黄色い閃光が花畑を駆け抜けた。
ひまわりが飛び出した。
それは走るというより、跳ねるに近かった。
地面を蹴るたびに、足元で小さな光が弾ける。
バチッ。
バチッ。
バチィッ。
空気が焦げたような匂いが鼻を刺した。
「行ってきまーす!!」
声だけはやたら明るい。
遠足にでも行くみたいな声だった。
だが向かっている先にあるのは、どう見ても遠足先ではない。
黄色い花畑の奥。
巨大な影が揺れていた。
チャッピーより大きい。
二倍。
いや、近付いてくるほどに分かる。
三倍以上ある。
丸い胴体。
太い脚。
地面を抉る爪。
そして口。
異様に大きな口だった。
頭の半分以上が口に見える。
正直、何を食べるためにそこまで口を大きくしたのか聞きたい。
聞いたところで返事は咆哮だろうが。
「ローズ」
俺は声を絞り出した。
「何だあれ」
「大チャッピー」
「名前が雑!」
「分かりやすいでしょ」
「分かりやすいけど怖さが増した!」
普通のチャッピーですら人間を丸呑みにしそうだった。
それの大型版。
名前は大チャッピー。
命名会議が五秒で終わったとしか思えない。
「逃げた方がいいんじゃないのか」
「逃げても追いつかれるわよ」
「じゃあどうするんだよ」
「倒す」
ローズは当然のように言った。
当然じゃない。
世の中には当然と言っていいことと、言った人間の正気を疑うことがある。
これは後者だ。
「倒せるのか?」
「一人じゃ無理」
「無理なのかよ!」
「だから面倒って言ったでしょ」
言った。
確かに言った。
だが俺は、少し面倒という言葉の中に、巨大怪物と命を賭けた戦闘が含まれているとは思っていなかった。
人間の会話には、もう少し説明という機能が必要だと思う。
「ひまわりだけで大丈夫なのか?」
「足止めならできる」
ローズは前を見たまま答える。
その声は冷静だった。
だが、いつもの皮肉っぽさはない。
本当に警戒している。
それだけで嫌な汗が背中を伝った。
ひまわりはすでに大チャッピーの目前まで迫っていた。
「やっほー!」
手を振る。
相手は巨大怪物。
挨拶する相手を選んでほしい。
大チャッピーが咆哮した。
ドォォォォン!!
黄色い花畑が震える。
俺の膝も震える。
情けない。
だが仕方ない。
三十歳男性。
巨大怪物の咆哮に膝が笑う。
むしろ立っているだけ偉いと自分を慰めたい。
大チャッピーが前脚を振り上げた。
太い。
丸太どころじゃない。
小型車くらいある。
それがひまわり目掛けて振り下ろされる。
「ひまわり!」
思わず叫んだ。
だが黄色い少女は笑っていた。
「おっそーい!」
次の瞬間。
ひまわりの身体が消えた。
いや、消えたように見えた。
黄色い光だけが走る。
バチィッ!!
大チャッピーの前脚が地面を叩きつけた時、ひまわりはすでにその背後にいた。
「こっちだよー!」
大チャッピーが振り返る。
遅い。
いや、怪物としては十分速いのかもしれない。
だがひまわりが速すぎる。
黄色い髪が揺れるたび、周囲に小さな光が散った。
「何だよあれ……」
「ひまわり」
「名前じゃなくて能力の話をしてる」
「蓄めてるのよ」
「何を?」
「雷」
「雷って蓄めるものなのか?」
「ひまわりはそうなの」
説明になっていない。
だがローズに説明力を期待する方が間違っている。
俺は戦いを見るしかなかった。
ひまわりが大チャッピーの周囲を走る。
速い。
目で追うのがやっとだ。
大チャッピーが何度も前脚を振るう。
そのたびに地面が砕け、巨大な向日葵の茎が折れる。
だが当たらない。
ひまわりは紙一重で避け続ける。
いや、違う。
あれは避けているというより、当たらない位置を先に取っている。
相手の動きより先に身体が動いている。
「ねえねえ!」
ひまわりが叫ぶ。
「久しぶりなんだから、もっと頑張ってよ!」
大チャッピーが怒ったように咆哮する。
その巨体が突進した。
地面が震える。
まっすぐ。
ひまわりへ向かって。
「避けろ!」
俺は叫んだ。
ひまわりは笑った。
「避けなーい!」
「馬鹿か!?」
思わず本音が出た。
ひまわりはその場でしゃがむ。
両手を地面につける。
頭の葉がぴんと立った。
次の瞬間。
バチッ。
地面を黄色い光が走った。
ひまわりの身体が一瞬だけ明るく輝く。
「せーの!」
ひまわりは飛んだ。
真上へ。
あり得ない高さだった。
人間の跳躍じゃない。
建物の三階、いや四階くらいまで一気に跳び上がった。
大チャッピーの突進が空振りする。
その背中の上に、ひまわりが落ちてきた。
「どーん!」
軽い声。
重い音。
ドゴォッ!!
ひまわりの踵が大チャッピーの背中に叩き込まれた。
黄色い光が弾ける。
大チャッピーの巨体が地面に沈んだ。
「うわ……」
声が漏れた。
あの小さな身体のどこにそんな力があるのか。
もう考えるのも馬鹿らしい。
この森に物理法則を持ち込む方が悪い。
ローズが横で小さく頷いた。
「今のが蓄めた力」
「電気で身体能力を上げてるってことか?」
「たぶん」
「そこは分かれよ」
「私はひまわりじゃないもの」
それはそうだ。
それはそうなのだが、もう少しだけ会話に優しさが欲しい。
人間社会なら苦情が入る。
「じゃあ、あいつは雷を出せるわけじゃないのか」
「出せるというより、使うの。蓄めた分だけ」
「使い切ったら?」
「遅くなる」
ローズの声が少し低くなった。
「だから長引くとまずい」
その言葉を聞いた瞬間。
俺はもう一度ひまわりを見た。
大チャッピーは倒れていない。
地面に沈んだ巨体が震える。
次の瞬間、跳ね上がるように起きた。
「おっと!」
ひまわりが背中から飛び退く。
大チャッピーが振り向きざまに巨大な口を開いた。
赤黒い口内。
牙が何本も並んでいる。
それだけで胃が縮む。
あれに食われたら終わりだ。
痛いとか苦しいとかではなく、人生のページがそこで雑に破られる。
大チャッピーがひまわりに噛みつこうとする。
ひまわりは避ける。
また避ける。
さらに避ける。
黄色い光が地面を跳ねる。
だが。
さっきより少しだけ。
ほんの少しだけ。
光が弱い気がした。
「ローズ」
「何?」
「今、弱くなったか?」
ローズは一瞬だけ俺を見た。
少し驚いた顔だった。
「分かるの?」
「なんとなく」
「なら、よく見てなさい」
「嫌な言い方だな」
「もうすぐ分かる」
分かりたくない。
心からそう思った。
だが目を逸らせなかった。
ひまわりが大チャッピーの前脚を避ける。
黄色い光。
踏み込み。
跳躍。
攻撃。
一つ一つはまだ速い。
だが最初ほどではない。
大チャッピーの攻撃が、少しずつ近付いている。
紙一重だった回避が、本当の紙一重になっていく。
「ひまわり!」
ローズが叫ぶ。
「使いすぎ!」
「分かってるー!」
全然分かっていない声だった。
ひまわりは笑っている。
だが肩が上下していた。
息が荒い。
額に汗が浮かんでいる。
「まだまだ!」
ひまわりが再び地面を蹴る。
バチッ。
音が鳴る。
だが弱い。
さっきまでの雷鳴みたいな音ではない。
静電気みたいな小さな音だった。
「まずい」
ローズが呟いた。
「何が」
「空になる」
「電気が?」
「そう」
ローズは拳を握る。
「蓄電が切れたら、ひまわり一人じゃ抑えられない」
その瞬間。
大チャッピーの尻尾が横から薙ぎ払われた。
ひまわりは跳ぼうとする。
だが跳躍が低い。
「え」
小さな声。
次の瞬間。
尻尾がひまわりの足を掠めた。
「きゃっ!」
ひまわりの身体が空中で崩れる。
地面に転がった。
黄色い花弁が舞う。
「ひまわり!」
俺は叫んだ。
ひまわりはすぐに起き上がる。
「平気!」
明るい声。
だが膝が少し震えていた。
大チャッピーがそれを見逃すはずもない。
巨体が向きを変える。
巨大な口が開く。
狙いは、ひまわり。
「ローズ!」
俺は隣を見た。
ローズはもう前へ出ようとしていた。
だが。
その足が止まった。
俺を見た。
一瞬だけ。
ほんの一瞬だけ。
その視線で分かった。
ローズは行きたい。
ひまわりを助けに行きたい。
でも俺を一人にできない。
この森で俺は弱い。
チャッピーどころか、足元の根にすら怯えるくらい弱い。
ローズが離れた瞬間、俺が襲われたら終わりだ。
だから動けない。
「……っ」
ローズが歯を食いしばる。
初めて見た顔だった。
悔しそうな顔。
焦った顔。
どうしようもないものを前にした顔。
その時、俺は理解した。
俺がいるからだ。
俺が足手まといだから。
ひまわりは押されている。
ローズは動けない。
二人とも、本気で戦えない。
俺がここにいるせいで。
大チャッピーが地面を蹴った。
ひまわりへ向かって突進する。
ひまわりは立ち上がろうとするが、足がもつれる。
蓄電が切れかけている。
もう間に合わない。
ローズが前へ出る。
だが一歩で止まる。
また俺を見る。
その目が言っていた。
離れられない。
俺は拳を握った。
怖い。
当然だ。
今すぐ逃げたい。
どこへ逃げるのか知らないが、とにかく逃げたい。
けれど。
それ以上に。
このまま二人が負ける方が嫌だった。
「ローズ!」
声が出た。
自分でも驚くくらい大きな声だった。
ローズが振り返る。
俺は喉が裂けるように叫んだ。
「俺はいい!!」
大チャッピーの咆哮が響く。
黄色い花が揺れる。
ひまわりがこちらを見る。
ローズの目が見開かれる。
「俺のことはいいから!」
声が震えていた。
格好良くなんてない。
足も震えている。
心臓だってうるさい。
それでも叫んだ。
「二人で倒せ!!」
ローズが振り返る。
信じられないものを見るような目だった。
「何言ってるの」
「聞こえただろ!」
「一人になったら死ぬわよ!」
「分かってる!」
分かっている。
ここは日本じゃない。
警察も救急車も来ない。
俺一人じゃチャッピー一匹にも勝てない。
そんなことは嫌というほど理解していた。
それでも、このまま二人が俺を庇い続ければ、先に倒れるのは二人の方だ。
俺がいるからローズは動けない。
ひまわりは蓄電が切れかけて押され始めている。
この状況を作っている原因は、間違いなく俺だった。
「行け!」
ローズは動かなかった。
俺を見たまま立ち尽くしている。
「命令だ!」
思わず口から飛び出した。
仕事で後輩へ指示を出す時みたいに、ごく自然に。
その瞬間だった。
ローズの表情が変わる。
「……え?」
小さく目を見開く。
俺はそんなことに気付かず叫び続けた。
「早く!」
「ひまわりが危ない!」
ローズは拳を握る。
迷っている。
ほんの一瞬。
その一瞬が命取りだった。
ドォォォォン!!
大チャッピーが地面を踏み砕く。
ひまわりは立ち上がろうとする。
だが遅い。
「しまっ……」
巨大な口が迫る。
あと数メートル。
間に合わない。
「ローズ!」
俺は叫んだ。
「左から回れ!」
どうして左なのか。
考えたわけじゃない。
気付けばそう叫んでいた。
運送会社で荷物を運ぶ時もそうだった。
狭い道。
交差点。
積み荷。
周囲を見て、一番安全なルートを口にする。
それが癖になっていた。
だから今回も、考えるより先に口が動いた。
その瞬間だった。
ローズの身体が止まる。
「……!」
空気が震えた気がした。
風は吹いていない。
なのに赤い髪がふわりと揺れる。
ローズは自分の手を見つめた。
「何……これ」
戸惑いの混じった声。
次の瞬間。
赤い影が消えた。
「速っ!」
思わず声が漏れる。
昨日チャッピーを殴り飛ばした時よりも速い。
踏み込んだ瞬間には、大チャッピーの横腹へ回り込んでいた。
「え……?」
本人も驚いていた。
それでも身体は止まらない。
まるで身体の方が先に動き方を知っているみたいだった。
「はぁっ!」
拳が唸る。
ドゴォッ!!
重い衝撃音が森へ響く。
大チャッピーの巨体が大きく横へ流れた。
ほんの数秒。
だが、その数秒で十分だった。
「今!」
今度は自然とひまわりへ視線が向く。
「ひまわり!」
「え?」
「立て!」
また勝手に口が動く。
ひまわりが顔を上げた。
「正面は任せる!」
その瞬間。
バチッ。
弱々しくなっていた黄色い光が再び弾けた。
「うそ……」
ひまわりが目を丸くする。
「まだ動ける!」
息が整う。
膝の震えが消える。
さっきまで鉛みたいだった身体が、一気に軽くなったように立ち上がる。
「オリマー!」
驚いたような声だった。
「何したの!?」
「知らない!」
本当に知らない。
俺はただ叫んだだけだ。
それなのに、ローズもひまわりも急に動きが変わった。
「あと少し!」
俺は叫ぶ。
「ひまわり!」
「はい!」
元気よく返事が返ってくる。
「飛べ!」
「うん!」
ひまわりが地面を蹴る。
今度の跳躍は違った。
蓄電が切れかけていたはずなのに、身体中へ再び黄色い光が走る。
バチィィィッ!!
「いっくよー!」
一直線。
大チャッピーの顔へ飛び込む。
「ローズ!」
「分かってる!」
ローズも同時に駆け出した。
左右から挟み込む。
まるで長年一緒に戦ってきたかのような息の合った動きだった。
「右!」
「うん!」
「今だ!」
「任せて!」
二人が同時に攻撃を叩き込む。
ローズの拳。
ひまわりの飛び蹴り。
ドゴォォォン!!
大チャッピーの身体が大きく揺れた。
「効いた!」
俺は思わず叫ぶ。
確かに効いている。
さっきまでびくともしなかった怪物が、初めて大きく体勢を崩した。
だが、それでも倒れない。
「まだ!」
ローズが叫ぶ。
大チャッピーは咆哮を上げながら立ち上がる。
「しぶとい!」
ひまわりも息を切らしていた。
「でも、さっきより全然動ける!」
「集中して!」
ローズが短く言う。
「何が起きたか分からないけど、このまま押す!」
「うん!」
二人が再び駆け出す。
その背中を見ながら、俺は呆然としていた。
何が起きた。
俺は何をした。
ただ命令しただけだ。
それだけなのに、二人は急に強くなった。
偶然。
そう思おうとした。
だが偶然なら、二人同時に起きるはずがない。
それに、俺が指示を出すたび、二人の動きはまるで噛み合う歯車みたいに揃っていく。
「左!」
ローズが左へ回る。
「飛べ!」
ひまわりが跳ぶ。
「今だ!」
二人が同時に攻撃を合わせる。
まるで俺の言葉が合図になっているみたいだった。
「オリマー!」
ひまわりが笑う。
「もっと命令して!」
「え?」
「身体がすっごく軽い!」
ローズも短く頷いた。
「考えるのは後」
「今は指示を」
俺は二人を見つめた。
運び屋だった俺が、人へ指示を出す。
そんなこと、一度も経験したことはない。
それなのに、二人は迷いなく俺を見ていた。
その視線には戸惑いよりも信頼があった。
正直に言えば怖い。
足は震えているし、心臓は嫌になるくらいうるさい。
今すぐ逃げろと言われたら迷うくらいには怖かった。
それでも、このまま何もできずに見ている方がもっと嫌だった。
運送会社へ入ったばかりの頃、先輩によく言われた言葉を思い出す。
『全体を見ろ』
『荷物だけ見るな』
『道だけ見るな』
『全部見て判断しろ』
あの頃は仕事のコツだと思っていた。
けれど今は違う。
見るべきものは荷物じゃない。
目の前で戦っている仲間だ。
俺は大きく息を吸い、二人の姿をしっかり見据えた。
「ローズ!」
「うん!」
「ひまわり!」
「はーい!」
二人が同時にこちらを見る。
「次で決めるぞ!」
その一言に、二人は迷いなく笑った。
「了解!」
「任せて!」
赤い影と黄色い影が同時に駆け出す。
その姿を見送りながら、俺は初めて思った。
俺は戦えない。
けれど、この二人を導くことならできるのかもしれない。
赤い影と黄色い影が同時に駆け出す。
今までとは違う。
俺の目にも分かるくらい、二人の動きが噛み合っていた。
ローズが真正面へ飛び込む。
「こっちよ!」
大チャッピーの視線がローズへ向く。
その瞬間だった。
「ひまわり!」
「うん!」
「背中だ!」
「任せて!」
黄色い閃光が花畑を駆け抜ける。
バチィッ!!
ひまわりが一気に跳躍した。
大チャッピーが気付いた時にはもう遅い。
「どーん!」
ドゴォッ!!
飛び蹴りが背中へ叩き込まれる。
巨体が前へよろめく。
「今だ!」
ローズが拳を握る。
「はぁぁぁっ!」
拳が腹へ突き刺さる。
鈍い衝撃音。
大チャッピーが苦しそうな声を上げた。
「効いてる!」
俺は思わず叫んだ。
今までで一番効いている。
だが。
まだ倒れない。
大チャッピーは踏み止まった。
そのまま身体を大きく捻る。
「まずい!」
巨大な尻尾が横薙ぎに迫る。
ローズは避けた。
ひまわりも跳ぶ。
しかし。
「きゃっ!」
避け切れない。
尻尾がひまわりの肩を掠めた。
小さな身体が吹き飛ぶ。
黄色い花の中を転がっていく。
「ひまわり!」
ローズが叫ぶ。
「平気!」
返事は返ってきた。
だが立ち上がるのが遅い。
「蓄電が……」
肩で息をしながらひまわりが笑う。
「あと少ししかないや」
その一言で理解した。
さっき身体が軽くなったとはいえ、消費した電気が戻ったわけじゃない。
無理をして動いているだけだ。
長引けば負ける。
「ローズ!」
俺は周囲を見る。
倒れた向日葵。
抉れた地面。
折れた茎。
大チャッピーは一直線に突っ込む癖がある。
曲がる時は大きく身体を振る。
運送中に大型トラックを見る感覚と少し似ていた。
「右へ誘導しろ!」
「分かった!」
ローズが走る。
わざと大チャッピーの右側へ回る。
怪物が向きを変えた。
その動きを見て確信する。
「ひまわり!」
「うん!」
「左へ回れ!」
黄色い光が走る。
左右へ大きく身体を振る大チャッピー。
巨体だからこそ、一度動き始めると止まれない。
「そのまま走れ!」
二人が同時に駆ける。
大チャッピーは二人を追い掛ける。
右。
左。
右。
巨体が大きく揺れる。
「いいぞ……」
思わず呟いた。
ローズが一瞬だけこちらを見る。
「何かあるの?」
「あと一回!」
「あと一回左右へ振らせろ!」
ローズは頷いた。
「ひまわり!」
「いくよー!」
二人がまた左右へ散る。
大チャッピーが身体を捻る。
その瞬間だった。
ズズッ……
怪物の前脚が地面へ深く沈んだ。
「はまった!」
俺は叫ぶ。
巨大な向日葵の根が地中に張り巡らされている。
何度も方向転換したせいで、地面が崩れたんだ。
「今だ!」
俺の声に二人が反応する。
「ローズ!」
「うん!」
「前脚を狙え!」
ローズが拳を振り抜く。
ドゴォッ!!
前脚が大きく揺れる。
「ひまわり!」
「任せて!」
「頭だ!」
「りょーかい!」
黄色い光が最後に大きく弾けた。
バチィィィッ!!
ひまわりが跳ぶ。
今までで一番高く。
「これで終わりー!!」
踵落とし。
ゴォン!!
鈍い音が花畑へ響いた。
大チャッピーの頭が大きく沈む。
その巨体がぐらりと揺れた。
「倒れろ!」
俺は思わず叫んでいた。
大チャッピーは踏ん張る。
まだ倒れない。
だが。
ミシッ。
嫌な音がした。
前脚が完全に地面へ沈む。
バランスが崩れる。
「今!」
ローズが叫ぶ。
赤い拳が唸る。
ひまわりの拳が重なる。
二人の渾身の一撃。
ドゴォォォォン!!
巨大な身体が宙へ浮いた。
一瞬だけ。
本当に一瞬だけ。
そして。
ズゥゥゥン!!
大チャッピーの巨体が地響きを立てて倒れた。
黄色い花弁が宙を舞う。
静寂。
さっきまで森を揺らしていた咆哮が嘘みたいに消えていた。
「勝った……?」
俺が呟くと、ひまわりはその場へ座り込み、大きく息を吐いた。
「つ、疲れたぁ……」
ローズも拳を下ろす。
「終わったわね」
俺はようやく肩の力を抜いた。
助かった。
そう思った。
だが。
「オリマー」
ローズがゆっくり振り返る。
「さっき」
「何をしたの?」
ひまわりも不思議そうに首を傾げる。
「急に身体が軽くなったんだけど」
「すっごく動きやすかった!」
二人とも俺を見ている。
俺は首を横に振った。
「分からない」
本当に分からなかった。
俺はただ。
二人へ指示を出しただけだ。
それだけだった。
森を渡る風が、倒れた大チャッピーの身体を静かに撫でていく。
俺はまだ知らない。
あの瞬間自分が何をしたのか。
やっとピクミンらしくなってきたな