仮面ライダージオウ Re:Starting Life in Another World   作:吉野家

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第12話 腸狩りの微笑み

「少しだけ乱暴にお邪魔するわね」

その言葉が終わる。

次の瞬間だった。

 

――ドンッ!!

 

凄まじい衝撃音が盗品蔵に響いた。

扉が内側へ吹き飛ぶ。

木片が宙を舞い。

砕けた蝶番が床を転がる。

舞い上がった埃が視界を覆った。

 

「っ!」

 

エミリアが身構える。

パックが肩から飛び上がった。

フェルトは反射的に一歩下がる。

ロム爺の目が鋭く細まった。

 

そして。

 

舞い上がる埃の向こうから。

ゆっくりと女が姿を現す。

 

黒いドレス。

 

その上から羽織った黒い外套。

 

夜の闇を溶かし込んだような長い黒髪。

 

妖しく輝く紫色の瞳。

 

女性らしい曲線を描く身体。

 

まるで貴族の令嬢のような佇まいだった。

 

美人だった。

 

それは認める。

 

男なら誰だって目を奪われる。

 

だが。

 

スバルには無理だった。

 

その豊満な身体も。

 

妖艶な笑みも。

 

紫色の瞳も。

 

全部。

 

腹を裂く刃の幻影にしか見えなかった。

 

――来た。

 

全身から血の気が引いていく。

 

見間違えるはずがない。

 

忘れられるはずもない。

 

死ぬ直前まで見ていた顔だ。

 

腹を裂かれながら。

 

血を流しながら。

 

最後に見た笑顔。

 

エルザ・グランヒルテ。

 

腸狩り。

 

王都の裏で囁かれる殺人鬼。

 

「こんばんは」

 

女は微笑んだ。

 

まるで知人の家を訪ねてきた客のように。

 

「ごめんなさいね」

 

砕けた扉へ視線を向ける。

 

「どうしても開けてくださらなかったものだから」

 

本当に申し訳なさそうな声だった。

 

だが。

 

スバルは知っている。

 

その声を。

 

その笑顔を。

 

その女が何者なのかを。

 

何度も死んだ。

 

何度も殺された。

 

目の前の女に。

 

忘れたくても忘れられない。

 

体が覚えている。

 

恐怖を。

 

痛みを。

 

死を。

 

逃げろ。

 

頭のどこかで警鐘が鳴る。

 

だが。

 

逃げられない。

 

ここにはエミリアがいる。

 

フェルトがいる。

 

ロム爺がいる。

 

ソウゴもいる。

 

だから。

 

逃げるわけにはいかなかった。

 

エルザはゆっくり視線を巡らせる。

 

フェルト。

 

ロム爺。

 

エミリア。

 

パック。

 

そして。

 

スバル。

 

そこで。

 

ほんの一瞬だけ。

 

紫色の瞳が細められた。

 

「あら?」

 

スバルの背筋が凍る。

 

まるで獲物を見つけた獣のようだった。

 

気付かれた。

 

そんな気がした。

 

以前会ったことがあると。

 

そんなはずはないのに。

 

自分の怯え方から何かを感じ取ったのではないか。

 

そう思わせるほど。

 

エルザの視線は鋭かった。

 

だが。

 

彼女の興味はすぐに別へ移る。

 

「へぇ」

 

今度はソウゴだった。

 

ソウゴもまた。

 

黙ってエルザを見ていた。

 

胸の奥で時計が鳴る。

 

カチリ。

 

カチリ。

 

カチリ。

 

止まらない。

 

危険だ。

 

目の前の女は危険だ。

 

それだけは確信できる。

 

けれど。

 

時計が見せる断片は終わらない。

 

血。

 

悲鳴。

 

銀色の刃。

 

そして。

 

まだ見えない何か。

 

まるで。

 

ここから先に続きがあるように。

 

「あなた」

 

エルザが微笑む。

 

ソウゴへ向けて。

 

「さっきからずっと私を見ているのね」

 

その声は優しい。

 

柔らかい。

 

だが。

 

刃物のような冷たさを含んでいた。

 

ソウゴは答えない。

 

ただ見つめ返す。

 

エルザは楽しそうに笑った。

 

「面白い子」

 

その瞬間。

 

スバルの心臓が嫌な音を立てた。

 

嫌な予感がする。

 

猛烈に。

 

嫌な予感が。

 

エルザが誰かに興味を持つ。

 

それは決して良いことではない。

 

彼女にとって人間は。

 

人間ではない。

 

獲物だ。

 

遊び道具だ。

 

だから。

 

その笑顔が恐ろしかった。

 

「さて」

 

エルザは一歩前へ出る。

 

ヒールが床を鳴らす。

 

コツ。

 

たったそれだけの音。

 

なのに。

 

盗品蔵の空気が張り詰める。

 

「本題に入りましょうか」

 

優雅な仕草だった。

 

まるで舞踏会で挨拶をする貴婦人のように。

 

けれど。

 

誰も気を緩めない。

 

緩められない。

 

エルザは微笑む。

 

どこまでも優しく。

 

どこまでも穏やかに。

 

そして。

 

フェルトへ視線を向けた。

 

「私が依頼した品をいただけるかしら?」

 

その瞬間。

 

フェルトの眉がぴくりと動いた。

 

盗品蔵の空気が。

 

さらに冷えた。

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