仮面ライダージオウ Re:Starting Life in Another World   作:吉野家

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第11話 来訪者

「最悪の奴だ」

 

スバルの声は震えていた。

 

盗品蔵の中が静まり返る。

 

フェルトは眉をひそめる。

 

ロム爺も訝しげな顔をしていた。

 

エミリアは不安そうにスバルを見る。

 

誰も理解できていない。

 

当然だった。

 

スバル自身だって説明できないのだから。

 

 

 

コン。

 

 

 

三度目のノック。

 

静かな音だった。

 

けれど。

 

スバルには死刑宣告のように聞こえた。

 

肩が震える。

 

喉が渇く。

 

心臓が嫌なほど鳴り続ける。

 

 

 

来るな。

 

 

 

そう願う。

 

 

 

来るな。

 

 

 

頼むから来るな。

 

 

 

だが。

 

その願いが叶わないことをスバルは知っていた。

 

 

 

―――――

 

 

 

前もそうだった。

 

 

 

夕暮れ。

 

盗品蔵。

 

フェルト。

 

ロム爺。

 

エミリア。

 

そして。

 

あの女。

 

 

 

何度忘れようとしても無理だった。

 

目を閉じれば思い出す。

 

腹を裂かれる感触。

 

溢れ出す血。

 

遠ざかる意識。

 

最後まで愉しそうに笑っていた女。

 

 

 

死んだ。

 

 

 

一度じゃない。

 

 

 

何度も。

 

 

 

この場所で。

 

 

 

あの女に。

 

 

 

どうして分からない。

 

 

 

いや。

 

分かるはずがない。

 

 

 

フェルトも。

 

ロム爺も。

 

エミリアも。

 

まだ何も知らないのだから。

 

 

 

自分だけだ。

 

 

 

この先に待つ結末を知っているのは。

 

 

 

だから説明できない。

 

 

 

死に戻りのことは話せない。

 

 

 

以前もここへ来たことがあるなんて言えない。

 

 

 

目の前の女に殺されたなんて言えるはずがない。

 

 

 

だから。

 

 

 

「開けるな」

 

 

 

それしか言えなかった。

 

 

 

―――――

 

 

 

「開けるな」

 

 

 

今度ははっきりと口にする。

 

 

 

ロム爺がスバルを見る。

 

 

 

「坊主」

 

 

 

低い声だった。

 

 

 

「少し落ち着け」

 

 

 

落ち着けるわけがない。

 

 

 

落ち着けるはずがない。

 

 

 

扉の向こうには死がいる。

 

 

 

それを知っているのは自分だけなのだから。

 

 

 

「絶対に開けるな」

 

 

 

スバルは繰り返した。

 

 

 

フェルトが苛立ったように舌打ちする。

 

 

 

「だから何なんだよ!」

 

 

 

「ヤバいんだよ!」

 

 

 

思わず叫ぶ。

 

 

 

「本当にヤバいんだ!」

 

 

 

声が裏返る。

 

 

 

情けない。

 

 

 

自分でもそう思う。

 

 

 

けれど。

 

 

 

止まらなかった。

 

 

 

エミリアはそんなスバルを見つめていた。

 

 

 

困惑している。

 

 

 

それでも。

 

 

 

どこか心配そうだった。

 

 

 

彼女には分からない。

 

 

 

スバル自身も説明できない。

 

 

 

だから。

 

 

 

余計に苦しかった。

 

 

 

―――――

 

 

 

カチリ。

 

 

 

―――――

 

 

 

ソウゴの胸の奥で時計が鳴る。

 

 

 

まただ。

 

 

 

断片的な光景。

 

 

 

血。

 

 

 

悲鳴。

 

 

 

銀色の刃。

 

 

 

黒い影。

 

 

 

今までより少しだけ鮮明だった。

 

 

 

意味は分からない。

 

 

 

けれど。

 

 

 

危険だ。

 

 

 

その確信だけが強くなっていく。

 

 

 

ソウゴは静かに扉を見つめた。

 

 

 

姿は見えない。

 

 

 

顔も知らない。

 

 

 

それなのに。

 

 

 

胸の奥の時計は鳴り続ける。

 

 

 

まるで。

 

 

 

近付くな。

 

 

 

そう警告しているみたいに。

 

 

 

ソウゴは小さく息を吐いた。

 

 

 

そして初めて思う。

 

 

 

強い。

 

 

 

理由は分からない。

 

 

 

けれど。

 

 

 

扉の向こうにいる女は強い。

 

 

 

それだけは分かった。

 

 

 

「ソウゴ?」

 

 

 

エミリアが呼ぶ。

 

 

 

ソウゴは少しだけ考えた。

 

 

 

言うべきか。

 

 

 

迷った。

 

 

 

だが。

 

 

 

隠しても意味はない気がした。

 

 

 

「その人」

 

 

 

全員の視線が集まる。

 

 

 

「強いと思う」

 

 

 

短い言葉だった。

 

 

 

けれど。

 

 

 

盗品蔵の空気がさらに重くなる。

 

 

 

スバルは何かを知っている。

 

 

 

ソウゴは何かを感じている。

 

 

 

二人とも理由は違う。

 

 

 

だが。

 

 

 

同じ方向を見ていた。

 

 

 

それが妙に不気味だった。

 

 

 

外から小さな笑い声が聞こえる。

 

 

 

「ふふ」

 

 

 

本当に楽しそうな声だった。

 

 

 

寒気がする。

 

 

 

「困ったわ」

 

 

 

女が言う。

 

 

 

「せっかく穏便に済ませたいのに」

 

 

 

その言葉を聞いた瞬間。

 

スバルの胃がひっくり返りそうになった。

 

 

 

穏便。

 

 

 

その言葉が耳に入った途端。

 

脳裏に蘇る。

 

 

 

血。

 

 

 

悲鳴。

 

 

 

刃。

 

 

 

そして。

 

 

 

愉しそうに笑う女。

 

 

 

穏便。

 

 

 

そんな言葉を口にする資格なんてない。

 

 

 

人を殺すことを楽しむ女が。

 

 

 

腹を裂きながら微笑む女が。

 

 

 

まるで冗談みたいだった。

 

 

 

ぞわりと背筋が粟立つ。

 

 

 

笑えない。

 

 

 

全く笑えない。

 

 

 

むしろ。

 

 

 

だからこそ怖かった。

 

 

 

誰も返事をしない。

 

 

 

誰も動かない。

 

 

 

ただ。

 

 

 

重苦しい沈黙だけが盗品蔵を満たしていく。

 

 

 

そして。

 

 

 

女は残念そうにため息を吐いた。

 

 

 

「それじゃあ――」

 

 

 

一拍。

 

 

 

静寂。

 

 

 

ロム爺の目が細まる。

 

 

 

フェルトが無意識に一歩下がる。

 

 

 

エミリアの肩の上でパックが立ち上がった。

 

 

 

ソウゴの胸の奥で時計が鳴り続ける。

 

 

 

そして。

 

 

 

スバルは拳を握り締めた。

 

 

 

来る。

 

 

 

知っている。

 

 

 

今から何が始まるのかを。

 

 

 

女は穏やかに告げた。

 

 

 

「少しだけ乱暴にお邪魔するわね」 

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