仮面ライダージオウ Re:Starting Life in Another World 作:吉野家
戦いは続いていた。
盗品蔵の床には無数の傷が刻まれている。
壁には刃痕。
砕けた氷片。
割れた木箱。
戦闘が始まってからまだそれほど時間は経っていない。
それなのに。
まるで嵐でも通り過ぎた後みたいな有様だった。
ロム爺の拳が唸る。
エルザは躱す。
銀髪の少女の氷槍が飛ぶ。
エルザは避ける。
誰も諦めていない。
誰も退いていない。
それでも。
少しずつ。
少しずつだが。
戦況はエルザに傾いているように見えた。
スバルは唇を噛む。
嫌な予感しかしない。
知っているからだ。
この女は強い。
強いなんて言葉では足りない。
異常だ。
怪物だ。
そして何より。
楽しんでいる。
それが恐ろしかった。
「ふふ」
エルザが笑う。
ククリ刀を指先で回す。
まるで余興の途中みたいに。
息一つ乱れていない。
それが現実味を奪っていく。
ロム爺は汗を流している。
銀髪の少女も魔力を使っている。
皆が必死だ。
なのに。
エルザだけが楽しそうだった。
スバルの胃が軋む。
嫌な記憶が蘇る。
腹を裂かれた感触。
流れ出る血。
冷たくなっていく身体。
遠ざかる意識。
そして。
最後に見た。
あの笑顔。
「っ……」
呼吸が浅くなる。
嫌な汗が流れる。
やめろ。
思い出したくない。
忘れたことなんて一度もないのに。
それでも思い出したくなかった。
「スバル?」
あの娘の声が聞こえる。
だが返事ができない。
余裕がなかった。
身体が言うことを聞かない。
視線の先で。
エルザがまた笑う。
そのたびに。
死の記憶が蘇る。
ソウゴはそんなスバルを見ていた。
何も言わない。
ただ見ている。
震える肩。
強張った表情。
怯えた瞳。
怖いのだろう。
それは分かる。
それでも。
スバルは逃げていない。
立っている。
その事実だけは変わらない。
ロム爺の拳が振り抜かれる。
エルザが後ろへ跳ぶ。
着地。
軽い。
本当に軽い。
紫色の瞳が細められる。
楽しい。
強い相手がいる。
面白い相手がいる。
退かない茶髪の少年もいる。
今日は当たりだ。
そう思う。
けれど。
何かが引っ掛かる。
小さな違和感。
見落としている何か。
エルザは無意識に視線を巡らせた。
退かない茶髪の少年。
精霊術師。
大男。
金髪の少女。
そして。
最後に。
黒髪の少年。
エルザの視線が止まる。
一瞬だった。
だが。
その瞬間。
黒髪の少年の身体が強張った。
呼吸が止まる。
目が見開かれる。
まるで。
自分を見たことがあるみたいに。
まるで。
自分を恐れているみたいに。
エルザは首を傾げた。
不思議だった。
初対面のはずだ。
なのに。
その反応は妙だった。
まるで。
何度も会ったことがあるような。
何度も殺し合ったことがあるような。
そんな錯覚を覚える。
あり得ない。
そんなこと。
あるはずがない。
だが。
違和感だけは消えなかった。
紫色の瞳が細められる。
観察する。
見る。
探る。
そして。
ふと。
一つの考えが浮かぶ。
もし。
この少年が恐れているのが。
自分自身ではなく。
自分に殺される未来だとしたら。
その瞬間。
全てが繋がった。
エルザの口元がゆっくりと吊り上がる。
「あら」
楽しそうに。
本当に楽しそうに。
宝箱を開けた子供みたいに。
「そういうことだったのね」
スバルの血の気が引く。
気付かれた。
理屈じゃない。
そう思った。
逃げろ。
頭では分かっている。
だが身体が動かない。
恐怖が縫い止めている。
エルザは一歩踏み出す。
紫色の瞳が細められる。
そして。
嬉しそうに。
心の底から嬉しそうに。
呟いた。
「見つけた」