ピクミン擬人化ハーレム物   作:風神ぷー

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第四話 黄色い雷 

黄色い閃光が花畑を駆け抜けた。

 

ひまわりが飛び出した。

 

それは走るというより、跳ねるに近かった。

 

地面を蹴るたびに、足元で小さな光が弾ける。

 

バチッ。

 

バチッ。

 

バチィッ。

 

空気が焦げたような匂いが鼻を刺した。

 

「行ってきまーす!!」

 

声だけはやたら明るい。

 

遠足にでも行くみたいな声だった。

 

だが向かっている先にあるのは、どう見ても遠足先ではない。

 

黄色い花畑の奥。

 

巨大な影が揺れていた。

 

チャッピーより大きい。

 

二倍。

 

いや、近付いてくるほどに分かる。

 

三倍以上ある。

 

丸い胴体。

 

太い脚。

 

地面を抉る爪。

 

そして口。

 

異様に大きな口だった。

 

頭の半分以上が口に見える。

 

正直、何を食べるためにそこまで口を大きくしたのか聞きたい。

 

聞いたところで返事は咆哮だろうが。

 

「ローズ」

 

俺は声を絞り出した。

 

「何だあれ」

 

「大チャッピー」

 

「名前が雑!」

 

「分かりやすいでしょ」

 

「分かりやすいけど怖さが増した!」

 

普通のチャッピーですら人間を丸呑みにしそうだった。

 

それの大型版。

 

名前は大チャッピー。

 

命名会議が五秒で終わったとしか思えない。

 

「逃げた方がいいんじゃないのか」

 

「逃げても追いつかれるわよ」

 

「じゃあどうするんだよ」

 

「倒す」

 

ローズは当然のように言った。

 

当然じゃない。

 

世の中には当然と言っていいことと、言った人間の正気を疑うことがある。

 

これは後者だ。

 

「倒せるのか?」

 

「一人じゃ無理」

 

「無理なのかよ!」

 

「だから面倒って言ったでしょ」

 

言った。

 

確かに言った。

 

だが俺は、少し面倒という言葉の中に、巨大怪物と命を賭けた戦闘が含まれているとは思っていなかった。

 

人間の会話には、もう少し説明という機能が必要だと思う。

 

「ひまわりだけで大丈夫なのか?」

 

「足止めならできる」

 

ローズは前を見たまま答える。

 

その声は冷静だった。

 

だが、いつもの皮肉っぽさはない。

 

本当に警戒している。

 

それだけで嫌な汗が背中を伝った。

 

ひまわりはすでに大チャッピーの目前まで迫っていた。

 

「やっほー!」

 

手を振る。

 

相手は巨大怪物。

 

挨拶する相手を選んでほしい。

 

大チャッピーが咆哮した。

 

ドォォォォン!!

 

黄色い花畑が震える。

 

俺の膝も震える。

 

情けない。

 

だが仕方ない。

 

三十歳男性。

 

巨大怪物の咆哮に膝が笑う。

 

むしろ立っているだけ偉いと自分を慰めたい。

 

大チャッピーが前脚を振り上げた。

 

太い。

 

丸太どころじゃない。

 

小型車くらいある。

 

それがひまわり目掛けて振り下ろされる。

 

「ひまわり!」

 

思わず叫んだ。

 

だが黄色い少女は笑っていた。

 

「おっそーい!」

 

次の瞬間。

 

ひまわりの身体が消えた。

 

いや、消えたように見えた。

 

黄色い光だけが走る。

 

バチィッ!!

 

大チャッピーの前脚が地面を叩きつけた時、ひまわりはすでにその背後にいた。

 

「こっちだよー!」

 

大チャッピーが振り返る。

 

遅い。

 

いや、怪物としては十分速いのかもしれない。

 

だがひまわりが速すぎる。

 

黄色い髪が揺れるたび、周囲に小さな光が散った。

 

「何だよあれ……」

 

「ひまわり」

 

「名前じゃなくて能力の話をしてる」

 

「蓄めてるのよ」

 

「何を?」

 

「雷」

 

「雷って蓄めるものなのか?」

 

「ひまわりはそうなの」

 

説明になっていない。

 

だがローズに説明力を期待する方が間違っている。

 

俺は戦いを見るしかなかった。

 

ひまわりが大チャッピーの周囲を走る。

 

速い。

 

目で追うのがやっとだ。

 

大チャッピーが何度も前脚を振るう。

 

そのたびに地面が砕け、巨大な向日葵の茎が折れる。

 

だが当たらない。

 

ひまわりは紙一重で避け続ける。

 

いや、違う。

 

あれは避けているというより、当たらない位置を先に取っている。

 

相手の動きより先に身体が動いている。

 

「ねえねえ!」

 

ひまわりが叫ぶ。

 

「久しぶりなんだから、もっと頑張ってよ!」

 

大チャッピーが怒ったように咆哮する。

 

その巨体が突進した。

 

地面が震える。

 

まっすぐ。

 

ひまわりへ向かって。

 

「避けろ!」

 

俺は叫んだ。

 

ひまわりは笑った。

 

「避けなーい!」

 

「馬鹿か!?」

 

思わず本音が出た。

 

ひまわりはその場でしゃがむ。

 

両手を地面につける。

 

頭の葉がぴんと立った。

 

次の瞬間。

 

バチッ。

 

地面を黄色い光が走った。

 

ひまわりの身体が一瞬だけ明るく輝く。

 

「せーの!」

 

ひまわりは飛んだ。

 

真上へ。

 

あり得ない高さだった。

 

人間の跳躍じゃない。

 

建物の三階、いや四階くらいまで一気に跳び上がった。

 

大チャッピーの突進が空振りする。

 

その背中の上に、ひまわりが落ちてきた。

 

「どーん!」

 

軽い声。

 

重い音。

 

ドゴォッ!!

 

ひまわりの踵が大チャッピーの背中に叩き込まれた。

 

黄色い光が弾ける。

 

大チャッピーの巨体が地面に沈んだ。

 

「うわ……」

 

声が漏れた。

 

あの小さな身体のどこにそんな力があるのか。

 

もう考えるのも馬鹿らしい。

 

この森に物理法則を持ち込む方が悪い。

 

ローズが横で小さく頷いた。

 

「今のが蓄めた力」

 

「電気で身体能力を上げてるってことか?」

 

「たぶん」

 

「そこは分かれよ」

 

「私はひまわりじゃないもの」

 

それはそうだ。

 

それはそうなのだが、もう少しだけ会話に優しさが欲しい。

 

人間社会なら苦情が入る。

 

「じゃあ、あいつは雷を出せるわけじゃないのか」

 

「出せるというより、使うの。蓄めた分だけ」

 

「使い切ったら?」

 

「遅くなる」

 

ローズの声が少し低くなった。

 

「だから長引くとまずい」

 

その言葉を聞いた瞬間。

 

俺はもう一度ひまわりを見た。

 

大チャッピーは倒れていない。

 

地面に沈んだ巨体が震える。

 

次の瞬間、跳ね上がるように起きた。

 

「おっと!」

 

ひまわりが背中から飛び退く。

 

大チャッピーが振り向きざまに巨大な口を開いた。

 

赤黒い口内。

 

牙が何本も並んでいる。

 

それだけで胃が縮む。

 

あれに食われたら終わりだ。

 

痛いとか苦しいとかではなく、人生のページがそこで雑に破られる。

 

大チャッピーがひまわりに噛みつこうとする。

 

ひまわりは避ける。

 

また避ける。

 

さらに避ける。

 

黄色い光が地面を跳ねる。

 

だが。

 

さっきより少しだけ。

 

ほんの少しだけ。

 

光が弱い気がした。

 

「ローズ」

 

「何?」

 

「今、弱くなったか?」

 

ローズは一瞬だけ俺を見た。

 

少し驚いた顔だった。

 

「分かるの?」

 

「なんとなく」

 

「なら、よく見てなさい」

 

「嫌な言い方だな」

 

「もうすぐ分かる」

 

分かりたくない。

 

心からそう思った。

 

だが目を逸らせなかった。

 

ひまわりが大チャッピーの前脚を避ける。

 

黄色い光。

 

踏み込み。

 

跳躍。

 

攻撃。

 

一つ一つはまだ速い。

 

だが最初ほどではない。

 

大チャッピーの攻撃が、少しずつ近付いている。

 

紙一重だった回避が、本当の紙一重になっていく。

 

「ひまわり!」

 

ローズが叫ぶ。

 

「使いすぎ!」

 

「分かってるー!」

 

全然分かっていない声だった。

 

ひまわりは笑っている。

 

だが肩が上下していた。

 

息が荒い。

 

額に汗が浮かんでいる。

 

「まだまだ!」

 

ひまわりが再び地面を蹴る。

 

バチッ。

 

音が鳴る。

 

だが弱い。

 

さっきまでの雷鳴みたいな音ではない。

 

静電気みたいな小さな音だった。

 

「まずい」

 

ローズが呟いた。

 

「何が」

 

「空になる」

 

「電気が?」

 

「そう」

 

ローズは拳を握る。

 

「蓄電が切れたら、ひまわり一人じゃ抑えられない」

 

その瞬間。

 

大チャッピーの尻尾が横から薙ぎ払われた。

 

ひまわりは跳ぼうとする。

 

だが跳躍が低い。

 

「え」

 

小さな声。

 

次の瞬間。

 

尻尾がひまわりの足を掠めた。

 

「きゃっ!」

 

ひまわりの身体が空中で崩れる。

 

地面に転がった。

 

黄色い花弁が舞う。

 

「ひまわり!」

 

俺は叫んだ。

 

ひまわりはすぐに起き上がる。

 

「平気!」

 

明るい声。

 

だが膝が少し震えていた。

 

大チャッピーがそれを見逃すはずもない。

 

巨体が向きを変える。

 

巨大な口が開く。

 

狙いは、ひまわり。

 

「ローズ!」

 

俺は隣を見た。

 

ローズはもう前へ出ようとしていた。

 

だが。

 

その足が止まった。

 

俺を見た。

 

一瞬だけ。

 

ほんの一瞬だけ。

 

その視線で分かった。

 

ローズは行きたい。

 

ひまわりを助けに行きたい。

 

でも俺を一人にできない。

 

この森で俺は弱い。

 

チャッピーどころか、足元の根にすら怯えるくらい弱い。

 

ローズが離れた瞬間、俺が襲われたら終わりだ。

 

だから動けない。

 

「……っ」

 

ローズが歯を食いしばる。

 

初めて見た顔だった。

 

悔しそうな顔。

 

焦った顔。

 

どうしようもないものを前にした顔。

 

その時、俺は理解した。

 

俺がいるからだ。

 

俺が足手まといだから。

 

ひまわりは押されている。

 

ローズは動けない。

 

二人とも、本気で戦えない。

 

俺がここにいるせいで。

 

大チャッピーが地面を蹴った。

 

ひまわりへ向かって突進する。

 

ひまわりは立ち上がろうとするが、足がもつれる。

 

蓄電が切れかけている。

 

もう間に合わない。

 

ローズが前へ出る。

 

だが一歩で止まる。

 

また俺を見る。

 

その目が言っていた。

 

離れられない。

 

俺は拳を握った。

 

怖い。

 

当然だ。

 

今すぐ逃げたい。

 

どこへ逃げるのか知らないが、とにかく逃げたい。

 

けれど。

 

それ以上に。

 

このまま二人が負ける方が嫌だった。

 

「ローズ!」

 

声が出た。

 

自分でも驚くくらい大きな声だった。

 

ローズが振り返る。

 

俺は喉が裂けるように叫んだ。

 

「俺はいい!!」

 

大チャッピーの咆哮が響く。

 

黄色い花が揺れる。

 

ひまわりがこちらを見る。

 

ローズの目が見開かれる。

 

「俺のことはいいから!」

 

声が震えていた。

 

格好良くなんてない。

 

足も震えている。

 

心臓だってうるさい。

 

それでも叫んだ。

 

「二人で倒せ!!」

 

ローズが振り返る。

 

信じられないものを見るような目だった。

 

「何言ってるの」

 

「聞こえただろ!」

 

「一人になったら死ぬわよ!」

 

「分かってる!」

 

分かっている。

 

ここは日本じゃない。

 

警察も救急車も来ない。

 

俺一人じゃチャッピー一匹にも勝てない。

 

そんなことは嫌というほど理解していた。

 

それでも、このまま二人が俺を庇い続ければ、先に倒れるのは二人の方だ。

 

俺がいるからローズは動けない。

 

ひまわりは蓄電が切れかけて押され始めている。

 

この状況を作っている原因は、間違いなく俺だった。

 

「行け!」

 

ローズは動かなかった。

 

俺を見たまま立ち尽くしている。

 

「命令だ!」

 

思わず口から飛び出した。

 

仕事で後輩へ指示を出す時みたいに、ごく自然に。

 

その瞬間だった。

 

ローズの表情が変わる。

 

「……え?」

 

小さく目を見開く。

 

俺はそんなことに気付かず叫び続けた。

 

「早く!」

 

「ひまわりが危ない!」

 

ローズは拳を握る。

 

迷っている。

 

ほんの一瞬。

 

その一瞬が命取りだった。

 

ドォォォォン!!

 

大チャッピーが地面を踏み砕く。

 

ひまわりは立ち上がろうとする。

 

だが遅い。

 

「しまっ……」

 

巨大な口が迫る。

 

あと数メートル。

 

間に合わない。

 

「ローズ!」

 

俺は叫んだ。

 

「左から回れ!」

 

どうして左なのか。

 

考えたわけじゃない。

 

気付けばそう叫んでいた。

 

運送会社で荷物を運ぶ時もそうだった。

 

狭い道。

 

交差点。

 

積み荷。

 

周囲を見て、一番安全なルートを口にする。

 

それが癖になっていた。

 

だから今回も、考えるより先に口が動いた。

 

その瞬間だった。

 

ローズの身体が止まる。

 

「……!」

 

空気が震えた気がした。

 

風は吹いていない。

 

なのに赤い髪がふわりと揺れる。

 

ローズは自分の手を見つめた。

 

「何……これ」

 

戸惑いの混じった声。

 

次の瞬間。

 

赤い影が消えた。

 

「速っ!」

 

思わず声が漏れる。

 

昨日チャッピーを殴り飛ばした時よりも速い。

 

踏み込んだ瞬間には、大チャッピーの横腹へ回り込んでいた。

 

「え……?」

 

本人も驚いていた。

 

それでも身体は止まらない。

 

まるで身体の方が先に動き方を知っているみたいだった。

 

「はぁっ!」

 

拳が唸る。

 

ドゴォッ!!

 

重い衝撃音が森へ響く。

 

大チャッピーの巨体が大きく横へ流れた。

 

ほんの数秒。

 

だが、その数秒で十分だった。

 

「今!」

 

今度は自然とひまわりへ視線が向く。

 

「ひまわり!」

 

「え?」

 

「立て!」

 

また勝手に口が動く。

 

ひまわりが顔を上げた。

 

「正面は任せる!」

 

その瞬間。

 

バチッ。

 

弱々しくなっていた黄色い光が再び弾けた。

 

「うそ……」

 

ひまわりが目を丸くする。

 

「まだ動ける!」

 

息が整う。

 

膝の震えが消える。

 

さっきまで鉛みたいだった身体が、一気に軽くなったように立ち上がる。

 

「オリマー!」

 

驚いたような声だった。

 

「何したの!?」

 

「知らない!」

 

本当に知らない。

 

俺はただ叫んだだけだ。

 

それなのに、ローズもひまわりも急に動きが変わった。

 

「あと少し!」

 

俺は叫ぶ。

 

「ひまわり!」

 

「はい!」

 

元気よく返事が返ってくる。

 

「飛べ!」

 

「うん!」

 

ひまわりが地面を蹴る。

 

今度の跳躍は違った。

 

蓄電が切れかけていたはずなのに、身体中へ再び黄色い光が走る。

 

バチィィィッ!!

 

「いっくよー!」

 

一直線。

 

大チャッピーの顔へ飛び込む。

 

「ローズ!」

 

「分かってる!」

 

ローズも同時に駆け出した。

 

左右から挟み込む。

 

まるで長年一緒に戦ってきたかのような息の合った動きだった。

 

「右!」

 

「うん!」

 

「今だ!」

 

「任せて!」

 

二人が同時に攻撃を叩き込む。

 

ローズの拳。

 

ひまわりの飛び蹴り。

 

ドゴォォォン!!

 

大チャッピーの身体が大きく揺れた。

 

「効いた!」

 

俺は思わず叫ぶ。

 

確かに効いている。

 

さっきまでびくともしなかった怪物が、初めて大きく体勢を崩した。

 

だが、それでも倒れない。

 

「まだ!」

 

ローズが叫ぶ。

 

大チャッピーは咆哮を上げながら立ち上がる。

 

「しぶとい!」

 

ひまわりも息を切らしていた。

 

「でも、さっきより全然動ける!」

 

「集中して!」

 

ローズが短く言う。

 

「何が起きたか分からないけど、このまま押す!」

 

「うん!」

 

二人が再び駆け出す。

 

その背中を見ながら、俺は呆然としていた。

 

何が起きた。

 

俺は何をした。

 

ただ命令しただけだ。

 

それだけなのに、二人は急に強くなった。

 

偶然。

 

そう思おうとした。

 

だが偶然なら、二人同時に起きるはずがない。

 

それに、俺が指示を出すたび、二人の動きはまるで噛み合う歯車みたいに揃っていく。

 

「左!」

 

ローズが左へ回る。

 

「飛べ!」

 

ひまわりが跳ぶ。

 

「今だ!」

 

二人が同時に攻撃を合わせる。

 

まるで俺の言葉が合図になっているみたいだった。

 

「オリマー!」

 

ひまわりが笑う。

 

「もっと命令して!」

 

「え?」

 

「身体がすっごく軽い!」

 

ローズも短く頷いた。

 

「考えるのは後」

 

「今は指示を」

 

俺は二人を見つめた。

 

運び屋だった俺が、人へ指示を出す。

 

そんなこと、一度も経験したことはない。

 

それなのに、二人は迷いなく俺を見ていた。

 

その視線には戸惑いよりも信頼があった。

 

正直に言えば怖い。

 

足は震えているし、心臓は嫌になるくらいうるさい。

 

今すぐ逃げろと言われたら迷うくらいには怖かった。

 

それでも、このまま何もできずに見ている方がもっと嫌だった。

 

運送会社へ入ったばかりの頃、先輩によく言われた言葉を思い出す。

 

『全体を見ろ』

 

『荷物だけ見るな』

 

『道だけ見るな』

 

『全部見て判断しろ』

 

あの頃は仕事のコツだと思っていた。

 

けれど今は違う。

 

見るべきものは荷物じゃない。

 

目の前で戦っている仲間だ。

 

俺は大きく息を吸い、二人の姿をしっかり見据えた。

 

「ローズ!」

 

「うん!」

 

「ひまわり!」

 

「はーい!」

 

二人が同時にこちらを見る。

 

「次で決めるぞ!」

 

その一言に、二人は迷いなく笑った。

 

「了解!」

 

「任せて!」

 

赤い影と黄色い影が同時に駆け出す。

 

その姿を見送りながら、俺は初めて思った。

 

俺は戦えない。

 

けれど、この二人を導くことならできるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

赤い影と黄色い影が同時に駆け出す。

 

今までとは違う。

 

俺の目にも分かるくらい、二人の動きが噛み合っていた。

 

ローズが真正面へ飛び込む。

 

「こっちよ!」

 

大チャッピーの視線がローズへ向く。

 

その瞬間だった。

 

「ひまわり!」

 

「うん!」

 

「背中だ!」

 

「任せて!」

 

黄色い閃光が花畑を駆け抜ける。

 

バチィッ!!

 

ひまわりが一気に跳躍した。

 

大チャッピーが気付いた時にはもう遅い。

 

「どーん!」

 

ドゴォッ!!

 

飛び蹴りが背中へ叩き込まれる。

 

巨体が前へよろめく。

 

「今だ!」

 

ローズが拳を握る。

 

「はぁぁぁっ!」

 

拳が腹へ突き刺さる。

 

鈍い衝撃音。

 

大チャッピーが苦しそうな声を上げた。

 

「効いてる!」

 

俺は思わず叫んだ。

 

今までで一番効いている。

 

だが。

 

まだ倒れない。

 

大チャッピーは踏み止まった。

 

そのまま身体を大きく捻る。

 

「まずい!」

 

巨大な尻尾が横薙ぎに迫る。

 

ローズは避けた。

 

ひまわりも跳ぶ。

 

しかし。

 

「きゃっ!」

 

避け切れない。

 

尻尾がひまわりの肩を掠めた。

 

小さな身体が吹き飛ぶ。

 

黄色い花の中を転がっていく。

 

「ひまわり!」

 

ローズが叫ぶ。

 

「平気!」

 

返事は返ってきた。

 

だが立ち上がるのが遅い。

 

「蓄電が……」

 

肩で息をしながらひまわりが笑う。

 

「あと少ししかないや」

 

その一言で理解した。

 

さっき身体が軽くなったとはいえ、消費した電気が戻ったわけじゃない。

 

無理をして動いているだけだ。

 

長引けば負ける。

 

「ローズ!」

 

俺は周囲を見る。

 

倒れた向日葵。

 

抉れた地面。

 

折れた茎。

 

大チャッピーは一直線に突っ込む癖がある。

 

曲がる時は大きく身体を振る。

 

運送中に大型トラックを見る感覚と少し似ていた。

 

「右へ誘導しろ!」

 

「分かった!」

 

ローズが走る。

 

わざと大チャッピーの右側へ回る。

 

怪物が向きを変えた。

 

その動きを見て確信する。

 

「ひまわり!」

 

「うん!」

 

「左へ回れ!」

 

黄色い光が走る。

 

左右へ大きく身体を振る大チャッピー。

 

巨体だからこそ、一度動き始めると止まれない。

 

「そのまま走れ!」

 

二人が同時に駆ける。

 

大チャッピーは二人を追い掛ける。

 

右。

 

左。

 

右。

 

巨体が大きく揺れる。

 

「いいぞ……」

 

思わず呟いた。

 

ローズが一瞬だけこちらを見る。

 

「何かあるの?」

 

「あと一回!」

 

「あと一回左右へ振らせろ!」

 

ローズは頷いた。

 

「ひまわり!」

 

「いくよー!」

 

二人がまた左右へ散る。

 

大チャッピーが身体を捻る。

 

その瞬間だった。

 

ズズッ……

 

怪物の前脚が地面へ深く沈んだ。

 

「はまった!」

 

俺は叫ぶ。

 

巨大な向日葵の根が地中に張り巡らされている。

 

何度も方向転換したせいで、地面が崩れたんだ。

 

「今だ!」

 

俺の声に二人が反応する。

 

「ローズ!」

 

「うん!」

 

「前脚を狙え!」

 

ローズが拳を振り抜く。

 

ドゴォッ!!

 

前脚が大きく揺れる。

 

「ひまわり!」

 

「任せて!」

 

「頭だ!」

 

「りょーかい!」

 

黄色い光が最後に大きく弾けた。

 

バチィィィッ!!

 

ひまわりが跳ぶ。

 

今までで一番高く。

 

「これで終わりー!!」

 

踵落とし。

 

ゴォン!!

 

鈍い音が花畑へ響いた。

 

大チャッピーの頭が大きく沈む。

 

その巨体がぐらりと揺れた。

 

「倒れろ!」

 

俺は思わず叫んでいた。

 

大チャッピーは踏ん張る。

 

まだ倒れない。

 

だが。

 

ミシッ。

 

嫌な音がした。

 

前脚が完全に地面へ沈む。

 

バランスが崩れる。

 

「今!」

 

ローズが叫ぶ。

 

赤い拳が唸る。

 

ひまわりの拳が重なる。

 

二人の渾身の一撃。

 

ドゴォォォォン!!

 

巨大な身体が宙へ浮いた。

 

一瞬だけ。

 

本当に一瞬だけ。

 

そして。

 

ズゥゥゥン!!

 

大チャッピーの巨体が地響きを立てて倒れた。

 

黄色い花弁が宙を舞う。

 

静寂。

 

さっきまで森を揺らしていた咆哮が嘘みたいに消えていた。

 

「勝った……?」

 

俺が呟くと、ひまわりはその場へ座り込み、大きく息を吐いた。

 

「つ、疲れたぁ……」

 

ローズも拳を下ろす。

 

「終わったわね」

 

俺はようやく肩の力を抜いた。

 

助かった。

 

そう思った。

 

だが。

 

「オリマー」

 

ローズがゆっくり振り返る。

 

「さっき」

 

「何をしたの?」

 

ひまわりも不思議そうに首を傾げる。

 

「急に身体が軽くなったんだけど」

 

「すっごく動きやすかった!」

 

二人とも俺を見ている。

 

俺は首を横に振った。

 

「分からない」

 

本当に分からなかった。

 

俺はただ。

 

二人へ指示を出しただけだ。

 

それだけだった。

 

森を渡る風が、倒れた大チャッピーの身体を静かに撫でていく。

 

俺はまだ知らない。

 

あの瞬間自分が何をしたのか。




やっとピクミンらしくなってきたな
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