

 俺は笑顔を保ったまま、静かに、しかしはっきりと告げる。

 

「あなたの意見も一理あると思います。モン娘は危険な力を持った存在……それは間違いありません。ですが、心を通じ合わせることのできる存在なのは、あなたも理解しているはずだ。だから、私はお互いが共存できる世界を諦めたくない……あなたも、()()()()()()として、そう思っていただけると嬉しいのですが」

 

 一瞬、サカイの笑顔が凍りつく。

 好々爺の仮面が剥がれて、歴戦の猛者の顔が現れる。

 

「……ほう。若造が、随分と偉そうに」

「偉いですよ、チャンピオンですから」

 

 空気が重くなる。

 控室の温度が、急に下がったように感じた。

 サカイはゆっくりと立ち上がり、杖を突きながら俺に近づいてくる。

 

「ユウマ君……君は確かに強い。じゃが、この世界は強さだけで回っているわけではない。大切な“家族”を守るためには、強さ以外も必要……ワシならそれを与えてやることも出来るのじゃが」

 

 そして、俺の耳元で小さく囁く。

 こちら側につけ。

 そうでなければ、モン娘(家族)に危害を加えるぞと。

 

「私も、もう大人です。与えられるのではなく、与える側に回ったつもりです。強さより大切な芽は、今まさに蒔いている所です」

「カッカッカッ! 楽しみじゃのう、未来の若人が育つ時が。この目で見るのが楽しみじゃわい」

 

 サカイは満足げに笑い、ゆっくりと後ろに下がった。

 老人とは思えない、力強さを込めた足取りだ。

 

「では、また会おう、ユウマ君。……次は面白い土産を持ってくるつもりじゃ」

 

 そう言い残して、サカイは控室から出て行った。

 ドアが閉まった後、俺は深く息を吐く。

 

(……来たな、本格的に。これも原作が開始した影響か? 今までの俺からの牽制を無視して動くつもりか)

 

 ブラックカラー団の動きが、ついに表面化し始めた。

 アオイがジム巡りを進めるたびに、奴らとの接触は増えていく。

 その理由を俺はさっする。

 

()()()()()()……最強の武力を手に入れたんだな。原作だと、どうやって手に入れたか不明のまま終わった、最凶のモン娘──オメガを)

 

 モンスター娘を超えた存在。

 神の再来と呼ばれる──ゴッド娘が。

 

(アオイ……お前が強くなるまで、俺が表舞台で奴らを抑え続ける)

 

 そして、願う。

 全てを解決するための、ラストピースへと。

 

(だから、頼む……俺の代わりに、ブラックカラー団を思う存分ぶちのめしてくれ!)

 

 チャンピオンの激務と立場で、動き辛い俺の代わりに戦ってくれと。

 




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