仮面ライダージオウ Re:Starting Life in Another World   作:吉野家

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第16話 退かない少年

エルザの刃が迫る。

 

 

 

速い。

 

 

 

スバルの目では追えない。

 

 

 

ロム爺ですら反応が遅れる。

 

 

 

それほどの速度だった。

 

 

 

狙いはソウゴ。

 

 

 

誰の目にも明らかだった。

 

 

 

「ソウゴ!!」

 

 

 

スバルが叫ぶ。

 

 

 

黒と紫のククリ刀が一直線に走る。

 

 

 

喉元を狙った一撃。

 

 

 

迷いも躊躇もない。

 

 

 

確実に仕留めるための軌道だった。

 

 

 

だが。

 

 

 

刃は空を切る。

 

 

 

ソウゴは半歩だけ動いていた。

 

自分でも不思議なほど自然に。

 

 

 

本当に半歩。

 

 

 

飛び退いたわけではない。

 

 

 

慌てて避けたわけでもない。

 

 

 

ただ。

 

 

 

そこに立つ位置を少し変えただけ。

 

 

 

それだけで。

 

 

 

刃は空を切った。

 

 

 

茶髪が数本宙を舞う。

 

 

 

頬を掠める風。

 

 

 

それだけだった。

 

 

 

エルザは着地する。

 

 

 

紫色の瞳が細められる。

 

 

 

不思議だった。

 

 

 

避けられた。

 

 

 

それも綺麗に。

 

 

 

偶然。

 

 

 

最初はそう思った。

 

 

 

だが。

 

 

 

二度続けば偶然ではない。

 

 

 

この少年は何かがおかしい。

 

 

 

そう思い始めていた。

 

 

 

エルザは笑う。

 

 

 

興味が湧く。

 

 

 

だからもう一度踏み込む。

 

 

 

試すために。

 

 

 

確かめるために。

 

 

 

ククリ刀が閃く。

 

 

 

速い。

 

 

 

先程よりも。

 

 

 

さらに鋭く。

 

 

 

さらに深く。

 

 

 

だが。

 

 

 

やはり届かない。

 

 

 

ソウゴは半歩動く。

 

 

 

刃が頬を掠める。

 

 

 

それだけ。

 

 

 

それだけなのに。

 

 

 

決定的に当たらない。

 

 

 

「へぇ」

 

 

 

エルザの口元が緩む。

 

 

 

面白い。

 

 

 

本当に面白い。

 

 

 

だが。

 

 

 

もっと不思議なことがあった。

 

 

 

避けた後だ。

 

 

 

普通なら距離を取る。

 

 

 

普通なら下がる。

 

 

 

死が目の前を通り過ぎたのだから。

 

 

 

そうするのが当たり前だ。

 

 

 

だが。

 

 

 

この少年は違った。

 

 

 

避けても。

 

 

 

そこにいる。

 

 

 

一歩も下がらない。

 

 

 

まるで。

 

 

 

最初から動くつもりがないみたいに。

 

 

 

ソウゴは静かに立っていた。

 

 

 

背後にはフェルト。

 

 

 

その後ろにはスバル。

 

 

 

少し離れた場所に銀髪の少女。

 

 

 

だから。

 

 

 

退く理由がない。

 

 

 

ただそれだけだった。

 

 

 

ロム爺が踏み込む。

 

 

 

「ぬぅんッ!!」

 

 

 

巨大な拳が唸る。

 

 

 

空気が震える。

 

 

 

エルザは後ろへ跳ぶ。

 

 

 

羽根のように軽く。

 

 

 

数メートル離れた場所へ着地する。

 

 

 

そして。

 

 

 

視線を向ける。

 

 

 

ロム爺。

 

 

 

強い。

 

 

 

経験もある。

 

 

 

危険だ。

 

 

 

だが理解できる。

 

 

 

自分と同じ側の人間だ。

 

 

 

戦う人間だ。

 

 

 

次に。

 

 

 

ソウゴを見る。

 

 

 

理解できない。

 

 

 

強そうには見えない。

 

 

 

武器もない。

 

 

 

筋骨隆々でもない。

 

 

 

どこにでもいそうな少年だ。

 

 

 

それなのに。

 

 

 

刃だけが届かない。

 

 

 

そして。

 

 

 

退かない。

 

 

 

エルザは気付く。

 

 

 

この少年は恐怖がないわけじゃない。

 

 

 

それは分かる。

 

 

 

だが。

 

 

 

恐怖より優先しているものがある。

 

 

 

だから立っている。

 

 

 

そんな気がした。

 

 

 

「あなた」

 

 

 

エルザが呟く。

 

 

 

紫色の瞳が細められる。

 

 

 

「本当に面白い子ね」

 

 

 

ソウゴは答えない。

 

 

 

ただ静かに立つ。

 

 

 

当たり前みたいに。

 

 

 

そこが自分の場所だと言うように。

 

 

 

その姿を見て。

 

 

 

スバルは一瞬だけ言葉を失う。

 

 

 

怖くないはずがない。

 

 

 

相手はエルザだ。

 

 

 

自分は震えている。

 

 

 

今だって逃げ出したい。

 

 

 

なのに。

 

 

 

ソウゴは退かない。

 

 

 

その背中は不思議だった。

 

 

 

頼もしく見えるのに。

 

 

 

どこか普通の高校生のままにも見える。

 

 

 

だから余計に分からない。

 

 

 

どうしてそこに立てるのか。

 

 

 

エルザは笑う。

 

 

 

興味は深まる。

 

 

 

だが。

 

 

 

まだ分からない。

 

 

 

この少年の正体が。

 

 

 

どうして刃が届かないのか。

 

 

 

どうして退かないのか。

 

 

 

どうしてそんな目をしているのか。

 

 

 

強者の目ではない。

 

 

 

戦士の目でもない。

 

 

 

それなのに。

 

 

 

死を前にしても揺らがない。

 

 

 

不思議だった。

 

 

 

理解できない。

 

 

 

だからこそ。

 

 

 

もっと知りたくなる。

 

 

 

紫色の瞳が細められる。

 

 

 

面白い。

 

 

 

本当に面白い。

 

 

 

エルザは口元を吊り上げた。

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