月瞳町滲見美術館企画展示「将棋と芸術」   作:アポロ09

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ガールズラブと百合を入れてはいますが、恋愛まで発展するかは未定です。今はあくまでもすごく仲のいい友達です。


一話

金原(かねはら)せんぱ〜い! 美術館一緒に行きませんか?」

「あれ? 何でいるの?」

 

 私が喋れる唯一の後輩である銀田雛乃(ぎんだひなの)が廊下で声をかけてきた。彼女のことを大体の人は「銀田さん」と呼んでいる。これは彼女がみんなにそう呼んでほしいと言っているのもある。でも私は下の名前を──しかもヒナと呼んでいる。なんで私はいいのかと聞いてみたら、「金原先輩は特別ですから」と笑顔で言ってくれた。思わずキュンとしてしまった。そう思ってしまう理由は他にもある。例えばヒナは放課後、ほぼ毎日私の後ろにくっついてまわる。コンビニに行くにも、職員室に行って先生に質問しに行くにも一緒。私一人だったら淡々と終わる作業も、ヒナといると騒がしくて楽しくてしょうがない。

 

 今日はヒナは用事があると言っていたのでちょっと寂しいと思っていたところだったんだけど…

 

「用事が早く終わったので図書館に行こうかと。金原先輩は?」

「私は図書館で本借り終わったからもう帰ろうかなと思って。それで美術館って?」

「今朝私の家のポストにこんな手紙が入ってまして」

「拝啓銀田雛乃様、本日七時に滲見(にじみ)美術館へご友人の金原楓(かねはらかえで)様といっしょにお越しください。何これ。危ないやつじゃない?」

「でも楽しそうじゃないですか」

「危ないよって遠回しに言ったんだよ」

「楽しさが危なさに勝つって遠回しに言ったんですよ」

 

 もう、ああ言えばこう言う。それにしてもヒナの名前だけじゃなく、私の名前まで書かれてるなんて。絶対危ないやつじゃん。どうにかしてヒナを止めないと。

 

「そもそもこの美術館今日休館日だよ? イタズラなんじゃない?」

「イタズラだったらその時はその時で一緒にファミレス行きましょう」

「イタズラじゃなかったら?」

「中に入ります」

「ダメに決まってるでしょ。高校生といえど私たち、まだ子供なんだから。それにそういうのって建造物侵入罪に当てはまるんじゃない?」

 

 私が正論で返すとヒナはふてくされてしまった。でもここだけは譲れない。さすがに怖すぎる。犯罪まがいのものかもしれないし、ヒナに何かあったら彼女のお母さんに申し訳が立たない。

 

「じゃ、じゃあ見に行くだけでいいですからぁ」

「言ったね? 見に行くだけだからね」

「やったー!」

 

 私が譲歩するとヒナはすぐに抱きついてきた。まったく、可愛い後輩め。

 

「では六時四十五分に私の家の前に集合で」

「わかった」

 

 ヒナと別れたあと私は頭を抱えて廊下にしゃがみ込んでしまった。女子二人で? 夜中に? 閉館中の美術館へ行く? フラグしか立っていない。何か危ないことが起こるフラグしか。とりあえず今から家に帰って防犯グッズ一式揃えるか。今五時だから、大きく見積もって家に着くのが五時二十分頃で、そっから百均行って防犯グッズ買い揃えて六時には家に戻ってるかな。そしたら余った時間でこの借りた本たちを読むとしよう。

 

 考え終わった私はスッと立ち上がって駐輪場に急ぎ足で向かった。私は自転車にまたがって猛スピードで家に帰った。すぐに百均に買いに行くために。しかし、家のすぐ前の信号で止まってしまった。ここは車通りも少ないし、何より長いので無視したくなる。でも私、金原楓は赤信号だけは無視しないと決めているのだ。

 

 そのあまりに長い赤信号を待っていると顔のよく似た中学生ぐらいの男女が歩いてきた。そして女の子の方が声をかけてきた。

 

「滲見美術館はどこにありますか?」

 

 私は向かって左に指を指して、

 

「この先を真っ直ぐ行くと坂道があるからその手前で右に曲がってまっすぐだよ」

 

 と言った。その子たちは軽くお辞儀をして歩いて行った。ふと信号を見ると青信号がもう点滅してしまっていた。また長い時間待たなければいけないのか。しかし私、金原楓は青信号が点滅していたらもう通らないと決めているのだ。

 

 思わぬ時間ロスで結局、家に着いたのは五時二十五分だった。家で財布を取って百均へ自転車で向かう。赤信号で止まっていたおかげで足が休まっており、ある程度のスピードは出せている。百均で防犯グッズをありったけかき集めた。これだけあっても千五百円とちょっとなんていい商売してはりますなぁ。

 

 思ったより買い物が早く終わったので家に帰ってきても六時を越えていなかった。私はリュックサックに防犯グッズと、一応非常食や飲み水、着替えなどを入れた。備えあれば憂いなしというやつだ。私の家からヒナの家までは十分くらいなので三十分に出れば問題なし。ということで三十分にアラームを設定した。私は本を読み始めると没頭してしまうのでアラームはつけるようにしている。そしてゆっくりと本を読み始めた。

 

 アラームが鳴ると、私の意識が現実に戻ってきた。時計を見ると三十分ぴったり。計画通りだ。私はリュックを背負いドアを開けてヒナの家へ向かった。

 

 ちょうどまんまるになった明るい瞳が夜の空から妖しく覗いていた。

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