ピクミン擬人化ハーレム物   作:風神ぷー

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第三話 黄色い少女

朝。

 

目を開く。

 

最初に見えたのは巨大な葉だった。

 

緑色の天井みたいに頭上を覆っている。

 

その隙間から朝日が差し込んでいた。

 

少し眩しい。

 

昨日より身体が軽い気がした。

 

森で一夜を明かしたというのに、不思議なくらい疲労感が少ない。

 

むしろ調子がいい。

 

あの果実のおかげだろうか。

 

そんなことを考えながら身体を起こす。

 

すると。

 

「寝顔ひどい」

 

目の前にローズがいた。

 

朝一番で言う台詞じゃない。

 

「おはようとかないのか」

 

「起きたならそれでいいでしょ」

 

「もっとこう、人間らしい挨拶とか」

 

「人間じゃないし」

 

「そうだったな」

 

反射的に返事をしてから固まる。

 

今なんて言った。

 

だがローズは気にする様子もなく立ち上がる。

 

「あんたって本当に鈍いわね」

 

「何がだよ」

 

「別に」

 

いつもの調子だった。

 

聞き返しても答えない。

 

俺は諦めて立ち上がる。

 

昨夜の焚き火は完全に消えていた。

 

灰だけが残っている。

 

森は相変わらず静かだった。

 

静かすぎる。

 

朝の森なら鳥の鳴き声くらい聞こえてもいいはずだ。

 

なのに何もない。

 

風すら吹いていない。

 

世界から音だけ切り取られたみたいだった。

 

「行くわよ」

 

ローズが歩き出す。

 

俺も慌てて後を追った。

 

一人で残る選択肢はない。

 

そんな勇気はなかった。

 

 

 

 

 

歩く。

 

ただひたすら歩く。

 

昨日も思ったが、この森はスケールがおかしい。

 

草は俺の身長より高い。

 

花は家ほどある。

 

キノコは小屋みたいな大きさだ。

 

最初は驚いていたが、もう疲れてきた。

 

人間は環境に慣れる生き物らしい。

 

できればもっと普通の環境に慣れたかった。

 

「なあ」

 

「何?」

 

「この森って広いのか?」

 

「広いわよ」

 

「どれくらい?」

 

「すごい広い」

 

「参考にならないな」

 

ローズは首を傾げた。

 

本気で何が悪いのか分かっていない顔だった。

 

こいつに距離感を聞くのは無理かもしれない。

 

 

 

しばらく進む。

 

すると。

 

前方に巨大な影が見えた。

 

最初は岩かと思った。

 

だが違う。

 

倒木だった。

 

信じられないほど巨大な木。

 

幹だけでトラック数台分はある。

 

それが道を塞ぐように横倒しになっていた。

 

「うわ……」

 

思わず声が漏れる。

 

ローズは平然としていた。

 

「邪魔ね」

 

そう言って倒木へ近付く。

 

嫌な予感がした。

 

「何する気だ?」

 

「どかす」

 

「どうやって?」

 

ローズは拳を握った。

 

嫌な予感が確信へ変わる。

 

「待て待て待て」

 

「何よ」

 

「殴る気か?」

 

「駄目なの?」

 

駄目だろ。

 

普通は。

 

普通なら。

 

だがこの少女は昨日チャッピーを殴り飛ばしている。

 

本当にやりかねない。

 

恐らくは出来るのだろう、しかしいくらなんでも時間がかかる。

 

「やめとけ」

 

「なんで?」

 

「効率が悪い」

 

ローズは少し不満そうだった。

 

本気で殴るつもりだったらしい。

 

恐ろしい。

 

 

 

俺は倒木を観察した。

 

長年の癖だった。

 

荷物を運ぶ時。

 

トラックを通す時。

 

道が塞がっている時。

 

まず周囲を見る。

 

無理に突破するのは素人だ。

 

「……あっちか」

 

倒木の横。

 

少し離れた場所。

 

木々の隙間に通れそうな空間が見えた。

 

「こっちだ」

 

「え?」

 

「回り込める」

 

ローズも見る。

 

数秒後。

 

「あ」

 

珍しく間抜けな声が出た。

 

「本当だ」

 

「だから最初から周りを見るんだよ」

 

荷物運びの基本だ。

 

無理に動かすより。

 

安全なルートを探す方が早い。

 

事故も減る。

 

 

 

ローズは少しだけ感心した顔をした。

 

「意外」

 

「失礼だな」

 

「脳筋かと思ってた」

 

「誰がだ」

 

「運び屋ってもっと筋肉で運ぶ仕事かと」

 

「それでやってたら毎日事故だよ」

 

ローズは少し考える。

 

そして。

 

「……役に立つのね」

 

ぽつりと呟いた。

 

 

 

一瞬。

 

本当に一瞬だけ。

 

 

 

嬉しかった。

 

 

 

「褒めた?」

 

「褒めてない」

 

「今褒めただろ」

 

「気のせい」

 

「絶対褒めた」

 

「うるさい」

 

 

 

顔を背けるローズ。

 

耳が少し赤い。

 

気のせいだろうか。

 

 

 

 

 

倒木を迂回してさらに進む。

 

昼が近付く頃には汗が滲んでいた。

 

喉も渇く。

 

昨日の果実は美味かったが、水分までは補えない。

 

そんな時だった。

 

 

 

「……水だ」

 

 

 

前方が開ける。

 

巨大な湖。

 

いや。

 

池かもしれない。

 

だが俺の感覚では湖だった。

 

岸から対岸が見えない。

 

水面は鏡みたいに静かだった。

 

風がないせいだろう。

 

一切揺れていない。

 

 

 

「休憩するか」

 

 

 

そう言って近付く。

 

喉が渇いていた。

 

少しくらいなら。

 

そう思った瞬間。

 

「駄目!!」

 

ローズが叫んだ。

 

俺は足を止めた。

 

心臓が跳ねる。

 

昨日から一緒にいるが。

 

ローズがこんな大声を出したのは初めてだった。

 

「……ローズ?」

 

振り返る。

 

少女の顔が強張っていた。

 

青ざめている。

 

いや、怯えている。

 

そんな風に見えた。

 

「近付かないで」

 

「何かあるのか?」

 

「いいから」

 

ローズは俺の腕を掴む。

 

思ったより力が強かった。

 

引きずるように後ろへ下がらされる。

 

その様子は異常だった。

 

昨日チャッピーを殴り飛ばした少女とは思えない。

 

「おい」

 

「見ないで」

 

「何を?」

 

「水面」

 

意味が分からない。

 

だが。

 

その時だった。

 

ぽちゃん。

 

水面に波紋が広がる。

 

小石でも落ちたような小さな波。

 

しかし何かがおかしい。

 

波紋が大きい。

 

大きすぎる。

 

まるで。

 

巨大な何かが底の方で動いたみたいに。

 

俺は息を呑んだ。

 

水面の下。

 

黒い影が見えた気がした。

 

魚じゃない。

 

そんな大きさじゃない。

 

もっと。

 

もっと巨大な。

 

理解したくない何か。

 

次の瞬間。

 

影は消えた。

 

何も見えない。

 

静寂だけが残る。

 

「……今の」

 

「行くわよ」

 

ローズが即座に言う。

 

「でも」

 

「行く」

 

有無を言わせない声だった。

 

俺は池を振り返る。

 

鏡みたいな水面。

 

何もいない。

 

何も見えない。

 

なのに。

 

見られている気がした。

 

背筋が寒くなる。

 

俺は黙ってローズの後を追った。

 

 

その後。

 

ローズはしばらく何も話さなかった。

 

俺も聞かなかった。

 

聞いてはいけない気がしたからだ。

 

ただ一つだけ分かった。

 

この森にはチャッピー以外にも何かいる。

 

そしてローズですら恐れる何かが。 

 

 

 

 

 

 

ローズが口を開いたのは、

あの巨大な池を離れてからしばらく経った頃だった。

 

「もう大丈夫」

 

ぽつりと呟く。

 

「何がだよ」

 

「別に」

 

「絶対別にじゃないだろ」

 

ローズは返事をしなかった。ただ前を向いて歩き続ける。

 

その足取りは普段と変わらないように見える。だが昨日から一緒にいる俺には分かった。少しだけ速い。少しだけ落ち着かない。

 

早くあの場所から離れたい。

 

そんな風に見えた。

 

俺もそれ以上は聞かなかった。聞いても答えないだろうし、何よりあの池を思い出したくなかったからだ。

 

水面の下に見えた巨大な影。

 

あれが気のせいだとは思えない。

 

 

 

さらに歩く。

 

やがて周囲の景色が変わり始めた。

 

今まで緑色だった森が、少しずつ黄色へ染まっていく。

 

黄色い花。

 

黄色い葉。

 

黄色い蔓。

 

視界の至る所に黄色が増えていく。

 

そして気付けば、巨大な向日葵によく似た花々が辺り一面に咲いていた。

 

一本一本が異常な大きさだった。

 

茎は電柱のように太く、花弁は人間一人を簡単に隠せそうなほど大きい。

 

花畑というより花の森だった。

 

「なんだここ……」

 

思わず呟く。

 

ローズは周囲を見回した。

 

「綺麗でしょ」

 

「まあな」

 

確かに綺麗だった。

 

だが落ち着かない。

 

この森は美しい景色ほど不気味だ。

 

極彩色の花もそうだった。

 

人間の感覚からほんの少しだけズレている。

 

その少しが妙に怖い。

 

「ローズ」

 

「何?」

 

「ここ来たことあるのか?」

 

「あるわよ」

 

「何回くらい?」

 

ローズは少し考えた。

 

「いっぱい」

 

「雑だなぁ……」

 

「数えたことないもの」

 

それはそうかもしれない。

 

だが参考にならないことに変わりはなかった。

 

 

 

その時だった。

 

バチッ。

 

何かが弾ける音がした。

 

静電気のような音。

 

空気が擦れたような音。

 

俺は足を止める。

 

バチッ。

 

もう一度。

 

今度は近い。

 

「ローズ」

 

「分かってる」

 

ローズが面倒そうな顔をした。

 

警戒というより呆れ顔だった。

 

「知ってるのか?」

 

「たぶん」

 

「たぶん?」

 

「来た」

 

次の瞬間だった。

 

バチィィィッ!!

 

黄色い閃光が走った。

 

轟音。

 

地面が爆ぜる。

 

土が舞い上がる。

 

反射的にしゃがみ込んだ。

 

死んだと思った。

 

本気で。

 

だが。

 

「いたーーーーっ!!」

 

元気な声が響いた。

 

煙を突き破って飛び出してきたのは、一人の少女だった。

 

黄色い髪。

 

黄色い瞳。

 

頭から生えた一本の葉。

 

ローズと同じだった。

 

だが雰囲気は真逆だ。

 

「人間だーーー!!」

 

少女が叫ぶ。

 

「え?」

 

「人間だーーー!!」

 

「聞こえてる」

 

「本物だーーー!!」

 

「それも聞こえてる」

 

少女は俺の周囲を高速で走り始めた。

 

速い。

 

異常に速い。

 

黄色い残像が見える。

 

もはや人間の速度じゃない。

 

「ローズ!」

 

「何よ」

 

「人間拾ってる!」

 

「落ちてたから」

 

「猫じゃないんだから!」

 

まともなツッコミだった。

 

少し安心する。

 

少女は急停止した。

 

俺の目の前。

 

鼻先がぶつかりそうな距離だった。

 

近い。

 

近すぎる。

 

「ねえねえ!」

 

「なんだ」

 

「空飛べる?」

 

「飛べない」

 

「残念!」

 

「何がだ」

 

「飛べたら面白かった!」

 

基準がおかしい。

 

「ねえねえ!」

 

「まだあるのか」

 

「雷平気?」

 

「平気じゃない」

 

「残念!」

 

「だから何がだよ」

 

ころころ表情が変わる。

 

まるで大型犬だった。

 

元気の塊みたいな少女。

 

その横でローズが深いため息を吐く。

 

「ひまわり」

 

「なーにー?」

 

「うるさい」

 

「酷い!」

 

頬を膨らませる。

 

全く反省していない。

 

「紹介する」

 

ローズが俺を見る。

 

「ひまわり」

 

「そう!」

 

少女は胸を張った。

 

「ひまわり!」

 

二回名乗った。

 

元気しかない。

 

30のおじさんには目を背けたくなる元気さだった。

 

「俺は織間哲平」

 

「おりま?」

 

「哲平」

 

「オリマー!」

 

「違う」

 

「オリマー!」

 

「だから違う」

 

「オリマー!」

 

「話聞けよ」

 

ひまわりは満面の笑みだった。

 

全く聞いていない。

 

何故謎の森に入っても俺はオリマー呼びなのだろうか。

 

ローズが呆れたように言う。

 

「それでいいじゃない」

 

「良くないだろ」

 

「似たようなものでしょ」

 

全然違う。

 

だが二対一だった。

 

理不尽だが口で覆すことが難しい事は安易に予想出来た。

 

 

 

その後、三人で歩くことになった。

 

ひまわりが加わっただけで騒がしさが十倍になった。

 

「あれ何!?」

 

「花」

 

「これは!?」

 

「草」

 

「これは!?」

 

「木」

 

「へぇー!」

 

会話の内容が薄い。

 

だが本人は楽しそうだった。

 

「オリマー!」

 

「なんだ」

 

「チャッピーに食べられかけたって本当?」

 

「本当」

 

「弱いね!」

 

「否定できない」

 

「私なら勝つ!」

 

「知ってる」

 

なぜか胸を張られた。

 

ローズが横から口を挟む。

 

「調子に乗ると食べられるわよ」

 

「食べられないもん!」

 

「去年も食べられかけてたじゃない」

 

「忘れた!」

 

「忘れるな」

 

漫才みたいで楽しかった。

 

不思議なことに、森の恐怖を少しだけ忘れられるくらいには。

 

 

 

その時だった。

 

ひまわりが突然足を止めた。

 

笑顔が消える。

 

ローズも同時に立ち止まる。

 

空気が変わった。

 

森が静かだった。

 

いや、静かすぎた。

 

さっきまで騒いでいたひまわりが何も喋らない。

 

それだけで異常だと分かる。

 

ガサッ。

 

遠くの草が揺れた。

 

最初は風かと思った。

 

だが違う。

 

この森に風なんてほとんど吹かない。

 

ガサッ。

 

もう一度。

 

今度はもっと大きい。

 

巨大な何かが草を押し分けながら近付いてきている。

 

嫌な汗が背中を伝った。

 

「オリマー」

 

ローズが前を向いたまま言う。

 

ちゃっかりローズもオリマー呼びだった。

 

けどそんな事が些細に思える命への危機感。

 

「下がって」

 

「ローズ?」

 

「今回は少し面倒」

 

その声には余裕がなかった。

 

昨日チャッピーを殴り飛ばした少女が警戒している。

 

つまり、とんでもなく危険だ。

 

 

 

すると隣で、ひまわりが笑った。

 

今までの無邪気な笑顔じゃない。

 

獲物を見つけた肉食獣みたいな笑み。

 

戦う者の顔だった。

 

「久しぶりだね」

 

ぞくりとした。

 

声の温度が違う。

 

「暴れていい?」

 

ローズは肩をすくめる。

 

「好きにしなさい」

 

ひまわりの笑みが深くなる。

 

次の瞬間。

 

ドォォォォン!!

 

咆哮が森を揺らした。

 

巨大な向日葵が震える。

 

地面が振動する。

 

耳が痛くなるほどの轟音。

 

そして。

 

黄色い花畑の奥。

 

そこに巨大な影が現れた。

 

チャッピーより大きい。

 

二倍。

 

いや三倍はある。

 

全身が総毛立つ。

 

姿を認識するより早く、ひまわりが飛び出した。

 

「行ってきまーす!!」

 

雷鳴が轟く。

 

黄色い閃光が花畑を駆け抜けた。

 

俺は呆然と立ち尽くす。

 

そして理解する。

 

この森にはローズだけじゃない。

 

まだまだ化け物みたいな少女がいる。

 

それだけは嫌というほど分かった。

 

そして巨大な影はなおも近付いてくる。

 

まるで俺たちを見つけたと言わんばかりに。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 




やっぱりヒロインの太ももは太くなきゃねぇ(ねっとり)
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