仮面ライダージオウ Re:Starting Life in Another World 作:吉野家
「あなた、本当に面白い子ね」
エルザは笑っていた。
まるで新しい玩具を見つけた子供みたいに。
紫色の瞳はソウゴを映している。
楽しそうに。
本当に楽しそうに。
その視線を受けながらも。
ソウゴは動かない。
答えもしない。
ただ静かに立っていた。
ロム爺が踏み込む。
床板が軋む。
巨体が前へ出るだけで空気が震える。
拳が唸る。
轟音と共に振り抜かれる。
だが。
エルザは躱した。
軽やかに。
優雅に。
まるで踊るように。
拳が空を切る。
ロム爺は止まらない。
追撃。
さらに追撃。
体格差を活かした連撃。
盗品蔵の空気が震える。
だが。
届かない。
エルザは笑う。
本当に楽しそうに。
命のやり取りを楽しむように。
その光景を見て。
スバルは胃の奥が冷えるのを感じていた。
知っている。
この女は危険だ。
何度も見た。
何度も死んだ。
何度も。
あの笑顔を見た。
だから分かる。
今はまだ。
本気じゃない。
それが何より恐ろしい。
「くそ……」
小さく漏れた声。
何もできない自分が悔しかった。
ロム爺が戦っている。
あの娘が戦っている。
ソウゴも前に立っている。
なのに。
自分は見ているだけだ。
その事実が胸を締め付ける。
「パック」
銀髪の少女が呼ぶ。
肩の上の小さな精霊が頷いた。
「任せて」
次の瞬間。
盗品蔵の温度が下がる。
冷気が広がる。
床に白い霜が走る。
銀髪が揺れる。
魔力が集まる。
夕日に照らされた姿は幻想的だった。
けれど。
その力の根底にあるのは優しさだ。
誰かを守りたい。
傷付いてほしくない。
そんな想いが形になった力。
それが銀髪の少女の精霊術だった。
「――行って」
冷気が収束する。
氷槍が生まれる。
一本。
二本。
三本。
鋭い氷の槍が一斉に放たれた。
空気を裂く音。
速い。
常人なら反応すらできない。
だが。
エルザは笑う。
嬉しそうに。
本当に心の底から。
半歩。
身体を捻る。
たったそれだけ。
それだけで全て躱した。
氷槍が壁へ突き刺さる。
轟音。
氷片が弾け飛ぶ。
白い破片が宙を舞った。
「嘘だろ……」
スバルが呟く。
避けた。
今のを。
あれほどの攻撃を。
エルザは氷片の中で振り返る。
紫色の瞳が銀髪のハーフエルフを捉える。
興味深そうに。
観察するように。
値踏みするように。
「精霊術師」
嬉しそうに呟く。
「今日は本当に当たりの日ね」
その声に。
スバルの背筋が冷える。
まずい。
知っている。
あの顔を。
あの声を。
エルザが気に入った相手へ向ける反応だ。
ソウゴは静かに少女を見る。
放っておけない。
ただそれだけだった。
だから自然と足が動く。
少女とエルザ。
その間へ。
守るように。
庇うように。
誰かに頼まれたわけじゃない。
そうするのが当たり前だった。
その姿を見て。
エルザが小さく笑う。
面白い。
やはり面白い。
この茶髪の少年は。
戦う力があるようには見えない。
それなのに前へ出る。
退かない。
恐怖より優先しているものがある。
そんな気がした。
エルザの視線が流れる。
退かない茶髪の少年。
精霊術師。
大男。
金髪の少女。
そして。
最後にもう一人。
黒髪の少年。
震えている。
怯えている。
他の者達とは少し違う。
ほんの一瞬。
そんな気がした。
エルザは小さく首を傾げる。
不思議だった。
だが。
その理由までは分からない。
今はまだ。
目の前の方が面白い。
退かない茶髪の少年。
精霊術師。
大男。
どれも興味深い。
まだ遊び足りない。
エルザは口元を吊り上げた。